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どなたでしたっけ?

「なんで黙ってたんだよ?」

(話し方が分からんかったでな。なるほど、感情で押すみたいな感じかのう?)

「う~、だからあんた何者よ? よくそんなんで生きてられるわね!」

 ライラの眼には、よほど気味の悪いものでも映っているのか、眉間のシワは思いっきり寄せられ、口元も見事にへの字にひん曲がっている。

 しかし……よく生きていられる? ミカド(仮)を見る事も感じる事も出来ない良二らにとっては、妙な言い方に感じてしまうのだが。

(ああ、もう! その何者かを知りたくてここにおると何度言えば!)

「ライラ、こいつの姿が見えるのかい?」

「うう~。見えると言うか、雰囲気と言うか、頭の中で勝手にイメージされるみたいな?」

「で、ライラちゃんにはどんなふうに見えてるんだ?」

「それがね……うう、人の身体で例えると、頭のてっぺん辺りから、右の脇に欠けて切り取られてると言うか、ちぎられてるみたいな感じなのよね~」

 部屋にいる一同はライラに言われたそれ、ホラー物でありそうな、八つ裂きにされた血まみれのアンデッドかゾンビ辺りの残骸的様相を頭の中で想像し、

「「「「うげぇ~~!」」」」

と、一斉に思いっきり、それはもう思いっきり! 顔をしかめた。

(なんだと!? 予には脚も左腕も無いと言う事か!?)

「今まで気づかなかったのかよ!」

(自分で自分の身体なんか見れんわ!)

「鏡とかで見たことないの?」

(いや、予の身体は鏡には映らんし? そうか、脚が無かったか! どうりで身動きできなかったはずじゃわ!)

「いや。その理屈はおかしい! 霊体のくせに脚が無いから動けないとか! てか、幽霊には脚が無いのが相場だろ!」

(幽霊じゃねぇっつーに! 大体幽霊の脚の有る無しなんか、そんなの知るか!)

「へぇ~、リョウくんの世界じゃ、幽霊には脚が無いんだ? なんでだろね?」

 ライラが感慨深げな声を上げて不思議がった。それに誠一が反応した。

「なんか、お香をたいた時に霊が現れて、煙で脚が見えなかったからとか、有名な絵師が脚を描かなかったら幽霊らしさが出たとかで、それが定説になったらしい」

「そうなの? へ~、やっぱ黒さん物知りねぇ?」

「ホント、黒さん、そう言う雑学強いね~。アデスには幽霊話とか怪談とか有るのかな?」

「あるある、人間界ではけっこう聞くっすよ? 亡くなった方の魂を見たとか感じたとか。まあ、ほとんどが眉唾物っすけどね? 脚が無いってのは初耳っすよ」

「天界にいた時に、滅した神族が中々転生せずに彷徨ってるってお話し、聞いたことがありますわ!」

「え? なに? 神さまも幽霊になったりするの? 地縛神?」

「おお、興味深いな。俺の爺さまの実家は寺だったから、その手の話題は結構あったがな」

「え~、おもしろそう。聞かせてよ隊長さん!」

(おい! おまえら!)

 思わぬところで怪談談議に華が咲いてしまった良二たちに、ミカド(仮)がしびれを切らした。

(予の事はほったらかしか! 今は予の身の上が話の本質であろうが!)

「だから幽霊の話してんじゃねぇか。実際、お前には脚が無ぇんだろ?」

(それ以上、予を幽霊呼ばわりするとお前ら全員に分散憑依したるぞ! 右手ならおまえら全員に届くからな!)

「さて、奴の言い分ももっともだ。幽霊呼ばわりは奴を傷つけそうだから控えるとしようか?」

 良二ではないが、意識の有る内に別の霊体に心をなぞられるのは他の連中もゾッとしない。誠一のお為ごかし丸出しの提案に、全員が「はーい!」と、これまたお為ごかし全開で返事した。喜べ幽霊。

(う~、釈然とせんのう……)

「まあ、話はそれちゃったけど、あたしが言ったのは人の身体に例えたからなのよ。だから、実際に彼は脚が無い、身動きできない、移動する手段を持たない状態なのは、その通りなの」

(あの谷では龍脈があったから橋の辺りまでは手を伸ばせたんだが……ここではそこまでは出来んのだ)

「ちょっと待てよ? 脚はもちろん、頭に相当するところも切れてんだよな? と言うことは……おまえ脳味噌は半分以下か?」

(そう言う事になるかの? 実際のところ、人間らの様な臓物に相当する部分は有って無いようなもんじゃから例えるにしても……ん? 脳が足りないから予がバカとかアホと言いたいのか?)

