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メルちゃんライちゃんリョウちゃん

「ふーっ……完了っと。う~む、予の古い記憶と言うものは、人間の暦の単位で行くと数万年……いや、それ以上前の記憶と言う事か……」

「どうだ? 記憶の整理はつきそうか?」

「うむ、大体は並べられそうだ。ふむ、人と関わった時の記憶は……新しいものだと500年前くらいか?」

 500年前……魔素異変の時か!?

「500年前は魔素異変と言う大災害が起こった頃だ。その頃の記憶があるのか?」

「気が付いた……と言うか目が覚めたと言う感覚だが、なんか魔獣の大群と……あれは魔族か? それらが大乱闘しておったな」

「……ん? 一番新しいのが500年前って……その間は?」

「最近気が付いたのは……2年程前くらいか……その間の記憶は無い」

「記憶が無い? 500年分も?」

「寝とった……ようなもんかの」

「意識体が寝る? ピンと来ないな」

「人間に例えれば、だ。とにかく予の記憶はそんな風に飛び飛びでのう」

「じゃあ古い方の記憶は? 誰かと接した、話したと言う記憶はどうだ?」

「う~ん……そうじゃ、かなり昔に何万年、いや十万年以上前になるか? 誰かと話してた記憶は有る」

「十万年以上前!? 人間じゃなさそうだな……でも神族や高位魔族なら……で、どんな姿だった?」

「覚えておらん」

「なん……だと?」

「顔も姿も覚えておらん。と言うか、予がそうであるように、お前らの様な実体での姿の記憶は無いが、ただ話をしてた覚えは確かにある」

「いろいろ突っ込みたいところだが……話が進まねぇ。で、どんなことを話してたんだ?」

「あ~、あの花が綺麗とか、そこの動物が可愛いとかそんな感じだったかな~」

「場所は?」

「魔界……だったと思うが……そうじゃ、もう一人に誘われて自分ちにも来いと言われて別のところに行った事があるが、思い返せばそこが天界だったのかの? 魔界よりも風が爽やか~、と言う印象が強く残っとるわ。そういやその頃は肥溜めくさい臭いは感じんかったのう」

「他に人は? 話した相手はいた?」

「いや、その二人だけじゃ。それがいつの間にか会えなくなってなぁ。しばらく寂しかったわ」

「ちょい? その二人の顔形とか雰囲気とかは覚えて無いのか? 性別は? 男か女か?」

「それが皆目、と言うか……思えば予と同じ類いでは無かったかと……うん、彼女らに会えればハッキリするかもしれんな!」

「彼女? 女なのか? 女がふた……り……」

 良二は一瞬、背中がザワッとした。女二人……10万年以上前……天界と魔界……

「……なあ、つかぬことを聞くけど、その内の一人はメーテオールって名前じゃないか?」

 良二は恐る恐る聞いてみた。アデスでそれ以前の年代で人格を持っている存在など彼女とあと一人くらいしか……

「そんな長ったらしい言いにくい名前じゃなかったわ。確か……メルちゃんと言っとったような?」

 ――メ、メル……猊下じゃねーかー! じゃあもう一人は……

「も、もう一人の方! もう一人はライラって言ってなかったか!?」

「あ? ああ、そやそや! 思い出したぞ! ライラかどうかはともかく、ライちゃんメルちゃんと呼んでおったなぁ。息災かなあ」

 ――ミカド…………まさかこいつ、ミカドか!? 

 ミカド……このワードが光速レベルの速さで良二の頭をよぎった。

 直感・推測の域を出ないが、実体を持たないとされるミカドも、意識だけはライラやメーテオールと同時期から存在していてもおかしくはないだろう。何分にも彼女らと同様、人間界の頂点になるはずだった存在だ。

「おい、幽霊! よおく思い出せよ? そのメルってのは黒髪で透き通るような白い肌の女性じゃないか? ライってのは真っ赤な髪と真っ赤な瞳してなかったか!?」

「誰が幽霊じゃ! そんな非現実的なもんと一緒にするなと、あれほど!」

「俺のいた世界じゃアデスそのもの、全てが非現実的なんだよ! でもアデスもお前の存在も現実だと、ちゃんと受け止めてやるから答えろ! ライちゃんとやらの髪の毛の色は紅か?」

「ええっと、言われてみれば……いやいやいや! 余計な事言うな! 変にイメージが上書きされてまうわ! いわゆる実体と言う印象がまるでないんじゃ!」

「お前と同じ霊体……意識体だったのか……?」

「おい、さっきから聞いとるとお前さん、メルちゃんやライちゃんと知り合いみたいな言いぶりだが? まだこの世界におるんか!? おるんやったら会いたいのぉ!」

 そうだ、本当にこいつの言っていたその話し相手がライラとメルならば、こいつの正体がわかるかも? 人間界に誕生するはずだったミカドの意識体なのかも……いや待てよ? それなら念話か何かで連絡は取れるんじゃないか?

