屠る
「美月、ランチャー用意! 徹甲爆裂弾、初弾のみダブルチャージ! 発砲は俺が指示する!」
「おっけえ~!」
誠一に指示されると美月は擲弾筒を装着した。昨今の訓練の甲斐もあり、今の美月はシングルチャージなら10~12発は連射可能になっていた。
もっともそれだと魔力切れを起こすので、撤退ルートが確保されているのが条件ではあるが。
「火球発射後、俺と良は斬り込む。軍曹は俺と良のフォローを! メアとカリン、シーナは討ち漏らしを始末してくれ。容子はその支援!」
了解! と全員が答える。
「よおし。目標、正面街道! 躍進距離50! 特別遊撃隊、前へ!」
誠一の号令と共に遊撃隊は前進を開始した。
森の雑草を踏み越え街道に出る。シーナの索敵通り、オーク5頭が集団で街道を驀進中だ。
「美月、射撃用意、先頭のオークに照準!」
美月は、はいっ! と元気よく返事すると良二と誠一の間で膝撃ちの姿勢で錫杖を構えた。
「……撃てー!」
ヴォオォォーン!
美月の徹甲爆裂火球炸裂!
ドォパン!
放たれた火球は先頭のオークのどてっ腹中央に命中!
ダブルチャージの火球は、そのまま先頭オークの体内で炸裂しながら貫通した後、散弾と化して後ろに居た2番目のオークの全身に食い込んでいった。
先頭は即死、2番目も転倒し再起不能!
3番目4番目が先頭2頭を踏みつけて前進するも、同じく前へ出た良二、誠一、エスハンに立ち塞がれ停止。
一瞬、睨み合う双方。
やがてオークはジワジワと横隊に隊形を変えて行き、一列に並んだと同時に3頭は一斉に突撃してきた。
良二は右端、誠一は左端のオークを狙い一気に距離を詰める。
オークが、こん棒を振り上げたところで誠一は魔素ブースト全開! こん棒の軸線から更に左へ外れると、空振りしたオークの右腕をめがけて光剣を振り下ろす。
ゴゴン!
こん棒を持ったままのオークの右腕は胴体から斬り割かれ、そのまま草むらの中に落下し消えた。
「ブガアァ~!」
激痛と腕を無くしたショックで錯乱するオーク。続いて誠一は彼奴の右脚を切断、転倒させた。生きてはいるがもはや戦力にはならない、と言うか、死ぬのを待つだけと言えよう。
だが誠一は光剣をオークの鎖骨の間から心臓を狙って突き刺し、止めを刺した。
もう動けまい……そんな希望的な判断で思いもよらぬ逆襲を喰らうなどという、つまらない結果は御免だと言わんばかりに。
良二の方は刃渡り2mほどもある長剣モードを繰り出し、誠一とは反対の右方向へ展開した。
こん棒による一撃が不発に終わったオークを追い越した良二は、脇構えの形から振り向きざま水剣を振り払い、彼奴の左脚大腿部を一気に切断。右脚も半分ほど斬り込むほどの切れ味を見せる。
「ギシャ!」
左脚を切断されたオークは当然の如く転倒した。苦悶の声を絞り出す事すらも困難そうに見悶える。
良二はそんなオークの身体に飛び乗ると、唐竹割り宜しく頭を真っ二つに切り裂いた。
エスハンも二人に負けてはいなかった。
襲ってくるオークの目を狙い、エルフ族得意の弓――ハンドボウを放つ。
目には当たらなかったものの矢は右頬の辺りに食い込み、怯ませることに成功。
エスハンはすかさずハンドボウを投げ捨て剣を抜き、こん棒を持つ手首の一番細いところを狙って刃先を叩きつける。
「げおぉ!」
オークは右手首を切り取られ、激痛に膝を附いた。左腕で患部を抱えて蹲る。
「うらァ!」
頭が低くなったところへ、左端のオークを屠った誠一が光剣を振り下ろし、彼奴の首を跳ね飛ばした。
第1陣の5頭を倒した良二らはすぐに集結し、次手の警戒に当たる。
「街道右の5分隊、左の7分隊と交戦中の群からオークが1頭ずつ来ます!」
「黒さん! 俺は右をやる!」
「分かった! 軍曹! その場で警戒! 俺は左だ!」
「分かりました!」
「美月! 今後はお前の判断で撃ってよし!」
「了解!」
それぞれ目標を決め、オークに挑む良二、誠一。その動きはナルの村の時に比べても数段向上していた。
――違う、違うぞ! ――
4人がかりとは言え、あっという間にオーク5頭を屠った良二は、自分の動きに驚きを感じていた。
身体が軽い、早い! 自分の能力向上が目に見えてわかる。
良二の水剣は、先程の2m級の刃渡りを持たせると魔力の出力が多くなり、身体を動かす速度が犠牲になりがちだったのが短所だったが、今日はそれが無い。
足が軽やかで思い通りの軌道と速度を実現してくれている。
魔界に来た時の違和感、あれは本当に第二の魔素ブーストだったのだろうか?
