YES? NO?
話が弾むのも結構な事だが、今回の訪問の目的の一つである例の計画絡みの話も疎かには出来ない。
誠一も話題をシフトさせていく。
「召喚された頃に比べれば、我々も事情は大分知らされては居りますが、まだまだ釈然と出来るほどではありません。まあ、やむを得ないところもございましょうが……」
以前と比べると誠一も、姑息と言えるほどのハッタリ法は控える方向に変えて来ていた。
あまりそれが当たり前になっても過ぎたるは、と言うやつで、結果自分の首を絞める事になるのは明白である。
「吾輩も計画中枢の部分までは携わっておらんものでな。今では貴官に伝えられる事は、ほぼ無いのではないかの。吾輩の担当は作戦中に予想される魔獣の発生・集中に対応する現象に重きを置いた討伐作戦の検討・立案が主でな」
「魔素異変の時の、転送魔法陣近くで起こった大量発生、全くの予想外だったと聞いております」
「異変が起こったのは6度目だった。5度目までの作戦は順調に進んでいて規模を拡大した途端の出来事であった。それまでの魔法陣周辺には魔素濃度そのものは変わらなかったはずなのだが、6度目に限って大量発生しおった」
「6度目に限ってですか?」
「本来、魔獣が見る間に発生するとなると、野獣や魔獣の遺骸のような依り代が必要になってくるはずなのだが、当時は現場の守護隊は壊滅で、大量発生の証言も、息絶える寸前の伝聞でしかなく、確とした情報は得られてないとのことだ」
「その時の魔獣の行動状況はどの様なものだったのでしょうなぁ。闇雲に近辺の魔導士を喰い散らかしたのか、それとも……」
「貴官の言わんとする事はわかる。今現在散見される、統制の取れた魔獣の行動の事であろう? 残念ながら500年前は混乱の極みであり、突然の魔獣発生と同じく、そこまでの記録が残っては居らんのだ」
「現在、魔界の魔獣も組織だった動きをしているわけですね?」
「で、あるならば、その組織に存在するであろう頂点……魔獣の王とでも呼べる存在は今尚、確認されてはおらん。しかし、それがあるかの如き昨今の動きは、無視は出来まいて」
「魔獣の組織化。ミカドの新生。その四天王として我々が、8魔王や最上級神12柱と肩を並べる存在となる事を期待されるなど、雲を掴む、掴まない以上のお話しですわ」
「ふはは、すでに時空神ホーラ殿や、我らが大魔王陛下を手玉に取った貴官の事、そうなるのも時間の問題では無いか? 実は明日、辺境で大規模な魔獣討伐作戦が実行されるのだが、訓練も兼ねて貴官らも参加してはどうか?」
「魔獣討伐? 辺境……と言うとここから如何ほどの場所で?」
「我が領地と、火王プロマーシュ領との領境に近いところでな。馬車ならまあ、半月と言ったところだが、貴官らは吾輩が転移で送迎する故、そこは心配無用だ」
「なるほど……使節団の行程とはそれほどズレは無さそうですな。で、あれば是非参加させていただきたく……」
「うむ、歓迎しよう!」
「そう言えば転移の魔法はかなり高位の魔法だと聞いています。先程の歓迎会は……」
「勿論、吾輩の仕業だ。それぞれの兵士を個別に任意の場所に転移できるまで発展させたのだが、魔力の消費が激しく、実戦でもおいそれとは使えんのが短所だが……では明日の9時に、こちらへ出向いていただけるか?」
「承知いたしました、宜しくお願いします」
誠一らの話がまとまる頃、組み手の勝負もついたようだ。
やたら気合いの入っていたカリンの一本勝ちであった。
結局訓練と言うより終始、練習試合の様相で夕暮れを迎えるまで続けられた。
7人で2個分隊相手はさすがに堪える内容ではあった。
良二が組み合ったのは4人。流石に長年鍛えられた兵士相手ではヒヤリとする事も当然多かったが、まともに一太刀入れられたのは1回だけというのは自分でも意外だった。以前にも増して身体が軽やかに、思った通りに動くのである。
積み上げた修行の成果が実感できるのは嬉しいもので、訓練最後の団体戦はいい加減、身体に疲れが出ていたはずだが気合は十分だった。
その団体戦においても得るものは多かった。
