男心 女心
それはそうと、この二人、随分と盛り上がっているものだと良二はふと思う。
出会いの折りからケンカ腰で、いがみ合い罵り合いだったのが何時の間にかこれもんである。
もちろん喜ばしい事ではあるが、意外と言うか、感慨深いというか……まあ、とにもかくにも複雑ではある。
「ん? リョウくん、なに呆けた顔してんの~?」
「為政の話は退屈?」
いきなり話を振られた良二。ちょっと誤魔化すような顔をして、
「あ、いや。二人とも人の上に立ってる者として気苦労多いんだなぁって思ってさ?」
と、当たり障りの無さそうな言葉を並べる。
ところが二人には……
「リョウジィ?」
訝し気な視線をくれてるカリン殿下。
「うん、そうじゃないよねリョウくん?」
ライラ陛下も同様に。為政者の眼力か、はたまた女のカンか? 社交辞令の如き今のセリフは簡単に見透かされてそうだ。
最も、誤魔化すモノでも無いし、素直に降参しようと思う良二くん。
「あは、ごめん、つい……。いや、以前に比べるとお前たち、随分仲が良くなったなって思ってさ」
良二に言われ、お互いを見るライラとカリン。
二人はちょっとの間見合っていたが、やがて双方、嘲るような顔をして「へっ!」と吐き出し合う。
「やめてよね~、リョウくん。こんな小娘と仲がいいとかマジ勘弁~」
「こっちのセリフなんだけどぉ。偶さか愚痴のはけ口に使ってるだけなんだけどぉ」
え? 目が点になる良二。
「大体、リョウジの前でいがみ合ってたら、あなたが嫌がるでしょぉ?」
「ヨウコちゃんも言うしね~。奥たるもの、旦那に必要以上の負担かけさせちゃダメってさ~」
女の社交術か、女心の深みか? 先程の為政者としての意見の共有も、謁見の後の自分の反応をダシに笑い合っていたのも一体何だったのだろう?
取り敢えず言葉を失う良二であった。
「で、あんたは何しに来たのよ?」
「せっかく魔界に来てんのにリョウくんの顔見に来るくらい、いいじゃん? てのもあるけど、ラーにも誘われたのよ。討伐成功の慰労も兼ねて仲間内でパーティしようってね」
「ラーさまが?」
「はい」
と、ここで三人の前にラーが、おっとりと現れた。
「僭越ながら、遊撃隊の皆様の戦勝と無事のご帰還をお祝い致したく、このお庭で細やかながら宴の席を設けさせていただきました。集いますのは身内の者ばかりですので、リョウジさん方にも畏まらず楽しんでいただければと……」
「こう言うわけ~」
「それはわざわざ。恐縮です、ラーさま。ところでどんな方がご出席ですか?」
「はい、皆様方の他に天界からホーラさまにオクロさん、天空神ウェンさまと、人間界はフィリアさんにメイスさん。魔界からは陛下と、8魔王の全御方に声をおかけしましたわ」
なじみの顔が大半だが、三魔王と天空神は初顔合わせになる。てか、8魔王揃い踏みってのに、身内の者ばかりだから畏まらずとかラーさま何気に軽く言うけど、んな無茶な……と、ちょいとビビりモードの良二くん。
「ふ~ん、そう言う事なら私も着替えてくるとしましょうか。リョウジ、またあとでね?」
まずカリンが去った。次いでライラも腰を上げる。
「じゃ、あたしはお風呂頂いてくるわ。いいよね?」
「ええ、勿論。ごゆっくりどうぞ陛下」
まったね~、と手を振りながらライラは屋敷に入っていった。良二は思わずフーっとひと息ついた。
「戸惑っておいでですか?」
不意にラーに話しかけられる良二。
「え? 何のことです?」
「陛下とカリンさんですよ?」
「あ、ああ、そのこと……うん、まあ、気が合って話も弾んでるって感じだったし、最後の答えはちょっと意外って言うか」
まだ頭の中で纏まっていない二人の印象を、ちょっと上手く話せないと言う感じで答える。
「……私たち女から見て、リョウジさんやセイイチさまの御心は計り知れませんが、リョウジさんもまた、女心に対して同様みたいですね。その溝を少しでも埋めるお互いの歩み寄りが愛を育む時間なのかも?」
「なんか……蘊蓄がありますね」
「今思いついただけですわ、お聞き流してくださいませ。それと……」
「?」
「一つアドバイスさせていただければ……あのお二人は揃って素直じゃない、と言う事くらいでしょうか」
「素直じゃない、か。俺の前では結構あけすけなんだけどなぁ」
「それも女心……ですわ」
半ば笑いながら答えるラー。何か本当に楽しそう、本気で微笑んでるって感じを良二は受けた。
彼女は今のライラの様子を心から喜んでいるように思う。
もともと天界の最上級神であった彼女が、どうしてこうまでしてライラに仕えているのか?
