表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
123/161

ギャランドゥ橋の散歩

 橋につくまでポメラははしゃぎっぱなしだった。同乗の両親は、それこそ生きた心地はしなかったろう。

 だがフィリアほか同行者全員は、この若い親子を歓迎していたので最後の方は結構打ち解けて来ていたと思う。フィリアや所帯持ちの誠一の気配りもあって、緊張の糸も解れたのだろう。

 馬車が橋のそばにつくと、一行はガイドさんに案内され、ギャランドゥ橋に向かった。

 アーチ形のこの橋は全長が350mほどで、幅は馬車用の車道と観光用の歩道が区分けされ10mほどあった。両側に安全柵が設置され、その高さは150cmから170cmくらいとガイドさんの説明通り、結構高く作られている。この高さなら転落事故もそうそう起きるものではあるまい。

 良二たちは橋の中央まで案内され、その景観を堪能していた。峡谷の先は霞んで見えず、どこまでも続いているんじゃないか? と言う感じにさえなってくる。

「なんか宙に浮いてる感じよねぇ」

「さすがにちょっと脚がムズムズするわね……」

 美月と容子がビビり気味に話している。

「うっわー、リョウジ見なさいよ、すっごい深いわよ、ここ!」

「すっげー! 底の方、暗くて見えなくなっちゃってるな~!」

 良二とカリンの二人も安全柵にへばり付いて、光の届かない? 谷底への景色を楽しんでいる。いや、しかし……

「リョウさん、わかってんすか? この高さ、竜車で空飛んでる時より高いんっすよ?」

 フィリアの護衛についているメアが呆れたように言った。これで平気なら竜車でも大丈夫だろうにと言わんばかり。

「何言ってんだよ? ちゃんと地に脚がついてるじゃないか。ヘーキヘーキ!」

「そうよ、あんな常識外れの乗り物と一緒にしちゃいけないわ!」

 傍で聞いていたフィリアも軽く噴き出す。人の感覚と言うモノは、まっこと不思議なものである。

「おねえちゃん! ほらみて、すごいよ~」

 フィリアはポメラに誘われ、彼女の横にしゃがみ込んだ。小さい子と話すときは目線を子供に合わせてあげなさい、と亡き母からよく聞かされていたので習慣になっているのだ。

「ホント、すごく高いねぇ~。ポメラちゃんは怖くなぁい?」

「うん、だいじょうぶだよ~。おねえちゃんこわい?」

「う~ん、お姉ちゃん、ちょっとこわいなぁ~」

「じゃあ、ポメラにつかまってて~。こわくなくなるよ~」

 ポメラちゃん、すっかりフィリアに懐いてしまったようである。

「可愛いですね、お嬢さん」

 カリンが若干王族モードでポメラの両親に話しかけた。

「すっかりお世話になってしまいまして……」

 父親がペコペコ頭を下げながら礼を言う。

「ところで、皆様方はどんな集まり……あ、ご関係で?」

 ポメラ母に聞かれてカリンは、ニヤリと笑いながら良二の腕を取ると、

「この人、こちらのお嬢様に仕えているんですけど、この旅行、ぜひ一緒にと、お嬢様からお誘いを受けまして……」

などと言い出した。

 ――おいおい、悪ノリした俺が言うのもなんだが、その設定続けるのか? 自分はちょっと調子こいたと反省してるのだが?

「失礼ですが、あなたは……」

「この人の婚約者です」

 ――ちょ! そこまで設定広げるんかい! いや、まあ単に旅の恥は云々レベルでやるのもいいけどちょっと……

 と、戸惑ってる良二の目に、若夫婦の向こう隣りで谷を眺めていた容子がこっち向いて、怒ってるんだか呆れてるんだかわからない視線をくれているのが映った。

「まあ、まるで婚前旅行ですね?」

 と、母親。

「はい、半年後に祝言を挙げる予定ですわ。お嬢様がそれをお祝いして下さって」

「それはそれは、おめでとうございます。それに娘が水を差すようなことを……何と言っていいか」

「いえいえ、仲の良いご家族の姿を拝見して、元気をいただいてますわ。私もこんな仲の良い家族を築きたいと常々」

 ――だからどこまで話広げんだよ! 調子乗っちゃダメだろ!

