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ヨッピー・ファレンティア  作者: 檸檬汁
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第1話

阿鼻叫喚。

本来は祝祭の場であった会場に、この身をもって女体盛りならぬ男体盛りを提供し混沌をもたらした俺はすぐさま取り押さえられ、それはもう迅速に牢屋にぶち込まれた。


そして異世界で初めての朝を迎えた。

こんなはずじゃない。こんなはずじゃなかった。誰が好き好んで異世界に来てまでとんでもアブノーマルな登場をしようものか。

大衆の面前でイチモツをさらけ出すよりはマシと思っての男体盛りだったが、よくよく考えればより事態を悪化させたのかも知れない。気を失った振りでもしておけば、まだマシだったのだろうか。後悔の念を噛み締めながらこんなことになった経緯を思い返すーー




ーーバイトが終わり、一人だけの家に帰ってきて風呂に浸かる。これだけが1日の唯一の癒しだ。


「やだやだやだやだ!いいぅい〜ぅいいい〜!もうやめたい!おちごとちゅらいやだやだ!やだ!ぴーぴぃーぴー!おちごとおちごとよいちょよいちょ!ひひひん〜〜んん!んんんん!…………んはぁ、体洗うか」


大事な儀式だ。スーパーぐずりタイム。一日の最後に嫌なこと全てを無に帰すことのできる最強の儀式。


「ええー……あの、えぇ。とりこみ中のところ悪いのじゃが、わらわが見えるか?」


え?


「どうやら、見えておるようじゃな!あまりのハシャギっぷりに、見えておらんのかと心配したぞ!」


ハッとして顔が発火する。


「わらわの美しさに照れておるのか?愛いやつじゃの!」


そこには少女が立っていた。

黒いワンピースにうっすらと紅の混じった白髪を腰まで垂らしている。歳は10にも満たないであろうその容姿からは不相応な強い眼光で射抜いてくる。


「ちがっ、ちがうんです!!さっきのはちがって!!ああああっ!って違う、なんで子供がここにいるんだ?!……もう、本当……」


「子どもとはなんじゃ!失礼な!よく聞くがよい!

我が名はヨッピー・ファレンティア=イヴ!異なる世界にてヨッピー・ファレンティアを司るものじゃ!イヴ様と呼ぶがよいぞ!」


拭いきれない羞恥を誤魔化すように湯船に身を隠す。この自称イヴ様、よく見ればうっすら透けているし、ぼんやり光っている。そもそも少し浮いている。きっと別の世界の人(?)というのも本当の事なのだろう。


「それで、ヨッピーなんちゃらのイヴ様が何用ですか?覗きですか?」


「しばくぞ黒崎雄真。お主のような貧相な男に興味などないわ。ふん、しかし雄真とはよく言ったものじゃな。真のオスとは。雄真の真は真性の真なのじゃな!」


イヴ様は俺の股間に視線を落とす。


「ちがっ!ちがうから!これは真性じゃないから!ちゃんとむけ」

「それはさておきじゃ、お主に頼みがある。体を貸して欲しいのじゃ。そのかわりなんでも一つ願いを叶えてやろう」


子どもに手玉にとられ情けないとは思うが、願いを叶えてくれるとは魅力的な提案。

そんなもん、一つしかない。


「体なんていくらでも貸します!貸しますから!仕事しなくても生きていけるようにしてください!生涯幸せニートさせてください!」


「く、食い気味でそんな怠惰な願望をぶつけられると、わらわと言えど一歩退がってしまうのじゃが……よい返事じゃ!よかろう!許そう!ニートを許そうぞ!さあ、いざ行かん!わらわの世界に!」