良二はちょっと気にかかってはいる。
「夜王! 邪魔するぞ!」
声を掛けられ、良二とラーは庭の方に顔を向けた。ホーラが庭先から回り込んでやってきた。
「ようこそ御出で下さいました、ホーラさま。お一人ですか?」
「オクロとウェンも一緒だ。今日は天界のセイント牛の良いところを持ってきた。今、二人が厨房に持ち込んでおる。今宵の食材の足しにしてくれ」
「これはこれは、お心遣い痛み入ります。喜んで拝領させていただきますわ」
そう言えばこの二人も本来ライバルなんだよな? 二人のやり取りを見て良二はさっきのライラとカリンの事を思い出す。
このやり取りだけ見ればラーとホーラは仲のいい友達同士に見えるだろう。
でも、実際は事あるごとにやり合っていた仲だという。
今二人がこのように睦まじく見えるのは、共に誠一を支えるという同じ目的を持っているからなのだろうか?
それと同じようにライラとカリン、そして容子も俺の事を第一に思ってくれているからお互いの感情を抑えているのだろうか?
俺はその、彼女らが感情を抑えるに見合ったものを与えられているのだろうか?
水剣の取り扱いレベルは飛躍的に上がってはいるものの、恋愛スキルは初級のままの良二には、もしも与えていたとしても、どうにも実感も自信もない。
誠一に聞いてもまた「んなもん無ぇ」でお仕舞だろうし。
「ところでな、さっきエントランスでシーナに会ったから問い詰めてみたんだが……」
急に声を押さえて話始めるホーラさま。
「シーナさんに? ホーラさま、何のお話し……ハッ! そ、それで彼女は何と!?」
「やはり、メアの申しておった通りだそうだ!」
うん……何を言ってるかは想像がつく。とりあえず聞こえていないフリする良二くん。
「そ、それでは、今夜にでも実戦、いえ確認を……!」
「夜王、今日のセイイチは休姦日だ。奴からの誘いならばともかく、こちらからのアプローチは仁義に反する! それはゆめゆめ忘れるでないぞ?」
「う……しょ、承知しておりますわ。お互い法度に触れることは……で、でもお誘いの暁には問題ございませんよね、ね! ね!?」
「それこそ、お互いに、だ! 抜け駆けや恨みっこは無しだぞ!?」
新隊舎になった時、地下の金庫に封印したスマホ、あれのカメラで今、眼を血走らせて欲望むき出しにして話し込んでる二人を撮影して本人らに見せてやりたいと良二は思った。
良二がドン引きしてそんな風に考えてしまうのは、やはり女性経験が足りないせいだろうか?
表には見せない、女性の本心の片鱗でも知れば理解し、認めてあげられるのだろうか?
それにしても、彼女らにとってあの初老オヤジには、如何ほどの魅力があるというのか?
その辺関係なく、地球人特有のエロ系チートスキルなのだろうか? 果たしてどうして?
ともあれ問題はさっきカリンに言われた通り、自分の心持ち次第なのには変わりは無いワケで。
誠一はホーラたち4人の気持ちも考えて腹を括っているのだろう。
自分もより一層、彼女ら三人に受け入れてもらえるに値する男になりたいと思う。いや、ならなければならない。
良二も部屋に戻ることにした。さすがに初対面の最上級神や8魔王と会うのに、風呂上がりのこの部屋着では、いくらなんでも無作法であろう。




