ソウルフード
「だからぁ、ホーラさまってものすっごくまじめで職務に厳しんれすよ。そこはいい、そこは! 尊敬してまっす! だからって自分の出来る事はあたしらにも出来るって決めてかかられんのがですねぇ、無茶振りの応酬っつかぁ……ちょっと、ミツキさぁん、きいてますぅ?」
オクロさんによる、絵に描いたような絡み酒である。
酔い方としては美月も同じ傾向にあるのだが、先に絡まれて自分は酔い損ねてるって感じだ。うん、美月ちゃん、こりゃまいったね。
「うんうん、聞いてる、聞いてる。よくわかるよ? お互い大変だねぇ」
などと適当に聞いてあげる美月。相手はとにかく聞いてもらうことが目的なので、的確な答えだのアドバイスなどは無用だ。
――あたしが酔った時も、黒さんとかこんな気分だったのかなぁ?
と、美月ちゃんちょっと反省。
「こういう時は先に酔った者勝ちですわね、ミツキさま?」
美月の酒癖を知っているメイスがウインクしながら、からかうように言った。
「メイスさんの意地悪ぅ~」
「ちょおっとぉ、ミツキさんもメイスさんも聞いてくれてますのかっと! そんでねぇ、パウウさまってのはねぇ、通称丸投げのパウウって言われてましてぇ……」
これはまだまだ絡まれそうである。神さまもストレスたまるんだなぁと同情は出来るものの、さすがにウザくなってくる。
「そうなのねぇ、ご苦労様ね~」
と言いつつ美月はオクロのグラスに酒を注ぐ。
「いやもうホント、大変でございますわねぇ。心中お察しいたしますわ」
メイスも負けずに酒を勧める。
こう言う手合いは、とっとと酔い潰してしまうに限る、と美月とメイスの思惑は一致していた。
ライラと良二はちょうど中間? の位置に挟まれる様な感じでメア、シーナと酒、料理を楽しんできた。
「さすが魔王様のパーティっすね、食材一級品ばかりっす!」
「殿下のお屋敷でも滅多に入らない品ばかりですね。う~ん、おいしい!」
メアもシーナも食い気にはご満悦のご様子。しかし、
「残念ねぇ。隊長さん、ブレーダーやローゲンセンに取られちゃって」
と、ライラが二人に半分からかうように。
「仕方ないですよ。お仕事の話されてるみたいですし~」
とは言いながら不満げなシーナ。良二に「まあ飲みなよ」とエールを注いでもらう。シーナはそれを受けて一口飲むと、今度は良二にご返杯。
「でも二人ともご苦労だったね」
良二はシーナに続いてメアにもエールを勧める。こんなBBQだとブルボンのヴェアが欲しいところだがまあ、望むべくもない。しかし、全国展開して欲しいものだとは切に思う良二くんです。
「どうもっす。リョウさんほどの手柄は無いっすけどね」
「いや、昨日の訓練でも思ったけどメアやシーナの動きはやっぱり向上してるよ。巨大魔獣はともかくオークとの戦闘は見事だったし」
「そうですねぇ。オーク相手なら、手間は掛かっても何故か負ける気がしませんでしたわ」
「あるある。以前なら背中駆け上がって、頭に斬りかかろうなんて思いもしなかったっすよ」
「二人ともレベルアップしているってのは良いことだ。でもそれに浮かれて足元がおろそかになっては油断になる。そこは気を付けないとね?」
「まあ、リョウジさま、まるで主様みたいなことを」
「へへ~。リョウさんも副隊長らしく成長してるっすね!」
「え? からかうなよ!」
はははのは~と一同笑い。良二くん、リア充ご満喫の夜。
パーティもやがて2時間が経過しようとしていた。酒も料理もかなりはけてきており、主催者のラーがタイミングを見計らい、締めの挨拶を始める。
「皆さま、本日はお疲れのところお集まりいただき、誠にありがとうございました。宴もたけなわではございますが、頃合いも良く、ここでお開きとさせていただきとうございます……」
と、ここでプロマーシュの目の色が変わった。
「お、終わりか? いやいやちょっと待ってくれ、その前に俺のおすすめ料理をだな……」
プロマーシュはそう言いつつ、空間魔法の一種だろうか? 目の前の空に小さい裂けめ? 穴? を開けて手を突っ込み、結構大きめの革袋を引っ張り出してきた。
何か冷たい物らしく袋からは氷霧が漂っている。
プロマーシュは意気揚々と用意し始めるのだが、それを見た魔王連中からは激しいブーイングが出始めた。
「ちょっと! おまえアレ出すのか!? やめろよ!」
「プロマー兄さん! アレはやめなって!」
ウドラとアイラオがまず、ブー垂れる。
「凝りませんね~。新顔の方には必ず勧めるんですから、もう~。今まで誰一人喜ばれたこと、無いじゃないですか~」
とラーも困り顔。
「今回は異世界の連中だろ? この料理の美味さ、分かってくれるかもだ!」
「でもあれは悪趣味だってばぁ。というかアレって料理と言えるのかなぁ」
「分かってねぇなシラン! これはな、大きさ、厚み、ちょっと変えるだけで食感も味わいもコロリと変わるんだぜ! なぁクロダ、キジマ! まあ一口試してみろよ!」
周りのブーイングにも負けず、プロマーシュは革袋からそのモノを取り出し、嬉々として用意し始めた。
見かけは強面の兄ちゃんだが、料理とかが趣味なのだろうか?
