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0 序章8 勇者正夫

 王都メイポートの前に広がる湾内に戦艦『みかわ』は錨を降ろした。

正夫は戦艦『みかわ』を王都の東にある半島より外に停泊し、里帰りを終えたエミリーとメイヴィスをこっそり迎えに行くつもりだった。

しかし、国王フランクと試合をしてほしいと、メイヴィスから魔素を介した念話で伝えられる。

王妃たちに責められたフランクが、試合で正夫が力を見せればエミリー、メイヴィスの夫として認めると約束させられたというのだ。試合は公式な行事として執り行われるという。

それなら、他の妻たちも同行させ、里帰りさせても問題ないだろうと正夫は考えた。妻たちの多くはオースランド王国出身だ。正夫が指名手配犯扱いされているため、オースランド王国出身の妻たちは何年も里帰りしていない。正夫は戦艦『みかわ』でロシュエート王国に残してきた他の妻たちを迎えにいき、そのまま湾内に乗り入れた。




 「おい、なんで海に城が建ってんだ」


海の方が騒がしいのに気付き店から出てきた商店主は、海岸に集まり騒いでいる人達に聞いた。


「おう、最初から見ていたやつらが言うには、船のように海の上を走ってきたってよ」

「馬鹿言うな、どう見てもあの城は金属製だろ。どうして王城よりでかい金属の塊が水に浮くんだ」


この世界では船は軽い木で出来ているから浮く。金属は重いから沈む。そんな認識だった。


「知らねえよ。嘘だと思うなら、なんで建ってるか説明してみろよ」

「うーん……悪魔の力かな」


「悪魔だって!」

「「えー悪魔の城だって!」」


商店主が呟いた一言が、瞬く間に伝搬して大騒ぎになる。

そこへ、馬に乗った王城の騎士が現れ、大声を上げる。


「静まれ!恐れる必要はない。海に浮かんでるのは勇者正夫の船だ」


「「「「あれが船だって」」」」


「そうだ。勇者正夫が国王陛下と試合をするため湾内まで船を乗り入れたのだ。本日の午後、王城前の広場で国王陛下と勇者正夫の試合が行われる。金貨1枚、特別席は金貨5枚で観戦できる。希望する者は広場に作られた受付まで来るように」


騎士の話を聞いた人々は静まるどころかさらに大騒ぎになった。


「それじゃあな」


商店主は大急ぎで店に向かって駆けていく。他の裕福な人も金貨を取りに家に向かって慌てて駆け出す。残ったのは生活に余裕がなく金貨を用意できない人々だ。国王と伝説の勇者正夫(へんたい)の試合。お金さえあれば誰もが観戦したかった。


「頼む。お金を貸してくれ。倍にして返してもいい」

「馬鹿言うな、そんな金があったら自分で見に行くぞ」


そんな会話があちらこちらで起るが、残っているのはお金に余裕がない人々だけだ。次第に諦め、静かになっていく。そして、戦艦『みかわ』から内火艇が降ろされ軍港に向かうと、せめて伝説の勇者正夫(へんたい)を一目見ようと軍港に向かってぞろぞろと歩き出す。


「しかし、さすが伝説の勇者正夫(へんたい)だ。船まで一物をおっ立ててるんだからな」

「おお。しかも王城よりデカい一物だ」

勇者正夫(へんたい)の一物は城よりデカいってか」


交わした冗談がエスカレートして伝わっていく。


勇者正夫(へんたい)は何十メートルもある一物を持ってて、おっ立てると王城より高いそうだ」

「俺は15本の一物を振り回し、魔獣を蹂躙したって聞いたぞ」


噂される神藤正夫はもはや人間ではなくなっていく。




 王城前の広場に作られた試合会場には大勢の観衆が詰めかけていた。

直径50メートルほどの試合場を囲うように盛り土がされ、垂直の壁が造られている。その上の観客席はひな壇状に造られ、どの席からも試合場を見渡すことが出来るようになっている。最前列が豪華に造られた特別席だ。


 大勢の観衆が見守る中、軍港から4台の大型馬車が到着した。馬車は試合場の中央に乗り入れ、先頭の馬車の扉が開けられる。

最初に降りてきたのは、白い軍服を着た細身の男だ。

黒い髪、黒い目、そして少し大きめの尖った耳をした男は会場に降り立つと、待っていたエミリーとメイヴィスに迎えられる。


「なんだ化け物のような男だと思ってたら、普通じゃないか」


そんな声も聞こえたが、


「エミリー様を帰せ変態め!」

「メイヴィス様なんでそんな変態に……。許さんぞ神藤正夫!」


観衆に混ざった騎士が罵声を上げる。


「あいつが神藤正夫か、神殿の巫女様たちを何人もたぶらかした大変態」

「女奴隷もあいつが買い占めたせいで相場が跳ね上がったらしいぞ」

「「「死ね!死んでしまえ」」」


観衆全体に罵声が広がっていく。



 次に馬車から降りてきたのは、プラチナブロンドの美しいエルフとウサギの耳を付けた二人の美少女だった。エルフの美女は神藤正夫に後ろから抱き着くと罵声を上げる観客を睨みつける。

