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三度目のライラ

 フィリアの屋敷の正門前にあるフィリア・フローレン邸を印す表札の下に、魔導戦闘団特別遊撃隊の看板が加えられて1週間ほど経った。

 突発的な初陣を辛くも勝利で飾った良二たちは、対人身売買組織戦の聴取・実証立会いなども終えて隊の本部事務所で寛いでいた。

「やっと解放されたな。ようやく本部の準備も出来そうだ」

 良二がソファに腰掛けながら、同じく帰隊して寛ぐ容子らに話しかけた。

「結構しっかり調べるのねぇ。証言だけで、ちゃっちゃっと進むかと思ったのに」

 美月がお茶を啜りながら応える。火球魔法が不発だったことを気にして翌日もべそを掻いていたが、ようやく立ち直ったようだ。

「机や椅子とかも届いているし、事務所もがんばって整えなきゃね!」

 3人が、うんと頷く。

「で?」

「え? なに?」

「何で本部が俺の部屋なんだ?」

 誠一が憮然として零す。

 なるほど、周りを見れば事務所用の机や椅子、戸棚等が既にこの部屋に運び込まれており、設置されるのを待っている状態だ。誠一の個人的な居室であるにもかかわらず、だ。

「いいじゃない。どうせいっつも、ここがたまり場になってたんだし」

 細けぇことは気にするなとばかりに美月が笑う。

「もう慣れちゃったしね~」

「敷地内に本部隊舎が出来るまでの臨時なんだから、それまでの我慢だね」

 と、半ば意地悪い顔して同意する容子と良二。ハァと息つく誠一。

「でも、ひどい話だよね。あの娘たち、みんな辺境の町や村から攫われてきたんでしょ?」

 容子が事件を振り返り、不機嫌丸出しの口調で言った。

「最初に助け求めてきた娘、麻薬で逃げられないようにされてたんだってね……」

「黒さん、よく判ったね」

「確証はなかったんだがな。以前見た、精神病んでる人の眼があんな感じでね。こっちを見てるのに焦点がこちらの頭の後ろ辺りにあるみたいな……その上あのボロ服だ。サラさんはすぐに分かったようだが」

 その時の状況を思い出したのか、美月がおもむろに眉を顰めた顔をする。同じ女性でもあるし、現実にあんな犯罪の犠牲になってる娘がいると言うのは不快でないはずがない。

「中毒性はどうだか不明らしいが、常に恐怖感に苛まれて言われた事に逆らえなくなるんだとか。あの娘はよく、助け求めにこれたもんだよ」

「かわいそう……」

「世界が変わっても、華やかさの陰に汚いところが有るのは変わらないんだなぁ」

 容子、良二とも暗くなる。

「でも良かったね、あの娘たちだけでもみんな助かって」

「組織は事実上壊滅。あの娘達以外に拉致されてた人たちも、家族に連絡を取って判明次第、帰れるそうだよ。それで事件は解決なんだけど……」

「うん……」

「変なオマケ付いちゃったね……」

 良二、美月、容子が揃って誠一を見る。

「う……」


 と、その時。

 バァ━━━━━━ン !!!

 C4爆薬でも発火させたかと思うほどの轟音と共に、部屋の扉が開いた。

 同時に、メイド服を着た、正に銀色に輝く美しい髪を(なび)かせた狐っ子が、音速を超えるが如き勢いで誠一向かって突撃して来よった。

 誠一はその勢いでソファごと後ろへ転倒し、並んで座っていた良二も巻き添えでブッ飛ばされた。

 ティーカップを持っていなかったのは、せめてもの幸いであった。持っていたら確実に粉砕していたであろう。

 この遊撃隊員お揃いのティーカップセットは、フィリアから特別遊撃隊発足のお祝いとして贈られたモノであり、王都のみならず外国にも名の通った有名な工房の逸品なのである。早速割ってしまってはフィリアにあわす顔が無い。

 で、美月・容子はそのティーカップを口に付けたまま、揃って点目でフリーズしている。

(あるじ)様ー!」

 狐っ子メイドが誠一の事をそう呼んだ。

「主様! シーナはようやく初期研修を終えて、主様にお仕えする事が出来る様になりました!」


 シーナと名乗るこの狐の獣人は、あの人身売買組織との戦闘時に誠一が救助した女性たちの内の1人である。現場から引き上げようとした誠一にしがみつき、テコでも動かなかった、あの狐っ子だ。

