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 中学三年になった。

 孝輔は朋美と同じクラスにはなりたくなかった。あのバレンタインデーの日以来、孝輔は朋美の顔をまともに見ることが出来なくなっていた。朋美の方は変わりなく孝輔に接していた。そのことが余計に孝輔を苦しめた。

 孝輔が望んだとおり、二人は別々のクラスになった。そして、あの男と朋美は同じクラスに。高校に進学すればもう朋美のことなど忘れて新しい学校生活が送れる。それまでの一年間、孝輔は勉強だけに集中しようと心に決めた。

 卒業式。

 孝輔のクラスに朋美がやって来た。

「森田君、私の忘れ物を見つけてくれたかな?」

「忘れ物?」

「ううん、なんでもない……」

 朋美は孝輔のもとを離れた。その時の朋美の顔がとても悲しそうだった……。




 目が覚めた孝輔はハッとした。

「忘れ物!」

「えっ?」

 急に叫んだ孝輔の声に横で寝ていた香織が驚いたように声を上げた。

「ごめん。今日、会社を休む。ちょっと行くところが出来た」

「えー! どこに行くの? 私も行きたーい」

「悪い、大事な用時なんだ」

 孝輔はベッドから飛び出すと、身支度を整えて部屋を出た。


 電車を乗り継ぎ、孝輔がやって来たのは生まれ育ったあの町だった。駅前でタクシーに乗り込むと、孝輔が通っていた中学校の名を告げた。

 学校につくと、主事室で当時の担任の名を告げた。運のいいことにあの時の担任がまだこの学校に居た。但し、今では学校長としてここに赴任していたのだ。

「どうしたんだ? 急に」

「僕たちが2年の時に作った文化祭の大道具ってまだありますか?」

「ああ、使い回ししているからあるよ。ただ、あの頃のままとは限らんが」

「どこにありますか?」

「体育倉庫だけど……」

「ちょっと見せて貰ってもいいですか?」

「別に構わんが、今頃そんなものに何の用があるんだ?」

「忘れ物をしたもので」

「忘れ物?」

 孝輔は校長に断って体育倉庫に向かった。孝輔は体育倉庫の扉を開けて中を見回した。すると、体育用具の奥の方に立てかけられているパネルを見つけた。孝輔はその1枚1枚を確認していく。けれど、あの時二人で作ったパネルは見当たらなかった。あるにはあるのだろうけれど、書き換えられていて見分けがつかなかった。落胆して頭をもたげた時、ふとそれが目に入った。パネルの側面の1cmほどの縁に書かれていた文字が。


 開店したばかりの店に他の客はまだいなかった。孝輔は初めてここに来た時と同じカウンター席で朋美と対面している。

「今日はお休み?」

「うん。ちょっと急用を思い出して」

「そう。それで、その用事は済んだの?」

「いや、これからが本番だ」

「まあ! それなのにこんなところでお酒なんか飲んでいてもいいの?」

「ああ、そうだ! お酒を頼まなきゃ……。まずはアイ・オープナー」

「あら、運命の出会いね? それは今日の用事に関係があるのかしら?」

 孝輔はカクテルグラスの横にスマートフォンを置いた。

「これを見て」

 そこに表示されている写真を朋美に見せた。そして、その写真を見た朋美の目からは涙が溢れていた。




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