初心者応援
短いです。よろしくお願いします。
できたところでぶん投げました。
「うっ……」
目を覚ますと、『セーブ・ポイント』に横たわっていた。
「二度目だ、自分たちで起き上がれるか?」
「はい、体もしっかり動きます」
手足を軽く動かし、ゆっくりと石の床から起き上がる。
「さて、これからお前たちは、陰謀まみれの『お食事会』に参加するわけだが、出てこい、ヴァイス」
(身も蓋もない。ってか、そんな場所に行っちゃっていいのか?)
ぽすんっ
「呼ばれて飛び出てっ!しゃららら~ん☆彡」
(う、浮いてる!)
「歓迎の式典といったが、海千山千の魑魅魍魎が跋扈する狩場でもある。集まった貴族同士で悪巧みするやつらだけではない。ローズとのコネを作りたいやつらが、お前たち自身を引き込みたいやつらが、『アース』の技術を盗みたいやつらが、あの手、この手で近づいてくるだろう。そこで、まずは身を守る術を授ける。親切設計、初心者応援レベルアップキャンペーンだ」
「チュートリアルクエストですか?」
「ちょっとごめんね~?」
ヴァイスは、ふよふよと近づいてきて、その手をオレの頭に乗せると、
「やれ」
白河部長の声で、ほわ~んと、暖かな、幸せな気持ちが流れ込んできた。
しかし、それは一瞬のことで、
「ぐっ!?」
悲しみ、飢え、苦しみ、怒り、叫び、憎しみ、嫉妬、恨み、渇き、痛み、恐怖、絶望、諦観、そして死。
幸せに隠された昏い感情がドロドロと流れ込む。
「うっ……!」
刹那、目の前が真っ黒になった。
「ふぅつっ!!!!」
吐き気を堪え、ふらつきながらも、何とか踏みとどまり、ゆっくり膝をつく。
「まぁ、頑張ったほうか?」
「もうちょっと根性みせなよ~、男子~?」
「ケント!大丈夫か!?」
「ケントに、何をしたの!?」
「ひぇっ……」
「そう騒ぐな。経験を送り込んだだけだ。思念の集合体であるヴァイスは、王都民たちの経験の塊でもある」
「今のでメタル系1匹分くらいの経験、かな?きゃはっ♪」
「ふうぅぅっ、ぐっ、頭がぐるぐるする」
「死ぬことは無いから安心しろ、次は誰がやる?黒野は落ち着くまで横になっていろ」
「うっす……すんません……」
「っ…!次は、僕が行きます」
「おっけーっ、頑張れ~☆」
ハルの頭に手を乗せ、思念を送り込むヴァイス。
「くっ!」
顔を顰め、流れ込む感情の重圧に耐えるハル。
(この程度にっ、耐えられなくてどうするっ!屈するな!)
(僕が膝をつくわけにはいかないんだっ!)
「おぉっ、やるねぇきみっ!うん、これくらいでいいかな?」
その声で、ハルの顔から険しさが薄れた。
「っ、ふぅぅぅぅ……」
深く息を吐くハル。
「ナツキとアコには軽めにしてあげてください……」
その頼みは、次の言葉で打ち砕かれる。
「何を言っている、赤座と白山には、倍の経験を受け取らせるつもりだぞ?」
「えっ?」
「ひぇっ……」
「なっ!」
「まずは、君かな~?」
「っ、お願いします」
緊張するナツキの頭に、そっと手を乗せるヴァイス。
一瞬の幸福感から、地に叩き落すかのような、昏い想いが襲い掛かる。
「ぐっぅぅぅぅっ!」
ぐぐぐぐっ、グググググッ
更に圧し潰そうと、『悪意』が上乗せされる。
(何なの!?これっ)
やばいっ、斃れるっ!
『赤座家の御息女とあろうお方が』
脳裏を過る、失望、嘲笑。
(っつ!こんなものにっ!負けてたまるかああああああいっ!)
生まれた想いを胸に、グッと両足に力を入れるが、
ポキッ……
ふらっ
「おっと」
手折れ、膝から崩れるナツキを部長はしっかりと支えた。
「ふふっ高潔の片鱗は見えたな」
意識を失った夏姫を、賢冬の隣にそっと寝かせる。
(う……?ナツキか、お疲れさん)
「黒野、赤座に腕枕をしてやれ」
「へっ?いやいやいや、何いってんすか、バレたらナツキに殴られますよっ」
「そうはならんから安心しろ。それに、赤座の回復を早める意味もあるんだ。今、赤座は折れている。支えてやれ」
「はぁ……よく意味は分かりませんが、部長がそういうなら」
もぞもぞと動き、ナツキの頭の下に、自分の腕を差し込む。
(ひゃー、近い近いって。でも、昔はよくこうやって一緒に寝たなぁ……あれ?そうだった……か?……)
眠気がやってきた。
「ゆっくり休め」
「さて、最後は白山だな。さくっと終わらせるぞ」
「はっ、はいっ」
「んじゃいっくよ~☆」
束の間の幸福から、強制的に流し込まれる黒。
「ひっ!」
黒、黒黒、黒黒黒黒、黒黒黒黒黒黒黒黒黒……
(耐えなきゃっ!)
