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「あ、あいかわ……さん?」
「やっぱり森田君だったのね」
孝輔は予期せぬ再会に何とも例えようのない感覚に陥った。もちろん、懐かしさもあるのだけれど、ずっと心の奥底で忘れていたものが見つかったような、そんな感覚……。
その日、孝輔は体調が悪くて体育の授業を休んだ。炎天下での見学は控えた方がいいということで孝輔は一人教室で自習をしていた。
「森田君」
不意に教室の外から声がした。孝輔は声がした窓の方を見た。そこにいたのは相川朋美だった。濡れた水着で教室に入れないからと、窓の外から声を掛けたのだ。
「私の机のところにあれが入った袋があるから取ってくれない?」
「あれって?」
「いいから早く取って!」
それは彼女の机の横にぶら下がっていた。孝輔はそれを窓越しに朋美に手渡した。水着姿の朋美が太陽の陽ざしを受けてとても綺麗だった。微かな胸のふくらみ、細い手足、そして……。思わず食い入るように見つめた。
「エッチ!」
朋美から言われてハッとした。
「ごめん……」
「バカね、別に謝らなくてもいいのに。ありがとう」
そう言って朋美はプールの方へ駆けて行った。
孝輔は改めて彼女を見つめた。
「あの時もそんな風に私を見ていたわね」
「ごめん……」
「バカね、別に謝らなくてもいいのに」
そう言って彼女は笑った。あの頃と同じように。
何年ぶりだろうか。中学を卒業して以来だった。たまたま入った店で偶然再会した彼女はあの頃よりも更に洗練された、とても綺麗な女性になっていた。
朋美が孝輔の前に差し出したのはラムベースのカクテルだった。
「このカクテルの意味する言葉を知ってる?」
「言葉どころか、なんていうカクテルなのかも知らない」
「アイ・オープナー。“運命の出会い”という意味があるのよ」
「運命の……出会い……」
孝輔はそのカクテルを口に含む。
「そう言われれば、そんな風にも感じられる味だね」
「まあ、出会いというよりは再会と言った方が正解だけどね」
それからしばらく中学生の頃の思い出話に花が咲いた。そして、お互いの近況を報告し合った。
「ねえ、名刺ちょうだい」
「いいよ」
孝輔は朋美に名刺を渡した。
「へー、デザイン事務所なんだ。じゃあ、私も。お店のじゃなくて本職のほうのをあげるね」
朋美から受け取った名刺に書かれていた文字を見て孝輔は驚いた。
「これって……」
「聞いたことあるでしょう? 結構有名な会社だもんね」
孝輔はその名刺を食い入るように見つめた。そこに書かれていた文字…。MIYATA。そして、彼女の肩書に。
「秘書……」
「そうなの」
あの頃と同じ朋美の笑顔を懐かしく思うのとは裏腹に孝輔の中で何か得体の知れない不安のようなものが込み上げてきた。