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0 序章4 戦艦『みかわ』

 再編が進む迎撃部隊の上空で神殿騎士団長フランクは、真竜(ドラゴン)ハンプに騎乗し、魔獣が作り出す砂嵐を警戒していた。そのとき、海上に見える塔から金色の真竜(ドラゴン)が飛来するのを見た。海から飛来した真竜(ドラゴン)は、砂嵐が届かない高空で金色の翼を煌めかせ旋回を始める。


「あれは、エミリー様のグロリア」


フランクはハンプを上昇させ、金色の真竜(ドラゴン)グロリアに寄せていく。


「エミリー様、お久しぶりです。グロリアも元気そうだな」

「クォーン」


グロリアは久しぶりに再会したハンプをみて嬉しそうに鳴き声を上げる。


「フランク様。お久しぶりです」

「正夫は元気にしているか」

「はい。今は沖の(ふね)で指揮をとっています」


フランクは沖の方に見える塔のような物をみる。船というのはあの塔のことか。


「正夫はあの塔の中ですか」

「はい」

「それで、エミリー様は此処で何をしてるんですか」

「弾着観測です」


フランクは聞きなれない言葉に首を傾げる。

そのフランクから視線を外し、エミリーは砂嵐の下に見える魔獣を観測する。そして、紐のついた小さな箱に向かって話しかける。


「現在位置、魔獣の群れ直上。魔獣の群れは約80頭。東西に08、南北に05」

「了解。感度は良好です。そのまま観測を続けて下さい」


紐の先の箱から声が聞こえエミりーと会話しているようだ。


「今のは」

「これは無線機と言う魔道具です。この小さなマイクと言う箱に向かって話すと遠くに伝わるのです。これを使って、正夫様に魔獣の位置を連絡しているのです。(ふね)を見ていて下さい。すぐに砲撃が始まります」



 フランクは海に浮かぶ塔に視線を向ける。数秒後、塔の下が眩しく輝き、煙に包まれた。

火災でも起こったのかと思いフランクは目を凝らす。しかし、煙はすぐに消え、塔は変わらない姿で立っている。塔で何がおこったか分からないが、エミりーは慌てた様子もなく、魔獣を観測している。

そして、フランクは海から五つの黒い塊が、猛烈な速さで飛来するのを見た。黒い塊は魔獣たちの手前の地面に吸い込まれる。次の瞬間、地面が爆炎と共に吹き上がる。吹き上がった土砂は岩の槍(ロックスピア)の魔法を何十人かが一斉に行った時より多い。フランクは地面に出来たクレーターに呆然とする。


「全近!03」


エミリーは再び、紐のついた小さな箱に向かって話す。

そして30秒ほど過ぎてから、再び飛来した五つの黒い塊は魔獣の群れに飛び込んでいく。

直撃した塊は、魔獣を爆散させひき肉に変える。そして地面に潜り込んだ塊は爆炎と共に土砂を噴き上げ、周囲の魔獣がボロボロになって横倒しになる。


「全的中ですが、効果は小。そのまま砲撃続行して下さい」


エミリーは砲撃結果を報告する。




 海上の塔は神藤正夫の(ふね)、戦艦『みかわ』の司令塔だ。

戦艦『みかわ』は司令塔の前に36cm三連装砲塔を背負い式に三基、船の後方に二基、計15門搭載している。

正夫は46㎝砲以上の巨砲が欲しかったが、正光に『何と戦うの。この世界に40㎝砲戦艦なんかいないのに』と言われ泣く泣く諦めた。

艦の中央には両舷にサイドエレベータをそなえたX形の飛行甲板。発着艦時に艦橋が作る乱流が問題になりそうだが、合成風力を魔法で作るから問題なしだ。それに船体の中央に簡単に取り外せる甲板が無いと機関部の修理が出来ない。ガスタービンを発電用、推進用に作ったが不具合を起こし対策品と一度取替えている。今は順調に動いているがいつ不具合が発生してもおかしくない。強度計算をパソコンで計算することなど出来ないから、勘だけを頼りに作られた機関部の信頼性はゼロに近い。

戦艦『みかわ』は男のロマン航空戦艦。それだけで不具合も我慢できる。

その司令塔最上階にある戦闘艦橋で神藤正夫は指揮を取っていた。戦闘艦橋は操船所と主砲の射撃指揮所と兼ねている。テレビモニターもレーダーも無いから、安全な船体内にCICを置く事は出来ない。なにより人手が足りない。



 魔獣が作る嵐の中に爆炎が上がる。


弾着(だんちゃ~く)、今です」


見張り員の声と同時に、正夫は手作りのストップウォッチを止める。砲弾が発射されて弾着まで22.5秒。少し遅れてスピーカーから、無線機を通したエミリーの声が聞こえる。


「全的中ですが、効果は小。そのまま砲撃続行して下さい」


無線機は、正夫が苦労して開発したものだが周波数も出力も適当だ。この世界に総合通信局があったら真っ赤な顔をして怒鳴り込んでくるだろう。もちろんこの世界に総合通信局も電波監理局も無い。電波を出しているのは正夫と正光の一団だけだから苦情を訴える人もいないが。


