魔界軍訪問
謁見の儀こそ行われたが今回の訪問は表向き非公式である。
本来ならこの後、午餐の宴など交流の場が催されるのが普通だが、そう言った訳で今回はそれらの親睦行事等は無い。
良二らは昼食をそのまま控えの間で仕出しの料理でさっさと済ませると、午後からの軍事交流に臨むため、防衛軍駐屯地に向かった。
駐屯地は城からは徒歩で行くには距離があり、馬車で行くには物足りない程度に離れた場所に位置しているが、ラーの勧めで馬車を借りて移動した。
魔王府敷地内の一部には、防衛軍の首都防衛隊である第一防衛団が駐屯しており、防衛軍司令部も同じ場所にある。
駐屯地は郊外のそれよりも規模は小さいが訓練場も併設されており、魔王府敷地内ではあるものの、更に防壁で囲まれていた。
まずはその訓練場で、指南を受ける魔界兵士とご対面となる。
駐屯地正門入口で馬車を降りた遊撃隊一行は、警衛隊に案内されて中に入った。
「ライラさんの話だと、指南役って謁見の時に並んでた覇王のブレイダーさん……殿? らしいけど、大丈夫かな? ムチャクチャ怖そうだったんだけど」
正門警衛所で説明された目的場所の国旗掲揚塔を目指して移動中に、美月がちょっとビビりながら言った。
「ゲルド・ブレーダー上級大将、元帥の称号を持つ猛将だそうだ。魔素異変時の人間界における魔獣討伐の最大功労者だとか」
誠一がラーから教えてもらった事を皆に伝える。
「どんな訓練受けるのかしら? ホーラさんがレベルアップするのに絶対受けた方が良いって言ってたけど」
容子もちょっと警戒感増。誠一や魔導団の指南役相手にはよく訓練はしていたが、ホーラが言うほどだからそれよりは激しいのかも? と。
「実は訓練はもう始まってて、突然刺客が襲ってくるとか? ありそうっすね~」
と、メアが冗談交じりに言った。
「おい、メア……」
メアの、フラグな予感バンバンのセリフに、良二が脱力したように漏らす。
「メア~、そう言うのふらぐってのになるから気を付けろとリョウジがあれほど……」
「まあ、その程度はシャレのうちかもな。みんな気を緩めるなよ?」
誠一が小声で皆に警戒を促した。
目的の掲揚塔までは距離70~80mと言ったところ、塔の袂に目線を移すと、そこに控えている大男が見える。
それが今回の指南役とされる覇王ブレーダーであるらしい事は、その背丈の大きさから見ても間違いなさそうだ。元帥閣下自らお出迎えとかおそれ多い限りである。
彼を中心に2個分隊ほどが左右に控えている。今回の訓練相手か?
「良よ、あの連中が間合いに入るまで待っていると思うか?」
「うん。まず、それは無いだろうね。伊達や酔狂で数並べてる訳じゃないだろうし。ホーラさんたちが人間界での訓練よりこちらを推すって事は、こちらの方がより実戦的とか格上ってことだろ? ランボー教官じゃないけど、最初にガツンとやってくると思うな」
「良くんも先読みに慣れて来た? 副隊長としての面目躍如ね」
容子が冷やかし半分でからかう。思わず苦笑いで応える良二。
「来ます、転移です!」
ラーたちが現れる時とよく似た地磁気の乱れを感じたシーナが叫んだ。
予感的中。同時に良二たちは本気モードになり、顔つき目つきに力が入る。
状況開始だ。
良二と誠一はそれぞれの魔法剣を起動、美月も肩から吊っていたブルパップ錫杖を構える。
転移による奇襲ならば恐らくは包囲を狙って現れるはず、そう考えた良二と誠一は前衛に並んで10時から2時までを受け持ち、後衛カリンとシーナ、メアでそれぞれ3時、6時、9時。中央に容子が立ち、その前に立つ美月は12時に照準を合わせる。その間1秒弱。
予想通り、魔界軍は遊撃隊を囲む形で現れた。
兵たちは既に抜刀している。やる気満々だ。
だが、そのおかげでこちらも遠慮する必要は無くなった。
「おおりゃぁー!」
現れるや否や斬りかかる良二と誠一。
奇襲人数は遊撃隊と同数の7。意外とフェアか?