 そんな良二の焦りに拍車をかけるように容子が近づいてくる。

 やべぇ! 良二はフィリアやメアに助け船を求めようと視線を向けるが、二人とも顔を背けて肩を震わせていた。笑い出しそうなのを懸命にこらえているみたいだが。

「じゃあ、こちらの娘さん方は……」

「私専属の侍女でございますわ」

 ――やめてー! もう広げないで! 一線と言うモノを考えてください、殿下ー! 容子さん、こめかみ思いっ切りビキビキしてるじゃないですかぁー! そんなお馬鹿な設定乗るワケが……

「……カリンお嬢様? 仲睦まじいのは結構ですが人目もございます。お慎みを」

 ――乗るんかーい! しかも怒ってるの変わんねーし! なんか余計に怖ぇし!

「野暮なこと言いっこ無しよ? そんなだからあなたは未だにお相手が見つからないんですからね?」

 だあぁー! 殿下、もうご勘弁! と、良二の頭の中は真っ白になっていった。 

 そして容子の目は語っていた。

 帰りも、二人まとめて竜車に放り込むと………泣こうが喚こうが、絶 対 に !


「大丈夫ですか、主様?」

「わはは、足の裏がゾワゾワしてるよ。こえ~な~」

 誠一は竜車の良二ほどでは無いにせよ、かなりビビっている様子ではある。んでもって主に見ているのは景色ではなく、欄干近くにしゃがみ込み、橋の構造に夢中と来たもんだ。

「鉄材と石造りの逆ランガー? アデスでこんな鉄骨もどきの構造なんて珍しいな、初めて見るなぁ。しかし、こんな高いところでどうやって造ったのかな~。やっぱハーピーとかの飛行族が活躍したのかな~。」

「主様ぁ? 御覧になるところが違いませんかぁ~?」

「今さら言うなよ。俺の性分知ってるだろ? ほ~、この石畳、鉄筋通してんのか? これなら例えひっくり返っても石は落ちねぇな? どうやってやるんだ、こんなこと!」

 む~。頬を膨らますシーナ。

 せっかくラーもホーラも不在、メアは護衛任務でフィリアに張り付いているから、久しぶりに誠一を独占して、観光しながらのデートのチャンスだと思ったのに~。

 ――お?

 そんな思いを込めたシーナのふくれっ面に気付いた誠一は、変わった建築工法に名残惜しさを引き摺るも、立ち上がって彼女の横に来て肘を差し出した。

「……うふ!」

 誠一の気遣いにシーナはにっこり微笑むと、出された肘にしがみ付き、二人で高度1377mの散歩を楽しみ始めた。

「しかし、ホントに目も眩む高さってこの事だなぁ。なんか吸い込まれそうって言うか」

「ありますよね。なんか頭がマヒしちゃって飛び降りたくなっちゃうと言いますか?」

「そうそう、もしかしてこのまま飛べるんじゃね? みたいな脳味噌の誤作動って言う……か……」

 シーナは誠一の語尾がいきなり不自然になったことに気付き、彼の顔を凝視した。

 誠一の目は何か訝し気な色になっており、思わず自分も眉を顰める。

 やがて誠一が設置された安全柵、縦の長さ170cm、横に25cmくらいのピッチで釘付けされている、一辺が4cmくらいの角材の外側付近、横梁と交差する辺りを注視していたことに気付く。

