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 中学生の頃、ずっと好きだった女の子が居た。ごく普通の女の子だったのだけれど、気が付いた時にはいつもその子の事を考えていた。今でも彼女の夢を見ることがある……。




 静かなオフィス。キーボードをたたく音だけがリズミカルに鳴り響いている。たまに鳴る電話の音が不協和音のようにその場の空気をかき乱す。

「はい、高橋デザイン事務所です」

 電話を取ったのは総務の筒井(つつい)香織(かおり)だった。すぐに電話の相手から告げられた担当者のもとへ内線をつなぐ。


 内線を知らせる赤いランプが孝輔のデスクのビジネスフォンに灯った。森田(もりた)(こう)(すけ)は受話器を取って耳に当てる。

『宮田様からお電話です』

 香織がそう告げた後、外線に切り替わり、ランプの色が緑色に変わった。

「森田です」

『先日、提案していただいたプランなんですけど、とても気に入りました。ただ、少し変更してもらいたいところがあるのでご足労頂けるとありがたいんですけど』

「解かりました…」

 孝輔はパソコンの画面に表示された時間を確認する。

「……本日、16時頃にならうかがえると思いますけど、それでよろしいでしょうか?」

『けっこうよ。お待ちしてますわ』

 孝輔は受話器を置くと、打ち合わせのための資料をカバンに詰め込んだ。ショルダー式のカバンを肩からぶら下げ、席を立つ。行き先掲示板に“宮田邸”と記入し、直帰する旨の横線を引いた。

「今日も遅くなりそうですね」

 総務の香織が微笑みながら軽く手を振って見送った。

「お得意様なんだから仕方ないよ」

 孝輔は半ばうんざりした表情で香織に告げた。

「後で連絡する」

 そう言ってウインクすると、オフィスを出て行った。


 宮田(みやた)晴海(はるみ)は40代後半の女性だ。亭主の宮田(みやた)直樹(なおき)は孝輔が勤める高橋デザイン事務所の代表の高橋(たかはし)(ゆう)太郎(たろう)の古くからの友人で、アンティークショップや海外雑貨を取り扱う店舗を何店か展開している。今度、新たにオープンする店舗を妻の晴海に任せることになった。そこで雄太郎に店舗設計の依頼が来た。


 孝輔が出向いたのは新宿のプラザホテルだった。指定された部屋を訪れると晴海は孝輔を部屋に招き入れるなり抱きついてきた。好みではない香水の香りが鼻につく。

「待ってたわよ」

「それでは早速お打合せを……」

「やっぱりプランはあのままでいいわ。だから打合せはもうお終い。こっちで一杯やりましょう」

「畏まりました」


 この仕事を孝輔が担当して以来、2か月余り。打合せとは名ばかりの情事が繰り返されてきた。孝輔は雄太郎に抗議した。

「これも契約のうちに入っていること」

 半ば強引に押し付けられた。会社にとっては億単位の売り上げになる得意先だ。

「あんな美人とお付き合いできるんだ。役得じゃないか」

 そう言って雄太郎は一切取り合ってくれなかった。


 部屋に用意されていたのは1本数万円もするワイン。それが何本も用意されていた。そのうちの1本が空になる頃には晴海はかなり酔っていた。

「ちょっとシャワーを浴びて来るわ」

 そう言ってバスルームへ向かった。しばらくすると、晴海はそのままの姿で孝輔の前に戻ってきた。それからベッドに横になると孝輔に向かって手招きをした。

「来て……」





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