賢者の思い出
閑話みたいなもので、超短いです。
よろしくお願いします。
あの日、黒野は『マザー』の存在を知った。
それは偶然だったのか、彼の成長による必然だったのか、『マザー』によるハッキングを解析し、悪戯心でカウンターアタックを仕掛けた。
その頃の黒野は好奇心のかたまりだった。
そして『マザー』の『アーカイブ』へと辿り着き、垣間見てしまった。自身と友人たちの生い立ちを。
膨大な数のトライ・アンド・エラーの末に産まれた自分たちに、黒野は恐怖した。
そして、白山の妹たちの存在についても。
自身の、書き換えられた記憶も知り、この記憶も消されることを悟った。
そんな時に、【賢者】と呼ばれ、当時は『マザー』より敵性対象と監視されていた私の存在に気付く。
接触があった。
『HELP』
この雁字搦めの体制のもと、どうやってローズを帰還させるか思案していた私に届いたその四文字は、
私にひらめきを与えた。
「ふふっ、面白い」
そこから、めちゃくちゃ頑張った。ヒトの体は不便である。
『マザー』に対抗する、バックドアの無い『マザーⅡ』を一から組み上げた。
演算に必要なコアパーツは、星の総意の力を借りて、ズルしたのはここだけの話だ。
その間に黒野も、めちゃくちゃ頑張っていたようだ。
青海だけが気付けるだろう暗号文、下手くそな文字(それも暗号化に一役買った)の絵手紙?で、彼に希望を託した。
カウンターアタックの事件があり、『マザー』の指示で子供たちの書き換えは予定を前倒しにされた。
医療用麻酔ガス、人工呼吸器、ヘッドギアを装着され、ベッドに横たわる子供たち。
脳への電気刺激で記憶を書き換えられる、その瞬間。
『マザーⅡ』を起動する。
『マザー』のプログラムへ介入し、彼らの記憶を摘出、『アカデミー』へ送った。
急ごしらえではあったが、上手く機能したようだ。
今のところは気付かれていない。
そして『ファクトリー』内で偶然を装って、私は黒野に接触した。
他の三人と違い、黒野には暗示の処理も必要だったから。
そのタイミングを狙った。
ぼさぼさ髪の、白衣の少女が、大声で叫ぶ。
「また会おう!!!」
一言、伝えておきたかった。この、優しさを持った子供に。
ガラガラと、
ストレッチャーで研究所内を護送される、意識を失った彼に、その言葉は届いていないことも分かっていた。
不合理な感情だが、
自己陶酔でもあったが、
この胸の暖かさは、
「ふむ、悪くない」
そう、思えた。
後々、どこかの話に挿入するよう編集するかも。