種族ごとの特性を活かす彼らの戦い方はまさに百花繚乱、ヒト族中心で動く人間界のそれより種族の特性が突出しており、それを踏まえて個別に仲間の長所短所を知り尽くしながら作戦目的を達するスタイルは、まさに特別遊撃隊のそれであり、大いに参考になった。
ホーラやラーが勧めた事も納得である。
急遽決まった明日の遠征を控え、遊撃隊の面々は十分英気を養うべく、今夜もラーの屋敷にお世話になる事にした。
フィリア邸以上の大浴場で訓練の垢を落とした一行は、豪華な魔界料理に舌鼓を打ち、食後の一時をサロンで寛いでいた。
仕事を早めに切り上げたホーラやアイラオも、ちゃっかり加わっている。
「昨日もそうだけど、今日のご飯も美味しかったねぇ。ラーさんちのコックさんの腕なのか、魔界の食材だからなのかしら?」
食後のお茶を飲みながら美月が満足そうな顔で言った。彼女に限らず、遊撃隊一同の共通の感想でもあった。
「メイドさんに聞きましたが、人間界の食材より含まれる魔素濃度が高くて、旨みをより際立たせているそうですわ」
と、シーナが説明。その辺りの明細を詳しく聞くために誠一は現在、厨房に突撃している。
日本では、家族の食事は嫁さんとほぼ半分ずつ調理を担当していたので興味津々なのだ。
「逆に魔界の人は人間界の料理は上品な味つけだって、それはそれで好評らしいっすよ」
「パンジュウ持ってきたら売れるかなあ?」
と、アイラオ。一同笑い。
「ところでさあ、容子、良さん?」
「ん? なんだ?」
「魔界に来てから身体おかしくない?」
「おかしい? 美月、何の事?」
「おかしいって言うか、身体が何か熱いって言うか」
美月に言われて良二は、ゲートを通った瞬間に感じた、あの違和感を思い出した。
「魔界に来た瞬間、なんかの違和感? まあ全然不快とかじゃ無いんだけど、確かに妙な感覚に襲われた感じはあったな」
「そう言えば、主様も一瞬呆けたような、お顔をしてらっしゃいましたよね?」
良二の言葉に応じ、シーナがメアに尋ねた。
「ああ。なんか足止めて明後日の方を見てたって言うか……お前も魔界初めてだよな? クロさんみたいに立ち止まるような何か、感じたか?」
首を横に振るシーナ。やはりアデス人はあれを感じていないらしい。
「考えられるとすれば、魔界は人間界より魔素濃度が濃いと言う事であろうな」
ホーラが啜っていたティーカップを置きながら持論を述べた。
良二としても今日の訓練における動きの軽やかさには喜ぶ反面、若干奇妙にも感じており、魔界に入国した瞬間に感じた、あの感覚と繋げられるか? とは考えていた。折を見て誠一とも話し合って見ようとは思っていたが。
「セイイチさまはじめ、チキュウの方々は人間界でも魔素を急激に吸収し始め、人並外れた運動神経、魔素ブーストでしたか? それをものにされておりましたから、魔界においてもなにかしらの、私共アデスの者とは違った反応が期待できる可能性は捨てきれませんね」
「それでかな……」
「先輩? どうされました?」
「ん? ああ、実は昨晩の事なんだけどね……」
「そう言えば夕べの伽は貴様だったか? 薬が没収されて残念だったな?」
「全く、融通の利かないお役人ですわ。ホーラさま、神罰の一つも与えちゃって下さいな!」
いや、やめとこうよ……単に職務に忠実だっただけなんだからぁ、と思わずにいられない良二である。
「今夜は、メイスも用事があって帰れないと言っておる。明日時間が出来次第、エスエリアに戻って薬を入手してくるがな。今宵はシーナの番だったはずだが、ま、今回は諦めろ」
意地悪く笑いながら言うホーラ。シーナ、思わず唇を尖らすの図。
ところがメア。
「それが……夕べのクロさん……」
「え? メアさん、セイイチさまに何か?」
困惑ぎみのメアの表情に、何か妙な引っ掛りを感じるラー。同じく容子も聞いてみた。
「どうしたの? 隊長の様子に何か? 言ってごらんなさいよ?」
誠一の体に何か変調があれば、それは自分らにも起こり得る事である。
容子はもちろん、良二や美月もメアの言葉を待った。
「あ~、だからその、夕べは……薬なしでクロさんに……抱いてもらえたっす」
そっちか~い!