「なあ? メルさんやライラと語り合える能力があるなら、念話とかで話しかける事とか出来なかったのか?」

「念話? なんじゃそら?」

「遠く離れていても会話ができる能力の事だよ」

「そんなんあるのか!? 便利やなぁ、どうやれば出来るんじゃ!?」

 念話が出来ない? もしかして念話とは、よほど後発のスキルなのか? 良二は目の前の憑依者に念話を送ってみた。

「……どうした? 黙りこくりおって?」

 ダメの様だ。ポメラの身体に念話スキルがあればまた違ったかもしれないが、今の憑依者には通じなさそうである。

「いや、今あんたに念話で語りかけたんだが……残念だけど、あんたには出来ないみたいだな」

「なんや、期待させよって! でも、そんなん出来たら便利やなあ。のう? その能力使うてメルちゃんやライちゃんと話すとか出来んか?」

「それが、彼女たちとももちろん、この崖の上とも通じなくてさ、この谷は」

「そうか……確かにここは変でな。予も2年前に気が付いてから全く移動出来ずに、ここに閉じ込められとるでな」

「ん? どう言う事?」

「予は身体は持たぬが、魔界はもちろん、天界にも行き来する事は出来ていたんじゃ。誰も振り向いてくれなんだがの? だが500年前に意識を失ってから目覚めたらこのざまでの。そんで、じたばた藻掻いとったと言うわけじゃ」

「閉じ込められたって、誰にさ?」

「いやわからん。魔族たちと魔獣の戦に巻き込まれた覚えは有るんだが……そうじゃ、何かに押込まれそうになって慌てて近くの龍脈に逃げ込んでの。出口見つけて飛び出したらここでな。そこで気を失ったらしく目覚めてみたら、このありさまだ」

 龍脈……そういやここは、ウドラとギャランドゥラが喧嘩して龍脈を刺激したとかなんとか言ってたような……

「地上まで続いてる細い龍脈があってな。そこから何とか橋の辺りを見ることは出来たんじゃ。で、ここに落ちてきても大丈夫そうな魔力を持った奴に来てもらおうと思ってな、鳥の魔獣を操って、いろいろ努力しとったんじゃ」

「1400m近く落ちて無事な奴とか、そんなもんそうそう居るか!」

「しかし今、実際に目の前におるでの? やってみるもんじゃて。今までも何度か試したが、いや~、あの柵は結構丈夫でなあ、思い余って丸太ぶつけてもうたわ。正直スマンかった」

「あの丸太、直撃してたら死んでたぞ!」

「まあ今は生きとるこっちゃし、水に流してつかいや」

 ――軽く言いやがって!

 ムカつき加減も大概な良二ではあったが……しかしながら、話が首傾げ不可避と言いたくなるほど変な方に向かってきた。

 時系列からすると、この幽霊がミカドの意識体である可能性は捨てきれない。

 かと言って、今までホーラやローゲンセンらに聞いた話で行けば、ミカドはメーテオールやライラと同じクラスの魔力使いであるはず。

 意図的な封印ならともかく、こんな谷底でぐずぐずしていると言うのも得心がいかない。

 己が何者か? と悩んでいる上に自分の名前も知らないそいつに、お前はミカドかも? などと言ってもいいものかどうかすら、今の良二には判断が付きかねた。

「しかし、なんとかメルちゃんライちゃんに会いたいのう。会えば予が何者なのかも分かるかもしれん」

「さっきの細い龍脈? そこをつたって地上に出るってのは……当然やったよな?」

「うむ、指先は出られるんじゃが身体は通らんと言うか動きが取れんと言うか……残念ながらな。地上の様子を察知して魔獣を操るのがせいぜいじゃったわ」

「そうかぁ……ライラを呼べれば何とかなるかもしれないけど念話が通じないし……何故通じないんだろう、こんなこと初めてだ」

「念話とは魔力を使うのか? ならば無理じゃろうな。この谷は、いくらか上ったあたりで魔素が澱んでいる厚い層があるでな、魔力は迷走して外へは届かん。だから予も龍脈をつたわんと外の様子が分からんかったわけでな」

「魔素の澱みか……どんなだろう、ピンと来ないな?」

「言ってしまえば魔素の肥溜めじゃな。少しずつ魔石化して谷底に落ちて来てはおるんだが、予が逃げてきた龍脈からチョロチョロと流れて来とってのう。んで降り注いどる魔石や魔粉が魔力を散らばして、思うように行ったり行かなんだりするんじゃ」

 魔素異変の負の遺産と言う側面もあるのか……。救助隊が向かって来てくれていても進行を阻害される恐れもある。やはり、こちらからも出向かなければなるまい……良二はそう考えた。