目を輝かせてテンション上がっているところ悪いのだが


「その前に、風呂上がって服着ていいですか」


「なんじゃ…テンポ悪いのう。そういうところじゃぞ」


これだから真性はどうのだのブツブツ文句をこぼしているイヴ様は放っておいて、体を拭き、ジャージに着替えてベッドに腰掛ける。


「それで、体を貸すっていうのはどういう事ですか?」


「うむ、説明しようかの。先にも言うたが、わらわはヨッピー・ファレンティアを司る者。文字通りその権化じゃ。ヨッピー・ファレンティアとは、この世界のファンタジーで言うところのマナや魂、抽象的な意味でエネルギーと言った所かの。そして、わらわにとっては世界を巡る…そうじゃの、お主ら人間における血液に相当ものじゃ。命は生まれ、ヨッピー・ファレンテアを喰らって生き、そして死ねばヨッピー・ファレンテアに還る。生命のすべて、無機物を除く全てにヨッピー・ファレンテアが宿っていて、食うて食われて、生きて死んで…そうして循環しておったのじゃ」


「それが俺の体とどう関係しているのか分かりませんが、続けてどうぞ」


「うむ、遥か昔の話になるがわらわの世界にも、お主らのように人が繁栄しておった。そのものたちはヨッピー・ファレンティアを自在に操り、人の営みから争いに至るまで幅広く利用しておった。ヨッピー・ファレンティアと共に生き、死んではヨッピー・ファレンティアに還る。わらわは嬉しかった。その者たちが我が子のようで可愛かった…」


先程までの輝きを帯びた瞳とは変わり、懐かしそうに儚い夢でも思い出すかのようにうつむき気味に続ける。


「ところがじゃ、ヨッピー・ファレンティアを喰らう者が現れた。今のわらわのように世界の壁を超えて、異世界からの。そして、そやつに喰われたヨッピー・ファレンティアはわらわの元に戻ってくること無くどこへ行ったのか、まるで消滅してしまった。

わらわは憎かった。わらわの血を啜り、わらわの子供達を喰らい消し去るそやつが。子供たちも気付いたのであろう、そやつにヨッピー・ファレンティアを喰われ続ければ世界もろとも滅んでしまうことに。子供達は、子供達同士で争う事をやめ、そやつを討とうと団結し戦った。しかし、子供達は為すすべなくそやつに喰われるだけじゃった。

もう見ていられなかった。このままでは全てが無に帰してしまう。耐えられなかった。しかし、戦うにしてもわらわは肉体を持たぬ。

そして、この身を、ヤツを倒せるほど強く顕現させようものなら世界を巡るヨッピー・ファレンティアのほとんどを収束しなければならなかった。それはつまり、ほぼ全ての生物の死と同義じゃった。

迷いはしたが、このままそやつを放っておいても世界自体が滅びてしまう。賭けではあるが、ヨッピー・ファレンティアの恩恵を多く受けていないものであれば生き延びるのでは、と一縷の望みをかけてわらわは地上に顕現した。そして、子供達の戦い方を真似て戦った。ヨッピー・ファレンティアを武器に、鎧に、そやつを討つべく力の奔流へと変えた。

結果として、そやつを討つ事は出来なかったが、その存在を圧縮し押し留める、つまりは封印することに成功したのじゃ……我が子らを自らの手で葬ることを代償としての」


正直、急に重い話になってコメントに困る。

スケールが大きすぎて飲み込めない。神さまみたいなものなのだろうかこの子は。


「それから、また長い年月が流れた。わらわの思った通り、ヨッピー・ファレンティアに強く依存しない生命は生き延びていた。そして、以前とは少し違った人類が繁栄したのじゃ。お主はどちらかと言えば、この新人類に似ておる。我が子たち旧人類とは違い、彼等はヨッピー・ファレンティアを上手く扱う事は出来ぬが、そのかわり頭が良く知恵が回る。姿形は旧人類も新人類もお主も特段変わったところはないがの」


また生命が繁栄したのは喜ばしい事なのだろうが、イヴ様は再び顔を曇らせて唸った。


「うーーむ。ところがじゃ!近頃、といってもここ数千年でじゃが、憎たらしい事に地の奥底に封印したはずのヤツの鼓動を感じるのじゃ。確証は持てんのじゃが、昔に比べてヨッピー・ファレンティアの循環が鈍くなりわらわの力が及ばなくなってきておるのかもしれぬ。しかし、またわらわが地上に顕現し、ヤツを封印ごと葬るにはリスクがある。

