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異世界冒険部  作者: ノラえもん
2/25

非日常

よろしくお願いします。

夏休みが近付くある日の放課後。


「喜べ諸君!」


その日の部活は、白河部長の突飛なお言葉から始まった。




「異世界だ」




「「「「……??」」」」





「街の端に大きな研究所があるだろう?明日は皆でそこにお邪魔する」


最先端技術開発研究所。


約六十五平方キロメートルの広大な敷地面積を誇り、この街で最大の施設である。

愛恩(アイオン)研究学園都市は全て、この研究所を中心に計画・開発されてきた。

しかし、高さ十五メートルの壁に全周を囲まれ、施設の内容は謎に包まれている。

職員の機密情報管理も徹底されており、外部に出てくる情報は、ホームページや学会を通した物がほとんどである。

ホームページでは衝突型円型加速器や重力波望遠鏡などの写真と共に、研究内容が報告されている。


毎年、様々な学会でその名が挙がる、この国随一の研究機関だ。


って父さんから聞いた。


父さん、ハルのおじさんも、そこで働いている。


「い、異世界って、見学…でしょうか?」


アコが尋ねる。


「違うぞ。そこの最新機器の使用許可が、我が部に下りたのだ」


「と、その前に、ローズ」


部長は話を区切る。


「これから話す内容は国家機密情報に該当する。それも結構ヤバイやつだ」

「すみませんが、こちらの誓約書に了承を頂けますか?」


茨木先生より配られる誓約書。


「ここから先は他言無用です。友達にも喋ったらダメですよ?情報漏洩が発覚した場合、しかるべき場所で裁かれます」


(文字多過ぎ)


とありあえず承諾のサイン。


「先生と部長は、なぜ…、…その様な情報を、ご存知なのですか?」


慎重に問うナツキ。


「詳しくは話せませんが、私もリリィも、公僕なんですよ」


少し困った様な表情を浮かべ、曖昧に答える茨木先生。



誓約書と交換でタブレット端末が配られた。


皆の手に端末が行き渡ると、動画ファイルの再生が始まった。






薄暗い舞台の上、ジーンズにTシャツ、ラフな服装の部長が浮かび上がる。


伊達なのか、丸眼鏡を掛けている。



(歴史の教科書で似た人を見たぞ)


舞台上の部長は、ゆっくりとタメを作り、語り始めた。


「十年間……この日を待ち続けていた」

「フゥゥウウ~!」「オォオオ~!」(拍手)


不可視の聴衆から歓声が沸き起こる。


「十数年に一度、全てを変えてしまう新技術が現れる……

それを一度でも成し遂げることができれば幸運だが――我が国は幾度かの機会に恵まれた」


(再現度高けーなオイ)


「ファ〇コン、ドリ〇ムキャスト、VRヘッドセット……」

「フォオオオオオッ!」「イヤァアア!」「イエッス!」(拍手)


(オイッ!)


「我が国は、革命的な技術を世に送り出してきた」


「そして、本日、革命的な新技術を――三つ発表する……」


(拍手)



しっかりと、タメを作る部長。



「一つめ、我らは知的生命体が生息する星を発見、そこへリンクする技術を開発した」

「ウオオオオオオオッ!」「イヤァアア!」(拍手)


「地球と酷似する進化を遂げた星、しかし、真なる異世界と繋がったのだ」



(は?)



「二つめ、手動コントローラを用いない、難しい操作を覚える必要もない、全く新しい、VRインターフェース技術を開発した」

「フゥウウウ~!」「イエッス!イエッス!」「オォオオ~!」(拍手)


VR技術が発達した現代でも、多くの操作は手動コントローラに頼っていた。

脳波コントローラはチャタリング防止などのバッファを要し、応答速度が低下するジレンマを抱えている。そのラグがストレスとなり、こと、対戦ゲームでは致命的な差となっている。


バッファを切る?10秒で3D酔いだ。



(脳波だけで操作できる、ってことか?)