 さらおうとしたヤクザが言っていたように、狐の獣人の中でもシルバーフォックスと呼ばれる毛並みを持つ者は希少で注目度も高く、彼女はその1人に入る。

 だが、銀狐はシルバーとは言いながら黒色・茶色も交じることも多く、グレー的な色合いが目立つ(それでも希少種)のだが彼女は正にシルバー、いやプラチナと言えるか? それほど見事な銀色なのである。


「シーナ! 何をやってるんですか、あなたは!」

 シーナに次いで、メイスも息を切らしまくって部屋に飛び込んできた。

 本来、フィリアに仕える新人メイドは1期~2期程度の先輩と行動を共にして初期教育を受ける事になるのだが、誠一の秘書兼侍女として仕える予定のシーナはフィリアの指示のもと、侍女長たるメイスが直々に教育することになったのである。

「だって侍女長が終わったって……」

「基礎教育の座学が終わったと言ったんです! 大体、3日かそこらで研修が終わる訳ないじゃないですか!」

 ああ、そりゃもっともだ、と思いながら良二はひっくり返ったソファを起こした。座り直し、難を逃れたティーカップに残った茶を啜る。

「もう、いいです! 私は一日も早く主様に仕えたいんです!」

 その心意気やよし! 心意気だけは>容子

「ノックもせずに部屋に突撃した挙句、仕えるべき主に体当たりかますメイドがどこに居ますか!」

 居ないわよねぇ、てか、居てほしくないわよ、はた迷惑な!>美月

「いいんです! メイドの勉強なんて主様との伽のマナーだけで十分です!!」

「「「ブ━━━━━━ !」」」

 良二ら3人は盛大に飲んでた茶を吹いた。虹が出ていたかもしれない。


 早く何とかしないと! メイス・容子・美月は揃ってそう考え、尚も抵抗するシーナを3人がかりで担ぎ上げて部屋から連れ出して行った。

 部屋には呆れ顔の良二・誠一が残された。

「もう、何だってこう次から次に……」

 ソファに座り直した誠一がボヤく。

「ずいぶん懐かれたもんだね」

 良二が、からかい気味に話しかける。

「他人事だと思いやがって……気楽に言うなよ」

「でも念願の狐っ子だろ?」

「ああいうのは遠巻きに愛でるから良いんだよ。実際、抱え込むならメリット・デメリットも纏めて抱え込まなきゃならねえんだからよ」

 誠一はお茶を入れ直した。

「そう言やメアさんにもご執心って訳じゃないよね。むしろ、向こうから寄ってくるって言うか」

「あの娘は俺と手合わせしたいだけだろうさ」

「と、言う事にしたい?」

「なんだよ?」

「でも結局はモテモテじゃん、ケモ限定みたいだけど」

「ペットには懐かれるタイプではあったな。姉貴に言われたことある、『女にモテない分、犬猫にはモテるね~』ってよ。ど突いたろか思ったわ」

「でも結婚してるだろ?」

「こちらの世界に来るまでは、俺の人生七不思議筆頭だったよ」

 良二は苦笑いで返すと、今度は自分が溜息をついた。

「……黒さんてすごいよね。自分に誇れる仕事やってて、ちゃんと家庭持ってて」

「普通だろ、そんな程度じゃ履いて捨てるほどいるじゃねえか」

「うん、そうなんだろうけどさ、俺にはさ……」

「ん? どうした? 急に神妙な顔になって」

「……俺、日本でもそうだったけどさ、自分にこれってモノが無くてさ……周りの雰囲気とか流れとかに沿っていくだけで……」

「…………」

「こちらに来てからも俺は流されていくだけだった。黒さんみたいに、こんな異常な事態に出くわしても冷静に、堂々と自分で判断して対応して……」

 誠一は聞きながら茶を啜った。

 良二の話に耳を傾けながら、今まで寄っていた困り眉毛は無表情のそれに変わって行く。

「黒さんだけじゃない。フィリアさんもメイスさんや他のメイドさんも、街の店の人、屋台の主人……自分に誇りもって自信もって、みんな生き生きしてて。それに引換え俺なんて……」

