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レベルアップ

 13:30。

 討伐隊は湖畔から南の森にかけて広がり、遅い昼食を摂ることになった。

 負傷者の治療、後送、魔獣の後始末を混成連隊総出で行ったので、規模の割には早く片付いた方だろう。

 何より、あの巨大な魚魔獣の始末をブレーダー将軍による黒き炎で焼き払ってしまったのが大きかった。

 ライラの時と同じく魔獣の死体を魔石だけを残して燃やし尽くしてしまい、その火の勢いは対岸に達するのではないか? というくらい凄まじいものであった。

「最初に閣下においで願えればなぁ。一発で決めて頂けたんだが」

「しょうがねえよ。本来は少佐らをお連れしただけで、この作戦には不参加だったんだし」「閣下の黒き炎は状況次第で瘴気が残っちまうからな。閣下も余程の事でないと使われんし」

「死人こそ出なかったが、重傷者は結構出たからな。腹いせ混じりだったな、ありゃ」

 生還の食事を楽しみつつ、銘々で反省会? をする魔界軍兵士たち。ボヤキや文句に聞こえそうな話でも結構楽しそうに語っていた。戦死者無しの勝ち戦でもあるし、帰隊すれば立派に自慢話にもなる。

「まあいきなりドリー1曹が喰われちまったからなあ。駆けつけてもらっても黒き炎一閃って訳にゃあ行かなかったろうけどな」

「んじゃ、1曹が喰われるところは見てなかったって事で一発ズドンと……」

「うん、作戦行動中行方不明という事で……」

 などと他分隊の者がニヤニヤ冗談めかして言うと、

「聞こえてっぞ、コラァ!」

 と、ガンジンが怒鳴り、一同が爆笑した。

「いや~、しかし生きた心地しなかったぜ。胃袋まで落っこちてたらジワジワ身体を溶かされて死んでいくのか~、とか思っちまった。今思い出してもゾッとするぜ」

「分隊長が食道の入り口でナイフ突き立ててくれたおかげですよ。あれで俺たちも胃袋まで落ちずに済んだんだ」

「うまいこと骨だかスジだかに刺さってくれたからな。マジで運命の分かれ目よ」

「あの食道の動きは参ったよな、うねうね波打って胃袋へ押し出そうとするんだ」

「10分隊のメリアンはあれで窒息しちまったんだよな。息、吹き返してくれてホント良かったよ。感謝するぜ、コバヤシ中尉、キジマ中尉!」

 改めて礼を言われ、頬が緩む良二、容子。

 遊び半分だと思っていた水難救助訓練だったが、誠一がツボはちゃんと抑えてくれていたので、想像以上に実りが多かったと言えよう。

 何より、実際に人の命を救えたのだ。

 これほど嬉しい事は無い。

「でも、キジマ中尉が飲まれて来た時はアワ食ったぜ。ナイフにしがみついてる俺の手と肩を足場にするんだからよぉ」

 と、ガンジン。言われた良二は笑いながら言い訳する。

「ごめんごめん。でも、あの辺りが首と胴の境だったからさあ。ここなら斬れる! って思ったんだよ。食道はブヨブヨで踏ん張り利かないし、さっき言ってたみたいにウネウネ動いてたしさ。分隊長を足場にするしか安定できなくてさぁ」