まるでカウンター喰らったかのように椅子からずっこける容子・美月、茶を噴き出す良二に、はぁ? と眉毛がハの字になるアイラオ。メアちゃん、苦笑いで後頭部ポリポリ。
対してホーラ、ラー、シーナの目はカッと見開かれ、メアに注目!
「な、なんですとー!」
「先輩それって!」
「まことか!」
三人の喰い付きが凄まじい。いきなりの夜の営みをオブラートにも包まずに吐露するってぇのは、良二にはどちらかと言うとドン引きであったが。
その辺三人は全くお構いなしで、「そこんとこ詳しく!」状態である。
「あたしも諦めてたんすよ? 今までも薬なしじゃ全然だったし。クロさん自身も随分意外だったようで……その、抱っこしてもらったりで甘えてたらクロさんのアレ、奮起し始めて……それでそのまま……」
「で、どうでしたの!? 最後まで持続なされてましたの!?」
「正直に吐け! 途中で折れたとかそう言うオチではあるまいな!? 今までとの違いはあったか! 同様か!? どうなのだ!?」
「先輩! 勿体ぶらず、お早く!」
「あ、いや~、最後までと言うか、なんと言うか、ちゃんと満足させていただいた……って言うか、今までで一番……凄かったっす……」
「い、今まで以上ですとぉ!? もしや先程の魔界版魔素ブーストとやらがチキュウ人の男性機能を!」
「そ、その様なことが……。シーナ! 貴様、明日は遠征であったな!? 疲れが残っては明日の作戦に支障が出るやもしれん! 今日のところは我と変わるがよい!!」
「ホーラさま! それはご無体です! 何より一度決めたシフトに申し立ては許さないと決めたのはホーラさまではありませんか!」
「いえいえ! これは緊急事態ですわ! 今後の事もございますし、今宵は唯一の例外と言う事で! この私が実験台となりましょう!」
言葉は選ばれてはいるものの、3人は目を激しく血走らせながら、それはそれは凄まじい勢いでの欲望の応酬を繰り広げた。
しかしながら、結局のところ、単にエロいこと話してるだけなんだよなこれ……良二は思わずジト目にならざるを得なかった。
――いやあんたら……俺と言う男が目の前にいるってこと忘れとりゃせんか? 俺は数に入りませんか? そうですか?
「ねえ良くん……」
三人を見る容子もジト目であった。
「話がアレだから、あなたを外に追い出そうと思ったけど……機会、逃しちゃって……」
カリンもまたジト目。
「リョウジぃ、この世の全ての女がこれもんだと思わないでね……」
二人の言葉を聞き、自分の奥はまだ一般常識が支配していることをとてもうれしく思う良二くんであった。
だがしかし、「あれ?」とアイラオが転移の反応を察知。
「リョウく~ん!」
大魔王陛下降臨である。
「話は聞かせてもらったわ! リョウくん、そう言う事なら今夜はあたしの寝室にいらっしゃ~い!!」
ライラ陛下の、小脇に「はい・いいえ」と書かれた枕を抱えてのご登場に、良二は盛大にひっくり返った。「なんだってそんなもん!」てなもんだ。




