ステータス
短めです。よろしくお願いします。
大型モニターに次々表示される異世界冒険部員の視界。
「無事みなさん送られたようですね。では葛西さん、始めましょうか」
「ういっす!タイムリミットは一時間、ですね」
「解析に『マザー』を使いたいのですが、どうでしょう?」
何もない空間に、訪ねると、
『今は動けないの、ごめんなさいね』
部屋に設置されたスピーカーから女性の声が返ってきた。
「そうですか、こちらで頑張ってみます」
「はぁ~、まぁ分かっていたことですが、『権力』ってヤツぁ厄介ですね」
「こちらには魔法がありますから、いきますよ」
「≪スキャン・オープン≫」
その言葉と共に、青海勇春のホログラム、そして全身情報が空間に浮かび上がる。
「ふむ、やはり埋めてありましたか」
心臓付近に表示される異物。
『緊急停止装置』
(とりあえず、ここの回路だけ消しておきましょう)
「先生、海馬領域、ここと、ここの拡大、再生をお願いします」
「明らかに異常ですネ、≪プロジェクション・スタート≫」
空間に、ノイズ混じりの記憶が投影される。
公園で戯れる四人の子供。
その周囲に映る、背景と共に不自然に塗りつぶされた大人たち。
「あーらら、これは杜撰な書き換えだ。しかも、周辺の記憶まで傷つけ……、あー……っ、傷つけた方があちらさんには都合が良いわけね。うんうん、勉強になるなぁ。はははっ」
「彼らが望んだ記憶の断片を植え付けることで前後の記憶を曖昧にさせ、そして、子供たちは無意識に断片を繋げて、記憶は『彼らが望んだレール』を辿ることになる。しかし、この記憶は一体、誰のモノなんでしょうか、ネぇ」
分かっていますよ。あなたのメッセージは受け取りました。
着々と解析を進める二人。
「ふぅぅむ」
神妙に呟く茨木紫檀。
「噂には聞いていましたが、いやはやこれは、凄いですネぇ……」
「『アーリィ・ウィザード』……この子、前頭葉にいくつかプロテクトが掛けられてますね。擬似ロボトミーでしょうか」
「薄々は感じていましたが、黒野さんの勉強嫌いは、これが原因ですネ。全く、時代錯誤も甚だしい」
「出てくる出てくる、統一計画チームの研究情報。まるで知識の宝石箱やぁ~!」
「葛西さーん、目的から外れていますよー?」
「うっす、さーせん!みんな健康体っ!問題なしっ!」
「さて葛西さん、最後に白山……さんですが、……見ますか?」
「はははっ、当たり前ですよ。そのために、先生側についたんですから」
へらへら笑う葛西の目は、昏かった。
「≪プロジェクション・スタート≫」
ノイズ混じりで映し出される白山秋子の幼い記憶。
『私は、愛されていた』
『大好きな、暖かかいお父さん』
『お母さんのことは知らないけれど』
『とても幸せ』
『お父さんに連れられて公園に行った』
『優しいヒトに出会った』
『とてもキラキラしていた』
『キラキラの背中に、モヤモヤがみえるようになった』
『そのモヤモヤを消すことが、私の役目』
『きっと、そのために』
『私は生まれた』
『知らない人がきた』
『暖かかったお父さんは』
『冷たくなっていた』
「すんません、ちょっとトイレいってきますわー」
「ゆっくりでいいですよ」
(『太陽の子』、ですか)
部屋を出て、
―――ガァンッッ!!
怒りに任せて、思い切り壁を殴る。
「ふぅうううっ!!ふぅううううっ!!」
赤い血が滲む。
(この身に流れるクズの血、必ず……絶つ!)
