ある町の男の子。(1)
こっから話を分けていくと思います。(前編と後編みたいに)
「……という事でネクロマンサーの娘は、人々の心を救ったのです。」
半壊した教会の中で、男の子が女の子を膝の中に抱え込み、読み聞かせをしている。2人とも美しい黒髪に緑の目だ。ただし、身なりは綺麗とは言えない。
「わーい!よかったね、お兄ちゃん!……いいなぁ、私もこんなネクロマンサーになりたい。」
無邪気な妹に兄は優しくその頭を撫でて答える。
「きっとなれるよ。だって○○○は……。」
懐かしい夢を見たと起きたばかりのぼんやりとした頭で考える。素早く整えて、宿を出た。
春のうららかな野原をカンテラの指す方に従って行く。ずっと東を指している。
野の柔らかい香りを楽しみ、いくつかの丘を登り降りすると、ある村に着いた。今回送るべき人はここにいるようだ。モルテは軽く息を吐き、町の中に入っていった。
雑多な商店街、小綺麗な教会などを通り過ぎて、町の隅っこ。そこには小さな公園があり、12ほどの男の子が5歳くらいの女の子に読み聞かせをしている。2人はよく似ていた。
その微笑ましい光景を見つめつつ、モルテは泣きそうになった。死とは老若男女全員にその毒牙をかけるのだ。
カンテラの火は無情にも男の子の死を予言した。
……泣いている場合では無いので、モルテは彼らに話しかけた。
「お兄ちゃん、妹ちゃんの面倒見てえらいね。」
「……誰ですか?」
男の子は訝しげにモルテを見た。
「旅の者です。……少しこの町のオススメな宿屋さんとか知らないかなって。」
「それならウチに来て!良い宿だよ!」
「……うん、じゃあそうしようかな。」
モルテの言葉を聞いた男の子はぱぁと顔を輝かせて答える。
「ちょうど良かった。これからお店に帰るんだ。旅人さん、案内するよ!」
そう言うが早いか、男の子はぴょんと立ち上がって女の子を立たせる。女の子も兄の真似なのか、ぴょこりと立ち上がる。
そうしてモルテを2人は先導して歩き出した。
「お母さ〜ん!お客さん連れてきたよ!!」
母と呼ばれたその女の人は振り返って此方を見る。モルテは会釈をした。
「あら。ようこそ、宿屋『リンゴの木の下』へ。私は店主のユウナよ。いつまで泊まるのかしら?食事はつける?」
「とりあえず3日、食事付きでお願いします。」
「分かったわ。何かあれば言ってちょうだい。お風呂は各部屋についていて、ご飯は食べたくなったら降りてきてね。この通り、1階が酒場になってるから。2階が宿泊用の部屋よ。ユウリ、案内してあげて。」
女将さんがそういうと、先程の男の子が出てくる。
「お姉さん、ついてきて!」
そうしてモルテはようやく腰を下ろせたのであった。
だが、彼女の仕事はここからだ。あの男の子の、死んでもこの世に留まってしまいそうになる苦悩を解決せねばならない。