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異世界冒険部  作者: ノラえもん
9/25

お食事会に向けて

よろしくお願いします。

「さて、お食事会に向かう前に、システムからアラート機能を≪オン≫にしておけ。向けられた『悪意』に反応して警告が表示される補助機能だ」


スキルの習得を終えたオレたちに部長が指示を出す。


「ほへー、便利っすね」

「ここに来る前に言った補助輪の一つだ。まぁ、会場で面白い光景を見せたいだけなんだがな」


その言葉だけで、ロクでもない場所ってことが想像できますよ……


「すみません、部長の云う『悪意』とは?」


暢気に設定するオレと違い、ハルは部長に聞き返していた。


「この星の総意が定めた『善悪の天秤』があってな。それを借りて惑星魔法≪フルリンク型異世界体験マシ~ン(仮)≫に組み込ませてもらった」

「そのダサい名前、フルリンクなんちゃらを変えませんか?」


思わず言ってしまった。


「ダサいとは心外な。これでも結構気に入っていたんだが……」


(あ、やっぱり気に入ってたんだ)


「ふーむ……異世界体験マシン……


Differentディファレント UniverSeユニバースEXperienceエクスペリエンスMachineマシン


DUSデウスEXエクスMachinaマキナ』なんてのはどうだ?」


「おぉっ、かっこいい!『機械仕掛けの神』!」


中二心をビシビシと刺激された。


「これからは惑星魔法、≪デウス≫とでも呼ぼうか。すまん、話が逸れたな。『善悪の天秤』を悪に傾かせる意思を『悪意』と定義した。少し長くなるが、聞きたいか?」

「僕たちの安全に関わってくるので、時間が許すなら是非とも」


いつもニコニコのハルが真剣な表情をしている。


「そうだな。一つ、例え話をさせてくれ。ある国に【領主A】、【領主B】が居たとしよう。各領内の生産量は、ある程度余裕があるものとする」


ふむふむ。


「世襲で跡を継いだAは領内で穫れた産物、得た富を領内に還元していた。国が要請する増税を拒む姿勢から領民の信頼は厚く、その領地は代々安定した生活を送っていた。

対してBは国から派遣された官史だった。国の指示に従い、増税を行った。領民には平均的な暮らしを強いたため、多くの領民はそのことに強い不満を感じていた。


さて、どちらが善い領主だ?」


「その情報だけ聞くとAかな?」

「……その国は善政を布いていたのでしょうか」


「……ふむ、こうしよう。

ある年、A領では悪天候による不作が続き、不運にも悪疫が重なった。Aは国に支援を求めた。国はB領より納められた物資を送り、A領を助けた」


「そうなると、Bの方が善い人なのか?」

「……」


「更に続けると、一年間で窮地に立たされてしまうほど、A領は、それほどまでに資源を浪費していた。Bは、自領の血税が、こんな無能たちに使われることに憤りを覚えた。

正義感の強いBであったが、領民はついてこなかった。

より良い暮らしを求めて、復興したAのもとへ領民たちは向かった。減り続ける領民でB領は衰退する。任期を終えBは退任。結果として当時、多くの領民を幸せにできたのは間違いなくAだった」


「頭がこんがらがってきたぞ……やっぱりAが……」


次々と追加される情報を、必死に読み解く。


「恩恵を享受しようとAのもとへ各地から民は集まったが、新たな地で生産活動を始めるには、大きな労力を要した。国全体の生産量は低下の一途を辿る。その隙を隣国に攻められ、国は滅んだ。完」


「こ れ は ひ ど い」


部長の話を理解しようとしたのに、最後でぶち壊された。


「この様に、与えられた情報次第で、ヒトが感じる善悪は変化してしまう。『善悪の天秤』は、この星の情報全てを以てして、対象の行動の『善悪』を量っている。

≪デウス≫は今のところ、この星の総意には善と認められており天秤の使用許可がおりた。その影響下であるお前たちに害となるものは、基本的に敵性警告が表示されるだろうさ」


急に話がオカルトに。いや、魔法の存在自体が既にオカルトだったか。


「星の総意とは?」

「やはり気になったか。この星の守り神、ヴァイスたちの創造主、あたりが表現として近い。詳しい話はまた後だ。皆を待たせすぎたかな」








『召喚の間』を出ると、外は夕焼けに染まっていた。




「まだ昼過ぎでしたよね……?」

「自転の速度が『アース』と違うんだ。『セラス』の方が少しだけ、日が落ちるのは早くなっている」


なるほど、ゲーム内時間みたいなものか。


「遅くなってすまない」

「時間通りです。会場の準備は整いました」


補佐の方々に迎えられる。


「アキコさまぁ~!!」

「ひゃぁっ!?」


今、一瞬でアコが捕獲されたぞ……



「会場に向かう前に、ここで軽く自己紹介をしておこう。恐らく皆、長い付き合いになる。会場でもお前たちを守ってくれる人たちだ」



謁見の間で見た顔ぶれではあるが、アギさん、ウンギさん以外の名前は知らなかった。



「まずは私から、『異世界冒険部』の部長であり引率者の白河百合絵だ。こちらではリリィの名で通っている。改めて、よろしくな。そして、私の付き人、武官のアレックス、文官のトリアだ」