そこで、じゃ!そこで、わらわの容れ物としてお主の体を借りて、ヤツを封印を強くするなり葬り去るなり出来る方法を探りたいのじゃ!調査するためにお主の体を貸して欲しいのじゃ!」


「話が壮大すぎて、多分理解できてないところもあると思うんですけど、イヴ様の言い分は大体わかりました」


「おおっ!さすが飲み込みがいいの!賢い子じゃ!」


「ですが、待って下さい。なぜその容れ物が俺なんですか?」


「わらわとて探しに探したのじゃ!わらわを受け入れてくれる者を!こうして声をかけるのもお主で何人目になるかわからぬわ!元の世界は元よりこの世界に来ても誰も協力してくれなかったんじゃから仕方ないのじゃ!」


「それって誰でも良いってことですか?」


「そうじゃ!もっと言えば知性があって意思の疎通が出来れば人じゃなくとも構わぬのじゃ!」


きっと、地に足つけて自分の人生を地道に真っ当に生きてる人からしたら、そこまで築きあげてきた自分の人生を手放したくないのだろう。それに引き換え俺の人生はーー

それにしても、誰でも良いってバカ正直なのかなこの神様は。もっと言い方あるだろ。

でも、好感がもてるお馬鹿だな。


「お主のことも生まれた時から見ておったぞ!幼いころから、19年間見ておった!可愛い可愛い赤子の頃からの!それとな、この世界は本当に退屈しなくて良い!面白い世界じゃ!わらわの世界もこんな楽しい世界にしたいのじゃ!」


うわあ、容れ物を探すってことにかこつけて絶対ブラブラしてたんだな、この神様は。


「わかりました。俺の体を貸すのは構いません。別にこの世界に未練もないです。これまでの人生で何かこれといって胸を張れるようなこともありませんし、どこに行くんだって結構です。ですが、体を貸したら俺の意識はどうなるんですか?死ぬんですか?」


「それでは、わらわがお主の体を乗っ取ったようではないか!そんなことせずとも、わらわの意識をお主とともに置かせてもらったらよいのじゃ」


「じゃあ、俺は俺のままでいられるんですね?それなら構いません。それと報酬の件ですが……」


「分かっておるわ!お主の願いは永久幸せニート保障であろう?ヤツの正体と消し方の調査が終われば、働かなくとも楽しい暮らしを約束しようぞ!それでいいのじゃな?」


「いいですね?約束ですからね!ほんと頼みますよ!」


「うむ!お互いにお互いの利益のために約束を守るとしよう!そういう契約じゃ!」


「わかりました!それじゃあ契約成立で!それで具体的には何をしたらいいんですか?」


「そうじゃの、まずは向こうの世界に行き、ひっそりこそこそと地道に調査を始めようかと思う。なあに、危険なことなどありはせん!万が一何かあったとしても心配することなどないぞ!わらわがおるのじゃからな!」


「じゃ、じゃあなんですけど、もしかして異世界に行ったら俺はなにか特別な力に目覚めるとか、不思議な能力を手にするとかそういうのは……?」


「期待しておるところ悪いのじゃが、そんなものあるわけなかろう。お主はヨッピー・ファレンティアの扱いには向かぬ人間じゃ。新人類たちと同じで、特別な力などないであろうな」


「そうですか…ですよね…じゃあ、いいです。尚更、永久ニートしたくなりました。調査がんばります……」


「うう、そんな期待ハズレな顔をするな!

わらわが悪いみたいではないか!うう……まあ、良い!とりあえず、わらわの依り代を作らせてもらうぞ!」


よりしろって何です、と口にする前に俺はベッドに押し倒された。幼女に。うっすらと実体があるのか、触られているようないないような変な感じだ。


「黙ってじっとしておれ…すぐに済むからの」


仕事終わりにチクチク書いていきます。

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