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ぶにょぶにょ……

 先行したシオリラは頑張っていた。

「うう~、翼の筋肉がつりそうだ、あんたやっぱ重いよ!」

「これでも腹引っ込んだって言われてんだけどな!」

「ハ! これでかよ!? もっと減量しな! 選べる服も増えるぜ! で、目標は!?」

「頭の付け根、後方4m!」

「OK! そこ狙って飛ぶから好きなところで手を放しな!」

 そう言うとシオリラは魔獣の後方から頭に向かってコースを取った。

「コースよし、コースよし」

 誠一がシオリラを誘導する。

「用意、用意、用意、降下!」

 シオリラに叫びながら指示しつつ、誠一は目標地点目指して手を離した。

 べちゃ~!

「うげ!」

 思わず唸る誠一。ほぼほぼ目標の頭と胴体の境目4mに降りる事が出来たが、この魚魔獣の皮膚はクジラ魔獣と違ってすこぶるヌルヌルでグニャグニャな表面だった。おまけに、妙な凹みやイボみたいなボツボツの突起もあり、地上から遠巻きに見る以上に気味が悪い。

 誠一は爪を立て、指を喰い込ませ、ゆっくり確実な前進をし始めた。頻繁に動く頭部付近は狙い辛く、この辺りが最適と読んだが、もう少し前方でもよかったかもしれない。とにかく、手触り肌触りが気色悪い。

 が、ここで、

「黒さん、どいて~」

と良二が降下してきた。

 て言うか、誠一に向かって落ちてくると言った方が正しいか?

「な! バカ! そう簡単に動けるかぁ!」

 衝撃に備えるため、誠一は第五匍匐前進よろしく思い切り体を伏せ、魔獣の背中に密着した。ぶにょぶにょの肌触りが吐き気がするほど気色悪い。

 なのに良二は、その上にまともに乗っかってきた。

 ――ぶべ!

 頬に触れていたところが鼻や口まで埋まるほど抑え込まれ、誠一はマジで吐き出す寸前だった。

「わ、わ、わ!」

 おまけに良二はバランスを崩し、滑り落ちそうになってしまい、思わず誠一の服を掴んでぶら下がった。当然の如く引き摺り下ろされそうになる誠一、しかし踏ん張りどころが全くない。

「バ、バカ、良、掴むな! す、滑る~! 滑る滑る! 落ちる落ちる落ちる~! 離せ、離せぇー!」

「もうちょいこらえてー! 足場足場、うわ、気ッ色悪りぃ! ぶにょぶにょー!」

 コントか……美月や容子が見たらそう言ったに違いない。

 とにもかくにも、何とかよじ登った良二はようやく身体を安定させる事が出来た。

 に、してもキショイ肌ざわりだ。手を喰い込ませると指の間をヒルかミミズにでも、ゆるゆるくすぐられてる、そんなウネウネな感触に鳥肌が立ち捲りになる。マジ、うんげろげ!

「ドアホ! 落っこちるとこだったぞ!」

「そんな言い方無いだろ、加勢に来たんだから!」

「だったらもうちょいマシな降りかたを! うわ!」

 魚魔獣がまた方向を変えた。今度は東へ。

 言い合いは後だ、とにかく魔獣の動きを少しでも押さえないと。

「くそ魔獣め! 良、お前の水剣とおれの光剣、頭と胴体の境目に突き刺して刻むぞ! 狙いは脳だ!」

「わかった!」

 二人はぶにょぶにょの背中をトリハダ立てながら掴み、頭に向かって匍匐していった。

 掴むところ、踏ん張るところ、擦れるところ。全てがぶにょぶにょでヌメヌメの感触に加えて生臭ぇ事この上なく、あー! 気っ色悪ぃー! 良二も誠一も心の中で涙ながらに叫びながら進んでいた。


「こっち来るぞ! 退避しろ!」

「口の前へは行くな! 吸われるぞ!」

 地上の兵士たちは魔獣の方向転換に右往左往だ。今まで岸側で攻撃した勢力が湖側に追い込まれて地の利を失う。

 それでも水気に強いリザードマンらを中心に必死の戦闘を続けた。

 良二らもようやく胴体の境目1m手前まで来た。つかみどころの無い背中の肉質と動き回る勢いで振り落とされそうになり、どうしても時間がかかってしまった。

 地上でカリンやメアが兵士と一緒に斬り込んでいるのが見えた。右足が地に着くタイミングで仕掛けている。

 一撃一撃は大した事は無いが、かなり出血させており、ジワジワと効果は出て来てはいる。だが、やはり時間がかかる。火球や氷矢の様な魔法攻撃も続行されてはいるが、美月ほどの火力持ちはさすがに居そうにない。

