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憑依者

 そんな良二にお構いなく、再度新手の魔獣が現れ、またこちらを狙いジワジワではあるが寄ってくる。狼牙のほか、二足歩行の大猿らしき魔獣も寄ってきていた。総数はざっと14~15くらいか? 

 更に、

 ギィヤアアァァ!

 聞いた鳴き声が耳に刺さった。

 ――また新手……上か!?

 今度は上からだ! 橋の上で良二たちを襲ったのと同系らしき鳥魔獣が飛んでくる。

 ――くそ! わらわら来やがって!

 いくら水剣の間合いが伸びたと言えども、空を飛ぶ個体は厄介だ。

 しかも機動力に優れ、進路の変更、反転等を素早く行うのは橋上での戦いでも証明されている。剣で撃墜するのは極めて困難だ。

 イチかバチか、良二はアダマンタイトの柄を使わず、10本の指先から水剣を起動させて扇上に展開し、両手で籠を作るように挟んで切り刻むことを考えた。

 しかし、恐らく間合いは極端に狭くなり、初手を外したらもう次は無い。かなりバクチと言える方法だ。

 とは言え、これが今一番期待できる手法だ。良二は覚悟を決めた、のだが……


 ここでまた良二は混乱する。

 接近してきた鳥魔獣は良二らの随分手前で反転すると「ギャアァァー!」と近寄る狼牙らを、真上から一喝する様に叫んだ。

 それに呼応するが如く、狼牙や大猿は一斉に動きを止めた。

 ――な……何だ? 

 頭上を旋回していた鳥魔獣は、集まってきた魔獣と良二の間に降り立った。

 そして、その鳥魔獣は良二の方を向くと、次いで脚を折り、しゃがみ込んでしまったのだ。

 ――どういうことだ?

 鳥魔獣だけではなく、周りに居た魔獣も全てが、しゃがみ込み始めた。

 まるで、戦意は全く無いとアピールしているとも見える。

 軍用機が脚を出し、翼をフラフラ揺らすのと同様だ。

 良二は警戒しつつ、とりあえずフィリアの元に戻った。相変わらず魔獣はしゃがんだままだ。

「フィリアさん、ケガとか無いですか?」

 フィリアに体の具合を聞く良二。だが、そのフィリアはボーっとしていた。

 彼女もまた魔獣の行動に呆気に取られているのだ。

「フィリアさん、大丈夫ですか?」

 良二はもう一度、聞いてみた。

「……あ、す、すみません。私は大丈夫ですわ……でもこれは……」

「ええ……信じられない状況です……」

 魔獣たちは相変わらず、良二たちを凝視しながらしゃがみ込んでいた。

 良二たちを襲うわけでもなく、さりとて彼ら三人を諦め、もしくは無視して他のところへ行く、と言う事もなく、こちらを見ながら座ったままである。

「もしかして、リョウジさんに臣従の意を現しているんじゃ……」

「え? なんでそうなります?」

 なんかとんでもない……と言うか魔獣に部下として纏わりつかれるなぞ気色悪いとしか思えないのだが? フィリアの妙な分析に良二は思わず目を見開きながらも眉を顰めた。妙な動きになってしまい眼が痛い。

「でも、ほら、リョウジさんの攻撃に手も足も出なかったわけですし、リョウジさんに向かって跪いているように見えませんか? もう降参ですと言いますか……」

「ええ? ま、魔獣がそんな? 臣従とかそんな……」

 さすがにそれは考えられない、良二ならずともそう思うだろう。

 ペットとして飼われていたとか、軍馬や家畜として使役されていると言う比較的温厚な魔獣などであれば、逃げ出したけれど結局エサを貰うために人間にすり寄ってくる、というのも有り得るだろうが、相手は人外の谷底にたむろする魔獣である。人間は捕食対象以外の何物でもないはずである。

 しかしこの魔獣たち、誠一が話していた以上に統制が取れていないだろうか?

 あの鳥魔獣、一喝で狼牙や大猿の動きを止め、自分と他の魔獣の間に構える姿は、まるで魔獣の足軽大将と言うか、小隊長と言うか……

 確かに、かねてから誠一らが気にかけていた魔獣の統制化疑惑、これを見ると明らかに統制と言うよりも組織化されていると考えるべきではないだろうか?

 だとしたら彼らの長は誰なのか? やはりこの鳥魔獣なのだろうか? それとも……

「いや、フィリアさん、それは無理があります。奴らが降伏すると言うのなら今頃この隊長らしき鳥魔獣が俺の足元辺りにすり寄ってくる、とか媚び売りみたいな仕草をするんじゃないですか? 猫みたいに」

「う~ん、やっぱりそうでしょうか? とにかく不可思議すぎます……」

「ローゲンセンさんやブレーダー閣下の言うような魔獣の王でもいなけりゃこんな組織めいたことは……この鳥魔獣にそれほどの知能があるとは思えないけど……」

 しゃがみ込んだまま、全く動こうとしない魔獣たちを前に良二らは手を拱いていた。

 このまま無視して登り口に向かったら、こいつらは素通りさせてくれるのだろうか?