「俺が堂々ねぇ……体力検査の後の俺、ちゃんと見てたろ? あれが俺の正体だよ」

「それでもさ!」

 良二は少し声を荒げてしまった。

「それでも、この間のヤクザとの戦い……助けを求めた子の状態をちゃんと判断して、ちゃんと戦略たててさ、ちゃんとみんなに正確に指示して……」

「…………」

「俺は何で手を出すのか判らなかった。戦闘どころか、こちらの世界の勝手もまだおぼつかないままの自分たちがわざわざ斬り合いなんてする必要あるのかって」

「ああ、ありゃ俺が勝手に……お前たちの気も知らずに独断で決めちまった。悪かったと思ってるよ」

「そうじゃないって! 俺は目の前のトラブルにアガっちゃって、世話になってるフィリアさんの立場なんて思いもよらなくて……でも黒さんは恩人の立場も忘れて無くて……」

 誠一はコクンコクンと頷きながら聞いている。

 続いて良二は聞いてみた。

「……黒さん、教えてくれない? ……俺、どうすれば黒さんみたいに自信持てる?」

 以前に、ライラに勧められた質問である。果たして……

「自信か……」

 ちょっとの間、目を伏せて考えていた誠一だったが、やがてフッと笑って自嘲するように答え始めた。

「そんなもん無ぇよ」

「え?」

「自信もって仕事したり、所帯持ったり子供育てりなんてした事ぁ無ぇよ。いつもビクビク、ハラハラばっかしてるよ。こちらに召喚されてからこっち、ずっとそうさ」

「で、でも、あの事件だってそんな素振りなかったし、ランボー教官の時も!」

「ありゃあ自分でも意外だったな。体が勝手に動きやがった。自衛隊にいた時に基礎訓練をアホほど反復練習したせいかな? だからって、『俺はもう大丈夫、何があっても反撃できる』とはならないよ」

「そ、そうなの?」

「だ~から測定の後、あんな醜態見せちまったんじゃねえか。子育てだってそうさ、俺は2人子供を育てちゃいるが、じゃあ例えばまた1人育てることになったとしても『2人育てているから次の子供もちゃんと育てる自信がある!』なんて、そんな事、口が裂けても言えやしねぇよ。兄弟同じように育てたつもりが同じようには育たない。当り前さ、みなそれぞれ個性ってもんがあるんだからな。2人育てただけでもそれはわかるよ。だから3人目がどう育つかなんて皆目わからねぇ。もしも女の子なら尚更だ、育てたこと無ぇからなぁ」

「……でも経験があるんだから少しは……」

「まあな、オムツの当て方くらいは自信あるけどな。……結局は自信なんて後からくっついてくるもんなんだよ。だから、何か事を成そうと思ったら自信の有る無しはあんま関係ないって、俺は思うんだな」

「……自信は……要らないの?」

「有れば越したことはないが、むしろ必要なのは、ん~……覚悟かな」

「覚悟……?」

「どんな結果が出ようとそれを受け止める覚悟さ。予想外・不本意な結果が出てもそれを受け止めて、また事に当たってやるって腹をくくる、んなところか?」

「…………」

「覚悟が先、自信は後。まあ俺はそんなふうに思ってるな。参考になったか?」

 そう言うと誠一は、口の端っこを若干吊り上げながら笑って見せた。


 ――意外な答えが返ってくる気がするよ


 誠一の答えを聞き終わった良二の脳裏にライラの言葉がよぎった。

 自信は後か……そう、なのか。自分は、まずは自信を持たないと、とばかり思ってた……と言うか、こだわってた? いや、もしかしたら、失敗を怖がってばかりで……やらない理由……やらなくて良い理由にしてたのか……

 良二は少しばかり拍子抜け、と言うか、逆に何かが取れたような気がした。歯の間に挟まった魚肉のスジ、いや青海苔程も無い引っ掛かり。でも何かが外れたような、そっか……それでいいのか……と。