「三つめ、五感へのフィードバック技術。これまでの紛い物ではない、味覚、嗅覚さえも震わせる新体験だ」

「ヒィィハァアアアッ!」「ウヴォオオオオオオオッ!」(拍手)


VRでは視覚と聴覚、デバイスの振動による擬似的な触覚で、仮想世界を表現してきた。

脳に電気刺激を与えて、味覚や嗅覚の電気信号を再現する実験は、危険すぎるので中止されたと聞く。



(一体どうやって……)



「異世界リンク、直感的な操作、フィードバック」

「フゥウウウ~!」「ウオォオオッ!」「イヤァアア!」「イエス!イエス!」(拍手)


不可視の聴衆のテンションがうなぎ登りである。



「お分かりですね?」


「独立した三つの技術ではない、一つの機械に集約させたのです」



(マジかよ)



「the Name Is...」



画面が暗転する。



思わず息をのむ。






ペカペカペカ~!


「フルリンク型異世界体験マシ~ン」








レトロな効果音、効果線と共に、銀色の直方体が表示された。



(タヌキ型ロボットの挿絵は見なかったことにしよう)



そこで動画ファイルは終わっていた。





「よく作りましたね、俺たちへの説明用でしょ?」

「助手が一晩でやってくれました」

「名演技だろう?」


ドヤ顔の部長。助手の無駄遣いである。



続いて別のファイルが展開される。仕様書の様だ。


(ワープ?抜け穴?テレポーテーション?)


画面をスクロールすると、聞きなれない単語、複雑な計算式、グラフやら何やらの説明が並んでいたが、さっぱり理解できなかった。



「諸君!我らは異世界を追い求めてきた!」



突然、部長が語り始める。



「我らは持てる技術を駆使し、異世界を模索してきた!」


VR技術の発展やVRMMOが流行したのも、大衆の異世界への憧れからだろう。


「どれだけ頑張っても、それは真の異世界とは呼べない」


そうだ。

それは監修に【デザイン】された仮想世界だ。


「しかし、この機械は全く違う。五感全てで、真なる異世界を経験することができる」


原理はさっぱり理解できないが、凄い技術だということだけは理解した。


「この一年間、私たちなりに、皆さんを育ててきたつもりです」

「その成果が国に認められ、諸君らは晴れてテストケースに選ばれたのだ」


「えっ?」「は?」「……?」「?」


(これまでの部活動は、初めから仕組まれていたのか?)



「明朝、マルキューマルマル時、研究所正面ゲート前に集合!」

「以上をもって本日の部活動は終了する。各自しっかり体を休めるように!解散!」




―――




風呂から上がると、ちょうど父さんが帰ってきたところだった。


「あ、父さんお帰り」

「おぅっ!今帰ったぞ~」


黒野ひろし。黒野家の大黒柱。こんな遅くまでお仕事お疲れ様です。



「明日、父さんの研究所へ行くことになったよ」



「ほぉ~、リリィ博士の研究室か?」

「えっ?んっ?ごめん、そこまでは聞いてなかった」


「そうかぁ~、しっかり学んでくるんだぞぉ」

「うん、すっげー楽しみ」


「機密漏洩だけは十分注意しろよぉ~」


「明日は休みだ、呑むぞぉ~!」


そう言ってリビングへ向かう父と別れ、自室に戻る。



鞄からクリアファイルを取り出し、机に広げる。


先生から「目を通しておくように」と渡された紙の束。



「これ、何枚あるんだよ……」




―――




翌朝。



最先端技術開発研究所、正面ゲート。


研究所を囲む、どこまでも続く高い壁。

見上げていると首が痛くなってきた。


そして、鋼鉄製の重厚な門構え。

大きな機械は深夜に、交通整理をしながらここから搬入・搬出しているらしい。


その脇にある職員用一般通路の前に冒険部一同は集合していた。


茨木先生と白河部長は守衛さんにIDカードを提出し、パッド型の端末に手の平を乗せている。


……ピッ


『Order Allow』


「確認致しました、リリィ博士、ローズウッド博士」



「何か、違和感がありますね……」


ハルが呟く。


「学会ではそっちでとおしているからな」


「そちらの方々が例の……」


「そうです、皆さん、生徒証を出してください」


先生に倣って、生徒証と右手をスキャンにかける。

ICチップが内蔵されており、学園外でも個人証明として使用することができる優れモノだ。


……ピッ


『Order Allow』



「本人確認が完了致しました。どうぞお進み下さい」


通路のゲートが左右に開かれる。


「平日の朝はここが渋滞します」


先生が冗談めかして言った。



無機質な明かりに照らされた通路の先には、次のゲートが見える。


「二重ゲート?」

「リスクを下げる工夫ですよ」


先生の手がパネルに触れると、ゲートが左右に開かれる。



職員用通路を抜けた先には、無機質ながらも、洗練された外観の建造物が林立していた。

道路にはコンテナを運ぶ自動運転車両が整然と行き交っている。

往来を歩くヒトの姿もちらほら見られた。



「「「「……?」」」」


(んー?なんだろう、この既視感?ゲームの街?)



