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破裂

「世話になったブレーダー閣下からの要請だからまあ、研修生として引き受けたが……しかしこの間のパーティといい、閣下と何か近しい関係じゃ無いのか? 一介の伍長が元帥からこう簡単に推してもらえるとは思えんが」

「それはね……」

 と、ここで転移魔法の波動。良二の腰かけるソファの後ろに、大魔王陛下おでましだ。

「この娘のおじいさんがブレーダーの領地で辺境伯やってんのよ。サドール家は武闘派の家柄でね、息子だけじゃなく娘にも兵役を経験させてるのよ~」

「ライラ、来たのか?」

「明日、リョウくんたちが練成に入るでしょ~? そのことやミカのこともあって、メルからお茶に誘われてね。一日早いけど来ちゃった!」

 そう言いながらライラは良二の後ろから抱きつき、頬に軽くキスで挨拶した。

「こ、これは大魔王陛下! 陛下にはご機嫌麗しく!」

「ああ、いいの、いいの、そう言うの! リョウくんたちといる時は堅苦しいの抜き! パーティの時もそうだったでしょ~? その時と同じにしててね!」

 膝を附き礼を尽くすメリアンに対し、畏まらないように言うライラ。メリアンも「は、はあ……」と頷いてはいるが、天上人相手にそうは簡単に切り替えられまい。

 しかしまあすぐ慣れるだろう。ライラの気さくさは斯様に深く優しさに溢れている。

「ライラ、仕事の方はいいのかい?」

「ええ、もちろん。と、言うよりね、これからは本格的に例の計画が始動するわ。魔界も各方面、本計画遂行を中心の体制に移行し始めるの。当然あたしも含めてね~」

「そうか、いよいよか……」

「だから今回のリョウくんたちの錬成と同じように、あたしもメルの修練を受けるつもりなの。まあ一緒に訓練ってわけにはいかないけどね。新生計画のために万全の体調にしておかなくっちゃ」

 大魔王陛下がアップを始めました……などと頭に浮かぶ良二・誠一。

「ライラちゃんにとっても、今回の計画は手加減抜きで本気出すレベルかい?」

「あたしだけじゃなく、メルも同じよ。今まで出したことないほどの魔力を出す事になりそうだわ。言ってしまえばアデス三界全ての魔素を制御するくらいの規模になるんだもの~」

「失敗すると魔素異変の再来か。暴走したミカドの魔素爆発、魔獣の大発生……」

「それならまだマシかもよ、隊長さん? ヘタすれば……」

「ヘタすれば?」

「三界とも魔獣しか居無い世界になっちゃうかも~?」

「なによそれ! 人類全滅するっての!?」

「マジかよ!? どういう理屈で!?」

 驚いた良二と容子が振り向きライラの顔を見据えた。

 ライラの言葉に遊撃隊が騒然となる。

 もとより委員会で承認されるまで良二らは蚊帳の外に置かれていたので、詳しい事とは疎遠であった。

 故に良二らの描いていた最悪の状況、作戦の失敗とは、魔素異変のように人口が半減するほどの大災厄が襲うと言う事態だと思っていた。

 もちろんライラの言う最悪は、作戦におけるあらゆる工程が一番悪い方向に流れてしまう、言ってしまえば成功より遥かに低い確率で起こる程度の事なのかもしれない。

 に、してもアデス滅亡と言うのは穏やかじゃない。

「まあ、よっぽどじゃないと起こらないとは思うけどね~。あたしやメルたちがミカドの魔力に耐えきれずに破裂しちゃったらの話だし~」

 ――破裂? 破裂だと!? 

 良二は破裂と聞いた途端、脳裏に中にイヤな映像が浮かんだ。


 妙な暗闇の中、ゆらりと浮遊するライラの身体が突然はじけ飛び、粉末の様に四散して、そのまま闇に消えて行ってしまい、落涙しながら哀しむ彼女の魂はミカ以上細かく散り散りに引き裂かれて闇の中を彷徨い、やがて溶ける様に消えて行く……そんな絵図。

 以前、誠一から聞いた臨死体験……闇の中に蕩けていく感覚……頭の片隅に置いていて今まで忘れていたが、これらもこの浮かんだ絵図に呼び出されたのか?

 あの交通事故で瀕死の重傷を負い、両親を亡くしてしまった時の消失感なども入り混じり、この絵図に気持ち悪いほどの嫌悪が沸き上がる。

 それが数秒の間に何度も何度も矢継ぎ早に繰り返し再生される。まるで起きながらにして見る悪夢の如くだ。


 冗談ではない! もしもそんなことになったら! 良二は狼狽した。ほぼ錯乱に近った。

「気楽に言う事じゃ無いだろ! そんなに危険な作戦だったのか!」

 良二は叫んだ。話が違うじゃないか! 何、普段通りに話してるんだ! とばかりに。

「え! あ、その……」

 良二のあまりの剣幕にビックリしたライラは、あわてて取り直そうとした。

「お、落ち着いてよリョウくん。そうなったらあたしやメルに凝縮されてる魔素が行き場を失って、依り代を求めて生死関わらず生物に憑りついて、全ての生き物が魔獣化しちゃうってだけの仮説よ仮説~」

