一度目の帰還
超短いです。よろしくお願いします。
パチッ!
「っ?」
軽い刺激と共に、覚醒する。
そこは、一時間前に見た、『棺桶』の中だった。
眼前のモニターは細かく動いている。
「お帰りなさい。今開けますね」
プツンッ
モニターが消え、
グオオオオン……
重厚な駆動音で、『フルリンク型異世界体験マシ~ン(仮)』の上部が開く。
「体に違和感はありませんか?」
ゆっくりと体を起こし、感覚を確かめながら立ち上がる。
「少し頭がくらくらしますが、問題は無さそうです」
検査着姿の皆も、ゆっくり立ち上がる。
(帰って、来たんだ)
「そうですか、それを聞いて安心しました。初めてのリンク、お疲れ様でした!」
「軽食の用意ができております。飲み物の好みはありますか?」
テーブルにはサンドウィッチとお手拭きが用意されていた。
「えーっと、それじゃ麦茶があればそれで……」
「僕もそれで」
「私も、お願いします」
「私も。葛西さん、ありがとうございます」
「コーヒーはあるかい?」
「かしこまりました。席でお待ちください。インスタントでもよろしいですか?」
「ふむ、仕方ない。時間がある時にでも、お前お勧めのコナとやらを淹れてくれ」
「お任せください!ハワイイー・コーヒーの素晴らしさ、部の皆さんにも是非、味わって頂きたい!」
テキパキと全員分の飲み物を注ぐ葛西さん。
(あれ?手に包帯なんか巻いてたっけ)
「いかがでしたか?『セラス』は」
「兎に角驚くことばかりでした……何より、魔法の存在に」
「今でも『夢』だったんじゃないかって、信じられません」
「いきなり王様に会うなんて、びっくりしました」
「それより先生っ、一体何歳なんですか!?」
「な・い・しょ・です。ふふふ」
美魔女どころじゃない。
「さて、落ち着いたところで、『異世界冒険部』のこれからについて話そう」
軽食で小腹を満たし、白河部長は切り出した。
「今後、我が部は、この『フルリンク型異世界体験マシ~ン(仮)』を使った活動が主となる」
(その名前、なんとかしようよ!)
「試作機ではありますが、安全は保障します」
「良くも悪くも、お前たちの大きな経験となるだろう。そのことを念頭に、我が部を続けるか、辞めるか、決めてもらいたいのだ」
「活動は研究所に入れる休日に限られる、ということでしょうか?」
尋ねるナツキに、
「実は既に、学校の地下施設へ筐体を準備しているんですよ」
「うむ、普段の授業が終われば部室に集まり、施設へ移動して活動開始となる。場合に依っては、数日間『セラス』に遠征することもあるな」
「根回しがいいですね……オレは続けたいと思います。憧れていた世界ですから」
「ケントが行くなら、僕も続けます」
「見てないと異世界の方にどんな迷惑を掛けるか心配です、私も行きます」
「私も!皆さんと一緒なら大丈夫です!」
「よしよし」
満足そうに白河部長は頷き、
「それでは、二度目のリンクに挑もうか。あちらで【王】を待たせているからな、念のために、もう一度トイレを済ませておこうか」
そうだった。
「『セラス』ではトイレの必要は無いんですか?」
「『アバター』だからな。どれだけ飲み食いしても、排泄は必要無いし、太ることもない。歓迎の式典、『王宮』の美味いモノを、楽しみにしていろ」
「うひょおおおおお!!!」
「それは楽しみだな」
「食べ放題……(ゴクリ」
「はわわ、宮廷料理、どんなものなのでしょう」
トイレを済ませ、再び筐体に寝転ぶ。
「ベッドの体圧分散機能も正常に作動しておりましたので、次のリンクは四時間程度を目安とします」
「そういえば、注射はいいんですか?」
「効果は約一日持続しますので、今回は必要ありませんよ。ご安心ください」
グオオオオン……
筐体の上部が下りてくる。
「それでは皆さん、ボン・ヴォヤージュ(良い旅を)!」
その声で、視界が暗転した。
―――
「では葛西さん、手を診せて頂けますか?」
「むしゃくしゃしてやっちゃいました。今では反省しております」
シュンとする葛西さん。
「感情のままに動くのはケモノと一緒です」
諭しながら、テキパキと傷口の処置を進める茨木先生。
「しかし、それが悪いこととは思いません。遺伝子構造を見ても、ヒトとケモノには大差はありませんからね。では、違いは何でしょうか?≪スキャン≫、≪アナライズ≫」
先生の瞳が虹色に輝く。
「……知性でしょうか?」
「骨折はしていませんね。安心しました。そうです。ヒトは知性を使い、自身の牙を研ぐことができます。『臥薪嘗胆』、今は耐える時です。貪ることしか考えない、飢えたケモノどもに、鋭い一撃を与えてやりましょう」
処置を終え、新しい包帯を巻く。
「仰せのままに」
『悪意』が見え隠れする歓待パーティ予定でしたが、まだまだ時間かかりそう。