――――――
「二時間程度で戻る。準備が出来次第、連絡をいれるからな」
「承知いたしました。お待ちしております」
『召喚の間(?)』の前で護衛の皆さんとわかれ、中に入る。
「さーて、ここから先はお楽しみ、ステータスの説明に移ろうか。もちろん合言葉は?」
「「「「《ステータス》!!!!」」」」
『ケント・クロノ』Lv.1
BP:100/100
MP:350/350
総合力:1350
演算力:70
超感覚:10
持久力:80%
「うひょー!すげぇ!」
「「……」」
テンション爆上げのオレ、静かにじっとステータスを見つめるハルとナツキ。
「えっ!?」
驚きの声を上げるアコ。
「あっ、あの……部長、この名前って」
「好きな方を選べ」
『アキコ・シロヤマ(アキコ・シノノメに変更可能)』Lv.1
じわっと、アコの眼が潤む。
「大丈夫?何かあったの?」
「んーん、なんでもないよ、ナッちゃん。……うん、私は白山秋子です」
「ふふっそうか。」
???
ふむふむ……レベル制かな?スキル欄はあるが、手持ちスキルは無し。スキルツリーも無し。
大体の項目の意味は分かるんだけど……
「部長、『超感覚』って何すか?」
「文字通り、感覚を超えるものだ。直感や認識力を向上させることで、『アース』以上のフィードバックを得ることができる。今のお前たちはアバターだから身体構造は『アース』と違うのだが、認識して、脳が判断し、行動に移す、このプロセスを高速化する。レベルを上げれば『反射』に近い芸当もできる、重要なステータスだ」
どうも抽象的すぎて、理解できない。
「ふーむ、実際に見せる方が早いか。黒野、指をチョキの形にして、水平に構えてみろ」
そう言いながら部長は、学生服の胸ポケットからボールペンを取り出す。
「こう、ですか?」
「この指の間に、ペンを落とすからな?上手く挟んで見せろ、いくぞ」
じーっ
すっ
(ここっ!)
パシッ
「よっし」
「何とか挟めたか。よし、次は同じように、私にやってみろ」
チョキを構える白河部長。
「いきますよー?」
特に集中する様子もなく、いつも通りだ。
すっ
パシッ
「うぇ!?何それ!?」
「凄い……」
「人間の反応速度じゃないですよ」
「も、もう一回いいっすか?」
「何度でも構わん」
再び楽に構える部長。
(指の動きで予測されたのか?次はフェイントを混ぜて……)
ふんっ!
全く反応無し。
(あかーん、これどのタイミングでやっても同じだわ)
すっ
パシッ
再びペンの先端を挟まれる。
ペンをくるくる回しながら、
「これが『超感覚』の恩恵の一つだ。戦闘において、攻撃の命中・回避に大きく影響を与える。『小足見て≪ライジング・ドラゴン≫余裕でした』や、『当たらなければどうということはない』のように、古来より名言も多い」
「おぉっ!これを上げまくればきっと回避無双が!」
「まぁまて、『インプット』の速度が速くても、その情報を処理する能力が必要だ」
「それがこの『演算力』ですか」
「そういうことだ」
(ん、まてよ?頭の回転が速くなるってことは)
「部長、こっちで得た情報って、『アース』に持ち帰れるんですか?」
「ほう、そこに気付くとは、やるじゃないか。もちろん、持ち帰ることもできるし、ここでの記憶を破棄することもできる」
「破棄って、なんか怖いですね。でもこっちで勉強すれば、夏休みの宿題が捗りそうだ!」
「ケントが珍しく勉強に前向きだ」
「悪知恵は働くのよねぇ」
「まぁ、そういうことに使うのも自由だ。では、各項の説明に移ろう、こほん」
部長は一つ咳払いし、
「まずはお馴染みの『HP』に相当する『BP』バリア・ポイントだ。この数値がゼロになると、死ぬ」
「ふむふむ、って死!?あ、あぁ、まぁそりゃ死ぬよな……」
「いきなり物騒な言葉が」
「ひえぇ……」
「『アース』の肉体への影響は無いが、恐怖体験は残る。だから、先ほど伝えた記憶を破棄することも一つの手段なのだ。復活は世界各地に散らばる『セーブ・ポイント』からとなる。この部屋も、その一つだ」
「そんなものが世界中に……」
「『セラス』の協力者たちが尽力してくれた。そうだな、あとでクレジットに名前を載せておこう。話が逸れたな。『BP』は『影響力』からアバターを守るための安全機構と言っても良い」
「部長、よろしいですか?」
「うむ、青海」
「『影響力』とは一体何を表しているのでしょうか」
「ここの調整には苦労した。敵に殴られる、足を踏み外して崖から落ちる、熱湯で火傷する、恐ろしい思いをする、誹謗中傷をうける、そういった身体や精神を害する事象に対し、『BP』を消費することで、『ほぼ』無効化することができる。この『ほぼ』というのが難しくてな、完全に『影響力』を打ち消してしまうと、異世界を体感することができなくなる。痛いものは痛いし、熱いものは熱い。怖いものは怖い」
ふんふん。
「よしっ、黒野、一発殴らせろ」
「ふんh、うぇっ!?いきなりなんでオレ!?嫌ですよっ!痛いんでしょ?」
「ふむ、『BP』が減る感覚を身に着けておいてもらいたいのだが、先に私を殴ってみるか?」
「えぇ……部長をですか?」
「遠慮はいらんから、思いっきりやれ」
「そこまで言うんなら、後で怒らないでくださいよ?」
(顔はやめて、ボディー・ブローで……!)