「そうじゃない。そう言う状況でよく人格、と言うか自我が保てるな? と思ってな?」

(なるほど、今日言われるまで予の状況は分からんかったから気にせなんだが……我がことながら不思議じゃのう?)

「…………」

「黒さん? どうかした?」

「あ、いや、大したことじゃない。それよりも、ライラちゃん? 結局のところ、君はコイツには会ったことも見たことも無いのかな?」

「いや、いくら何でも、こんなグロい知り合いはいないわよ~」

(最初からこうじゃ無かったわ! ライちゃんやメルちゃんと一緒におったころは二人とももっと若い……というか幼かった筈だし、何よりそんな身体持ってなかったじゃろ?)

「はぁ? なんでメルのことまで知ってんのよ!?」

「なあ、ライラ? ライラは昔の事どれだけ覚えてる? こいつの一番古い記憶は、数十万年以上前だと言ってるんだけど?」

「ええ? そんな前……魔族も神族も、そうそう居なかったはずだしねぇ?」

(予も、メルちゃんやライちゃん以外と話した覚えはないのう。天界にも魔界にもその~、人とか集落とかは見たことなかった頃じゃ。三人で野原やら川やら眺めてのう。ウサギを追いかけたり、ヘビの巣を覗いたらシャー! とか脅かされたりしたわ!)

「ああ、あれねぇ。ネズミの巣だと思ったらヘビだったからビックリしたわ……よ……?」

 ライラの眉間に再びしわが寄る。良二もそんなライラに気が付く。

「ライラ?」

 良二が話しかけたがライラは答えなかった。ミカド(仮)がいるであろう場所を凝視し、しばらく考え込んでいた。

「なあ、ライラ?」

「ごめん! ちょっと待って!」

 良二の言葉を跳ね、ライラは口に手を当て更に考え込んだ。

「あんた…………」

(おう)

 部屋の全員がライラの言葉に耳を澄ます。

「あんた…………誰よ?」

(くどいわー!)

「だって、そのネズミの事なんかすっかり忘れてたわよ! でもなんか……あれ? なんで? ああ、もう! ホントあんた、何者よ!」

(あのなぁ―――!)

 話が進まんな……誠一は、どうやらライラにも覚えがある、と言う可能性も高まって来たと考えて提案してみた。

「ライラちゃん? メーテオール猊下に確認してもらう訳には、いかないかな?」

「ん? メルに?」

「今のヘビの件り……ライラにも思い当たる節が有るようだけど? 多分、ライラとそんな昔の記憶を共有できるのって、猊下以外には居ないんじゃないかな?」

 良二と誠一に促され、ライラは「う~ん……」と何やら思考を巡らせた後、2~3度頷きながら「分かったわ」と納得したらしく、念話を始めた。

「……ああ、メル。夜分ごめんね? あ、起きてた?」

 ライラの念話中、良二と誠一もこっそり念話で話していた。

(……ミカドだと思う?)

(お前も感づいていたか? まあ、お前は俺たち以上にこいつと話してるからな。気付いたことも多いだろう)

(でも、即断するには疑問が多すぎるよ)

(ミカドであるなら、仮に精神体だったとしてもライラちゃんや猊下くらいの存在のはず。なのにこいつ、あまりにも弱々しいんだよなぁ。そうは言っても……)

(千切れたと言うからには、他に残りの身体が有るってことだし、ローゲンセンさんの仮説によればその残りは魔素のまま漂ってるワケで……それが合わされば本来のミカドになるって事もあり得そうだし?)

(て言うか話が違ってきた。俺の思い違いでもなければミカドになる奴は今はそんな状態だとばかり思ってたんだがな。それを沢田くんが依り代となって集束させて、ミカドとして新生するんだと)

(ところがミカドは既に存在していたって事になる。それもライラやメーテオール猊下と同じころに。だったらなぜこれまで現れなかったのか? 魔素異変との関係は? あ~、なんかややこしくなってきたなぁ。ローゲンセンさんたちの言う事とも矛盾してくるし)

(連中がこの事を知っているならな? ライラちゃんの反応からしてそれは無さそうだ)

(まずはこいつが本当にミカドかどうかだね?)