「んんんんんんんっ!!!」
苦悶の表情を浮かべ、必死に耐える東雲秋子。
黒■黒■黒■黒■黒黒黒黒黒■黒■黒■黒■
■黒■黒■黒■黒■黒■黒■黒■黒■黒■黒
黒■黒■黒■黒■黒■黒■黒■黒■黒■黒■
■黒■黒黒黒黒黒■黒■黒■黒■黒■黒■黒
黒■黒■黒■黒■黒■黒■黒■黒■黒■黒■
■黒■黒黒黒黒黒■黒■黒■黒■黒■黒■黒
黒■黒■黒■黒■『……ケテ』黒■黒■黒■
■黒■黒■黒■黒■黒■黒黒黒黒黒■黒■黒
流れ込む昏い想いの中に、知らない人の声が混ざった。
(えっ?)
『タスケテ』
「ひぐっ…くぅううううっ!!!」
涙が頬を伝う。
(そっか)
ペタンと尻餅をつく。それでも、ヴァイスは経験を流し込む。
「止めてあげま――」
「止めるな、続けろ」
一度気付くと、
『タスケテ』『タスケテ』『タスケテ』
『タスケテ』『タスケテ』『タスケテ』
『タスケテ』『タスケテ』『タスケテ』……
昏い感情の裏の声が、叫びが、願いが、頭の中をガンガン廻り、
それに、自分は何もできなくて、悔しくて、涙が溢れ出す。
黒く塗りつぶされる心の隅に、
(救いたい)
小さな光が生まれた。
「ん、おっけ~☆おつかれサマー!」
「すんっ!ぐすっ、わたしっ、何もっ、できなかった!」
鼻をすすり、涙でぐちゃぐちゃになった顔を拭う白山。
「最後まで、よく頑張ったな」
泣きじゃくる白山を、優しく撫でる部長。
「部長!これはいくらなんでもやりすぎですっ!」
そこへ勇春が抗議する。
「ふむ、青海ちょっと来い。白山、すぐ戻る。ヴァイス、少しの間頼んだ」
「うくっ、ひっく、はい……」
「おっけー☆」
部屋の隅へ移動する二人。
「部長!何もあそこまですることはないでしょうっ!」
「お前は白山が、何故泣いていたか、分かるか?」
「えぇっ!それはそうでしょうっ!!あれだけの苦しみが流れ込んできたらっ!」
「きたら、どうなる?」
「きたらケントのよう――にっ……えっ?」
ふいに、冷静になる。
ケントは一瞬ではあるが、意識を手放して膝をついた。
(アコはどうして意識を手放さなかったんだ?)
「青海、お前は『悪意』に耐えるだけだった。対して白山は、受け入れ、必死に理解しようとした、だから涙を流した。赤座は、『悪意』に真正面から立ち向かった。だから折れた。それだけのことだ」
「そん……な……嘘だ…僕は戦った……違う……逃げたんじゃない……」
告げられた事実に、よろめく。
「赤座は今日、一度折れたことでその芯は強くなる。青海、お前が思う以上に赤座も白山も強い」
「僕は、みんなを、守ろうと……」
「お前、【聖女】がどんなものか、知っているんだろう?」
ビクッ!
その言葉に愕然とし、膝をつく。
(そんな、隠し続けてきたのに)
「なるほど、【賢者】か。あいつめ、本当に無茶をしたんだな」
「はっ、ははっ、さすが部長。何でもお見通しですね……」
力なく乾いた笑い声。
「皆を『悪意』から守り抜く、というのがお前の矜持、そして心の支えだったようだが……すぐに立ち直れとは云わん。気持ちの整理だけはしておけ。戻るぞ」
アコが、悲しそうにこちらを見ている。
「全てを守る必要はない。取捨選択をしろ。青海、お前にはそれができるはずだ。支えることも、支えられることも覚えろ。お前たちは四人パーティだ、忘れるな」
(周りにはパーティと喧伝しながら、自分は大切な仲間を信じていなかったんだな……そうだ。大切な仲間なんだ)
それに気づくと、荒んだ心が少し暖かくなった。ゆっくり立ち上がる。
「今は無理ですが、努力します」
『私の隣には二人の王子さまがいた』
『ひとりは、私をつつむ暖かい陽だまりのような王子さま』
『ひとりは、私がいないと何もできない弟のような王子さま』
『私は闇の中にいた』
『ひそひそと、家政婦の、家庭教師の嗤う声がきこえる』
『まとわりつかないでっ』
『もがく、気持ち悪い暗闇の中』
『そんな中でも、確かに感じる』
『暖かい』
『私が落ち込んだ時にはいつも慰めてくれる』
『そう……優しい王子さま……』
暖かさに、手を伸ばす。
幸せな気持ちに包まれる。
すぅっと意識が戻る。
ゆっくり目を開けると、
「おっ起きたか……」
「へっ?」
目の前のケントとばっちり目が合う。
(え?何これ?腕枕!?!?)
そして、甘えるように伸ばした自分の手に気付き。
がばっ!
慌てて跳ね起きる。
「ケント!何してるのっ!?!?」
「おおっ?オレのせいじゃねーって!部長がしろって!」
「【眠り姫】のお目覚めだ。よし、みんな揃ったな」
真っ赤になりながらも立ち上がるナツキ。
「こほんっ、失礼しました。白河部長、どれくらい時間が経ちましたか?」
「三十分といったところだな。少しは落ち着いたかな?ステータスを開いてみろ」
「おぉっ!れべるあーっぷ!」
早く冒険パートにいきたい……