「どうです、実物を見ると驚きましたか?」


先生の声で我に返る。


「研究所というより、隔絶された街という印象を受けました」


ナツキの表現に、皆が頷く。


「的を射ていますね」

「ここでは戦略兵器に転用可能な技術研究も数多く行われている。その為の措置が必要なのだ」



「さぁ、ここから先はトラムで移動です!」




乗り場には行列が出来ていた。


「意外と人がいるね」

「研究者の皆様はどこに?」

「子供?」

「あの二人、どこの学校だろう?見たことない制服だ」



目の前でイチャコラする高校生らしきカップルに軽くイラッとした。



「そこに並んでいるのは全員アンドロイドだ」



「「「「えっ?」」」」



「この規模の研究施設だからな。維持管理にも相当数の人手が必要だ」

「研究者は大体研究室に引き篭もっています。外を歩いているのは九割九分アンドロイドです」



絶句する。


見分けがつかなかった。



「えっ、でも子供だって……」


尋ねようとして違和感を覚えた。


(何で研究施設に子供がいるんだ?)


「アンドロイド小型化の実証実験だ。ここまでのダウンサイジングに成功したのは、世界で見ても我が国が初だろうな」


声が聞こえたのか、少女が振り返り、不思議そうな表情で、くりっとした眼でこちらを見ている。


機械的に焦点ピントを合わせる眼。


信じられなかった。いや、信じたくなかったのかもしれない。



目の前のイチャコラが、少女の表情が、全て【プログラム】だったなんて。



「昔の研究者が遺した、ささやかな『善意』です」


(?)


音も無く、トラムが到着する。


整然と乗車を始めるヒトたちに、薄ら寒いものを感じた。



「長くは持たなかったようだが、な」


白河部長の呟きは、次々とトラムに乗り込む足音に消えた。



―――


それなりに乗客は居たが、


「ここまで似せる必要ってあったんですかね?凄いことだとは思うんですが……」


『こちらへどうぞ』とばかりに、ぽっかりとスペースが作られていた。


海外からも多くの研究者がやってくるため、多言語へ対応できるアンドロイドは愛恩市内の各所でみかけられる。病院や役所の受付だけではなく、交通機関の案内なんかは特に充実しており、観光客は大喜びだ。


しかし、なんか不気味なんだよなぁ。

抑揚のない音声、張り付けられた笑顔、アイドル中に一定間隔で繰り返される動作。


その点、研究所ここのアンドロイドは不思議だ。


物憂げに窓の外を眺めているスーツ姿の女性。溜息が聞こえてきそうだ。

シートに腰掛け、端末を忙しく操作している男性。何かトラブルでもあったんだろうか。

行儀良く、チョコンと座っている少女。ゆらゆら体を揺らしている。

ヘッドホンを付け、静かに目を閉じている男性。何を聴いてるのかな。

何が楽しいのか、小声で笑いあってる学生服姿の男女。イラッ。


皆に息吹を感じる。


「機械に囲まれて研究を続けていると、自身も機械の一部となったかのように錯覚することがあるんです」

「『気分転換のために研究室から出ても、そこには機械しか無い。この状況は健全じゃないだろう』と、見た目だけでも模倣することから始めたんだ。そこから派生して、表情や仕草の研究、言葉の研究などを積み重ね、個体毎の性格を簡易ながら表現している。そして生み出された数万機のアンドロイド、その集合から成るのが、昔の研究者が求めていた『日常』の表現だ」