「えらく評判悪いが……何だ、一体?」
誠一が小声でホーラに聞いてみた。料理となれば、誠一も興味が引かれるところだが。
「いや、なんと言うか、常識から外れた料理、と言うか食べ方でな……偏食はせん我もあれは……」
ホーラの他、ウェンも微妙な顔をしている。天界の神族にも、もれなく不評みたいだ。
因みにオクロは美月・メイスの思惑が功を奏し、目出度く酔いつぶれている。
「さあ、これだ! コバヤシもマツモトも騙されたと思って! マジ、美味ぇんだ!」
と、プロマーシュは自信たっぷりに、その料理をテーブルのど真ん中に置いた。
「うわあああ! やっぱりぃ!」
「全く懲りねぇな! おまえは!」
「吾輩もこればかりは……」
神族、魔族からのブーイングの中、良二たちは出された料理を一目見て呆けた、と言うかポカーンとした顔になり、体の動きもピッタリと止まってしまった。
「え? これ魚っすか? この色、この臭い、もしかして……生? 生のまんまっすか!?」
「さ、魚を生で!? 焼くとか煮るとかしないんですか!? そんな! それじゃ、お腹を壊すんじゃ!」
メアもシーナもドン引きした。
「いや、だから! ちゃんと締めて血ィ抜いて処理すりゃ大丈夫なんだって!」
「もう、プロマーシュ様! セイイチさまたちが、お困りじゃありませんか。諦め下さいまし!」
「リョウくん! もう無視していいから! 義理立てして食べなくてもいいからね!」
「ちっ、陛下までよう! せめて一口食ってから貶してくれよな!」
「それ以前の問題ですわ! もう、せっかくの盛り上がりを最後の最後で……申し訳ありませんセイイチさま……セイイチさま?」
「……みだ…」
「はい?」
「お刺身だ━━━!!」
良二たち四天王は歓喜の声を上げた。周りのアデスの面々が一斉に目を丸くするくらいの歓声だ。
そう、プロマーシュが出した料理。それは冊から切り出され、見事に盛り付けされている紛うこと無き、お刺身だったのだ。
「半年ぶり……いや、それ以上か!」
「これ赤身? でも凄く脂乗ってる! もうトロじゃないのこれ!?」
「マグロ……いや、マグロみたいな感じの魚だな! キハダ、いやホンマグロ級の色合いだ!」
「プロマーシュ様! これ、ホントに頂いていいんですか!?」
「お、おう、もちろんだ」
おおーー!
狂喜乱舞の異世界四天王。魔法のおかげで食材の鮮度はそれなりに保たれてるアデスではあったが、現代日本ほどの流通間の鮮度維持は期待できておらず、刺身をはじめとした生食は諦めていた。
久しぶりのソウルフードとも言える刺身との再会に、良二たちの高揚ぶりは勧めたプロマーシュでさえ驚くほど大きいものであった。
「醤油! 醤油はありませんか!?」
容子が醤油を所望した。無ければオリーブオイルとビネガーでもいけるが、出来れば醤油が欲しい。
「ショーユ? セーユの事かな? 豆で作るソース……おお! わかってるな! そうそう、アレが一番合うんだ! これだ、これ!」
プロマーシュは革袋から小瓶を取り出した。
受け取った美月が臭いをかいでみる。そして一滴指先に垂らしてペロッ。
「……ちょっと濃い目だけど醤油だよこれ! いけるいける!」
うっしゃぁー! 良二たちは小皿にセーユをたらし、久しぶりの刺身をいただいた。
箸が無く、フォークで食さねばならないのは味気ない話ではあるが、そこまで贅沢は言ってられない。遠慮なくフォークに突き刺し、4人とも久方ぶりの刺身を一斉に頬張った。プロマーシュ様、いただきまあ~す!