「……ありがとう、黒さん。正直、うまく飲み込めてないっぽいけど……ちょっと見方替えられるかもしれない……」

 彼女は、ライラはこういうのを予想してたんじゃないのかな? 良二は誠一に話しながらもそんなことを思い浮かべていた。

「フフ、職人てなぁな、得てして自分の技術とか人に何かを教えるってのが苦手でな」

 苦笑いで鼻先を掻く誠一。

「ああ、見て盗めってやつだね」

 良二も微笑みながら答える。

「あんまり根を詰めるなよ? みんな通る道、程度に思って気を楽にな」

「うん、ありがとう……」

 そういうと良二はすっかり冷えたお茶を飲み干した。


「ああもう、とんでもない娘が入ってきたもんねぇ」

 容子と美月がぼやきながら帰って来た。

「最初はもっと大人しい娘だと思ってたわ」

「よお、ご苦労さん」

 2人はそれぞれソファに座った。

 お茶を入れ直し、降って湧いたトラブルで乾いた喉を潤していく。

「どうだった?」

 良二がシーナの様子を聞いてみた。

「書庫まで連れてったわ。メイスさんが缶詰にするみたい」

「もう書庫まで連れて行く間中、主様主様ってさあ」

 やれやれだ……と天を仰ぐ誠一。

 事件の後、早々に引き上げようとした良二たちだったが、シーナはその後も頑として離れず、すったもんだして誠一が身元引受人として、とりあえず保護する事になったのだ。

 家族も親戚縁者もいないという(自己申告)彼女の処遇をフィリアと相談の上、遊撃隊隊長(づき)秘書兼侍女として雇うことになった……までは良いが、とにかく誠一への執着がハンパなく隙あらば突撃してくるのである。

「いきなり『伽』とか言い出して、なぁに考えてんのよ!」

「黒さぁん、まさかその気があったんじゃないでしょうね?」

 美月が疑わしさ満載の目つきで誠一を見る。

「な訳ねぇだろ。あいつの年齢聞いたろ? お前らと同い年なんだぞ?」

「でもやっぱり若い娘の方がいいんでしょ? 男の人って」

 容子が誠一を見た後、良二にも目線を向けた。

「え? 俺?」

「良なら別段問題なかろ? 3歳くらいしか変わらんし」

「で?」

「はい?」

「黒さんも若い娘の方がいいわけでしょ?」

 そんな風に聞く容子の視線がちと冷たい。

 だが誠一はそれを否定するべく、目の前で人差し指を左右にピッピッと振った。

「思いっきり射程外。そりゃ昔は若い方が良いに決まってるって思ってたさ。でもこの歳になるとお相手するなら、そうだなぁ……やっぱ50前後……まあ、せいぜい40歳辺りだな、ストライクゾーンは」

「そうなの?」

 容子が再度良二に目を向ける。

「いや、俺に聞かれても!」

 わかるわけねーし! という目の良二である。

「って言うかさ、あれだけ怖い思いしていた時に颯爽と現れて救ってもらったわけだし、心酔したって言うか……天涯孤独ってのがホントなら、年齢差も年齢差だし彼女も黒さんの事、頼りがいのある父親みたいに思ってんじゃないかな?」

「「甘~い」」

 う、合唱された。

「ホント良さん、女心わかって無いねぇ~」

「あれは恋する乙女の眼だよ~」

 う~、ハイハイ知りません知りません、年齢=彼女いない歴ですよ!

「あんな、しがみ付く度に頬擦りするなんて疑似親子のはずないよ」

「まあ言われてみればなぁ……」

 ()だもんなぁ……

「でも確かに綺麗な娘だよねえ、シーナって」

「うん、あの銀髪、うっとりするくらい美しいわ」

「ケモナーの黒さんとしては大満足じゃない?」

「良、ちょ~っと黙ろうか?」

「ホントに手を出したりしないでしょうねぇ、黒さあぁん?」

「くどいぞ! 言ってるだろ、俺にとっちゃ、お前らくらいの年齢の娘なんて、どんなに綺麗で可愛くても、いい意味で乳臭いんだよ!」

「言い方!」

「何よ、それェ!」

「いい意味でって言ってるだろ。ロリ野郎でもなけりゃ、まだ女として成長途上の愛らしい娘を見たって俺みたいな枯れた老いぼれが反応するかっての! 嫁相手でも薬が要るってのに!」

「それってあたしたちに女を感じないって事ぉ! ちょっと失礼じゃん!」

 うわぁ面倒くせ!

