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水源地防衛線

「吾輩は、他方にも巡回せねばならぬのでこれにて失礼するが、何か問題が有れば、すぐ念話にて知らせられよ」

 良二ら遊撃隊を魔獣掃討作戦の現場に送り届けたブレーダーは、慌ただしくも次の目的地へ転移していった。

 ブレーダーに転移で連れてこられた場所は、うっそうと茂る森であった。

 東と西の山の間に位置するその森は、東西に約1.5kmの幅で南北には2km強の距離がある。

 中心には直径800mほどの湖があり、東西の山から川が流れ込み、更に南北の川へ流れ出ている。

 その川の先、それぞれ3km程離れたところに農業、牧畜を中心とした村があり、さらに下流にも集落がある。

 つまりこの湖は、それらの村や集落の水源であり、その湖を東に迂回する形で通された街道は南北の村落を繋げる要衝でもある訳だが、その森全体に魔獣が相当数、居付いているとの事。今回の作戦はその魔獣を駆除・掃討する事が主任務である。

 作戦は川で分断された4つのブロックそれぞれに1個中隊200名が投入され、攻め手に充てられた人数は総勢約800名。大隊としても結構な大所帯な部類となる。更に控えや後方の兵站等を入れると全部で1個連隊規模と言ってもいいだろう。

 魔獣の、村落側への逃走を避けるために南北から包囲する形で進軍することになるが、ほぼ十文字に走る川が同士討ちや混乱を避ける目印になりそうだ。

 編成は各ブロック10人前後で1個分隊を作り、前衛、後衛それぞれ10個分隊ずつ等間隔に前進するというものだった。

 森の中は平坦では無いが、さほど大きな起伏は無く、テクニア討伐戦で野営した付近の森よりなだらかで、水平方向の視界は良好だ。

 だが、油断すると倒木や雑草に隠れた窪み、落ち葉等で見辛くなっている泥濘ぬかるみに足を取られる事も有るので気は抜けるものではない。

 茂っている樹々の勢いも強く、陽の光もかなり遮られている。空を臨めるのは街道周辺に限られるだろう。

 様々な種族が寄り集まる魔界軍だが、このような森では翼を持つハーピーをはじめとした飛行可能な種族は運用が限られると判断されてその投入数は限られており、剣士や槍兵の比率が高い編成だ。

 良二たち遊撃隊は魔界での作戦行動は初めてでもあり、東南ブロックの街道沿いの後衛を任されていた。

「予想される魔獣はどんなタイプなのかな?」

 良二は、昨日練習試合でカリンの相手をした、エスハン・ブレン軍曹に聞いてみた。

 ブレーダーの指示で、案内と助言をする役として遊撃隊に付いてくれているダークエルフの兵士である。

「斥候の報告によりますと、主力はエレファントボア……象猪とオークだそうです。数は森全体で総数100~120と見ております。細かい蟲系の魔獣もいますが動きも鈍いし、踏んづけて潰せる程度ですよ」

「魔界の魔獣は大型だって聞いたけど?」

「象猪だと3mくらいが平均です」

 テクニア戦の時の象猪が2m程度だったから、やはり大型か。

「奴は大きいですが動きが単純です。油断しなければ攻める事も逃げる事も容易ですがオークは厄介ですね、連中は、倒木を利用した、こん棒のような武器を使います」

「知能が有るって事かな?」

「ここ数年の魔獣は確かに妙なんです。オークは人型の魔獣ですから物を投げたりするのは以前から確認されてましたが、今では武器を使いこなしていると言ってもいいほどの個体もいますからね。樹や草むらに偽装して待ち構える、なんてマネをしたという報告も」