「う~~ん! おいしー!」
「なにこれすごい! とろける~」
「こ~れは一級品だ! たまらん!」
「うわ~! ポン酒欲しいー!」
良二たちは懐かしの味に感無量、正に感涙ものだった。
「うおおお! やッと、やッとこの良さが分かってくれる奴がいたー! 俺は今、猛烈に感動しているぞー! やったぞぉー!」
プロマーシュもまた感涙にむせていた。そして一緒になって食し始める。
「この食い方を見つけて幾星霜、ようやく、ようやく理解されたぁ~!」
「無理もねぇな、地球でも食べられない人は多いし」
「ん~、とろけ方すご~い。食べるってより飲めるって感じ~」
「お、いいねぇコバヤシ、その例え! いただきだ!」
四天王+1、えらい盛り上がり方である。ここに日本酒が加われば即、二次会に突入しそうな勢いだ。
対してライラ達はポカーンである。ちょっとこれ、わかってる? 生よ、生! てなもんである。
「り、リョウくん、あのさ……」
「ライラも食べてみなって! 味は俺が保証するから!」
「え!? あ、いや~、やっぱ、魚を生とか、ちょっと~……」
肉や魚は火を通して食すもの、衛生面からすれば当り前の発想である。むしろ良二たちが平気で生食いするってのが可笑しいと思うのは宜なるかな。
だが良二たち4人は、そんなライラを凝視した後、一旦目を合わせ、次にニヤリ……と実に、実に悪い笑みを顔に浮かべた。
次の瞬間、魔素ブースト並みの速さで、容子と美月がライラの両腕を絡め、誠一が後ろから頭を固める。以前フィリア邸でライラがやったハグの逆襲でもするかの様に。
「ちょ! なに! なにすんのよ!」
「ライラ? はい、あーん」
と言いつつ、良二は刺身を一切れライラの眼前に突き付けた。
「待って待って待って!! みんな、なによ! なにする気よ! わーっ、外道かあんたらー!」
「俺を信じろって! はい口開けて~」
ライラは当然、口を閉ざそうとした。が、そのタイミングで両腕を固めている容子と美月がライラの脇をくすぐった。
「やだ、ちょっと! あ、きゃはは!」
ライラは脇をくすぐられ、笑ってしまった弾みに大口を開けてしまう。
すかさず刺身を突っ込む外道モードの良二。いやはや、傍から見てたらもう、イジメそのものである。
「はぐ! うぐ!」
ライラの顔は苦虫? 苦渋? 苦患? もう、何とも言えない表情になった。
が、やがて……
「…………え? やだ、なに、これ? おいしい! 魚の脂ってこんな溶け方するの? 臭みとか何も無いじゃん。うわっ、マジ舌の上で蕩けてく! 消えていくわ! でも旨みだけは舌に残って……すごーい!」
解放され、口を手で覆いながら初の刺身体験に大きく目を見開き感激するライラ。
良二ら4人とプロマーシュ、思わずみんなで親指立ててサムズアップ。
「だろ~? お前にウソは言わないって!」
「うん、美味しいのはわかった! もう仰天! でも、やっぱり生でしょ? お腹大丈夫かな? ムズムズするんですけど」
「生食に抵抗感があるのは仕方ないけど、大丈夫だよ。俺たち何とも無いし!」
「生でダメな魚と、いい魚は俺が身をもって試してあるよ。こいつは絶対大丈夫さ!」
プロマーシュさまったら、自分の体で人体実験してたのか……チャレンジャーだなぁ、とは思うけど、おかげで久々に刺身にありつけたので感謝感謝!
「よおし、次はカリンだ! おいカリン!? カリン……?」
カリンの故郷アマテラ王国は、地球で言えば日本に相当する地域だ。もしかしたら他の連中よりかは抵抗が無いかもしれないと思い、次の標的にしようと良二は考えたのだが……
すー、すー……
当のカリンはオクロ同様、酔いつぶれて可愛い寝息を立てていましたとさ。




