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支配者のボヤキ

 訓練と実戦を兼ねた討伐作戦も終わり、魔王府のラー屋敷に戻った遊撃隊は早い入浴を終えて、銘々に体を休め、寛ぐことにした。

 良二もラフな部屋着に着替え、夕暮れ近いサロンのテラスでカリンと夕涼みを楽しんでいる。

「足のケガはどうだ? 大丈夫かい?」

「ヨウコがしっかり治してくれたわ。もう平気よ?」

 笑って答えるカリン。ひねった右脚を高く上げて足首をプラプラさせて見せる。

 と、その煽りで裾がはだけ、腿の部分まであらわになり良二の目を直撃した。

「お、おい! 見える見える!」

 思わず目を逸らす良二。

「は? なにを今更? 海じゃ脚の付け根まで見えてたじゃない、あの水着」

「そういう問題じゃない!」

「少佐に見られるってんならもちろん気を付けるけど、リョウジに見られるなら気にする事じゃ無いわよ~」

 と言いつつ、裾をわざとピラピラさせて良二を挑発する気満々で、脚を見せつけようとするカリン。まあ、実際挑発してるわけだが。

「俺はもっと慎みのある女の子が好みだな!」

 カリンは13~14歳くらいの外観ではあるが、例えば今見せた脚の色香は本来の年齢である19歳のそれである(あと2カ月で20歳だそうな)。

 少女の外観ながら成人女性の色気と言うか、妖艶さも併せ持つ奇妙さと言うか、そのちぐはぐさが何とも言えない引力を持っている。

 勿論、彼女の魅力はそれが第一ではない。

「じゃあ、私のこと切っちゃう? 捨てちゃう?」

 そう言いながらカリンは、今度は両手で頬杖をついて、にっこり微笑みながら良二を見つめる。

 ズルい、非常~にズルい「守りたい、この笑顔!」である。

「絶対、捨てられないって思ってるだろ?」

「うん!」

 ええ、そうなんですけどね……

「ねぇねぇ、あの話どう思う?」

「あの話って?」

「メアやシーナのレベルアップよ」

 はて、メア達のレベルアップ? …………あ、あのセックスブースト説!? 

「いやいやいや! あれってマジなの!? マジだとしても、どういう理屈なワケ!?」

 あれは実におかしな話ではある。

 誠一も言っていたが、ファンタジー系エロゲじゃあるまいし、性交経験値がそのままレベルアップの糧になるとか、全く以って首を傾げざるを得ないし、頭の周りに疑問符が無数に浮かび上がって、背景が埋め尽くされてしまいそうだ。

 現実に異世界人は魔素吸収濃度がアデス人より高いのだから……などと言われても高濃縮魔素がペニ助より伝達・放出され彼女らの体内魔素濃度を向上させたとでも言うのか!? シュール過ぎて良二の頭では3~4周くらい回さねばならんかもだ。

「私に聞かれてもわからないわよ。でも二人揃ってその点は共通してるし、無下に否定は出来ないんじゃないかしら? 性交にしたってホーラさまやラーさまはアデス人相手に比べて少佐とのセックスは別次元だって言ってるんでしょ? シーナやメアは少佐が初めてだから比較できないけど」

「ったくあのおっさん、息子より若い世代なんだぞ~とか言ってたくせに、しっかり手ぇ出してんだもんなぁ」

「話を聞いたら二人に押し切られたみたいだけどねぇ?」

「どこまで本当だか」

「いつまでも腹括らないヘタレよりかは良くない?」

 カリンの一言が良二の心臓にぐっさり突き刺さった。情け容赦もない言い方である。

「ねえ、リョウジさぁ。あなた、ホントはもう決めてるんでしょ? 順番」

「そ、そう見える?」

「ライラでしょ?」

 図星。良二の心臓がキュッと締め付けられる。

「え、な、なんでそう思うの?」

 カリンはふーっとひと息つくと、

「もう、素直になんなさいよ! 理屈じゃないんだからさ、こんなの。私もヨウコも、それにライラも皆腹くくってんの! 肝心のあなたが煮え切らないままじゃ何も進まないじゃない!」

