王様に会おう
短いです。よろしくお願いします。
白河部長たちに連れられて、辿り着いた先は、煌びやかな『謁見の間』だった。
階段の上には王座に腰掛ける威厳に満ちた老人が、両脇には礼服に身を包んだ集団が控えていた。
部長に続いて赤い絨毯を進み、
部長に倣ってすっと膝を付く。
(作法なんて知らないんですがっ)
すると、空気が変わる。
静かに澄んだ空気の中、厳かな声が響いた。
「顔を上げよ!」
(ビクッ!)
「よくぞ参った!異世界の勇者たちよ!」
力強く、魂に響くような声だ
「我はアルト・アベンド・ヴァイスシュテルンⅡ世!このヴァイスシュテルン王国の【王】だ」
王座より立ち、
「この世界、『セラス』は悲しいことに『悪意』に満ち、着実に『滅び』へと向かっておる」
ゆっくりと階段を降り、近付いてくる。
「『アース』に住まう【勇者】たちよ、厚かましい願いであるが、どうか、この世界を救ってくれっ!」
オレたちの前で深く頭を下げる【王】。
(テンプレ展開!?!?)
静かに部長は立ち上がり、しっかりタメを作って、
(やるなよ?やるなよ?)
「断 る っ !」
ババーンッ!
(やらかしたー!!!!)
ざわつく周囲。ドヤ顔の部長。
驚きハッと顔を上げ、部長をキツく睨む【王】。
眼が怖い。空気がピリピリと緊張感に震える。
(やばい、息が詰まる)
これが【王】のプレッシャーなのか……
ふっ。
「カァット!!」
部長の声で、それまで重苦しかった空気が突然、緩み、
「上手に出来たかのぅ?ほっほっほ」
ふっと、表情を崩す、好々爺となった【王】。
「掴みはOK、合格だ」
「それを聞いて安心じゃわい、おう、そうじゃったそうじゃった、もう一つあった、うおっほん」
一つ咳払いし、
「ここは おうと 『ヴァイスシュテルン』 だよ」
「「「「突然の【村人A】!!!」」」」
「ほぅ、ローズの仕込みか、やるじゃないか」
「ほっほっほ」
(え、茨木先生、何やらせてるんですか)
【王】と【宰相】よりこの世界の大まかな説明を受け、
「先ほど伝えたように、この世界は『悪意』まみれでの、地方【領主】は民を食い物にし、周辺国は武力を蓄えておる。薄氷の上、きっかけさえあれば崩れてしまう束の間の平和。わしらだけでは『滅び』への道を止めることができんのだ」
「異世界の【勇者】、いや、【遊び人】たちよ。世界を救えとまでは願わん、どうか、『セラス』を存分に楽しんで欲しい。そして道中、『善意』というものを、この世界に示してくれ」
文官らしき男性より、俺たち四人に煌びやかな装飾が施された金属のカードが配られた。
「この者たちに、王国の加護を授ける!」
【王】の宣言でカードより紋章がふわっと浮かび上がり、すうっと体に吸い込まれる。
≪『ヴァイスシュテルン』の加護 を 手に入れた≫
「うおっすげぇっ!」
突然のアナウンスに驚く。
「体に害は無いから安心してくれ。王家の証とそなたらをリンクさせた。これで盗まれることはあるまい。セラス滞在中の身分証にでも使ってくれ」
「この世界を理解するにも時間がかかるだろう。諸君らには二名ずつ、補佐を遣わす。武官と文官だ。前へ出よ!」
左右に控える集団から、静かに現れる十人。ザッと王の前に跪く。
背後から見ていても、明らかに雰囲気の違う二人がいた。
「選抜は私がおこなった。独断と偏見でな」
ニヤリと笑う部長。うん、嫌な予感しかしない。
「うわぁーっ!すっげぇっ!ハルたちのところめっちゃキラキラしてる!」
美男・美女に囲まれるハルらを羨望の眼差しで見つめる。
自分の両隣からひしひしと感じる、熱く滾るパワーから目を逸らしたくなったからだ。
「なんでおれだけマッチョメンなんですかっ!」
アゲハチョウを従えた部長に食って掛かる。
「その二人は王国『最強の矛と盾』と称される武官・文官それぞれの英傑だ。流石に【王】も渋ったが、ふふんっ、私のお願いが通じたみたいだな」
ドヤァ!
両脇のアゲハチョウは、それぞれの上司に静かに会釈する。
身長二メートルは超えるであろう、聳え立つ筋肉の壁。辛うじて、礼服で武官・文官が分かったが、
「あの、本当に、文官なんですか?」
色白スキンヘッドの筋肉に尋ねる。礼服がはちきれそうなんですが、それは。
「はい、アギ・ヨウ・コンゴーと申します。国務大臣を任されております。仕官登用試験は主席で通過させて頂きました。同期の彼は、次席で通過しております」
キラン☆と素敵なスマイルを浮かべ、右手が差し出される。
こちらも右手を差し出すと、大きな手にニギニギされる。
唖然とする。色黒スキンヘッドの筋肉もインテリなのかよ……騎士の礼服がパンパンだぜ。
「ウンギ・ヨウ・リキシーです。王国近衛騎士団、総長を務めております。このたび【賢者】さまの護衛という栄誉を賜り恐悦至極でございます」
ニカッ☆と眩しいスマイルを浮かべ、左手が差し出される。
こちらも左手を差し出すと、こちらも大きな手ニギニギされる。
ニギニギニギニギ……
両手を笑顔のマッチョメンに掴まれる、何この状況。
(ってか、【賢者】は部長じゃねーか)
「どうだ、素晴らしい人選だろう?二人は平民の出でな、その身ひとつ……いや、ふたつで家名まで得た英傑だ。揃えたミドルネームは友情の証、阿吽の呼吸を見せてくれる」
「「お任せあれっ!!」」
パッと手を離したかと思えば、
ふんっ!ふんっ!ふんっ!