「大体俺にはモテ期なんてなかったんだ。今更モテモテとか言われても鵜呑みに出来っか! 嫁と結婚したのだって奇跡みたいなもんなんだ」

「でもシーナだってそうだしメアさんだって」

「だからあれは!」

「女にモテない分、犬猫にモテるんじゃない?」

 ブ━━━━━━! 良二が盛大に吹き出し大笑い。

「ど突くぞ!」

 誠一、過去の忌まわしい記憶を再現されるの図。



 さて、お喋りの時間は終わり、隊のこれからの行動計画について誠一から説明があった。

「来週、王都歩兵連隊選抜隊と冒険者ギルドの志願者との混成団で、テクニアと呼ばれる町の周辺に出没する魔獣の掃討作戦が実施される。で、我々遊撃隊に当作戦の支援要請が届いた。俺は例の三条件に沿ってこれを受託するつもりだが、反対の者はいるか?」

「そうかぁ、要請があったら出来る限り受けなきゃダメなんだよな。まあ俺は受託には賛成だけど」

 良二が答えると次は容子。

「あたしも賛成。王都以外のエスエリアも見たいし、なにより本職の軍や冒険者がどんなふうに闘うのか見てみたいわ」

「あたしも! この間の汚名返上しなくちゃ! 魔法だって剣技だってもっと経験値上げなきゃだもん!」

 と、美月。気合い満点。

「よし。この案件、全員一致で受託することにする。士気も高そうで安心したよ。……先だっては済まなかった。いきなり戦闘に巻き込んで、経験もないのに人間相手に斬り合いさせちまったな」

 誠一が頭を下げた。

「言いっこ無しだよ黒さん。あの時は俺もビビったけど、黒さんの判断は正しかったと今では思ってる」

「うん、あたしも、もう大丈夫!」

「頼りにしてます、隊長」

「そっか。ありがとな」

 気を取り直し、初の公式任務の更なる詳細の説明を続ける。

「一応、遠征時に用意される準備、物資等の概要を記した資料も貰っておいたから目を通しておいてくれ。個人と部隊が用意する物資の振り分けも書かれてるそうだ。個人装備で足りないもの、個人個人で必要と思うものは各個で準備してくれ。出来る限り最小限度を目指すこと」

「工程は6日以上15日以内か。初めてだから、長いのか短いのか分からないなぁ」

 と、良二が呟く様に。

「15日分の着替えがいるってことかな?」

「大荷物になっちゃう」

 真っ先に着替えに注目するのは、やはり女の子だからだろうか?

「街に着けば宿で洗濯が出来るそうだ。街まで2日の距離らしいから野営もあり得るが4回分くらいが平均らしい」

「その他にも色々要るなあ。明日は買い物だね」

「必要経費と認められた買物はあとで全額支給されるから、配ってある領収帖に店名と署名、金額を書いてもらうようにな」

 一通りの説明を受け、良二たちは今日の業務を終えた。



 で、明けて今日は買い物、外出である。

「やっほ~」

「…………」

 お昼である。

「また会えたね~」

「…………」

 フードエリアである。

「元気してた~」

「…………」

 ライラである。

「どうしたの~? 黙っちゃって?」

「いや、ここ来たの3回目なんだけど……毎回必ず会うからさ……」

「そだね~。まあ2度あることは3度あるって言うしね~」

 こっちでも言うのかよ……


 時間も頃合い、良二はライラに誘われ、フードエリアに隣接するオープンカフェで昼食を取りながらお喋りに興じた。

 トリ肉のハーブスパイス焼きと野菜をパンで挟んだ単純な軽食で、地球のファーストフードみたいに手軽でありながら、結構食べ応えのある一品。

 フィリアの屋敷で頂く、貴族の厨房を任せられるほど一流の、腕の立つ料理人による食事とは別次元ではあるが、生まれてこの方ずっと庶民の良二には落ちついて頂ける食事でもある。