「俺たちは伏兵戦術を仕掛けられて、あわや全滅かってとこまで追い詰められたよ」

「みんな噂してますよ。三界に続く、魔獣らによる第四の勢力が誕生するんじゃないかって」

「そりゃまた突飛だな。だってアデスは数万年、数十万年の歴史を経て今の三界があるんだろ? たった2年や3年で魔獣が進化するとは考え難いんじゃないかな?」

「多分、誰かが冗談で言ったのが尾鰭足鰭ってやつでしょうね。でも本気で信じてる奴らもいるんですよ?」

 エスハンも苦笑しながら答える。本気にしているのは少数らしい。

 などと駄弁っているうちに、森の入り口から後方500m程度のところで設置された討伐隊本部から狼煙のろしが上がった。

 10:30作戦開始だ。

「よし、まずはいつもの陣形で行くぞ。ブレン軍曹、俺に付いてくれるか?」

 誠一が遊撃隊全員に指令する。

 いつもの陣形。前衛左右に誠一・良二、後衛メア・カリン・シーナ、中心に美月・容子の布陣だ。

「了解です、少佐」

 そう言うとエスハンは誠一の左に付いた。


 作戦開始と同時に、前衛10個分隊が右翼側から順番に前進を始めた。

 索敵・警戒しながらの前進なので速度は時速2km程度と言ったところだろう。

 全隊が順に動きだしたあと、最後21個目の分隊として遊撃隊も前進を開始した。

 ぶっちゃけテクニア戦同様、遊撃隊はお客さん扱いなので歩きやすい街道沿いを宛がわれたわけで、自分らが真っ先に会敵する可能性が低いってのはわかっている。

 だが、当然ではあるが両隣の分隊等、支援が必要なら隊を割っても対処しなければならない。

 何より、自分たちも体験している魔獣の組織だった行動を見れば、どんな戦術が飛び出してくるか全く油断はできない。

 今でも偽装しながら待ち伏せしている魔獣が、いきなり足元から飛び出して、襲い掛かってきても不思議ではないのだ。

「うわ、居ますね。ん~、最初の会敵は7分隊辺りだと思います。次に1分隊と2分隊かと」

 シーナが索敵を使ったのであろう、状況を報告してくれる。

「既に待ち構えているのか?」

「ここ1年くらい、魔獣は組織だって群れて来る事が多いですからね。待ち伏せされると想定して、最初に四方で部隊をわざとらしく展開させるんです。そうすることで連中を大体の予想域で群れさせる作戦なんですよ」

 エスハンが解説を交えて答えてくれた。魔界軍はもう既に、魔獣は組織立って行動するものと言う前提で作戦が立案されている模様だ。

「そこで各個撃破か」

「今回は一群に対し前衛2個分隊、後衛も同じく2個分隊を基本とした陣形になってるはずです」

 エスハンの説明を聞き、改めてシーナを見る良二。

「7分隊は80mは先行してるし、2分隊は200mくらい離れて無いか? よく分かるな」

 元々シーナの索敵には一目置いていた良二だったが、最近は更に磨きが掛って来たように思う。まるで歩くレーダーだ。

「……象猪が4ないし5頭、それにオークが1頭ついて1群を作ってます。それが4つ」

「やっぱり魔獣も分隊で動いてるのか?」

 誠一が訝し気に呟く。魔界軍が想定している様に、魔獣が組織立っているのは間違いなさそうだ。

 だが、明確な指揮官が居ない上、どうやって意思疎通をしているのか? 

 謎はまだまだ多い。 


 ボン!

 7分隊の方向から火球の破裂する音が聞こえた。

 シーナの予想通り、まずはこの7分隊が会敵したようだ。

「次、1、2分隊も会敵します。こちらの魔獣群は数が多いです。3、4分隊が支援に向かいました」

 右翼の奥の方からも騒がしい音が聞こえはじめた。

 やがて中央5、6分隊、左翼9、10分隊も戦闘を開始したらしく、森全体が騒がしくなってきた。

「前線に友軍のスキや穴は出来ているか?」

 誠一がシーナに尋ねた。

「11分隊以降が後詰めと周囲への展開を始めていますが、敢えて言うなら……」

「言うなら?」

 続けて聞くと間髪入れずシーナは叫んだ。

「街道です! 左右から5~6頭のオークが集結しながら街道へ向かって前進中!」

 正面か! 良二は水剣の柄を握りながら街道の奥を凝視した。

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