大きく踏み込んで、打撃を放つが、
ガンッ!
(びくともしない!?)
ニヤリ。
流れるように背後を取られ、腰に腕が回される。
ピコーン!
≪ジャーマン・スープレックス≫
「ふんっ」
ちょっ、まっ、死ぬ
咄嗟に目を瞑る。
ズガアアアアン!
石畳に頭から叩きつけられる。
……
「いってええええええ!……ん、あれ?痛くない?いや、やっぱ痛いって!!!」
『ワンッ、ツーッ、スリーッッ!!!』
カンカンカンカーン!!!!
そのままホールド勝ち。どこかからレフェリーカウントとゴングの音が聞こえた。
「と、まぁ、こんな感じだ」
ドヤ顔の部長が、何事も無かったかのように立ち上がる。
「酷いっすよぉおおお!!!死ぬかと思ったっ!それに痛かったっ!だけど……なんか、いつもの組手とは違う軽い痛み。そう、調整された痛みが後付けされるような、不思議な感じだった」
「一発は一発だ、が、感覚は伝わっただろう?ステータスを見てみろ」
BP:80/100
MP:345/350
総合力:1350
演算力:70
超感覚:10
持久力:78%
「『BP』が20減ってました。ん?『MP』と『持久力』も減ってますが……」
「明らかに身体や精神を傷害する外力に対し≪BP≫という防御魔法が自動発動、『影響力』が消えるまで、空間に拮抗する『反力』を発生させる、といえば伝わるか?」
「だから殴ったとき、ピクリとも動かなかったんですね。壁でも殴ったのかと思ったし。アレで死なないとは、本当に魔法の体なんだなぁ」
「そうだ、魔法の体だ。だからこそ、『BP』以上に大事となるのが、『MP』だ」
部長の説明を要約すると、
『MP』はアバターの維持に必要不可欠な魔力残量で、『MP』がゼロになった時点でアバターは存在を保てなくなり、消滅するとのことだ。
『総合力』はアバターが保持する魔力の質と大きさ、と言い換えても良い。強化すれば、そのまま身体能力が上昇するだけでなく、魔法の威力も上がる。
『持久力』は時間と共に減る。所謂、満腹度に近いのだろうか、魔法に使われるエネルギー『魔素』の残量を表している。魔力は『魔素』を操る力であり、別物らしい。
「とまぁ、大体そんなところだ。細かいところは追々説明しよう。さっきから顔を出したくてうずうずしてるヤツがいるからな。ヴァイス、出てきていいぞ」
「ひゃっほぅ!ヴァイスだよっ☆」
∩
( ゜∀゜)
⊂ ノ
(つ ノ
(ノ
ぽすんっ
軽い音を残し、突然目の前の空間から中性的なこども(?)があらわれた。
「ひゃぁっ、これも魔法?」
「最初からいたの?それとも……」
「さっきのレフェリーカウントはこの子が?」
「むっ、子供じゃないし。力抑えてるだけだし。そうだ!ちょっと見せてもらうね?」
突然現れた子供に、じっとみつめられる。
(なんか、ぞわぞわするな?)