二人の女性アゲハチョウが補佐官の集団より進み出て、静かに会釈する。


「アレクサンドラ・バードウィングです。アレックスとお呼びください。よろしくお願いします」

「ヴィクトリア・バードウィングです。トリアとお呼びください。よろしくお願いします」


青味のあるアッシュブロンドがアレックスさん、輝くプラチナブロンドがトリアさん。

並んだ二人は髪色と礼服以外は瓜二つで、二人ともとても、大きい。

並んだ立派な双丘に、自然と目が引き寄せられる。


 ピピッ

≪アラート≫


「はっ!?」


通知に振り向くと、ナツキに睨まれていた。

なだらかな平野が目に入る。


(ほー、アラート通知はこんな感じで表示されるのね)



「副部長を任されている、青海勇春おうみいさはるです。よろしくお願いします」



「イサハルの補佐、武官として同行するエルド・ヴァイスシュテルンだ。よろしく頼む」

「同じくイサハル様の補佐、文官として同行いたします、ミーア・ヴァイスシュテルンと申します。どうぞ、お見知りおきを」


整った顔立ちの男女が、男性は堂々と、女性は優雅に挨拶をする。


「ヴァイスシュテルンで判ると思うが、二人は王族だ。王太子の長男、長女。王子と姫にあたる」

「えぇっと~?どうしてやんごとなき身分のお方が……」


流石に気後れする。


「あちら側の希望でな、この国の現状を直接見せて学ばせたいそうだ」


「王である祖父は、【導師】ローズ様と共に旅をして見分を広めたと聞く。国民の生活を知るよい機会だったので、同行を願い出た次第だ」

わたくしも、箱入りのお飾り姫と民に笑われるわけにはいきません。未熟な身ではありますが、精一杯、皆様の支えを務めさせていただきます。よしなに」


えっ?この流れって……


「あの部長、もしかしてオレたち、この世界を旅することになってるんですか?」

「冒険といったら旅が定番じゃないか。先方にもそのように伝えていたが、すまん、お前たちには言ってなかったな」


異世界に遊びに来たつもりが、とんでもないことに巻き込まれてしまったぞ。


「知らない間に失礼なことしそうで怖いな」

「お前が庶民で礼儀作法に疎いことは伝えてあるから大丈夫だ」


それで済むのか、セラスのお偉いさん方は……


(それにしても、部長は絶対こうなると分かって、オレたちに言わなかったな?完全に退路を絶たれた気分だ)


「次は、オレかな?黒野賢冬くろのけんとです。平部員です。よろしくお願いします」


「アギ・ヨウ・コンゴーです。文官としてケントさまの補佐を任されました」

「ウンギ・ヨウ・リキシーです。武官としてケントさまの補佐を任されました」


色白スキンヘッドと色黒スキンヘッドの聳え立つ筋肉に、暑苦しい笑顔。


「王国最強の矛と盾、らしいです……白がアギさん、黒がウンギさん、って失礼か。すぐに覚えられるはず……」

「……凄いな」

「二人ともローズの教え子だ」

「なるほど、目標が見えてきたようです。ケント!一緒に頑張ろう!」

「お、おうっ?」


ハルに謎のスイッチが入ったようだ。



赤座夏姫あかざなつきです。皆様にお会いできて光栄です。どうぞ、よろしくお願いします」


「ヘルヴォル・ティルヴィングと申します。魔法盾騎士としてこの身を捧げ、皆様を護ることを誓います」

スッと紳士的な礼をとる女性。すずやかな印象を受ける。


おおぅ、男装の麗人。スレンダーな体型、ダークブラウンのアシメショート。歌劇団なら確実にエースを狙えるじゃん。


どことなくナツキに似てるんだよなぁ


 ピピッ

≪アラート≫


やべっ……



「ヴィルツ・イモンです。若輩者ですが、この大任、必ずや務めさせて頂きます」


アコより背が低い黒髪ショートシャギー、片眼鏡(モノクル)の子が軽く会釈する。


「あの、流石に女の子を連れ歩くのは危ないんじゃ……」

こそっと部長に尋ねると、


ピキッ!