 それとも豹変して襲ってくるのか?

 とにかく、こいつらの意図がわからないと、こちらもどうしたものか? 動きが取れそうにない。

「せめて片言でも会話できるくらい知性が有ればいいんだけどなぁ」

「無理言うナ。マ獣にソこマデ求めルな」

「そうだよなぁ。所詮は魔獣だし……ってフィリアさん、いま何か言いました?」

「え! 私何も言ってませんよ!? リョウジさんこそ妙な声を出してどうしたのかと思ったんですが……?」

 ――違う……俺でもフィリア殿下でもない……ましてや魔獣どもでもない……変に甲高く、変に可愛らしい声……

「ココだ、うン、ハナし難イな、こノ喉ハ。し方ナいか」

「ポメラちゃん!?」

「ポメラちゃん! 起きたのか!?」

 ポメラだ。フィリアの胸に抱かれていたポメラが、ようやく今、目を覚まして話し出したのだ。

 いや、待て! 例えポメラが目を覚ましたとしてもこの喋りはおかしい。あの幼女が魔獣に絡んで、そんな会話に入れると言うのは非常に承服がしがたい!

 と、なんかわざとややこしい物言いで思考が巡ってしまうほど、これはおかしい。

「スまン、このコ借りるゾ」

 借りる? 今借りると言ったか? 借りるって……身体? 声帯? ……と言う事は……憑依? 魔物? 魔獣? 何者かがポメラに憑りついたのか?

 声も変な響きをしている。ポメラの口からの声と、良二たちが使う念話がちょいとズレて、重なり合った感じで響いてくる。

「きさま……何者だ?」

 良二はすぐさま現状を認めた。

 ポメラには何者かが憑依している、もしくは何者かに乗っ取られていると。

 普通ならば、そんな非現実的かつファンタスティックな事象など有り得るわけが無いと一撃で否定するところだが、魔法や魔族や神さまなんて存在が当たり前に闊歩するアデスだけに、そう言うのが有ってもおかしく無かろうと、良二は勝手に結論付けた。

「なに? どうしたのポメラちゃん? 変な言葉遣い……やっぱり頭のどこかを打ってたりしたの? ど、どうしましょう!」

 あれ? フィリアさん混乱してそう……自分は勝手に納得しちゃったけど、アデスでも憑依だの身体を魔力か霊的な手段で乗っ取るだの、そう言うのは無しだったの? こちらでもやっぱ超常現象なのこれ? そういやガイドさんも幻覚がどうのと言ってたような?

「安心シる、あーあー、あ~話辛イ……うむ、このコは大ジョウ夫だ。借りるだケだ」

 まあ、こちらも聞きづらいけどな……

「え? え? なにごと……何事なんですか!」

 ――やべ! フィリアさんが取り乱しかけてる。

「フィリアさん、落ち着いて。思うにこれは、何者かがポメラちゃんの喉を借りて話をしようとしてるんじゃないでしょうか?」

 取り敢えずフィリアに極力諭すように説明する良二。不思議と、なぜかえらく落ち着いて来てしまっている。

「そ、そんな馬鹿な! 何者かって、何なんですか!? 何者なんですか!?」

 翻ってフィリアの方は……うわ~、すごい狼狽、当惑、困惑しちゃってるみたい。

 てか、それが当たり前の反応かもしれない。

 異世界人の良二としてはアデスの、それこそラノベファンタジー的設定に当てられてて麻痺しかけてるから、霊体だの憑依だののオカルト設定も受け入れてしまっちゃいるが、本来別物として考えるべきなのかもしれん。

「問題ナいと言ってるノに、なニをそんなにサわいでいるのだ?」

「ああ、私のせいだわ! 私がポメラちゃんをしっかり守らなかったから! ご、ご両親になんとお詫びをすれば! ああぁ……」

 崩れるフィリア。そのまま呻き声をフェイドアウトさせながら失神してしまう。

「ちょ! フィリアさん!」

 慌てて良二が抱き止めた。

 ポメラは二人の間に挟まれながらもズルズル~と、フィリアの身体を滑り台にして地面に降り立った。

「やッと静かになったカ。騒がしイ女だナ」

 念話……ではなさそうだが、妙な響きとポメラの声のズレが収まってきた。幾分聞きやすくなってくる。

 気絶したフィリアを寝かせると、良二はポメラ……に入ったらしい何かに質問した。

「で、貴様は何者だ? 名前は何と言うんだ? ポメラに憑依してるって事は霊体か? 既に死んでいるのか? それとも生きてて本体から離脱したのか? なら本体はどこにあるんだ?」

「一度に聞くナ、こっちもこの娘に合せるのニ手間が掛ってる」

「じゃあ、まず名前だ」

「名前か………知らん」

 ハァ?

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