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ガーデンパーティ

 今宵の宴はラーの言葉通り、ガーデンパーティであった。

 それも貴族風の会食・立食ではなく、水難救助訓練に続いて思いっきりラフなBBQである。

 違うといえば皆でコンロ前で焼いたり選ぶのではなく、料理人が客の目の前で調理をしてメイドたちが給仕するスタイルであるところか?

 それでも魔王や上級神が集うにしては、まるでそんじょそこらのホームパーティのようで、ギャップが拭いきれない良二たちであった。

 とは言え、畏まった席では無いのも確かで、良二や容子らは気兼ねせずに済むからまあ、歓迎ではある。

 初対面は天空のウェン。三界の天候を司り、また支配する力を持つ最上級神である。

 外観は群青色の髪の毛をツインテールにしている、アイラオと同じくらいの年頃と言う感じだ。

 美月たちより若干歳下には見えるが、実年齢はどうせ千、若しくは万単位であろう。

 魔界の火王プロマーシュと青樹王ウドラも来ていたが、こちらは謁見の儀の時にその姿は見ていた。

 ライラはもちろん、ラーやアイラオもそうであったが、彼らは公式の場と、こういったプライベートの場ではその纏っている雰囲気が天と地ほども違う。

 ライラを中心にあれほどの威圧感、存在感を誇示していた者たちと、今、良二らの目の前で人目憚らず気ままに酒杯を揚げ、料理にかぶりつく彼らの様は全く別人と言ってもいい。

 曰く「こんな息抜きもしなければストレスで押しつぶされる」のだそうである。

 玉座の横で立っていたプロマーシュも一睨みで人の一人や二人〆てしまいそうな迫力の持ち主だったが、この場の彼はちょっとぶっきらぼうな話し方の目つきが鋭い兄ちゃんって感じである。

「話は聞いたぜ、キジマ。あそこの湖のバケモノ仕留めてくれたってな?」

「や、魔界軍の皆さんとの協力あってこそです」

「あそこはよぉ、街道を東西二本にしたり拡張したりすりゃ魔獣が出ても対処しやすくなるんだが、水源を守ってる森なんでな、あまり伐採とか出来ねぇんだよ。でも、これであの辺の集落の行き来は楽になっただろう。あんたらのおかげさ、礼を言うよ」

 プロマーシュの仕事は魔界での土地造成や陸路海路の整理開発で、日本で言えば国交省に相当するらしい。

「お役に立てて光栄です」

 話し方は確かにぞんざいだが職務には忠実であるという矜恃はしっかり伝わってくる。

 良二はそんな人物に褒められ素直に嬉しかった。

「ねえ、ギャランドゥラは来ないのぉ~」

 そのプロマーシュにライラが聞いた。

「ああ、相変わらずなんだよ陛下。『公式ならいざ知らず、プライベートであのクソ女と同席できるか!』だとよ。なにがそこまでしつこくこだわらせるかねぇ?」

「しつこいって、あたいの事も言ってんのかい!?」

 反応したのは8魔王の一人、青樹王ウドラだ。

 良二の印象としては、彼女はその優しげな瞳と柔らかそうな物腰で、何か相手を包み込んでくれそうな、そんな雰囲気の方かと謁見の儀では思っていたのだが、それは黙っている時だけの話だった。

 口を開けばプロマーシュよりぶっきらぼう……と言うよりガサツで乱暴だ。

 本日、救命処置をしたメリアンと同様、羊っぽい角を生やしているので鬼ババと言われてるとかいないとか。てかオーガの様な鬼族の立場は?

「あたいはもう手打ちはしたつもりだよ? 陛下が中に入った以上、蒸し返す気は無いって前から言ってるだろうがよ!」

「当然だろ。あんな馬鹿みたいに深い峡谷をバンバン作られたら、どれだけ橋作ったって追い付きゃしねぇよ!」

 プロマーシュが嘆く。うん、お仕事熱心。

「峡谷と言うとラーさまが言ってたあの?」

 容子が以前、ラーが魔界へ誘う時に話してたセリフを思い出して尋ねた。

「お? 知ってんのかい? うん、ありゃあちょっと、やり過ぎちまってなぁ。お互いにぶつかった魔力があそこの龍脈に火ィつけちまってよ、バアァン! と噴き出したと思ったらズドオォン! と裂けちまってさ、んで深さ1300mの峡谷が出来上がっちまったってワケで~、陛下に怒られちまってなぁ」

