希望を食うもの/Hopevore
雑です。短いです。
よろしくお願いします。
「古来より生物は、栄養補給の手段としてモノを食べてきた。
しかし、ヒトは違う。
食べ物が行き渡ると、ヒトはそこに付加価値を求め始めた。
情報を食べる時代の訪れだ。
どこ産だの、何を使っただの、どの店で食べたか、写真映えするか、などもあるな。
知っていても知らなくても、栄養価は変わらないはずなのに、より良い情報を食べたがる。
その欲求に、新たなビジネスが発生する。
不思議なものだな。本来の飢えは満たされているはずなのに、それでも飢えているんだ。
しかし、善き方向へ繋げることができれば、それも大きな原動力となる。そこに悪意が混ざってはならない。
そして、悲しいかな、ヒトの希望を、夢を食う存在もいることも、事実だ。
お前たちには、そういった『悪意』と戦うための知識と筋肉を身に着けてもらいたい。
それが私の願いだ。それでは今日も一日、よろしく頼む」
何やら哲学的な部長の挨拶と共に、本日の部活動が始まった。
ブルマ姿で難しい話をする部長は中々シュールである。
「ハル、意味わかった?」
「んー、何となく?だけどね」
ふーむ、ちんぷんかんぷんだ。
「さて、まずは全員ランニングから始めるぞ」
「あれ?すぐにセラス行くんじゃ無いんですか?」
日曜日。
昨日に続いて朝から部活動。
研究所でのあれやこれやとはうってかわり、今日は学園の部室から始まった。
ジャージ姿のみんな。唯一ブルマ姿の部長は浮いていた。
「フルリンク、おっと、《デウス》だったな。あれで横になっている間に体の疲れは取れるから効率優先だ。それにセラスとの時間調整も兼ねている」
ふむふむ、こっちが昼でもあっちは夜かもしれないもんな。
(それにしても部長のフルリンクなんちゃらって名前への思い入れ、凄いな……)
ぞろぞろ連れ立って、部室から陸上競技場に移動する。
堂々と、先頭を歩く部長の、すらっと伸びた白い足に見惚れていたら、
「ケント、じろじろ見るのは失礼ですよ」
「見てませ~ん」
ナツキにバレていたようだ。
インハイ、インカレの会場にも利用される大きな陸上競技場。
そこでは朝早くから部活動を始めていた陸上部の皆が、あちこちで汗を流していた。
「On your mark(位置について)」
「set(用意)」
パアーンッ!
ザッ!
乾いた号砲と共に、トラックを踏みしめて駆け出す短距離走者たち。
「11秒28!次っ!」
陸上部のコーチが声を張り上げる。
トップのタイムだけ告げ、淡々と周回させる。
パアーンッ!
ザッ!
いつ見てもレベルたけーなぁ、めっちゃ早い。
(んー……でも何かやっぱり、いつもより遅く見える?)
その違和感は、昨日から感じていた。
―――
荒廃した円形闘技場、
満身創痍で対峙する金髪の勇者と黒髪の賢者。
「《ライトニング・ボルト》!」
「《カウンター・スキル》!」
聖剣を掲げ、勇者が発生させた魔法陣へ、
古木の杖を振り、慌てて魔力波をぶつけて打ち消す賢者。
(やっべ!釣られた!)
武技スキルも含め、発動を問答無用で潰す《カウンター・スキル》。
相手のスキル発動が確定する前に打たねばならず、受付時間は一瞬である。
大技を放つ前に、布石として小技を打ち、《カウンター・スキル》を釣る。
そして《カウンター・スキル》のCT中に大技で仕留める、それが対賢者戦のセオリー。
だが、賢者にも大技が存在し、その後の展開は読み合いとなる。
(次で……決める!)
(次で……決める!)
「ケントオオオオおおおおおおおおおお!!!!!!!」
「ハあああルウウウウウううううううう!!!!!!!」
刹那。
交叉する閃光!
――斬ッ!!!!
がッ!?ハっ!!
ドサッ……
崩れ落ちる賢者。
『You Lose』
赤く染まる視界に表示される文字。
むくり。
「くっそ!!!勇者強すぎんだろ!!!遠近両用って、メガネかよ!」
「いやいや、そういう賢者もバランスブレーカーだからね?即時発動の吹き飛ばしはズルいと思うよ」
倒れていた賢者が、起き上がる。
先ほどまでの、苛烈な表情も消えて優しく笑いながら話す勇者。
「7:3でハルの勝ちね」
静かに伝える緋色髪の女騎士。
「ふぅっ、待たれるとつらいね。ブラフで突っ込んでみたけど、上手く決まって良かったよ。お疲れ様」
最後の大攻撃の打ち合いを避けられたら、負けていたのは勇者だった。
セラスから家に帰って宿題を終わらせ、デイリーミッション消化のためみんなでMOSを起動していた。
「ハルさん、ケントさん、お疲れ様ですっ!」
ぴょんっと、円形闘技場の観客席から飛び降りる銀髪の聖女。
「うっす、お疲れ。アコもPvP(対人)やってみない?」
「わっ、私がですか!?裏方専門なので無理ですよぉ……」
「最近話題の自己バフかけて殴り勝つ撲殺聖女ビルド、やってみてよ!!」
「私はそういうの苦手なので……」
癒し系のアコによる近接戦闘。是非とも使用感を聞きたかった。
「フルバフからの《大仏掌》、かなりの打点と聞きましたが」
「聖女が仏とは、MOS運営も言葉遊びが好きなのかな?」
「みんなどう?調子は」
「なんつーか、やっぱり遅く感じる……ような?」
「ですよねっ!ですよねっ!」
セラスから戻ってきたら、世界に、不可視の重りでもついてるのか、というくらい、全てが鈍く、ゆっくりと感じられていた。
最初は、セラスのアバターの感覚と、アースの身体能力差が原因かと思っていたが、
謎である。
(これがアプリコットの云ってたインターチェンジ効果ってヤツ、なのかな?……いや、そもそも状況が違うからなぁ。うーん?)
アプリコット。
格ゲー界の超人。
一年ほど前に、VRMMOの格ゲーに突如現れた、超絶プレーヤー。
数々の大会のトロフィーを総なめにするものの、メディア出演は無くその容姿は謎に包まれている。
新作ゲームの大会で優勝し、
表彰台でコメントを求められた時に、
『運営さぁん、ここのコォド、間違えてますよぉ?』
と、プログラムの不具合を指摘した話は有名だ。
「でも実際、いつものケントなら当たる攻撃を、ほぼ確実に回避してるんだよね」
「そうそう。スキル仕様が変わった、というお知らせも無いし。運が良かったのかな?」
(んー?謎だ……)
―――
「彼らの邪魔にならないよう、トラックの外周を使わせてもらう。あちらには話をつけてあるから安心しろ」
「青海!黒野!二人は五十周!……赤座は二十五周!そして白山は私と一緒にゆっくり五周だ」
この格差社会よ……
「いつも思いますけど、ハルと同じ距離はつらいんですって!」
「ふーむ……ならば、黒野は追加で五周!サービスだ」
「なんでっ!?」
(おいこらっ!増やさないでっ!)
「イイモノ(私の足)をしっかり見せてやっただろう。報酬の前払いだ」
「うっす!やらせて頂きます!」
ニヤリと、悪魔的な笑みを浮かべる部長。
(バレていたか……)
「さー、初めてくださいネッ!よーい、ドンッ!」
茨木先生の軽い合図で、みんな走り始める。
(はぁ……今日も一日、頑張りますかー)
のんびり更新する予定です。




