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飛ばない世界へ……

 休日であるはずの4日目がとんだ展開になったものである。

 本来なら5日目の今日は、シラン率いる魔王府近衛隊たる魔王府軍との合同訓練となるはずだったがミカド(仮)の登場で段取りは根底から覆ってしまった。

 フィリアにはある程度事情は話したものの、現状でミカド新生委員会に報告するのは時期尚早であると意見が一致し、協議は予定通りの進行で行うことになった。

 ミカド(仮)に関してはまずはローゲンセンに相談しようと言うことで彼とのアポを取らねばならなかったのだが、遊撃隊の連中は行楽・捜索・協議で疲れ切っており、誠一が午前中を休務としたので昼までは惰眠を貪ることにした。


 良二が目覚めたのは12時も30分ほど過ぎた頃だった。

 左右どちらを見ても一緒に寝ていたはずの容子の姿は無かった。

 部屋をぐるりと見まわしても、やっぱりいない。

 もっとも、彼女はこちらに戻って来てミカド(仮)が抜けだすまでは寝ていたも同然だったのだし、そうそう寝てばっかりも居られなかっただろう。

 まだ、ボーっとする頭を抱えながらベッドから起き上がると、靴こそ脱いではいるが、服はそのままで眠りこけてしまったことに気付いた。

 ――容子とは少しでもお喋りしたのだろうか? 寝ころぶなり、いびきをかいてたとしたら……彼女、ご機嫌ナナメかもしれない……

 とりあえず服を脱ぎ、部屋に備えられているシャワールームで(さすが8魔王、お大尽)昨日の垢を洗い流すと幾分シャッキリしてきた。

 部屋着を纏い、フーッと一息つきながらソファに座る。と同時に、いきなりドアがバターンと開いて、良二ドッキリ。

「わ! びっくりした!」

 入ってきたのは容子とカリンだった。

「ああ、起きてたのね? 良くんなかなか目が覚めないから、とりあえず昼食頂いておこうと思って」

「あなたの分も持ってきたわよ? 食べるでしょ?」

 カリンは昼食が乗せられたサービスワゴンを押していた。一人分ずつトレイに分けられており、容子と二人でテーブルに移していった。

「ああ、ありがとう。二人とも気分はどうだい?」

「あたしはミカちゃんがいた間は眠ってたから睡眠は大丈夫よ」

「私も先に休ませてもらったからね、目もすっかり良くなったわ」

「そりゃよかった!」

 と、言うわけで、三人そろって「いただきます」して食べ始めた。

「メアやシーナはもう起きてるわね。隊長と美月はまだ寝てるわ」

「歳には勝てないかな?」

「て言うか、あの後ラーさまに止め刺されたみたいだし?」

 うわぁ……

「ライラにさんざん言われて凹んでたそうだし、慰めてもらいたかったんでしょうよ。出仕前のラーさまに会ったけど、めっちゃスッキリした顔してたわ」

「比べて誰かさんは、横になるなり高いびきだし?」

「いや、昨日は本当に疲れちゃってさ……そりゃそうと、今日の予定はどうするんだろ? 本来なら魔王府軍との合同訓練だったのに」

「ラーさまが出仕した後、すぐにローゲンセンさまに話をしに行くって言ってたわ。委員会の連中よりも先に耳に入れてもらわないとね」

「そういやミカは?」

(おるで!)

 思わぬタイミングでいきなり返事され、良二はパンをのどに詰まらせるところだった。

 一緒に居ったんかい! と。

「おまえ、自分じゃ身動き取れなかったんじゃ!?」

「一応あたしに憑りついてるんだけど、肩に乗ってる感じ? みたい」

(そうすりゃ、ヨウコちゃんに寝てもらわなくても大丈夫そうでな? お邪魔しとるんじゃ!)