「怒ったんじゃなくて呆れてたの!」

 思わずライラが突っ込む。

「だからあれから、もう決闘はしません! て陛下に誓ったんじゃないか。今でも守ってるよ」

「つまりそれが手打ちって事で?」

と良二。

「そうそう、それでもうお互い蒸し返さないって事でね」

「で、一件落着ですか?」

「それがところが!」

 ウドラは再び激昂し、掴んだトリの骨付きもも肉を振り回して怒鳴りちらした。

「あんのクソ野郎! その峡谷の話しするたびになんて言ってるか知ってっか!? 『あそこの峡谷はあの女の股ぐらみたいにガバガバの割れ目だぜ!』とか吹きまくってんだよ! 許せっか!?」

 お怒りのウドラ様は、手にしていたトリの脚を骨ごと噛み砕いて食された。

 またなんちゅうお下品なお話を……良二も容子もどう反応していいものか……笑ってごまかすしかないか。

「だから、いくらなんでも言い過ぎだ! って注意しといたわよ~。あんたらだけでもアレなのに領民同士まで仲違いし始めるんだから大概にしてよね~」

「だから大人しくしてるってば、陛下ぁ」

 ああ、いつか言ってた、こっちの文句をあっちに言って、そこでまた文句が、ってやつね。

 うん、ライラ陛下お疲れ様っす……良二は、良ぉく納得できたようだ。


「ご無沙汰しております、ローゲンセン殿」

「こちらこそ。陛下が貴殿に嵌められた時以来ですかな?」

「それを言われると耳が痛いですね」

 笑い合う誠一とローゲンセン。

「自分の部下まで手玉に取るなんて、呆れたお方だと思いましたわ」

 フィリアが皮肉たっぷりの笑顔で話す。

「ところで会議の方は滞りなく?」

 これ以上はイジられたくないので、すかさず話題をすり替える誠一。

「ええ、各界の皆様の連携は日増しに深まっております。来るべき日には、少なくとも一般臣民の方々には危険が及ばぬよう、様々な方向から万全の体勢が立案されつつあります」

「これだけの規模で動きながら情報統制が機能しているのは、ある意味驚きですね」

「小官どもも些か意外ではありましたが、遊撃隊のみなさんが殊の外、市井の耳目を引き付けて頂けた事が嬉しい誤算でしたな」

「ご存知の通り、クロダさま方が異世界人であると言う事は王宮、及び軍や魔導団の一部だけにしか知られておりません。特別遊撃隊は、あくまで王宮魔道団の秘蔵っ子のようなベールに包まれた特殊部隊として認知されています。魔獣や犯罪者から平和や治安を人知れず守ってくれている謎の英雄と言う事で臣民の眼はそちらに集まっております」

「此度の討伐作戦においてキジマ中尉が超大物魔獣を倒されましたが、これも人間界から来た特殊部隊によるもの、との情報が流されております。魔界の臣民もまた、クロダ殿ら遊撃隊に注目しておりますのでな」

「失礼いたします……」

 メイドのナルニカが焼き上がった料理を誠一たちに奨めに来た。

 このメイド、初日に良二に襲い掛かって天井の染みを数えさせようとした、あのエロメイドである。

 その、そつのない所作、物腰、気配りは流石に魔界8魔王に仕えるメイドさんと言えよう。

 とは言え、良二にまたがり目を血走らせていた彼女と、目の前のメイドが同一人物だと言うのは納得しかねるところもある。良二ならそう思う事であろう。

 彼女は、横長のサービストレイ一杯に盛り付けられた、焼きたての料理を三人の前に披露し、お客様のご希望を伺っていた。 

「そのステーキをいただきますわ、ホーラさまがお持ちくだされたセイント牛、大変美味しゅうございますわね」

 フィリアはセイント牛のサイコロステーキを所望した。肉汁溢れる、見ているだけで口の中に味が先走って広がりそうな……実際口にするととろけるような歯ざわり舌触りで口内が擽られる天界でも屈指の名牛だそうである。

 が、誠一やローゲンセンはフィリアの半分も求めなかった。誠一はトリ肉も求めたが老賢者は野菜が中心だ。

「お二方ともどうなされましたか? 殿方より多く頂いてはわたくし、随分食いしん坊に見られてしまいそう」

「いやいや、どうかご遠慮なく」

「小官もこの牛肉の素晴らしさは理解できますものの……歳を取るとどうも脂に弱くなりましてなあ」

 初老男と老賢者、揃って苦笑いするの図。

「お話しはよく耳にしますが、そう言うものなのですか? こんなにおいしいのに」

 いつか通る道ですよフィリア殿下。でも今は気にすることは有りません。

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