「ふむふむ、こんな感じ、かな?」
ぽすんっ
『ヴァイス は バインバインなお姉さん に 進化した』
『ホワァ~オ』
組んだ両腕で裸Yシャツの胸元を押し上げ、
「どう、かしら?」
しなを作り、妖艶な流し目を送ってくる。
(え、爆☆お姉さんズの×××!?!?)
慌ててハルの両目を覆うアコに対し、
ピコーン!
≪目潰し≫
ギャー!
『ナツキ は ≪目潰し≫ を おぼえた』
※良い子は絶対に真似をしないで下さい。
「何?今の?」
「僕にも聞こえた」
「わたしにも……」
「特定の行動を取ると、スキルを習得することがある。ステータスにスキル欄があるはずだ、開いてみろ」
「あ、ほんとだ、増えてる」
≪目潰し≫Lv.1
消費MP:1
アクティブスキル。
対象の『視覚』に接触中のみ使用可能。
成功時、対象を一定時間『盲目』状態にする。
レベルが上がると成功率・持続時間が上昇する。
「煩わしければ、習得通知を切ることもできるぞ。その姿は、若者に刺激が強すぎる。もどれ」
「は~い」
ぽすんっ
「改めまして、どもーっ!ヴァイスシュテルンでっす!ヴァイスって呼んでね!初めまして『アース』の皆さん」
☆(ゝω・)vキャピ
「ほんと、イタズラを覚えたばかりのガキだな」
「ローズのお陰だよ~♪」
「あのー、おれ無視するの、やめてもらえませんかね」
やっと『盲目』が回復した。ナツキさん、魔法の体だからって、目潰しは危ないですよ。しくしく。
(しかし、何だったんだ?痛みは無いし、完全な闇だった。魔法的なものか?)
「こいつは、王都『ヴァイスシュテルン』に生まれた思念の集合体だ。ローズが『なんやかんや』をこの世界に広めたせいで、こいつの頭はハッピーセットになってるわけだ」
「うんうん、ローズは『セラス』を救った。特にこの王都は、幸せ沢山はっぴーはっぴーなんだよ」
「なんか展開スキップしすぎてわけわかめなんですが」
目まぐるしく変化する状況に理解が追い付かない。
「オープニングムービーでも作っておけばよかったな。いや、作ってもお前はスキップを押すか」
「ん?何の話です?」
「ふむ、この場で言っていいのか?お前のPCデータを」
「やめてええええええええええええ!!!!!」
全力で、跳んだ。
ズサアアアアアッッ!
ピコーン!
≪スライディング土下座≫
「どうして……知ってるんですかねぇ?」
「母に聞いた」
J( 'ー`)し
かーちゃん……
「ケント?後で教えてもらえるかな?」
「ケント?後で教えてもらえるかしら?」
そのニコニコは怖いです、ハルさん、ナツキさん……
ピコーン!
≪威圧≫
ゴゴゴゴゴ……
「うおっ、これもスキルか。なんか『BP』ちょびっと減ってるんですが」
『イサハル は ≪威圧≫ を おぼえた』
『ナ ツ キ は ≪威圧≫ を おぼえた』
「精神干渉スキルも『BP』で防ぐからな、こんなところで無駄に消費するんじゃない」
「あははっ、やっぱり『アース』のヒトたちって面白い!」
「さて、そろそろ一時間経つな。ステータス欄から『セーブして帰還』を選んでみろ。先に戻る」
その瞬間、部長は光の粒子となり、空間に吸い込まれるように消えた。
「戻ってくる時は、今の光景が逆再生される感じになるよー。それじゃまたねっ!ばいばーい」
ぽすんっ
手を振りながらヴァイスも消えた。
「いやー、すげぇなほんと」
「まさか、先生たちがこれほどのものを作っていたとは」
「『全部夢でした』ってオチでも驚かないよね」
「私たちも戻りましょうか」
「「「「『セーブして帰還』!!!!」」」」
自分が拡散する感覚と同時に、意識が途切れた。
(『善意』を、広めてねっ)
ステータスやスキルの設定は、時々変わると思います。