 最初は鬱陶しいムカつく奴だったが、ミカドの可能性が出て来てしまっては捨て置くわけにもいかない。

「そう言えばポメラの身体は大丈夫か? 結構話し込んじゃったけど……」

「おお、もうそろそろじゃな。精々あと10分……」

「じゃあ、ポメラを解放してくれたら俺たちは出発するよ。仲間に俺たちが生きてることはなるべく早く伝えたいし。お前の事はライラに聞いてみる。もしも話が繋がったらまたここへ来て知らせてやるよ。希望に沿えるかどうかは……約束できないな」

「……長々と話し出来て感謝するぞ。そうじゃ、お前には名前があるな? 聞かせてくれるか?」

「リョウジ・キジマだよ」

「覚えておこう。予も一緒に行きたいところじゃが……お前らほどの魔力持ちがあと2~3人おれば分散憑依で何とかなりそうなんじゃがの」

「分散憑依? 器用なマネが出来るんだな。それなのに、ここから動けないとか」

「自分でも不思議だ。それまでは魔界も天界も行き来し放題だったんだが」

「ん? 人間界へは行ってないのか?」

「メルちゃんライちゃんと天界、魔界への行き方は覚えられたんだが、人間界への行き来に関してはどうも覚えが……む?」

「どうした?」

「何者かが来よるな? うー……喜べリョウちゃん、橋の上にいた仲間のようだぞ?」

「り、リョウちゃん?」

「メルちゃんライちゃんリョウちゃんじゃ。あかんか?」

「ま、まあいいけど……それより、橋の上にいたってことは 黒さんや容子……」

「おっといかん、魔獣どもとやり合うつもりじゃな? 予が操ってると言っても命の危険に関わらばこの数を押さえるのはしんどいのう」

 そう憑依者が言い終わると同時に、光るブレードが起動されるのが良二にも見えた。間違いない、誠一の光剣の光だ。

「殺気撒き散らしよって。他の魔獣も寄って来てまうがな……リョウちゃん、この距離でも念話とやらは通じんか? 予は魔獣を下流に持っていく」

 良二は、「分かった」と伝えると、ボヤッと光る光剣の方に向けて念話してみた。

「黒さん! 攻撃は待って! 魔獣は下流に逃げるから!」

(な!)

「手は出さないで! 魔獣は襲ってこないよ!」

(……良! 良なのか!? ホントに良か!? ……無事だったか!)

 念話ではあるが、良二の声を聞いた誠一の反応は、裏返ったような声になっていた。一縷の……いやそれ以下の望みにしがみ付いていた誠一の声は、この上ない感激と、最大の安ど感が入り混じった喜びに満ちていた。

(……よかった、本当に……本当に、生きていてくれた…………よし、今からそこへ行く……え? 攻撃するなだと?)

「大丈夫、信じて!」

 二人の念話が終わるころ、既に魔獣は憑依者に操られながら移動を開始していた。

 念話通り、魔獣の移動を確認した誠一や容子らは、良二に向かって駆け足で走り出した。

「良くん!」

 先頭は容子だった。目前に走り寄ると容子は飛びついて良二に抱きつき、

「バカァ……昨日の今日で、何回心配させる気よぉ……」

と涙声で諫めながら、ぎゅ~っとしがみ付いた。

「……ごめん、また心配かけさせたね。ホント、ごめん」

 良二も容子を力いっぱい抱きしめる。容子はそれに応えるように今までにない激しい力で更に抱き返してきた。言葉では表しきれない喜び、この力いっぱいの抱擁で表すしかない、二人はそんな心持ちであったろう。

 良二は思った。ホント情けない限りだと。昨日、魚魔獣に喰われて心配かけさせたばかりなのに。

 美月やシーナらも駆け寄り、良二とフィリアの無事に歓喜した。

「連日で心配させんな、ドアホが……」

 相変わらず失神中のフィリアの様子をメアと一緒に見ながら、誠一も良二をやんわりと叱った。詫びを込め、誠一の方に顔を向けた良二は頭を下げた。だがフィリアに向けていた誠一の顔は、おそらく人生で最高の朗らかな笑顔であっただろう。


 三人の生存を確認し、ひと息ついた誠一は、しゃがんでポメラに話しかけた。

「ひどい目に遭ったなポメラちゃん? 身体は大丈夫かい?」

 聞かれてポメラは、その小さな手で誠一の肩をポンポン叩きながら、

「おう、心配かけさせてスマンかったな。リョウちゃんは予の犠牲になったのだ。余り責めんでやってくれ、な?」

などと宣った。それを聞くや誠一の動きが思いっ切りフリーズした。

 やがて誠一は良二の方を見るために首を90度くらい廻したのだが、10秒ほどは掛っていただろう。

 誠一の目はこれ以上ない、困惑のジト目であった。

 無理もない話ではあるが、誠一らには何から話したものか? どう説明したものか? 肩を竦める良二であった。

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