ウサ耳の少女たちは罵声の上がる観客席を手をかざして面白そうに眺める。


「ああ!カロリーヌ様!神藤正夫め許さん。爆発してしまえ」

「カロリーヌ様、なんでそんな変態を召喚したんだ。それにマヨ様、ネイズ様そんな姿にされたのにどうして、どうして付いていってしまったんだ。ああ!この世に神はいないのか」

「マヨ様、ネイズ様、可愛すぎる~!くそー!神藤正夫(へんたい)さえいなければ」

「「「死ね!死んでしまえ」」」



 怒声と悲鳴が渦まく中、次に姿を見せたのは長身でグラマラスな美女。

腰まである赤い髪は炎の様に波打ち輝いている。身に纏っているのは皮と金属で出来た鎧のようだが最低限の場所しか隠していない過激なものだ。その美女に観客の目は釘付けになる。


「ねえ正夫、エロい目で見てる奴ら焼き払っていい?」


スパーーーン!

「「いいわけないでしょ!!」」


過激な発言をした美女の後頭部を、後から降りてきた小柄な二人がどつく。


「いったー。なにするのよ。冗談に決まってるでしょ!」

「真由美が言うと冗談に聞こえないわよ」


抗議する美女に、どついた片割れ、小柄な赤毛の戦士が反論する。


「そんなエッチな恰好をしてるから。エロい目で見られて当然よ」


もう一人、小柄なエルフが無い胸を張って宣言する。


「ええー!召喚された時、この衣装が魔王の証しだって。公式の行事だと、この恰好じゃないと真の魔王と認められないって」


「「騙されてる。絶対だまされている」」


「そんなー」


真由美と呼ばれた美女は恥ずかしくなったのか、両手で体を隠しクネクネしだす。


スパーーーン!

「「今さら恥ずかしがるな!!」」


二人は再び突っ込みをいれる。



 「おい、あの赤い髪の美女、行方知れずになってた魔王真由美じゃないか」


じゃれあう3人を見ていた観客の一人が真由美の正体に気付き大声を上げる。


「ウスター王国が召喚した魔王にどつき漫才をやらせるなんて、変態勇者パネーなおい」

「一緒に漫才やってるのは、神殿の女騎士だったローラと、小さいエルフは巫女のジュディーじゃないか」


名前の上がった二人はうんうんと頷く。


「あんなちんちくりんまで連れてくなんて、変態勇者パネーなおい」


「「なんだとゴラー!ぶっ殺す!」」

スパパーン!


観客席を威嚇する二人をこんどは真由美がどつく。

真由美にどつかれた二人は、正夫に駆け寄るとカロリーヌを押しのけて抱き着く。


「ああーん、正夫。みんな酷いんだよ」

「そうよ、カロリーヌとおんなじエルフなのに、この差はなに」


長身の正夫が二人の頭を撫ぜて慰めるが、その光景は虐められて泣く娘と慰める父親にしか見えなかった。

そして、ローラとジュディーは、観客の扱いが冷たいと嘆いていたが、二人に熱い視線を送る一団が存在することに気付かなかった。神殿の女騎士だったローラと巫女だったジュディーにも熱烈なファンがいたのだ。


「ぐへへ。ローラたん可愛すぐる」

「拙者は、ジュディーたんの方が可愛いと思うでござるよ。はうあー、ジュディーたーん」


「貧乳は正義だ!」

「「「「おー!」」」」


「憎っくき勇者正夫(へんたい)を討伐するぞ!」

「「「「……無理」」」」


気付かなくて幸せだったようだ。


 三人が漫才を繰り広げている間に2台目、3台目の馬車からも乗客が降り立っていた。

2台目の馬車からは8人の美女と美少女。その中の二人は猫のような耳と尻尾を持っている。

3台目の馬車からはメイド服を着た7人のエルフ。

メイド姿のエルフたちは正夫の周りに群がるとローラとジュディー、そして再び抱き着いていたカロリーヌを引きはがした。そして正夫を取り囲むと僅かな服の乱れを整え、小さな埃を払いと、かいがいしく世話をしだす。


 この時、会場の盛り上がりは最高潮に達した。


「この男の敵!国王陛下に切り殺されてしまえ」

「「「「「死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!」」」」」


もう大合唱だ。


 その中で最後の馬車から一人の男と、二人の女性が降りてきた。その3人は両耳の上に小さな角を生やしている。


「正夫のやつ大人気だな(笑)」


そうつぶやいたのは神野正光だった。


「フランシス、ルキア控え席に行こう」

「「はい」」


神野正光は二人の女性を連れて会場に設けられた神藤正夫用の控え席に向かう。


 神藤正夫も、『死ね死ね』コールの中、妻たちと一緒に控え席に向かう。


「妻たちを連れてきたのは失敗だったなあ」


妻たちの多くはオースランド王国の出身だ。無事な姿を見せれば妻たちの知り合いも安心するだろう。そう思って試合会場に連れてきたが、観客の怒りを買っただけだった。

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