 さて、良二らのお喋りの内容は無論、前回のライラから出された宿題である。

「ふーん、覚悟が先、自信は後か~。そう言や、そういう言い方もできるよね~。初めてやることに『自信があります、やらせてください!』て気合入れてかかる人も居るけど、それも『覚悟してます』って言うのを、自信があるって言い換えてるのかもね~」

「そう言われて色々考えてみたんだけど、何かどっちが覚悟で、どっちが自信なのかごっちゃになってきてさ」

「あ~わかる! いま聞いてて、あたしもそんな感じした、アハ」

 ライラは軽く笑いながら付け合わせの揚げイモを頬張った。

「自信なんか無いよ、って言われたときは大人の謙遜かなとも思ったけど……」

「ふん、ふぉういうひゅうふぉ、いふふぃともいふ……」

「……食べ終わってからでいいから……」

 ライラごっくん

「あ~。おイモさん、熱かったぁ~。と、そういう人も居るけどリョウくんの先輩さんは本音言ってる感じなのかな?」

「ちょっと、う~ん……喋り方が自嘲気味って言うのかな……飾ってる感じは無いと思うんだけどね」

「先輩さんも、自分自身の今までを噛みしめてるのかもね~」

「……」

 良二は不意に黙りこくった。

「……ん? どうしたの?」

「ねぇライラ……」

「ん?」

 良二は、キョトンとしたライラの眼をじっと見つめて問いかけた。

「ライラってさ、ひょっとしてそういう答え、予想してたんじゃない?」

「…………なんでそう思ったかな?」

 質問に質問で返すなよぉ~

「なんて言うかその……確かに、予想してなかった……ライラの言う通り、意外な感じだったから、かな」

 ライラも、しばし良二の眼を見つめていた。やがてフッと笑うと、

「そんな事ないよ~。ん~、だからあれだよ、あたしも意外な答え聞きたいな~、とか思ってたもんでさ~。あたしも職場で『もっと自信をもって』とか気楽に言ってくれる奴らがいるもんでぇ~、もっと変わった事、言ってもらえないかな~、とか思ってたからだよぉ~」

「ふーん、そうかぁ……あ、ところでライラってどんな仕事してるの?」

「へ? あたし? あ、まあ職場の進行役って言うか、まとめ役って言うか……あっちの意見をこっちに持ってって、その意見をまたそっちに持ってって……とか? パシリみたいな? でさあ、これがもう、持ってく度に文句言われるんだよぉ~。で、向こうでこう言われましたぁとか言うと、またそこで文句聞かされるんだよねぇ~。もう、ストレス溜まる溜まる。あたしのせいじゃないよ~って言いたいけど『それが仕事だろ!』とか言われると、もう頭チンチンになっちゃって、部屋で布団被ってウガー! とか叫んだりして、あたし何やってるんだろって」

「な、なんか大変、そうだね……」

「大変だよぉ~。でさあ、スキ見て抜け出してぇ、こういうところで美味しそうな物や~、好きな物を買い食いして、ストレス発散してるんだ~」

「そういや、前の時もそんな事……今日は大丈夫?」

「まあ、昼休みだしね! でも、そろそろかな?」

 ライラは残りの果物――オレンジの様な柑橘系のジュースを飲み干した。

「ね、リョウくん、次は時間決めて会わない? お互い愚痴言い合えるしさ~、今度はお酒でも飲みながら、ね?」

 え?

「リョウくん、お酒はどう? イケる方? ダメ?」

「あ、いや、普通に飲める方だと……」

 あれ、これって……

「じゃあ良いよね! 雰囲気あって料理もおいしいところとか案内するからさ~」

 デート……お、お誘いですかー!

「そ、それは楽しみ、だなー」

 ちょいと口が引き攣った。

「いいの? いいのね!? やったぁ! じゃあ、いつにしよう! 何曜日なら空いてる?」

 ライラは満点の笑みか? と言えそうな笑顔をくれてきた。マ、マジで俺とのデート、喜んでくれてる?

 こ、これは! 年齢=彼女いない歴卒業の予感キタ━━! と捉えるしか! ……あ…………

「あ、あの……」

「どうかな? あたしはいつでもいいよ!」

「あ、いや……」

「ん?」

「あの、実は明後日から仕事でさ……ちょっとの間、王都を離れるんだ。最悪15日間くらい。明日もその準備で……」

「え~~~~~そんなぁ~、残念だなぁ~」

 はいぃ! 全く同意です! 生まれて初めてのお誘いを初っ端からお断りとかー! ありえねぇ~~!

