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待ってろ

 同じ頃、場所はギャランドゥ橋近辺。

 誠一たちは焦っていた。念話に反応が無い。

「くそ! 良にも殿下にも通じない!」

 頭を掻きむしる誠一。

「反応が無いってことはやはり……」

 シーナが震える声で呟くように。

「そうとも言えません」

 ガイドさんが否定を込め、語気を強めて説明し始めた。

「過去の探索隊や調査隊でも緊急時のために念話士が必ず参加していましたが、底の方と地上では念話はほぼ不通です。魔素の澱みか濃度かが影響しているらしく、通じ難いのです」

「そう言うのって関係するのですかね?」

「ハッキリとはわかっていませんが、濃度より澱みの方が悪影響があるそうです。翼竜も降りることを嫌い、制御できなくなるくらいですし」

 竜車で降りることも難しいと言う事か。もっとも竜車では旋回するには横幅に余裕の無い地形であり、全長20km程度ではかなりの勾配で降りなければならない上、底面は平地とは限らない。何より翼竜も嫌う環境では、まともに飛んでくれるかすら期待薄だ。

「徒歩で降りるしかないか……」

「主様! ライラ陛下にお願いしては? 転移で谷底まで運んでいただき、リョウジさま、フィリア殿下を発見次第また地上へ!」

 シーナが誠一に意見具申。確かにライラなら天眼で捜索し、転移で現場に向かう事も。

「そうだな、公務中かもしれんが良二は特別だ。遠慮して最悪の事態になったら余計恨まれるだろうし……よし、念話して……」

「ダメです!」

 突然誰かが、誠一が採用しようとした意見を否定した。

「ラー!」

「長く席を外して申し訳ありません、セイイチさま。今ようやく戻る事が出来ましたわ」

 声の正体はラーであった。用事を済ませて戻って来たのだ。

「事情は展望館の方でお聞きしました。大変な事態になってしまいましたね……」

「ラーさま! 転移がダメとは、どういう事でしょうか?」

 とシーナ。

「ここの魔素濃度と澱みは念話と同じで、転移に必要である正確な座標捕捉が出来ません。空中に飛び出したり、崖の中に嵌り込むなど、想定外の事態が過去にあったと聞いております」

「やっぱり徒歩か……」

「しかし、澱みの始まる所まではお連れする事ができます。地上から800mくらいまでなら何とかなるでしょう」

「それは有り難い! 時間を半分は短縮できる!」

「それでも谷底での移動を考えれば5~6時間はかかるっす! 急いだ方がいいっす!」

「よし、ラー。一旦、俺たちをキミの屋敷に戻してくれ。装備を整えてすぐに引き返す」

 今日は休日の観光目的だったので装備はあまりにも軽装に過ぎる。手間に思えるが、万全を期すために、いったん戻った方がいいだろう。

 と、そこで、

「私も連れて行ってください!」

傍で聞いていたポメラの父親が同行を懇願した。娘が一緒に落ちたのだ。危険があろうが自ら探したいのは当然の反応であろう。

「だめだ……」

 しかし誠一は、その思いを退けた。

「同じ子を持つ親として、あんたの気持ちは良くわかるつもりだ。だが、あんたを連れて行くわけにはいかない」

「そんな! 親なら自分で我が子を探したいと思って当然でしょう! ただ黙って待ってろなんて!」

「……魔法は使えるか?」

「仕事での土木系の魔法……と、生活魔法程度で……」

「兵役は?」

「あ……ありません」

「登山の経験は?」

「う……」

「いいか? あんたが一緒に行って、もしも捜索中に事故にあったり魔獣に襲われてあんたが死んだら、例え娘さんが生還しても、彼女は一生モノの傷を心に追ってしまうんじゃ無いのか?」