「メル、来てくれるって」

 念話を終えたライラにメルの来訪を伝えられ、良二と誠一の密談も一時中断した。

「え? こんな遅くに来てくれるの?」

 猊下自らお出まし? それも意外だが、それでもさすがに日が明けてからが精々かと?しかしまあ、善は急げである。明日になったとしても、考えることが多くてどうせ眠れやしない、望むところ。

「猊下がこちらに!? どうしましょう、お迎えの用意が何も……」

「大丈夫よラー。お互いそう言うの気にしないから」

 とライラが言い終わると同時、この部屋の隅に、ホーラやオクロが現れる時と同じく眩い光が広がり、その中から神々しい輝きを纏った女性が現れた。

 大神帝メーテオール猊下御降臨~。

「ごめんねぇ~。こんな夜遅くに足運んでもらって~」

「ううん、久しぶりに古い記憶を思い出させてもらったから……言われるまですっかり忘れてたわ。もう不思議なくらいに」

「これは、大神帝メーテオール猊下! むさ苦しき我屋にお越しいただき恐縮の……」

 大神帝御降臨にラーが思わずひれ伏す。

「いいえ~。突然お邪魔してごめんなさい? 懐かしい昔のお話しでしたので居ても立ってもおられず……あ、異世界の皆様も? ご無沙汰しております」

 といいつつ優雅にお辞儀する猊下。良二たちも起立・低頭し、それに応える。

 やっぱり神聖なるオーラがハンパない。本来はこちらに出向いて頂くだけでも、とんでもない話なのだが。

「で、お話しの方は?」

「うん、こっちにいるんだけど……グロいから気を付けてね?」

 メルは言われた方を見た。

「ひ!」

 予想通りであったが、やっぱり彼女にはライラと同様に見えるのか? 両手で口を押え後ずさりなさる猊下。

(そんな目で見んで欲しいのう。さすがにへこむわ)

「し、失礼しました! あ、でもお話しの通り……会話とかに問題は無いんですね?」

(あんたがメルちゃんか? うんうん、面影が残っとるのう。綺麗になりなさったなぁ)

「あ、ありがとうございます。私共の姿もお見えになっておられるのですね」

「そうよ。で、さっそくなんだけど、さっき言ってたヘビの巣の話ってさ、どれくらい前だっけ?」

「……私もあなたも、実体を持ち始めた頃……いえ、それ以前かと思いますよ? もしかしたら100万年くらい前かも……?」

「そうだっけ? あの頃の記憶って50万年前も10万年前もあんまり変わんないんだよねぇ~」

 50万年……100万年…………

 スケールの差がひどすぎる……良二としては、なにかライラやメルとの距離が宇宙の膨張速度ほどの速さで広がっていくような錯覚を覚えるくらいに感じてしまった。

「う~ん、ヘビの巣のお話しでしたよね? 確かライラと一緒に野鼠を追っていたような気がするのですが?」

(そうそう! その野鼠の目がやたら可愛くてな! で、一匹だけ色白な野鼠が居って、そいつの目が他と違って赤い眼で!)

「思い出した! メルがもっと見たいって言って追いかけたのよ! そしたら見失っちゃって……」

「ええ! 辺りを探したんですわ! そうしたら小さい卵がいくつか並んでいたので、ここが野鼠の巣じゃないか? ってライラが!」

(おう、そうじゃ! で、『ネズミって卵から生まれたっけ?』と予が疑ったんじゃ!)

「そうだわ! なら調べればわかるよ! て言って、みんなで近付いて……」

「そうしたら、実はヘビの巣で、いきなり親ヘビが飛び出して来て!」

(三人で一斉に逃げ出したんじゃったな!)

「(「びっくりしたよね~!」)」

と、えらく盛り上がる三人。

 良二たちはすっかり蚊帳の外にされてしまってはいたが、今のやり取りを聞く限り、三人の記憶は一致・共有していると見ていい。例のミカド疑惑はいよいよ信ぴょう性を増してきたと言えるだろう。

「そうですよ! あなたはあの時一緒に居た!」

(思い出してくれたか!)

「そう! あの時もあなたはご自分の事を『予』と仰ってような!?」

(そうそう! あの頃からそうじゃったかも!?)

「あの時の! そう、あの時の、あの、ええと……ほら!」

(おおお!)

「ほら、あの! ………………どなたでしたっけ?」

(おい――――――!)

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