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0 序章7 フランクvs7人の王妃

 「メイヴィス~!」


フランクは悲痛な声を上げる。


「ふんっ」


メイヴィスはそんなフランクを鼻であしらうと、母親の第六王妃エリザベータに娘のローナを見せる事に熱中する。


「ほら、髪の色は私と同じだけど、目元は正夫にそっくりでしょ」

「そうね(正夫は見たことがないけど娘がそう言うんなら)似てるわね」

「笑った時の顔なんて正夫と瓜二つで思わずキスしそうになるの」

「そう……、ねえ少し抱かせてもらってもいいかしら」


エリザベータは娘の話を適当に聞き流しながら(親バカぶりはフランクに似たのかしら)などと考えていた。しかし、ローナを抱いてみるとすぐに孫バカになる。エルフであるエリザベータの長い耳はふにゃと垂れ下がり、溶けだしそうな緩んだ笑顔を見せる。


「おばあさんですよ~」

「だー」


エリザベータが顔を近づけるとローナはその小さな顔に笑顔を作る。そしてエルフの長い耳が気になるのか小さな手を伸ばす。エリザベータは顔を少し傾けローナが耳を触れるようにする。


「あー、ぶ、ぶー」


ローナはエリザベータの耳を夢中になって弄りだす。エリザベータが耳を動かすと、触ったり引っ張ったりして上機嫌だ。(そういえばメイヴィスも耳を触るのが大好きだったわね)エリザベータはメイヴィスが赤ん坊だった頃を思い出し、大切な物が帰って来たような幸せな気持ちになる。そんなエリザベータにメイヴィスが告げる。


「ローナは可愛いでしょ。それなのに、お父様ったらローナが正夫の血を引いてるから養女に出せなんて言うのよ。酷すぎると思わない」


「なんですって」


エリザベータの声にびっくりして、ローナは耳から手を離す。


「あー、うっうー」

「ごめんねローナ、大きな声をだして。驚いた。ごめんね」


エリザベータは、怯えたような声を出すローナに謝りながらメイヴィスに渡す。


「可愛い(ローナ)を養女に出せですって」


今まで、とろけるような顔でローナ抱いていたエリザベータの顔に夜叉が宿る。下を向いていたエルフ特有の長い耳は赤く染まり角のように天を指す。プラチナブロンドの髪は輝きを失いざわざわと動き出す。


「ひゃい~!」


エリザベータの変わり様にメイヴィスは悲鳴を上げる。母親のこんなに怒った顔は見た事が無い。エリザベータはフランクを睨みつけるとゆっくりと向かって行く。



 「ひぃ一!」


メイヴィスとエリザベータの様子を見ていたフランクは、恐怖のあまり正座したまま仰け反り、後ろに手を突く。エリザベータがこれほど怒ったのはフランクも見た事が無かった。約束を破ってナターリアを7番目の妻として娶った時も、悲しい表情を浮かべるだけで怒りはしなかった。そんなエリザベータが夜叉の形相で向かってくる。フランクは現実逃避するように視線を逸らす。



 エミリーは、母親の第七王妃ナターリアに息子のオスカーを引合せていた。


「おばあちゃま、はじめまちて。ぼく、おすかーといいます」

「ああ、私、おばあさんになっていたのね。でも可愛いーっ。私はナターリアよ」


ナターリアは中腰になってオスカーを抱きしめる。


「なたーりあ、おばあちゃまですか」

「ああもう、おばあさんと呼ばれてもいいわ。オスカーになら何と呼ばれても許せるーっ!」


ナターリアはオスカーの柔らかな頬をプニプニと弄りだした。


「ひゃ、おばあひゃま、やめてくらはい」


オスカーは身をよじるが嬉しそうだ。


「オスカーのほっぺた気持ちいいーっ!ほーら、ほら」

「きゃ、きゃー」


ひとしきりオスカーの頬っぺたをいじり倒したナターリアは、顔を上げエミリーに視線を向ける。


「そうそうエミリー。フランクはお前を勘当するって言ったの」

「ええ、それにオスカーを孫じゃないって言って泣かせるし」


「おじいちゃま、ぼくは、まごじゃないって。ううっ、まごじゃないって」


フランクに拒絶された時のことを思い出し、オスカーは泣き出しそうになる。そんなオスカーをナターリアはぎゅっと抱きしめる。


「大丈夫。オスカーは私の可愛い孫だから」

「ぼく、まごなの。まごでいいの」


ナターリアはオスカーの肩を掴み顔を正面から見る。そして言い聞かせるようにゆっくりと話す。


「ええ、もちろんオスカーは孫ですよ。私の大切な孫です」

「ぼくはまご。ぼくはまごー!」


オスカーは目に涙を溜めながらも笑顔で叫ぶ。


 ナターリアはゆらゆらと立ち上がると、オスカーをエミリーに預け返す。


「フランクに一言いってきます。エミリーを勘当だと言った事は置いておくとしても、オスカーを泣かした事は許せません」


(私の勘当って置いておくようなこと?)そうエミリーは突っ込もうとしたが、出かかった言葉は霧散してしまった。エミリーの前に立っていたのは優しくて美しい母親ではなかった。そこには般若が立っていた。般若はゆらゆらとフランクの元へ向かう。