「マジっすか……」

「新しい職員は驚くんだが、慣れてくると、どうしても、な」

「私も、急がない小型部品なんかは彼らに運んでもらうんですが、自動運搬機に任せがちになっていますネェ……」



―――



圧倒された。



高エネルギー物理学研究棟。


でかい。ショッピングモール並の規模である。


入口で再び守衛さんによるチェックを受けた。



IDカード認証、声紋認証、静脈認証、網膜認証。



研究棟内の区画を進むごとに、複数のセキュリティチェックが設けられている。


「めちゃくちゃ広いですね……」

「私も施設の全容は把握していません。隣の部屋の研究内容すら知りません」


自然と口から洩れた言葉に先生が苦笑する。



『Rosewood研究室』


最後の暗証番号入力を抜けた先には、中央に六つの直方体が並べられた、無機質な部屋が存在した。

壁の一面は全てモニターとなっており、管制室のような印象を受ける。


「お待ちしておりました、皆さん、助手の葛西かさいと申します」


ピシっと白衣を着こなす、壮年の男性が会釈した。


「おや、葛西かさいさん、いつものアロハシャツじゃないんですネ」

「先生の教え子の前です、格好つけさせてくださいよ」


フランクな口調に変わった。

ノリノリであの動画を作りそうな人である。



「こちらが、フルリンク型異世界体験マシンの試作機です」


そう言いながら先生は、手元にある機械を操作する。


すると、並んだ六つの直方体の上部が持ち上がり、内部構造が明らかとなった。


中にはベッドが一つ、まるで鋼鉄の『棺桶』のようだ。


「改めて説明させて頂きます。本機は試作段階です。リンク時にとても強い精神負荷が掛かります。

皆さんの安全を確保するため、リンク前には必ず精神安定剤を投与させて頂きます」


同意書にも書いてあったな。承諾のサインも済ませた。


そう言うと茨木先生は、施錠された保冷庫から、人数分の注射器を取り出した。


(ほんと、厳重に管理されているんだな)


先生にゴムチューブで腕を縛られると、すぐに青い血管が浮かび上がった。

慣れた手付きで、酒精綿による消毒を終えると、


「ふふふ、良いですネぇ……(血管が)若くて太い、ぷにぷにしています」


先生がぐっと、優しい笑顔を近づけた瞬間、薔薇の華が咲き乱れる。


「大丈夫、痛いのは最初だけだから……」


先生の瞳に、甘い香りに、全てをゆだねたくなる声音に引き込まれる。


「は、初めてなんで、優しくお願いします……」

「はいっ、終わりましたよ」


そこには、空の注射器を持つ先生が。


「あ、あれ?いつの間に」


恐るべし、茨木先生。



さくっと全員への投与を終え、



「薬の効果が現れるまで10分ほど要します。それまでに皆さん、トイレだけは済ませておいてください」


リンク中は体を動かせない。つまり、そういうことだ。


「トイレは部屋を出て、すぐ右手にありますよ。大事な機械を汚されては困りますから、ふふふ」


「この部屋の暗証番号は『0801』です。漢字で八月一日ほづみ、とも読みますが、私の誕生日で覚えてくださいネ。他の人には内緒ですよっ」


(気にしたら負けだ!)


慌ててトイレへ向かう異世界冒険部の部員たち。慣れているからか、部長は既に済ませていたようだ。



トイレから戻った俺たち四人は、葛西さんに案内された更衣室で、検査着(?)に着替えた。


「リンク中は動けないから、床ずれが怖いのよ」


なるほど。


「着替えた人から横になってね~」


指示された筐体のベッドにそれぞれ仰向けで寝そべる。

寝心地は、存外快適だった。


グオオオオン……


重厚な駆動音で筐体の上部が降りてきて、周囲を完全に覆う。


真っ暗になったのも一瞬で、周囲が明るく光り始め、数字の羅列が表示される。


体の芯からじんわり温かくなってきた。


続いて、いくつものグラフ、波形、映像が追加で表示される。


(これは呼吸に反応している、これは心電図波形?って!……これ、CT写真!?)