 魔獣は魔獣で斬られ続ける前脚を振り回し、カリンらを払おうとする。だが俊敏さは人並み以上のカリンとメアは難なく避けられた。

 背中を移動しつつ、良二はカリンらの動きを見て頼もしく思った。今の彼女らなら、不覚を取る事は無いだろう。

 良二は改めて目標である頭を見た。

 その頭を見据えると同時に、魔獣の進行方向の先に展開する兵たちの状況が見える。森の木によじ登り、弓をかって、文字通り矢継ぎ早に矢を放つエルフ族。足場の悪い地でも素早くヒット&アウェイを繰り返す獣人族。

 これほどの大物魔獣を前にしても怯む事なく果敢に戦っている。

 良二も負けてはいられない、ブヨブヨがどうとか後回しだ。急所に辿り着いて確かな一撃を食らわしてやる。大体がこの先にはまだ美月を治療中の容子とシーナがいるはず……だ。

 ――マズい!

 良二は驚愕した! そうだ、このコースでは容子たちが!

 魔獣は森側へズレながら進行しており、その先には!

 ――まさか動けない容子らを狙っているのか!?

「(容子!逃げろー!)」

 思わず声と念話で叫ぶ良二。

「良くん?」

 彼の声を聞いた容子が顔を向ける。

「え!?」

 ここで彼女らも魔獣が自分らを目指している事に気付いた。

「ヨウコさま! ミツキさまと奥へ!」

「うん!」

 容子とシーナは美月を抱え上げ、森の奥へと移動を始める。だが生い茂る雑草に足を取られどうしても速度が遅くなる。

「ちぃ!」

 同じく良二の声が届いたカリンは状況を察知すると全速で魔獣の前へ出た。

「こっちよ!」

 魔獣の前に出るとカリンはハデに得物を振り回して彼奴の気を引き、湖側に誘導しようと試みた。

 ズザ!

 魔獣は眼前でデスサイズを振り回すカリンに視点を移した。彼女を見定めた魔獣は獲物(カリン)を追うために身体の方向を変えた。

 陽動成功! それを確信したカリンは踵を返し、より遠くへ誘導するため走り出す。

「あ!」

 が、ここでカリンは陽動成功で気が緩んだか、足元をおろそかにした。

 落ちていた流木に足を取られ転倒してしまったのだ。

「「カリン!」」

 良二と容子が同時に叫んだ。

「シーナ! 美月をお願い!」

 容子は美月をシーナに預けると魔素ブーストを掛け、カリンに向かって走り出した。

「ヨウコさま! 危険です!」

 シーナの声を尻目に容子は走った。

 カリン救助のため、魔獣の鼻先に向かう容子。それを見て、良二は焦燥に駆られた。

 ――ヤバイ! 二人とも飲まれる!

 良二は脊髄反射するがごとく立ち上がり、魔獣の頭の上を駆け始めた。

「おい、良!」

 良二には誠一の声も聞こえていなかった。良二は胴体に比べて俄然固い、頭部の中心を全速で駆け降りていく。

 良二の水剣は切先の切れ味を維持するなら2mが限度。当初の思惑通りに脳を直撃できればいいが、少しでも手間取ればその間に容子とカリンが……。良二は二人の保護と避難を選んだ。

 その容子はカリンの元にたどり着くと彼女を抱え上げた。

「大丈夫? 走るわよ!」

 森へ向かい駆け出す二人。しかし、

「うが!」

カリンが悲鳴をあげながらすぐ転倒してしまった。さっきの流木に引っ掛かった時、足をひねったのか。

「立ってカリン!」

 容子は何とかカリンを抱えたが既に魔獣は目前だ。二人を飲み込むため、大口を開ける魚魔獣。周りの空気も吸い込まれるように流れ始めた。

 飲まれる! 容子は思わず目を瞑った。だが次の瞬間、

 ブオォ!

容子は身体がフワッと浮き上がり、更に高速で吹き飛ばされるかの様な感覚に襲われた。

 容子が目を開けると視界には……自分達から遠ざかって行く良二がいた。

 良二は魔獣と容子の間に立つと、水魔法でカリンと容子を水の膜で掬い上げ、放水宜しく二人を魚魔獣から遠くへ飛ばしたのだ。

 だがしかし、

「リョウジ!」

魚魔獣の大口が二人の代わりに良二を捉える。

「良くん!」

 良二は二人を救ったものの、自身は魔獣に銜えられ、容子とカリンの目の前で、そのまま飲み込まれてしまった。

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