――次の会敵で、分かるか?
良二ら3人が森側左右からの援軍オークと対峙している間に、街道から遊撃隊を狙って突進してくるオークの第3陣が迫ってきた。
(街道をオーク2頭が接近中、警戒しろ!)
良二は容子らに警告の念話を送った。
(心配ご無用!)
美月はそう念話で返答すると、シングルチャージではあるが2頭のうち、左のオークを狙って爆裂火球を放った。
この混戦状態でも美月の照準はすこぶる冷静だった。左オークの腹に見事に着弾させ、身体をくの字に曲げさせる。
「軍曹仕留めて! 右はこちらで!」
はいっ! 美月に指示されたエスハンは左へ迂回するように駆け出すと、悶絶しかけのオークの喉元に剣を突き立て横に斬り払った。オークは切口から夥しい血飛沫を飛ばし、その噴き出す勢いの収まりと共に絶命した。
残るは一頭。
容子は突撃してくるオークの足元に空気の壁、と言うか高圧縮空気の塊のようなものを展開させた。
空気の塊と言ってもその渦は複雑で、それはまるで茨が足に絡まるが如く纏わりついてオークのバランスを奪い、転倒寸前にさせ、動きを停止させた。その瞬間を狙い、メアが背後に回り込んで、鉤爪を食いこませながら背中を昇っていく。
「うりゃぁ!」
頭までたどり着くとメアは、後から鉤爪を両の目に深く食いこませ、一気に目玉を抉り取った。
「ごぎゃー!」
視界を失ったオークがこん棒を投げ捨て、今の今まで眼球があったところを懸命に押さえながら悲鳴を上げ、苦痛にもがき苦しむ。
そのスキにカリンとシーナが左右に分かれ、それぞれが膝の裏にデスサイズ、二本剣を使い一撃を加えた。
膝の裏の腱を切断され、踏ん張ることが出来なくなったオークは崩れるように後ろへブッ倒れた。
美月は尚も顔を押さえ悲鳴を上げているオークのその口に、錫杖の先端を突っ込み火球を撃ちこんだ。
爆裂火球ではなく、小銃弾レベルの火球弾であったが、撃たれたオークは口内から脳幹周辺を撃ち抜かれ、瞬時にその動きを止めた。
良二、誠一も難なく、呆気ないほど難なく残りの2頭を仕留め、遊撃隊はエスハンの止めを含めると9頭のオークを屠った事になった。
遊撃隊は一旦街道上に集合し、現状の把握を行った。
「シーナ、他の分隊の戦況はどうだ?」
「……5分隊と7分隊はオークがこちらに来ましたので、残るボアは都合7頭。これは既に制圧されているようです。1分隊から4分隊、9分隊に10分隊はオークが健在ですが、後衛の分隊が増援に入りましたので時間の問題かと?」
「他に潜伏している魔獣はいるかしら? ナルの村の時みたいに」
容子が周りを警戒しながらシーナに確認を促した。
「いえ、今この先から湖までの間はボアやオーク級の反応は有りません。せいぜい芋虫程度のウォームや大きくてもスライムくらいです。他のブロックは距離がありますから、ちょっと……」
シーナの報告を頭の中で再構成しながら、誠一は遊撃隊の現在地を分析する。
「位置的には1分隊と同じか若干先行してるくらいか?」
「ブレン軍曹、意見具申」
現在地と敵情を把握したエスハンが声を上げた。
「友軍の状況に問題は無いと考えます。我が隊はこのまま先行して、魔獣の有無を目視で確認すべきです」
「賛成だが、俺たちが勝手に動いてもいいかな?」
「ブレーダー閣下、及び討伐隊長から、他分隊の行動を阻害しない限り、自由に動いて良いとのお言葉を賜っております」
「そっか? じゃあ最初の陣形に戻して街道を北上してみようか。各員、周囲を警戒しながら前進!」
改めて誠一の号令が響く。
良二たちは態勢を整え、湖に向かって前進を始めた。