「…………」

「あの子はあんたがた二人と揃って一緒にいる必要があるんだよ! 娘さんは俺たちが必ず連れて帰る。あんたはあの子が帰る場所を守るんだ」

 誠一は父親の両肩を掴むと、魔獣に負わされたケガを治療中の母親を見ながら言った。

「他に頼れる者が居なければ、あんたが行く事になる。だが今はそうじゃない、俺たちがいる。だから今は俺たちを頼れ!」

「くぅ……!」

 父親の目からたくさんの悔し涙が溢れ出した。

 自分が探す側に回れるほどの能力がない事、妻とただ待っているしか出来ない事、しかし待つことも大事な事、それを理解しながら承服仕切れない未練な自分である事……

「あんた方も娘さんもまだ幼い。一人たりとも欠けちゃいけない。俺たちに任せてあんたは奥さんに付いていてやれ。あんたまで行くと奥さんは娘さんの分と二人分の心配をしなくちゃならなくなる」

 誠一はそう言って、父親の肩を優しく叩き、負傷した妻を支えてやるよう促した。

 なんとか父親を落ち着かせた後、誠一は遊撃隊の面々を集めた。

「容子とカリンは?」

 二人の姿が見えなかった。まさか、思いが先走って暴走する娘たちではないはずだが……

「さっき、馬車に積んであった土産物持って橋に行ったっす」

 土産物?

「どうなさるんでしょう?」

 そうシーナが首を傾げていると、容子とカリンが橋の方から戻ってきた。

「ごめんなさい、待たせちゃって……」

 詫びを言いながら頭を下げる二人は手ぶらであった。それを見て誠一はすぐに察した。

「……届くと良いな……」

 全員集合を確認した誠一は、ラーに転移をお願いした。


                ♦


 何かが落ちてきた所は良二たちの焚火より60m程離れた場所だった。

 良二は警戒しながらその場所へ確認しに行ってみた。

 先ほど試した念話に難が出る距離が40~50mだったのでギリギリ離れられる距離だ。かなり聞き取り辛くはなるが話せない事もない

 たどり着いてよく目を凝らすと、何かどこかで見た覚えのあるモノが落下の衝撃で辺り一面に散乱していた。

 暗がりでよくは見えないが、どことなく記憶にある箱、包み……

「………」

 良二は思い出した。今日の昼に容子らに持たされて馬車に積んだ、あの土産物……

「そうか……」 

 良二は1377m上を仰ぎ、この上にいるであろう容子らに向かって「ありがとう」と呟いた。


「どうでしたか? 何だったか分かりまして?」

 フィリアは、戻って来た良二に聞いた。その表情には結構な不安が現れている。

 ガイドさんの話によると谷底には多数の魔獣が生息しているはずだ。

 水剣の使い手である良二が一緒と言えども、数や強さ次第では予想される危険度は極めて高いと考えざるを得ない。

 少々回復魔法の心得があるとは言え、戦闘時においては自分もポメラも足手まといにしかならない……

 そんなフィリアの不安を払拭させるように、良二は気持ち軽い足取りを心掛けて彼女の元に戻り、拾ってきた落下物をフィリアの前に広げた。

「これは……」

 フィリアは良二が持ち帰ってくれた物を手に取って、まじまじと見つめた。

 変形したり、包装が破損したりではあるが、見覚えのある……そう、ほんの1~2時間前に容子や美月らと買い求めていた菓子類だ。

「容子達が展望館で買っていた土産物ですよ。彼女たちが橋から落としてくれたんだ」

 フィリアは落下の衝撃で原形をとどめていない物の方が多いそれらを見つめながら、やがてフッと微笑むと、

「……みなさん、私たちの無事を信じてくれているのですね」

と、胸を撫で下ろしながら穏やかに答えた。

 良二もうんうんと頷く。

「水は俺が作れるからあとは食料……これでも食べて待ってろ、すぐ行く……そう言いたかったんでしょうね」

 容子やカリンたちのメッセージ……良二とフィリアはこの差し入れをそう捉え、地上を仰ぎ見た。

「ふふ、期待致しましょう」

 フィリアは手に取った焼き菓子を鼻に寄せて、匂い立つ甘い香りを楽しんだ。

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