「次から一斉打ち方でいきます。信管調停は22秒でいいよね」

「ああ。それでいい」


正夫と同じ様にストップウォッチを止めた砲術長のジュディーは、正夫に確認する。本来、交互撃ち方から一斉撃ち方への変更はジュディーが判断すればいい事だ。それでも慣れてないため正夫に確認する。中学生くらいに見えるジュディーはエルフ。実際の年齢は29歳だ。


「次から一斉打ち方。信管調停は22秒」


砲術長のジュディーが砲塔に繋がるマイクに向かって下令する。

装填済みの砲弾は信管の調停が出来ない。信管の調整が出来るのは次からだ。


 砲弾が撃ち出され15000メートルの距離を飛び弾着まで二十数秒。その間にも魔獣と艦の相対位置は変わっていく。ジュディーの席には正夫が作った計算機が取り付けられている。計算機は自艦の速度をあらかじめ入力しておけば方位盤、測距儀からのデータで敵の未来位置を計算し旋回角、仰角を表示する。

実際に必要とする仰角、旋回角は方位、緯度、風向き、気圧、装薬の製造後の年数などで変わる。『みかわ』の計算機はそこまでの計算は出来ない。そのためジュディーは旋回角、仰角を砲塔に指示する基針を、弾着観測で得られた補正を加え手動で動かしていく。ジュディーが艦橋にある基針を動かすと砲塔内にある基針はセルシンモータで同期して動く。砲塔内の要員は基針に追針が合うように旋回角と俯仰角を調整する。基針と追針が合っていないと主砲は発射されない。


 ジュディーの前に据えられたコンソールに各砲塔が準備完了した事を示す緑のランプが点る。

ジュディーは主砲発射を告げるブザーを鳴らす。ジュディーが直接引き金引くわけではない。船が傾斜した時に発射すれば、砲弾は明後日の方向に飛んでいってしまう。ジュディーは主砲射手に準備が出来た事をブザーで知らせるだけだ。


 主砲射手は船の揺れに合わせ発射の引き金を引いた。


ドドドーン!!!


各主砲塔が三発づつ、重量約700kgの砲弾を音速の倍以上の速度で打ち出す。同時に発射に伴う衝撃波が艦橋内まで伝わり、内臓を揺すられる。各砲塔一射づつの交互打ち方とは比較にならない衝撃だ。


「「ひゃう!」」


エルフのカロリーヌとハーフエルフのメイヴィスが変な声を上げる。


 15発の砲弾は弾着と同時に爆炎と土砂を噴き上げる。一見派手だが、ほとんどのエネルギーは地面に穴をあける事に費やされる。砲弾は爆発の圧力で目標を破壊するわけではない。内部で爆発した火薬の圧力で弾体が破裂し、周囲に弾片が飛び散ることで破壊をもたらす。700kgの砲弾でも炸薬は50kgに満たない。次からが本番だ。


 次に撃ち出された砲弾は弾着する前に空中で爆発する。遠方から見ると白い煙が広がりながら地上に向かい魔獣が作る砂嵐に、かき消されたようにしか見えない。しかし、煙の下にいた魔獣達には地獄が訪れていた。砲弾の破片は、音速を超える速度で砂嵐を突き抜け、刃のように魔獣達を切り刻む。なん十頭もの魔獣が血しぶきを上げ、砂嵐を赤く染める。この一撃で魔獣達が作り出していた砂嵐は一気に弱まりその姿がはっきりと見えるようになる。多数の魔獣が血の池でのたうっているが完全に息絶えた個体は少ない。


「全的中。効果大。次もそのまま砲撃して下さい」

「了解。目標そのままで砲撃続行します」


砲撃は目標を変更しながら数回繰り返され、魔獣のほとんどが完全に息絶えた。

無事なのは、群れから離れていた数頭だけだ。しかしそれぞれの距離が離れているため砲撃では効率が悪い。正夫は残りを正光に任せることにした。なにより砲撃だけで終わらせたら正光が機嫌を損ね後々の造船に協力してもらえなくなりそうだ。


「砲撃終了。後は正光に任せる。カロリーヌ、正光に連絡してくれ」

「了解。正光に伝えます」


カロリーヌは元神殿の巫女長、常人より強い魔力を持っている。無線機を使わなくても正光とは魔素を通した念話で意志疎通が出来る。でも無線機を使って正光に連絡を入れる。理由は正夫に作ってもらった特性のヘッドセットが使いたいからだろう。普通のヘッドセットは、耳が大きいエルフのカロリーヌには使えない。そのためカロリーヌ用のヘッドセットは正夫の手作りだ。


「『みかわ』より正光へ、砲撃は終了しました。残敵掃討をお願いします」

「了解。任せて~!」


正光の声は玩具を与えられた子供の様にはしゃいでいる。自分で設計した攻撃機を実戦で使えるのが嬉しくてしょうがないみたいだ。正光を乗せた攻撃機『えいてん』は、他の5機と共に魔獣に向かって加速していった。

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