 角材は、まだ新しかった。

 風雨にさらされる木材は定期的に交換され、修繕されるのは想像に難くないし、実際に順番に交換されていっているのが、ざっと見てもわかる。

「主様ぁ、またですかぁ? いいかげん……」

「いや、ちょっと待ってくれ。そっちの方じゃなくって……」

 ブー垂れようとしたシーナだったが、確かに誠一がいつもの好奇心で見ているわけでは無さそうだとすぐに気付いた。改めて誠一の顔を見る。

「安全柵の縦材が浮いてる……」

 そう誠一が小さく呟くと、シーナもそこに視線を移した。まだ比較的新しい角材が横梁から浮いているのがしっかり見えた。釘はまだ錆が出ておらず、施行から大して日がたって無い事を物語っている。

「……妙ですわ主様……」

 誠一は今度は柵にへばりつき、問題の縦材を他の縦材と比べて見てみた。その後、気になった角材の両隣も含め、手でスーッと撫でる様に上下に往復させてみる。

「シーナ、真ん中から途中より上の辺りを気を付けて触ってみろ」

 言われてシーナも誠一に倣ってさすってみる。

「……ここ、歪んでますか?」

「次だ。裏を確かめてみてくれ」

 言われて指を奥の方、外側に回して確かめてみる。

「凹み? 何か当たった? ぶつかったような跡が……」

 誠一は反対側に回った。シーナと手を組んだままではあるが、じっくり見ながら歩く。

「……主様、あそこ」

 シーナが指を刺す。

 さっきの場所より角材が古いが、同様の状態が見て取れる。

「状態は同じだが……」

「外側の痕の感触は、さっきの新しいのと大差ありません。経年劣化による歪みや浮きではないのでは?」

 何かが外側から当たった? ぶつかった?

 誠一は周りを見回し、案内のガイドさんを探した。

 彼女は自分たちの左、10mくらいにフィリアや良二たちと一緒に居た。

「ガイドさん!」

 誠一が呼ぶと、気付いたガイドさんが小走りに駆けつけてくれた。

「はい、なにか?」

「つかぬことをお聞きするが、この辺りの魔獣の出没状況は、どんなです? もしもあるのなら、どんなタイプの魔獣が?」

「ま、魔獣ですか?」

 ガイドさんはてっきり観光の質問だと思っていたので、ちょっと虚を突かれた感じになった。だが気を取り直して答え始める。

「そ、そうですね、この辺り、魔獣は出るには出ますが、それほど凶悪、大型の個体は多くは見られません。鳥の様な魔獣の目撃談もありますが、目撃された時間は夜間が多く、鳥型の魔獣か、それとも野鳥なのかはハッキリしていないのが現状かと」

「谷底は魔獣が居るとおっしゃいましたが、それらが這い出して来る可能性は?」

「無いとは言えませんが……目立った被害は有りませんので何とも……一体、なぜその様なことを?」

 誠一は今まで確認した状況をガイドさんに説明した。

 実際にその手摺りの状態を見せられると、ガイドさんとしても放っておくことは出来ない事例と判断したらしく、

「これは……確かに捨て置くことは出来ない事象です。営繕班には早急に対処するよう要請します。それにしばらく、24時間の監視が必要になるかも……」

と、焦り交じりの声で答えた。

「もしも新手の魔獣による仕業なら、直ちに対処が必要かと。柵を壊されたうえ、橋上の観光客が襲われでもしたら……」

「考えたくも無い状況ですが……すぐに事務所に報告してきます。案内をお留守にしてしまいますが……」

「構いません、急いだ方がよろしいかと」

「主様!」

 シーナが叫んだ。彼女の体毛が逆立っている。シーナの索敵に何かが反応したのか?

 どこだ!? と、誠一が聞こうとする前に、

「先輩! 来ます! 早い!」

シーナはメアに警告した。

 メアは言われると同時に察知したようで、すぐに反応した。

「殿下、ご無礼!」

 叫ぶなり、メアはフィリアの身体を引き倒し、橋上に伏せさせた。

「総員警戒! 戦闘準備!」

 誠一が言い終わるが早いか、

 バババ!

 橋の真下から何か大きな影が飛び出してきた。風を切る音と羽ばたく音を混じらせて現れた、猛禽類を思わせる姿形のモノ。

「鳥の……魔獣?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