フロント・ダブル・バイセップス、フロント・ラット・スプレッド、サイド・チェスト。
流れるようにポーズを極める二人。輝きはじめ、しまいには光線でも放ちそうだ。
げんなりしていると、
「黒野、外見に惑わされるな。そして、本質を見誤るな。その二人はローズの教え子だ。いわば兄弟子にあたる、わかるな?」
(えっ、茨木先生より明らかに年上なんですけど?)
様々なポーズを繰り広げながらも、視線は常に鋭くオレを観察していた。
なんだろう、お尻がムズった。
部長は、神妙な顔をしているが、口元がひくつき、笑いを堪えている。
絶対言わせたかったのだろう。
「えーっと、つまり……『二人は兄貴』、ということになるんでしょうか?」
「兄者っ!」
「弟者っ!」
「「いよおぉぉぉおっ!!」」
ふっふっふんっ!ふっふっふんっ!ふっふっふんっ、フンッ!
バリィッ!!
一本締めのリズムで、最後はモスト・マスキュラー。
ニカッ☆☆
笑顔が弾け、礼服も弾けた。
茨木先生……何を教えてんですか……
「ゆくゆくはっ、ははっ、お前が、くっく……兄貴になるんだから、なっ」
部長はケラケラ笑っていた。
「すぐにでも歓迎の式典を開きたいところだが、一度戻るのであろう?それまでに準備は済ませておく」
「あぁ、こちらも準備が必要なのでな。また後程」
迷いなく進む部長を先頭に、俺たちも続いて『謁見の間』を出た。
――――――
「ふうっ」
皆が立ち去った『謁見の間』で、一つ息を吐く。
「陛下、よろしかったのですか?」
隣の【宰相】が尋ねる。
「当然だ。住む世界が違うのだ。こちらは協力を乞い願う立場。彼らを少しでも繋ぎとめることができるなら、【道化師】にでもなるさ」
魔獣の氾濫、大侵攻から大陸を救った【導師】ローズの言葉を、この世界は理解していなかった。そして、【王太子】だった私も。
――― 『次はあなたたちの中から、ケモノがうまれますよ』
ヒト族共通の危機が去ると、復興から利権を貪ろうとする飢えたケモノが大陸中に蔓延った。そして私も巻き込まれ、身近に居たはずの、ヒトだったケモノに、【先王】であった父は謀殺された。
「【王】が道化を演じるなどっ!あれだけの力を持ちながら……っ!」
ふつふつと、怒りが込み上げる。
【宰相】は大陸中で語られる伝説を思い出す。
『【魔獣王】が統べる、千万を超えるケモノの大軍に
立ち向かうは一人の【導師】
最終決戦
≪メギドの火≫
閃光と熱と轟音
全ては終わっていた』
「忠義は嬉しく思う、が、落ち着け。普段冷静なそなたらしくもない。もっと、もっとと、求める、力への羨望は、悲劇への原因となる。『悪意』が混ざってはならん」
「っ!失礼しました」
豪奢な袖口のボタンを摘み、
「一つのボタンで一つの世界が滅ぶ。そんなものを、『悪意』に満ちたこの世界が扱えるはずもあるまいて。まずは『善意』を積み重ねるのだ」
「はっ、御心のままに」
【王】の言葉で、【宰相】は落ち着きを取り戻す。
「……ふむ、頭の固いお前に、旅の途中で【導師】から教わった、面白い話をしてやろう。異世界文字で『クニ』とはどう表すか、知っているか?」
「『国』、こうでしょうか」
肌身離さず持ち歩くメモ帳に、鉛筆でさらさらと、慣れた手つきで表す。
(紙、鉛筆、これも【導師】の御力……)
「そうだ、囲んでいるのは『王』ではない。筆を貸せ、クニは、『國』とも表す」
さらさらと、『国』の下に『國』を書き加える。
「囲いの中は何と読むのでしょうか」
「或いは、つまり可能性のことだ。お前も信じてみろ、『玉』を、この『ヴァイスシュテルン』を」
っっっ!!!
「なんと含蓄に富んだ文字っ!素晴らしい!すぐに高等学院のカリキュラムに『異世界文字』を取り入れます!」
慌てて『謁見の間』を飛び出す【宰相】。
「うおーい!……行ってしまったか。固いヤツほど、新しいモノに感化されると突っ走るな。だが、それもまた、をかし」
「世界は動くぞ!善き哉、善き哉!ハッハッハッ!」
臣下の前にもかかわらず、【王】は心の底から笑った。
帰還前のステ振り説明会予定。そっから細々。