「失礼ですが、ケント様?私は『お・と・こ』です。それに成人の儀も済ませております」

「えっ!?うそ、まじで!?めっちゃ可愛い、から、つい……」


 ピピッ

≪アラート≫


「ケント様はオレに喧嘩売ってるんですかねぇ!?」


どうやら地雷を踏んだようだ。

ヴァイスシュテルン王国での成人は、『アース』での十五歳程度に換算される。オレたちの一つ下、と後から聞いた。


「ヴィルツ、そこまでです。あなたが女子に見間違われるのはいつものことでしょう」

「だからって!黙ってられるかっての!」


「あれで、ヴィルツは歴代最年少で中央の文官に登用された天才だ。感情的になりやすいのが玉に瑕ではあるが……ヘルヴォルは身体強化の補助魔法を使いこなす近接戦闘魔法師、ヴィルツは文官だが火炎系の精霊魔法を習得している。前衛と後衛で相性がいいんだ」


ヘルヴォルさんにたしなめられるヴィルツ。しっかり者の姉と、ヤンチャな弟って感じだ。

(あ、これ萌えるシチュだ)



最後に、あえて気にしないようにしていたのだが、


「し、白山秋子です。みんなの迷惑に、ならないよう、うぅ……頑張りますっ」

「スカディ・オルヴァルだ!アキコ様の護衛に選ばれたこと、とても嬉しく思うよ!うーん、アキコ様は可愛いね!すりすりぃ~」


礼服越しでも分かる、鍛え上げられた筋肉。正に女傑といった風貌である。アコを軽々と抱え上げて頬ずりしている、が、


傍から見れば、まるでベアハッグだ……


「ガング・アルヴァルティです。このような身体つきではありますが、文官としてアキコ様の護衛に選ばれました。スカディのお目付け役も言い渡されております。いい加減、アキコ様を離しなさい」


アギさん、ウンギさんに次ぐ巨躯の持ち主。短く刈り上げた頭髪、とても男前である。堀の深い顔立ちがスカディさんと似てると思ったら、二人とも親戚だったようだ。アルヴァルティ家が本家、オルヴァル家が分家らしい。


「えー、いいじゃん?なぁアキコ様?」

「あはは……そろそろ離して頂けると……」


ぷらーんと持ち上げられ、力なく笑うアコ。


(しかし、自由奔放なスカディさん、真面目そうなガングさん。つい、あの二人を思い浮かべてしまう)



「語呂がいいので、二人のことはスケさん、カクさんと呼べばいい」

「あ、やっぱり」

「おぉ、異世界に伝わる救国の英雄譚ですな!王太子殿下も愛読されたと聞いております」

「父はヤング・ドラゴンを名乗って、今は国中を旅している。民を愛する翁の姿勢に、私も感銘を受けた」


(イエロー・ゲート、そんなに面白い話だったかな?もっと面白い話もいっぱいあるし、今度教えてあげよう)


『黒野、迂闊な行動は慎め』

「えっ!?」


突然、響いた部長の声に、心臓が跳ね上がった。


驚きの声を上げたため、一瞬、みんなの視線を集めてしまった。


『そのまま聞け。いいか、たかが物語の一つ、と思うな。知識はそれだけで武器となる』

(ど、どうなってるの!?)


思わず部長の方を窺ったが、部長はこちらを見ず、エルド王子やガングさんたちと談笑していた。


『例の物語もそうだ。中央にバレずに悪事を働く方法が山ほど語られている。民は気付けないし、気付いても伝えることができない。良かれと思って教えたことが、一部に広まり悪事に使われる。ローズは、そのことで後悔を繰り返してきたんだ』

(うっす……肝に銘じておきます、伝わったかな?)


セラスの人たちに向ける笑顔とは対照的に、




脳裏に聞こえる部長の声は淡々としていた。







歓迎会が開かれる大広間の前へ案内された。

扉の向こうからは、優雅なクラシック音楽の調べに乗って、多くの人の気配がした。


「さて、乗り込むか」


重そうな扉であったが、静かに開かれ、


 ピピッ

 ≪アラート≫


えっ、



 ピピッ   ピピッ

≪アラート≫≪アラート≫

 ピピッ   ピピッ

≪アラート≫≪アラート≫


ちょ、まっ、


 ピピッ   ピピッ   ピピッ   ピピッ

≪アラート≫≪アラート≫≪アラート≫≪アラート≫

 ピピッ   ピピッ   ピピッ   ピピッ

≪アラート≫≪アラート≫≪アラート≫≪アラート≫

 ピピッ   ピピッ   ピピッ   ピピッ

≪アラート≫≪アラート≫≪アラート≫≪アラート≫

 ピピッ   ピピッ   ピピッ   ピピッ

≪アラート≫≪アラート≫≪アラート≫≪アラート≫


ビクッ


警告音が、際立った。


大広間では多くの貴族風の男女が談笑しており、視線は一様にこちらへ向けられていた。

好奇の視線に混じって、射貫くような視線、まとわりつくような視線も感じられる。


「……こ、これは引きますね」

「貴族どもの力関係をぶち壊す可能性があるからな。表立って行動する者は居ないだろうが、注意はしておけ。エルドの父、現王太子があちこち潰して回ったから、これでもかなり落ち着いた方だ」





「この者たちには王国の加護を与えている。彼らが各々の領地に立ち寄った時には、そのことを理解して迎えるように。くれぐれも失礼の無いようにな」


王の挨拶、宰相によるオレたちの簡単な紹介が終わると立食形式のパーティが始まった。

結局、人物紹介で終わってしまった。

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