「うんうん……まあ、仕方ない! お仕事優先!」

「ごめんね、せっかく誘ってくれたのに……」

「お仕事が調子に乗ってきたところなら、大事な時期だよ! でも15日か~」

「仕事が順調に片付けば、それだけ早く帰れると思うけど……」

「ん、わかった! まあ、あたしはちょくちょくここ来るから、絶対また会えるよ!」

「そうだね、もう3回も会ったんだしね!」

 良二くん、顔で笑って心で泣いて……

「よし! じゃあ、あたしも仕事戻るね! あ、そうだ!」

「どうしたの?」

「パンジュウ買っていかなきゃ! リョウくんに貰ったパンジュウ、みんなに大好評でさ! また頼まれてんの!」

 ライラはさも思い出したかのように答えた。

「あ、俺も行くよ。こっちも大人気なんだ」

 何か恨まれたけどな……

「ん! 行こ行こ!」

 良二はライラに手を引っ張られながら、パンジュウ屋の屋台に向かった。


 ほどなく2人は、パンジュウ屋に着きはした。しかしながら、件の屋台は予想外に多くの人の群れに取り囲まれており、呆気に取られることになった。

「すごい人だかり……」

「まあ、人気出るだろうな~、とは思ったけど~」

 こりゃあ時間かかるなあと思っていた良二の目に、屋台の看板近くに何やら不穏な文字? が映った。目を凝らして読んでみると……

「王都魔導、団……御用達……へ?」

「さあさ、寄ってらっしゃい、見てらっしゃい!」

 目線を店の奥に向けると、こないだのオヤジがなんかノリノリで、ガマの油売りよろしく口上を切り出していた。

「皆さんもご承知、先だって勃発した悪逆非道の誘拐組織対王都魔導戦闘団との一戦! その戦いでの一番手柄を取った英雄のお話だ!」

 ――は? 誘拐組織? 魔導戦闘団? も、もしや俺たちが巻き込まれた、あの……

「さらわれた可愛そうな少女たちを救い出し、真っ当で自由な世界へ導く英雄! それを阻まんと立ち塞がる誘拐組織の外道ども、その数なんと三十人!」

 ――え? さんじゅうにん?

「絵に描いたような多勢に無勢! いかな英雄と言えども勝ち目がない、誰もがそう思う状況で彼が懐から取りいだしたる一品! それが何を隠そう我が店謹製のこの焼き菓子、その名もパンジュウだ!」

 ――ちょ、オヤジさん!

「英雄がおもむろにこのパンジュウを一口(かじ)るとこれがなんと! 英雄の内に聖なる力がみるみる湧きあがり、眼にも留まらぬ速さで外道共をバッタバッタと斬り倒す!」

 パン! パン!

 日本では見られなくなって久しい、路上の叩き売り。話している事はタイムリーな話題でもあり、客たちも固唾をのんで親父の話を聞き入っているようだ。

「王都を守る我らが警務隊が到着するころには、外道共は一人残らず成敗されてたってぇお話だ! え? 信じられない? そりゃそうだ、話を聞いた俺が一番驚いたんだからな!」

 自分の顔を指差して寄り目でアピールするオヤジ。集まった客らが思わず噴き出す。

「うん! 信じる信じないはあんたの自由! 英雄の力の源、その名もパンジュウ! 普段は10個入りだが悪逆誘拐組織壊滅記念! 1個オマケして小銀貨たったの1枚だー! さあ、買った買ったー!」

 オヤジの口上が終わるや、ノリのいい英雄譚でテンション上がりまくりの客たちは、我先にパンジュウを求め、商品は飛ぶように売れ始めた。

 ――確かにパンジュウ食べましたけど……30人じゃないです……おまけに尻餅ついてました……

「なんで……なんでパンジュウ食べたの知られてんだ……」

 良二は正に、何が何だかわからない……状態に陥った。

「……あのバカ!」

 ライラが右手で顔を覆いながら小さくそう呟いたのを、その時良二は全く気づかなかった。

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