「まったく、ヨウコもよく幽霊なんか肩に乗せられるわねぇ?」

(なあ、せめて魂と言ってくれんかなぁ? いちいち怒鳴るのも、しんどくなってきたわ)

「ミカって名前もらえただけいいだろ。それよりこれからどうするんだか。黒さんが起きるまで待機かなぁ?」

(ん? ちょっと前にライちゃんから念話が来たぞ? もう一度みんな、お忍びで集まるからチョロチョロ動くなって言われてもうた。予だけでは身動き一つ出来んのにのう)

「集まる? この屋敷にか?」

「お忍びって事は夕べみたいにライラやメーテオール猊下もいらっしゃるって事かな? フィリア殿下も来るならある意味、事実上の首脳会談かしら?」

 猊下級のお方々は本来、そうポンポン城から出るものではないのだが、ライラの行状もあるし、その辺は良二たちもマヒしてきているのであろうか? 

 まあ、アデスのこれからに影響することである上に、表沙汰に出来ない事情の前に実利を取った、とも言えるか?

「……黒さんを起こそう。もし、そうなら俺たちの今後にも関わる事だしな」


 ミカの言った通り、ライラやメーテオールたちは午後2時から昨日の夜と同じ応接間に集まった。

 昨日起こったことをおさらいし、ホーラ・フィリア・ローゲンセンも加えて今後の事の指針を決めるように話を進める模様だ。

 異世界人からは誠一だけが参加し、良二たちは意見が必要なら、念話で参加という形になった。

 長引くかと思われた会議は意外にも夕食前には終了となり、参加者はそれぞれ得られた意見や結論を持ち帰って行った。

 

「天界行きが早まりそうだ」

 遊撃隊全員と、ラーやホーラも会する夕食の場で、誠一は良二らに説明した。

「天界での状況次第では再び魔界に来て訓練・練成等も行うが、天界における魔素吸収を優先させることになった」

「魔素吸収?」

「良は気付いていると思うが、我らは既に魔界の高濃度魔素を吸収していると見ていい。わずか数日で? とも考えなくは無いが、我々がアデスに来てから魔法を発動させるのにかかった日数も考えれば納得できなくもない」

「今度は天界での魔素を吸収させるってわけかい?」

「既にサワダ卿が天界で修業をされてい るが、我の知る限り天界の魔素は聖属性と相性が良いとの事でな。予想通り、彼の適性値・能力値の上昇は期待値を超える結果が出ているし、貴様らにも何かしらの効果があると期待はされておる。魔界魔素のパワー増大傾向に対して、天界の魔素は精度・精細さ・対精神性に差が出るものと言われておる事でもあるしな」

「曖昧と思われましょうが、魔素に関しては我々も知り尽くしているわけでは無いのです。まだまだ謎の多いものでして」

「ミ~ツキ、サワダと会うチャンス増えるわね?」

「二人っきりで会えるとよろしいですね、ミツキさま」

「いっそさらっちゃうなんてどうっすか~?」

「からかわないでよ~」

 とか言いながらも、やはり史郎と会う機会が増えそうでまんざらでもない美月である。

「ミカちゃんはどうするの? ローゲンセンさんに預けたりするの?」

(置いてきぼりはイヤじゃ! 予もついていくぞ!)

「連れて行くことになった。魔素異変時に体が引き裂かれた可能性を考えて、天界及び人間界で本体の手掛かりでもつかめればまた、真相に近づけるかもしれない、とのことだ」

「だそうよ、よかったね? ミカちゃん」

 ミカと容子はえらく馴染んでしまったものだ。

 別に霊体の、しかも女の子相手にヤキモチ、というのはあり得ないのだが、良二としてはちょっと微妙であった。 

 独占欲、かなぁ? 良二の心持は微妙というより奇妙な感じと言えるか。

「使節団の方は明日で討議が終わって明後日から順次帰国する予定だが、遊撃隊は引き続き魔界に滞在する。我々は明日、シラン殿の率いる魔王府軍魔導士隊の遠征支援を行う。先だっての防衛軍とは別の場所で、魔導士中心の部隊による作戦行動になるらしい。実践的魔法戦の指南を受けようと思う」