ズバリ直球である。良二は返す言葉もない。

「ヨウコはともかく、私たちはあと半年しか無いのよ?」

 残された時間の問題、それを言われると確かに辛い。もう既に3カ月近く、うだうだしている。

「あなたがチキュウに帰らず、ここに永住するってんなら気にしなくていいけどね?」

「地球の親類や友人知人との縁を全てブッた切ってしまうような男になるんだぜ?」

「少佐が自分の家族を見捨ててアデスに残るよっか、ハードルは低いんじゃないかしらね?」

 相変わらず、ずけずけ言ってくれるものである。もっともそこがカリンの魅力の一つである訳だが。

 一番傷つかない方法を探してあれやこれやとグダグダ考えて機を逸するよりか、その後の弊害を背負う覚悟でズドンと自分の意思を貫くカリンの姿勢は、良二にとって尊敬の気持ちすら覚える。もちろん、その後の弊害は王侯貴族の威力で吹っ飛ばせるから、やれるのかもしれないが。

 ともあれ、相談事があってアドバイスを受けるには、非常に参考になる意見をズバッと述べてくれる。

 人生のパートナーとすれば心強い限りではあるが、その分尻に敷かれりゃメチャ重そうでもある。

「あの人は何があっても帰る気でいるよな。やっぱ所帯持ちってそういう気概というか、責任感強ぇなぁ」

「そうとも限らないわよ。自分の欲望のために伴侶や子供捨てる連中なんて、いくらでもいるもの。ま、それやってまともな人生送れた人はホント僅かみたいだけどねぇ」

「因果応報ってヤツかぁ。黒さんも、甘い汁吸ってる奴はよろしくやってるとこだけ目につくけど、目立たないところでマイナスもしっかり背負ってるもんだって言ってたなぁ」

「目立たないって言えば私たちよ。臣民の中には私たち王族や貴族が税を吸い取って贅沢三昧してるだけ、ってとこしか見ようとしてくれない連中もいるのよねぇ。一概には言えないけど、晩餐会とかの料理でも地元の食材の品評会って側面強いのよね。豪華な衣装も、服飾技術やセンスのアピールでね。そういうのをきっかけに商取引の後押しして産業・商業とかテコ入れしてるんだけど……て言うか、そっちの方が大事なのよ」

「そういや市井のファッションの流行も、結局は貴族の流行が降りて来てるよな」

「貴族が開発した流行を、いかに一般臣民が手の届く費用で楽しめる様にするか? これも服飾界の腕の見せ所よ。官僚・役人もそういうのを促す施策に頭痛めてるわ」

 と、ここで、

「そうは言っても私腹肥やす奴はいつの時代もいるし、そういう奴の方が目立っちゃうのは仕方ないんだけどね~」

二人の会話に、突然誰かが「気持ちはわかるけどぉ~」みたいなノリで割って入ってきた。声がした方を振り向く良二・カリン。

 声の主は、いつの間にかやって来ていたライラだった。

「あら、来てたの?」

 そう言うカリンに手を上げて応えたライラは、良二に近寄り「討伐お疲れ様!」と言いながら頬に軽くキスしたあと、一緒のテーブルに腰をかけた。

「そう言う連中のおかげで、まじめに働いてくれる人たちが痛くない腹を探られるのは気の毒だわ~」

 と、魔王陛下がしみじみと。

「さりとて、汚職事件とかで市井が騒げば綱紀粛正をアピールせざるを得ないしね。おかげで末端が萎縮しちゃって踏み込むべきところに踏み込めなかったり」

「自分で自分の首を絞める様なもんよね~。まあ、そこをうまく促して人の動きを止めさせないように思案するのが、あたしらの仕事だけどね~」

 良二はなんだかどんどん置いてけぼりを食らっていく気分になってきた。

 お二人ともご立派に君主や、それにまつわるお仕事に気を配っておられる。

 それが今は自分の彼女だってんだから、自分の人生がえらくとんでもねぇ事になってるのはひしひし感じているところではある。

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