「俺の腕には7人の命がぶら下がってたんだぜ? それ足蹴にするとか、どんな外道だよ! とか思ったわ」

 また一同が笑う。

「その後が凄かったよな。あの魔法剣、水属性の魔法だって?」

「おう、柄だけ出して何だありゃ? とか思ってたら、そのままグルッと頭ぶった切っちまうんだからなぁ」

「水魔法でぶった切るとか、おったまげたよ。しかも切り口がムチャクチャ綺麗なんだ」

 やはり魔界でも超高圧放水での切断など、イメージは出来ないよなぁ……と、思う良二。イメージ勝負の魔法では、地球人の自分らはまだまだアドバンテージがありそうだ。


 ただの昼食ではあったが、まるで祝勝会の如くだった。まだ陽も高いのに酒が入ったら、そのまま宴会に突入しそうな勢いだ。

 祝勝会は夜に改めて行うはずではあるが、お構いなしでやりかねない。

 脳筋な連中だと良二も最初はちょっと引いてたが、やはりともに死線を掻い潜ると「こういうのも悪くない」と思えて来るから不思議だ。

 戦友、同じ釜のメシを食った仲、という奴か。

 良二は、ちょっと見る視界が広がったような気がした。


 食事も終わり、全隊が撤収の準備を始める中、良二は撤収が開始される事を伝えるために誠一のところにやってきた。

 誠一は、湖畔で魚魔獣が倒れていたところを腕組みをしながら、じっと眺めていた。

「黒さん、撤収らしいよ?」

「ん? ああ、そうか」

「何見てるの?」

「うん。戦闘のあとを、な」

 あと? と言っても、魔獣の死体は処理されているし、落ちた矢や武器類も回収は終わっている。残っていると言えば魔獣の這い擦った痕くらいだ。

「何か気にかかる事でも?」

 煮え切らない言葉だなと思い、良二は聞いてみた。魔獣の動向や戦闘の状況に何か疑問でも感じた? それとも、もしかしてお小言かな? と。

 魔獣の背中に張り付いていた時、容子たちの危機とは言え、後先考えず飛び出して、挙句飲まれてしまったのはやはりいただけないと、自分でも思っている。

 結果は幸運にも生還できたのでよかったが、ドリー軍曹の機転なども含めてホント、運がこちらに向いただけだ。

 そこは説教喰らってもおかしくない。

「最後のお前の斬首は見事だった。あんな方法で生還するとは思わなかった。ホッとしたよ」

 ん? 遠回しに言っているのかな? この人はちょくちょくそう言うことをするから油断できない。

「なあ、良。お前、あの魔獣の首辺りの太さ、どれくらいあったか覚えてるか?」

 あれ? 違ったか? てか首の太さ?

「え? 首? う~ん、7~8m?」

「俺もそれくらいかと思ってんだが……それで良、お前の水剣の刃渡りは最長どれくらい伸ばせたっけ?」

「んん~と、切先の切れ味は落ちるけど3mくらいかなぁ」

 初陣のヤクザ相手は2mくらいだったから、初めてでも綺麗に切れた。その後いろいろ訓練して、美月の火球よろしく水弾の様な魔法が出来ないか? とか試したが結局は実らず、アダマンタイトの柄を入手してからの訓練は刃先の伸縮・形状制御に重きを置いていた。

 その後は長剣を出したり、水の平板の様なブレードで人間相手でも斬らずに無力化する技をモノにしたのは、麻薬取引のガサ入れの時でも証明された。

「気付かんか?」

「え? 刃先が3mだと何が……あ!」

 ――尺が合わない!

 良二もやっと気づいた。

 首の直径が7mなら腕の分まで入れれば刃先3mでも届くだろう。しかし8mなら当然届かない。

 しかも、やったのは食道内だ。自由に手足を広げられる場所では無かった。柄を抱えるように握って身体ごと一回りさせたのだ。

「お前の剣は魔獣の表面から1mほども出ていたぞ?」

 レベルアップ? 魔力の出力や総量が増えている?

「ブレーダー閣下が始末する前に、俺が引き裂いた魔獣の背中の傷も確認してみた。俺のプラズマブレードもお前と同じ3m弱が限度だと思っていたんだが……正確に測ったわけじゃないが、それより深く切れてたように見えたんだ」

 良二は柄を構え、水剣を起動した。思い切り長剣モードをイメージしてみる。

 プシュォォォー!

「な! 何だこれ!?」

 良二は、自分で自分の技に驚いた。

 自分の出した水剣の刃渡りは3mどころか5m近くあるのだ。これではまるで釣り竿だ。

 試しに切先で木の枝を払ってみる。払うというよりスッと降ろす、枝に刃をそっと乗せる感じで振ってみた。

 ストン…… 

 通常の長剣、太刀レベルの時と全く変わらない切れ味で枝葉は落ちた。

 今度は刃長全体に枝葉がかかる様に振ってみる。

 バサ! バササ!