「だけってなんだよ、だけって! もしもライラがそんな事になったら!」

「そん時は、あたしもリョウくんも仲良く魔獣転生だね。そうなってもリョウくんとあたしは一緒だよ!」

「いや、そうじゃ無いだろ! そう言う事じゃ無いだろ!」

 余計に昂る良二の血相に驚いたライラは、いつも通りのノリで繕おうと冗談めかしく話した。だが、それが更に良二の気をかき乱らせてしまった。

「だから、落ち着いてってば~。ホント仮説の一つに過ぎないし~。仮説だけならもっとすごいのあるんだよ? 破裂したメルやあたしの身体がシランの太陽魔法みたいに光と炎になってアデスそのものが燃えて無くなっちゃうってのもあるんだし~」

「核……核反応を起こすのか!? どんな理屈で!」

「え? カ、カク? なにそれ?」

「ライラちゃん、そうなる確率は? シミュレーションとかしてるのかな?」

 荒ぶる良二とは対象的に、誠一は冷静な(に見える)面持ちでライラに聞いてきた。良二の気を反らそうとする目的もあったろう。

「ま、まあ、そうなる前に第二次魔素異変に移行ってのが一番確率高いわね~」

「成功する確率と、最悪の結果になる確率にはどれほどの差が?」

「もちろん、成功する確率が一番高くなるように計画された作戦だし? それにさっきのは学者連中があたしやメルの体質をダシにして好き勝手研究して出てきた推論に過ぎないしぃ~。その辺はリョウくんも隊長さんもあんまり心配しないでね? むしろ、巻き込まれるみんなの方が危険なんだからね?」

「答えになって無いが……まあ仕方ねぇか。俺たちは言われた事を全力でこなすしか、選択肢は無いしな」

「黒さん、そんな!」

「ライラちゃんの身を案じるお前の気持ちは否定せん。かと言って俺もお前もそれに代わる対案は出せまい? ならば成功に一番近くなる方法で、やれるだけの事をするしかねぇさ。もちろんライラちゃんを含めて、みんなのリスクを減らせる方法は常に思案してしかるべきだしな、気が付いたらどんな小さな事でも進言するといい」

「リョウくん、ありがとね。でも、大丈夫だよ。あたしはこういう時、身体を張るために普段は好き勝手やらせてもらってるようなもんだしね~」

 良二は矛を収めざるを得なかった。

 確かに考えられる最も望まない結果も当然考慮し、検討するべきではある。

 望む結果のみに邁進し、他のリスクを無視する作戦計画よりかはずっといい。それだけ、考えられる限りの方向から練られた作戦ならば不測の事態にも対処できよう。

 とは言え先程の、ライラが破裂してしまう……なんて話を聞かされれば、安心するには程遠い。

 実際に、実体を持つはずだったミカドはミカという不確定要素は有るものの、魔素として霧散している状態だという説が最有力。もしもライラがそんな状態になってしまうとしたら……

 脳裏に浮かんだ悪夢以外の言葉が見つからないあの絵図は正にそれに準じており、それもあって良二の脳にガッチリと焼き付いてしまっている。

 良二は両手で頭を抱え、目を固く閉じ、項垂れた。

「良くん、今あたしたちに出来る事は、少しでも魔力を底上げして作戦に備える事……明日からの訓練に励むしかないわ。ね、ライラさん、隊長」

「だな。俺たちは猊下やライラちゃん、そして沢田くんが三界の魔素を凝縮しミカドを新生させている間、どんな脅威からも三人を守ることが与えられた仕事だ」

 容子や誠一が良二を慰めよう、落ち着かせようと相次いで話しかける。

 わかっている。良二にもそれはわかっている。

 ただあまりにもライラの言葉がショック過ぎた。

「ライラ、あなたも軽く言い過ぎだわよ。まあ、いつものノリのつもりだったんだろうけどさぁ。私も……ドキッとしたわよ?」

 珍しくカリンも柔らかい口調でやんわりと諫める。

「ごめん……言葉、間違えたわ」

 部屋の空気が一気に消沈してしまった。

 と、そこで、

「どうも~、ただいま帰りましたっす~」

能天気な声とともに、メアとシーナが部屋に入ってきた。

「主様! 明日の訓練用の修練服頂いてまいりました~。ご覧下さい! 輝くような純白の服ですよ! 肌触りも、とっても良くて……あ、あの~、なにかありました?」

 支給された修練服の質の良さに感激していたシーナとメアは、それを話のタネに盛り上がるだろうと二人、話し合っていたのだが、部屋内の微妙な空気に気を削がれてしまった形になった。

「いやなんでもない、ご苦労様だったね。みんなに配ってくれるかな?」

 誠一に言われ、首を傾げながらもメア達は服を配り始めた。

「リョウくん……ごめんね……」

 ライラはもう一度、良二を後ろから抱きしめた。

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