「作戦域までは私の竜車で送迎いたします。昨日のウドラ渓谷行きの時間とそれほど変わらないかと」

「ちょ! 竜車はやめてってば! お願いだから転移にして!」

「そうだよ! あれはもうごめんだ!」

 相も変わらず良二とカリンから竜車反対コールが飛び出す。

 しかし、カリンはともかく、良二にはみんなの訝しげな視線が集中した。

「リョウジさん? 竜車の高度は精々1000mですよ? リョウジさんは昨日……」

「それより高い1377mから飛び降りて生還したんすよ? 1000mなら落ちても、また無事に着地できるんじゃ無いっすか?」

「飛び降りたんじゃねぇ! 落とされたんだ!」

(正直スマンかったのぉ~)

「どっちにしたってもう竜車も飛行機も怖くないでしょ? あんな経験したんだし?」

「絶対ヤダ! 空を飛ぶこと自体ヤダ! 高さ制限10mまで!」

「何を情けない事を言っとるのだ。我もセイイチと空の散歩と洒落込みたくあると言うのに、職務で叶わぬのだぞ? 陛下のご寵愛を受けとる身で甘い事を言うでないわ」

「もう、良くん! 子供みたいな駄々こねないの! お仕事お仕事!」

 などと容子を始め、全員から発破をかけられる良二、カリン。しかし……

「リョウジ……これはもう、脱営……脱柵しか無いわ……」

「おう……帰るぞカリン、人間界へ……馬車が飛ばない世界へ!」

 良二とカリンは脱兎のごとく駆け出し、部屋の出口へ全速力で向かった。馬車が空を飛ばない世界の待つ扉の向こうへ。

「バカなこと言ってんじゃないわよ」

 容子がそう言うと良二たちは扉の目前で、

ドッタァーン!

と、いきなり転倒した。

 容子が風魔法で、高密度空気を二人の足首に纏わりつかせて、足の自由を奪ったのだ。

(ほ~、ヨウコは面白い魔法を使うのう?)

「水で物切ったり、風を縄代わりにするとか、チキュウ人は発想が違うよね~」

「お褒め頂きありがと、アイラオちゃん、ミカちゃん」

「いやだ! もう飛ぶのはイヤだ~!」

 頑張れ良くん……


                ♦


「なあ、夜王。なんでも夕べ、疲れ切っていたセイイチにおねだりしたらしいな?」

「あ、いえ、ホーラさま? 本来、昨夜のシフトは私の番でしたし、おねだりと言うのはいささか不適当かと?」

「いや、それはいいんだ、それは。……で、どうだったのだ? メア、シーナ……三度目の正直か?」

「そ、そのことですか。それは……その……」

「今更恥ずかしがることもあるまい? 図らずも今回、我はドン尻なのだ。情報くらい渋ること無かろう!? ん?」

「あ、あの……その、終わったあと……」

「ふんふん!」

「……足腰、立ちませんでし……た……」

「な、なんと! 三界一、経験豊富な貴様がそのような!」

「ほ、ホーラさま! 言葉にしなくたっていい事はございますわよ!」

「すまん、つい本音が」

「ホーラさま!」

「見過ごせ見過ごせ。いやしかし、う~む……で、あるならば今宵の伽は胸が躍るな! ……とは言え、あまり連日連夜、奴に負担をかけさせるには忍びん。セイイチの心持ちが最優先だ……」

「まあ、ホーラさま。ずいぶん我慢強く……」

「貴様が言うか? さておき、今のセイイチは以前とは違う。我らが個人でどうこうしていい存在では無くなっておる。巻き添え召喚で籠の鳥として扱い、時が来ればチキュウに返してお仕舞いとは、ならなくなってきた」

「委員会は、異世界の方々を正式に四天王として承認する事を決定したと聞いております。ホーラさま、彼の方々は……セイイチさまは……お故郷(くに)へお帰り頂くことが叶うのでしょうか?」

「……帰ってもらいたい。最愛の、ご子息と細君のもとへな……でなければ奴は……」

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