 エリザベータから視線を逸らしていたフランクはナターリアが般若に変わり近づいてくるのを見た。逃げ出そうとしても正面のエカチェリーナに射すくめられ腰に力が入らない。般若(ナターリア)より先に夜叉(エリザベータ)がフランクの右前に立った。


「ローナを養女に出せですって」


普段の可愛い声からは想像できないほど低い声で夜叉(エリザベータ)は問い詰める。


「ひいっ!」


フランクが怯えて答えられないうちに般若(ナターリア)が左手に立つ。


「オスカーを孫じゃないって言って泣かせたそうね」


「ひいいいいい!」


「ほう。私の許可もなく娘や孫たちに要らないことを口走ってたようね」


真の支配者エカチェリーナの眼光がさらに厳しくなる。


「ひいいいいいいいいいいい!!」


フランクは、助けを求めるように横目でエレーヌを見る。しかし、エレーヌは土下座をしたまま泡を吹き、気絶していた。勇者であるエレーヌも三人から受けるプレッシャーに耐えきれなかったようだ。


 フランクにはもう救いはなかった。三人の後ろで事の成り行きを見守っている四人の王妃もフランクに非難の視線を送っている。エレーヌとの浮気がバレた以上、誰もフランクを庇うはずがない。このまま意地を張っていれば城から叩き出されるか、最悪プレッシャーで心臓を止められるだろう。


「悪かった。俺が全て悪い。娘と孫たちには謝る」


フランクが出来るのは土下座して謝る事だけだった。フランクは額を地面に擦り付け謝罪する。

しかし、妻たちの怒りは収まらない。次々とフランクの頭を踏みつける。


ゲシッ

「ぐああ、許せ」

ゲシッ、ゲシッ、ゲシッ!

「ぐああ、許して。許して下さい。ぐあああああ」


そこにはもう国王の威厳は存在しなかった。


「それだけですか。他に言う事が有るでしょう」


エカチェリーナはフランクの頭を踏みつけながら低い声を出す。


「ああ、お前たちにも悪い事をした。すまん。エレーヌのことはどんな罰でも受ける」


「そんな事を言っているわけではありません。もちろんしっかりと埋め合わせしてもらいますが」


フランクはエカチェリーナの足からなんとか逃れ顔を上げる。三人の妻たちは怒りの形相を浮かべたままだ。しかし後ろにいる四人の妻達は、ニターと笑いながら考え事を始める。多分、高額なプレゼントを要求する気だろう。フランクには獲物を前にした肉食獣の姿にしか見えない。


「正夫の事です。エミリーとメイヴィスの夫をいつまでお尋ね者にしておく気ですか。このままだとエミリーもメイヴィスも気楽に里帰りできないでしょう。いいかげん正夫をエミリーとメイヴィスの夫として認めたらどうです」


エカチェリーナはフランクがあえて口にしなかった男の名前を出す。フランクはそれだけは認めたくない。勇気を振り絞って抵抗を試みる。


「あいつはエミリーとメイヴィスを6年間も連れ去ってた男だぞ。そんな男を許せるはずがないだろう」


「あなたが邪魔をしたからでしょ。エミリーとメイヴィスが6年間も里帰りできなかったのは、あなたが正夫を犯罪者扱いしたからです」


「ぐぬぬ」


フランクは言い返す言葉を見つけられず。唸ることしかできなかった。


「いいでしょう。あなたがあくまで意地を張るなら身分剥奪の上、城から追い出すだけです」


初代勇者コーイチの孫、エカチェリーナに逆らえる者はいない。それは国王フランクとて例外ではない。


「ま、待て。そ、そうだ、試合、試合をさせろ。あいつが噂通りの軟弱な男だったらメイヴィスの夫として認める訳にはいかない。あいつが俺とまともに戦えるようならエミリーとメイヴィスの夫として認めてやる」


フランクとしては駄目で元々と切り出した最後の抵抗だった。当然、妻だけではなく娘たちも認めないと思っていた。しかし、娘たちの口から出たのは予想外の言葉だった。


「オスカー、お父様が悪いお爺様を懲らしめてくれるわ。良かった。これで堂々と里帰りできるようになるからおばあ様たちとも好きな時に会えるわよ」

「ローナ、お爺様が亡くなってもおばあ様が7人もいるからね。おばあ様たちがちゃんと愛してくれるから」


「えっ……」


フランクの背筋に冷たいものが走った。

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