まずは会敵と同時に良二、誠一が左右前方の二人、正面を美月が銃撃して一瞬で沈黙させる。
仕掛ける側とすれば、転移による奇襲なら相手が何が起こったか理解する前に倒せるだろうと目論んでいたかもしれない。
だが実際は、転移した自分らの足が地に着く間もない内に初手を食らい、逆に自分たちが戸惑う羽目になった。
後方はカリン、シーナ、メアが連携して引き受ける。
カリンはデスサイズ薙刀モードで3時の敵兵を峰撃ち、文字通り薙ぎ倒した。
今は二刀流となったシーナは、現れたばかりで、遊撃隊各員の位置を把握しきれていない相手を二本の刀とフサフサの尻尾を燻らせ、狐のチャーミング狩猟宜しく相手を翻弄する。
完全な奇襲だと思っていた魔界軍兵士は困惑し、そこに出来たスキを逃さずメアが鉤爪と蹴りで怯ませ、シーナの刀と加勢のカリンが5時と7時の二人をなぎ倒す。
最後の一人、9時の相手は容子が風撃で飛ばそうと思い構えたが、接近戦が不利な美月が新たに装備したサイドアームの拳銃型錫杖(マジでもう錫杖と呼べない……)を左手で抜き、
パン! パン!
と、相手のどてっ腹に二発ブッ放して無力化した。
前方は片付いたのでブルパップでも狙えたのだが、新しく装備した武器の試用も兼ねて使ったようだ。
うん、悪くない! 美月はご機嫌だった。
第一陣制圧完了、掲揚塔に向かって前進。
「次、来ます!」
シーナの警告と同時に、良二はブレーダー横の分隊の姿が消えているのに気付いた。
二陣は約10人。一陣と違って若干距離を取っている。
誠一は魔素ブースト稼働、居合の構えから振り抜いて一人目を倒し、ついで振り下ろしてもう一人を斬り抜き、あっという間に二人を屠る。
良二には三人が斬りつけてきた。
良二は一瞬迷いかけたが、美月が相手の足元に火球小銃を掃射し、脚止めをしてくれたので、一番前に出ていた真ん中に、目標を定めることが出来た。
目標の兵士を、水剣最長モードで相手の間合いより先に袈裟斬りに叩き、返す刀で右のわき腹をブッ叩く。
残るもう一人は美月が単連射二発を第一陣と同様、腹部に撃ち込み、ふっ飛ばした。
残り5人、カリンたちの加勢がてら誠一は、
「美月、擲弾筒! 次を出す前に本隊に撃ち込んでやれ!」
と、指示。
「了解!」
言われた通り、美月は錫杖にアタッチメントを即座に装着。良二は美月と容子の直衛に回った。
美月は爆裂火球弾をチャージ。しかし訓練用の、殺傷力の無い弱装火球なので時間は早い。
第三陣で出るつもりだったであろう分隊が抜刀し、転移の準備を始めたその時に、美月は連中の5~6m手前くらいを狙って爆裂火球を撃ちこんだ。
ヴォォンム!
分隊の手前で榴弾よろしく弾けた火球は、慣性も相まって隊全体に降りかかる様に注がれた。
弱装ゆえ、目にさえ入らなければ大したダメージは無いものの、出鼻をくじくには十分すぎた。思わぬ遠距離攻撃に驚き、転倒する者も数人いた。だが態勢を整えればまた、かかってこよう。後方の支援は誠一に任せ、良二は第三陣に備えた。
そんなところで、
「それまで!」
訓練場全域に響き渡る、怒号の如き大声が良二らの耳を襲った。ライラほどではないが、それに準じるほどの気も感じる。
声の主は、言わずと知れたブレーダーだ。良二たち遊撃隊も、魔界兵士も同時にその動きをピタッと止めた。
「状況終了……合格かな?」
誠一が皮肉を込めて立ち会っていた魔界兵士に尋ねた。
聞かれた兵士はそれには答えず、ただ苦笑しながら肩を竦めるだけだった。




