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朋美は自分の事が好きなのではないか……。孝輔は次第にそう思うようになった。席が隣だから学校行事の時に活動する班行動でもいつも一緒だった。修学旅行では移動する電車やバスの中で、いつも朋美が隣に居た。文化祭では面倒な仕事を押し付けられた孝輔が放課後遅くまで学校に残って作業をしていると、朋美も一緒に手伝ってくれた。
「森田君って絵が上手なのね」
演劇の舞台セットを作っている時だった。
「上手いかどうかは別にして、こういうのは嫌いじゃない」
「そうなんだ……」
そう言って朋美は孝輔が作業するのをじっと見ていた。
作業が終わって二人で教室を出た。
「ごめん、忘れ物をしちゃった。先に行ってて。すぐに戻るから」
そう言って朋美は教室に戻った。そして、校門を出る辺りで孝輔に追いついてきた。
「忘れ物は見つかった?」
「うん。でも置いてきちゃった」
「えっ? どうして?」
「森田君に見つけと貰おうと思って」
そう言うと朋美は笑いながら孝輔の手を引いた。
「ねえ、ずっと手伝ってあげたんだから、たこ焼き奢って」
手伝ったというより、ただ見ていただけなのだけれど、孝輔にとっては幸福な時間を提供してくれたと言える。そんな朋美の申し出を孝輔が断る理由はなかった……。
孝輔が店の外に出ると、既に二人が待っていた。孝輔に気付くと香織がにっこり笑って手を振った。
「お待たせ」
「お気に入りのお店があるんです。そこでいいですか?」
「お任せするよ」
孝輔たちは由美子のおすすめの店へ三人で向かうことにした。
「意外だなあ……」
由美子おすすめのつけ麺が評判の店に三人は来ていた。由美子がつけ麺の大盛をあっさり平らげたので孝輔は思わずそう言った。
「意外だなあ。麻木さんがこんなに食べるなんて」
「この子、ラーメンは別腹なのよ」
香織が言った。そういう香織はラーメンを頼まずに日本酒の冷酒を飲んでいる。
「筒井さんも意外だなあ。日本酒が好きなんだね……」
孝輔がそう言って香織の方を見ると、香織はカウンターに突っ伏して意識を失っていた。
「えっ? 大丈夫?」
「この子、いつもこうなの。弱いくせに飲んじゃうのよ。大丈夫。少し時間がたてば起きるから」
酔いつぶれた香織を寝かせたまま、孝輔と由美子はしばらく二人で話し込んだ。けれど、香織は一向に起きる気配がない。そろそろ終電の時間が近づいてきた。
「先輩、私、もう終電なのでお先に失礼します。香織のことはお任せしました」
「えっ? 麻木さん……」
引き留めようとする孝輔にかまうことなく由美子はとっとと店を出て行った。孝輔は香織をゆすって起こそうとしたのだけれど、うめき声はするものの、一向に起きる様子がない。
「お客さん、そろそろ閉店なんで」
店主に言われて時計を見る。深夜2時を回ったところだった。