吃驚した瞬間に乱れる波形もあった。


(こっちは脳波か!?こっちの二重螺旋は――うん、考えるのを止めよう)



全身のデータに驚いていると画面の一部が切り替わり、茨木先生が現れた。


「全ての準備が整いました。初めてのリンクで皆さん、とても混乱されると思います。

ですが、ご安心下さい。現地にはリリィが先に到着しております。彼女の案内に従い、異世界を楽しんで下さい」


「姿勢を楽にして、初回のリンクは一時間です」



「皆さん、ボン・ヴォヤージュ(良い旅を)!」



筐体内に先生の声が響いた瞬間、パチっと軽い刺激が奔り視界が歪む。


思わず目を瞑ると、体から力が抜ける感覚があった。



―――



……


一瞬の浮遊感と共に、目を開いた。


(え……?)


青白い光に照らされた、石造りの天井が目に映る。


「よしよし、皆リンクに成功したようだな」


白河部長の声が聞こえる。


「■▲□◆●▼■△……!■●▼■△▲□◆●▼!」


知らない声も聞こえる。何語だ?



どうやら堅い床の上に寝ているらしい。


まずは体を起こそう。


起き上がるイメージを脳裏に浮かべる。


「あれっ?えっ?何で!?」

「どうなってんだ?」

「体が、動かない、どうして?」

「っ聞いてないですよぅ……」


近くに居たのか、皆も起き上がれず困惑しているようだ。


「混乱しているようだな。いいか、これは脳波コントロールではない、現実だと思え」


部長の凛とした『声』が耳に響く。



「朝、目を覚ます、お前達は寝返りを打つ」


部長の言葉に操られるように、体を動かす。


(ん~?)


「しっかり手を突き」


(おっ、おぉおお!?)


「起き上がる」


ガバッ!!!!


「出来たじゃないか、おめでとう」


冷たい石材の感触を手に、皆も起き上がれたようだ。


混乱の醒めない頭で周囲を見渡すと、どうやらここは大きな広間の様だった。

窓はなく、壁には青白い光を放つ灯りが設置されていた。


床にはいくつかの模様が等間隔に描かれ、その上にはそれぞれ、体を起こした皆の姿があった。


(あれ?検査着一枚だったはずなんだけど)


気付けば制服を着ている。他の皆も同様だ。


足元を見ると、丈夫そうな皮のブーツを履いていた。


部長の他に、見慣れない装束の集団も立っている。


(礼服?)


「この世界に慣れるまでは、一つずつの動作を意識して行うことだな」


部長の言葉を耳にしながら、恐る恐る立ち上がった。


堅い石材の感触が靴底から足裏に伝わる。


呆けていると、身なりの整った初老の男性が集団より歩み出た。



「▲■▼▲■△、□◆●▼■●▼□。◆●▼■△▲□●▼●▼」

『異世界の【勇者】様、ようこそセラスへ。我らは皆さまを歓迎いたします』



一瞬、違和感を覚える。


それが何か、気付いてしまった。


気付いた瞬間、恐怖した。



「ど、どうなってんだ!?わけが分から、いや言ってることは分かるんだがっ!」



彼の口からは、そのような言葉は発せられていない。

しかし、聞こえてくる声とは別に、意味は解ってしまうのだ。


ますます混乱してしまう。


「落ち着け、翻訳魔法だ。異世界モノの定番だろう?すぐに馴染む」

「でも!だって!魔法なんて、空想の産物じゃないか!」


「ここ、『セラス』には存在する。そういうものだと受け入れろ」


部長は続ける。


「それに、その体は魔法で作られている。いわばアバターだ。そして、『アース』から送ったお前たちの魂を宿している」


肌に感じる空気、足裏に感じる石材、それらは全てリアルな感触を伝えてくる。


自分の手を見る。


うん、自分の手だ。


頬っぺたをつねってみる。


うん、痛い。


ハルの顔を見る。ハルもこっちを見ている。


自然と見つめ合う。


「うん、ハルだ」

「うん、ケントだ」


「アバター情報は本体をベースとしている。事故防止のため、キャラクタークリエイト機能は未実装だ」

「ちょ、ちょっと!これは高度なVRなんですよ……ね?」


ハルが恐る恐る部長に尋ねる。


「何を言っている」


頬に冷や汗が伝う。


「言っただろう?真なる異世界だと。まぁ、補助輪付きなんだがな」


「「「「ええええっっっっぇぇぇぇ!?!?!?!?」」」」



驚くオレたちへの対応もそこそこに、



「それでは行こう、次は定番イベント『王様への挨拶』だ!」




この先は未定。のんびり更新していきます。

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