 同じだ。刃先に触れるものが葉・枝問わず、全て斬りおとされていく。

 しかも切先まで全くしならないさまは、レーザーを彷彿とさせるほど。

 誠一も光剣を起動した。ブレードを自分の水剣に並べてくる。

 良二の水剣よりはいくらか短いが、やはり今まで以上の長剣。その姿は破邪の御太刀の如しだ。

「もっと早くこれに気付いていれば、そんなに手古摺らずにあのバケモノ魔獣を倒せたかもな」

 誠一がボソッと言った。

「魔界で経験値積んでレベルアップか……RPGじゃあるまいし」

「全くだね。なにか自分が人間で無くなっていってる気がするよ」

 良二も半ば吐き捨てるみたいな感じで零した。何か素直に喜べない。

 ミカド四天王……

 やはり俺たちはその枠にはめられるのだろうか?

 アデスの求める役割を受け入れる。

 自分たち4人、いやミカド役の史郎も含め、それは承知しているつもりだ。腹は括っているはずだった。

 だが何か引っ掛る感じ、纏わりつく不安とでも言うか、それが払拭できない。

 ――釈迦の掌――

 また、その言葉が脳裏をよぎる。

「これはまぎれもなく俺やお前の自分自身の力だ。ただ、精神……メンタルがついて行ってないんだろうな。戸惑っているんだ」

 良二の記憶には無いが、海魔獣を一刀両断にした時の良二の水剣は、刃渡りは30mを超えていたはずだ。あれくらいまでは魔力・戦闘力等が伸びる可能性が有ると言う事だろうか?

「……だね。こんな超長剣振り回したら味方まで巻き込みそうだ」

「俺もヤバかった。背中から落ち始めての斬り込みだったから良かったが、下手すりゃ体内に居たお前や、ドリー一曹を斬ってしまっていたかもしれない」

「魔力だけじゃなく、戦闘のセンスって言うのかな? そう言うのも磨かなきゃいけないね」

 そう話す良二は何かまた一歩、ミカド四天王に近づいていってしまう、そんな気になってきた。

 若干険しい顔をした良二を見て、誠一がクスっと軽く吹いているのに、良二は気付いた。

「なに? なに笑ってんの?」

「いや、スマン。お前がさ、強くなったなぁと思ってな」

「え?」

 突然の誉め言葉、虚を突かれ、戸惑った顔になる良二。些か、顔が紅潮してしまった。 

「な、何言ってんのさ。俺なんか、まだまだ」

 良二は思う。そうだ、自分はまだまだだ。今日だって、後先考えず飛び出してしまい、誠一や容子・カリンらに心配を掛けさせてしまった。もっと信用される男にならなきゃと……

 でも、

「黒さん。俺が魔獣の死体から這い出た時、俺のこと抱きしめてくれたよね」

あのちょっとした暖かさ……

「ん? ああ、あれな。お前が生きててくれた事が嬉しくてなぁ。思わずやっちまったが……キショかったか?」

「あ~、ちょっとびっくりした。だけどさ……」

 あの小さな嬉しさ……

「悪くないって、思ったよ」

 うん、悪くなかった。

「そうか……」

 誠一も改めて微笑んだ。ちょっと照れくさそうに。

(主様、今どちらですか? 他の皆様も出発するみたいですよ?)

 シーナから念話が入った。

「了解、今から良と戻るよ」

 と、誠一は返事した。

「行こうか?」

「ああ」

 二人は、容子やシーナたちが待つ街道へ向かった。

 歩きながら良二は、前を行く誠一の背中を見ていた。

 彼の背中はまだまだ広い。

 いつかこの背中が小さく感じる日が来るのだろうか? 良二は、そんなことを考えながら誠一の後ろを歩いていた。

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