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MIYATAの本社。
「新しい店の方はどうだ?」
MIYATA社長で晴海の夫である宮田巌が訊ねた。
「雄太郎さんのところの若い人が良くやってくれているわ」
「そうか。それはよかった。それはそうと、今日もホテルへ戻るのか?」
「ええ。どうせあなたは今日もお帰りにはならないのでしょう?」
「まあな。今夜はイタリアの商社を接待する」
「そう…。あなたもいい年なんだから控えめにしておいたらどうなの?」
「いったい何のことだ?」
「さあね」
晴海が帰るのと入れ替わりに秘書が社長室に入って来た。巌は秘書に近づくと、ソファに押し倒し胸を鷲掴みにした。
「奥様に叱られますよ」
「なーに、あいつには若いのをあてがっているんだ。お互い様だよ」
「まあ、社長ったら。ちょっと待ってください。入り口のドアをロックしてきますわ」
秘書はそう言って入口に向かう。ドアをロックしたところで巌が背後から秘書を羽交い絞めにしてその胸を揉みしだく。
「服がしわになりますわ」
そう言って秘書は自ら服を脱ぎ始めた。すべて脱ぎ終わると秘書は微笑んだ。
「さあ、どうぞ」
「朋美、相変わらずいい体をしているな…」
孝輔は目を覚ますとともに身震いをした。何とも後味の悪い夢だった。それにしても朋美が差し出した名刺には孝輔も驚いた。まさか、MIYATAの秘書だったとは…。
午前11時を過ぎたころ、孝輔の席のビジネスフォンが赤いランプを灯した。
「はい」
『宮田様からお電話です』
香織の声。ランプの色がすぐに緑色に切り替わる。
「森田です」
『急なんだけど、ランチを一緒にどうかしら? この前話したいい子を紹介したいの』
「解かりました。今からお伺いします」
『今日は本社の方へきてちょうだい』
「本社ですか? 解りました」
電話を切った孝輔の脳裏に今朝見た夢が浮かんできた。
「まさかな…」
行き先にMIYATAと書き込んで会社を出ようとする孝輔に香織が声を掛けた。
「今日も遅くなるのかしら?」
「さあね。今日は本社へのお招きだからな」
晴海とはMIYATAの本社ロビーで待ち合わせをしていた。時間通りに晴海はロビーに姿を現した。そして、その晴海の後ろをついて来る女性を見て孝輔は目を細めた。
「朋美?」
晴海は孝輔の前にやって来ると、連れてきた女性を紹介した。
「紹介するわ。秘書の相川よ」
「初めまして。専務付き秘書の相川です」
「あ、は、初めまして。高橋デザイン事務所の森田です」
初めましてと口にした朋美に対してどう対応すればいいのか迷う孝輔だったが、ここは初対面のふりをしておいたほうが良さそうだと判断した。
「それじゃあ、行きましょうか」