二度目の帰還
雑です。ごめんなさい。
よろしくお願いします。
「これから、セラスの皆さまはどうされるんですか?」
歓迎会が終わり、『召喚の間』への帰り道でふと、疑問に思ったことを部長に尋ねた。
「私たちにとっては遊びの延長だが、彼らにとってはそうじゃない。新たな街に行けば、有力者との会合、市場調査、救護院や診療所の視察など、やることは山ほどある」
「報告書を見るだけでは、どのように機能しているか分からないからな」
「そうですね。そもそも、その報告書が正しいのかどうかも怪しいので」
白河部長の説明に、エルド王子、ミーア姫が続く。
「そうだな。ローズが諦める程度には皆、愚かだったからな」
「うっ……そのことは……」
どうやら、痛いところをついてしまったようだ。
「冗談だ。こうやって私たちのお遊び(ゲーム)に付き合うことが、ローズへの罪滅ぼしだと思ってくれ」
「「はっ、仰せのままに」」
補佐の皆さんと別れ、青白く照らされた『召喚の間』へと入る。
「しっかし、魔法って凄いっすね。アンナさんには悪いことしたなぁ……」
先ほどの歓迎式での一幕を思い出す。
(あのままいけば、初めての体験(×××)が……)
ピピッ
《アラート》
危ない。うん、笑顔のナツキと目が合ったのは偶然だな。
「魔法の研究は『アース』での科学に近しい進歩を遂げた。こうしたら、こうなった、という試行錯誤の繰り返しだ。そうして積み重ねられた経験則に基づいて、セラスの魔法は成り立っている」
「魔法が科学?」
突然話し始めた部長。うん、意味が分からない。
「不思議に思うだろうが、化学で例えてみよう。一酸化炭素中毒という言葉を聞いたことはあるか?」
「締め切った場所での不完全燃焼で発生すると聞きますが」
ハルが答える。
うん、おれもニュースで聞いたことがある。
「そうだ。その一酸化炭素の構造式を、……黒野は書くことができるか?」
「えっと酸素一個と炭素一個、ですよね?手が二本と四本……あれ?手が余るな……」
んん???どうなってるんだ????
「その考え方は、オクテット則を基に成り立っている。数百年前から続く、経験則だ。『日ノ国』の義務教育でも習うから、お前も当たり前のように、使っているだろう。
最外殻電子数を八個にすると原子やイオンは安定する。共有結合で原子は手をつなぐ、これは化学物質を説明するうえで、とても分かりやすくまとめられている。
では、共有結合とは何か?」
「難しすぎてついていけません!」
授業では聞いた気がするが、考えることを放棄した。
「そうだ。突き詰めようとすると、難しいことだ。そもそも原子とは目に見えない物だ。しかし例えば、アルコールが燃焼し、酸素と結びつくと二酸化炭素と水が発生する、それをお前は知っている。積み重ねられた経験則があるからだな。
それくらい、このセラスで魔法は、経験則として当たり前に使われている」
「だからって……ヴァイスなんて突然現れたり、浮いたり、物理法則を完全に無視してるじゃないですか」
「魔法なんてそんなものだ」
事も無げに、さらりと答える部長。
(えっ?いや、そんな、まさか……――そもそも法則が違う?)
『ふむ、青海は気付いたか。世界は不思議なことだらけだろう?』
(っ!!まさかとは思っていましたが、部長、僕たちの思考が観えているんですね?……そうじゃないと説明がつきません)
『今、お前たちのアバターを形作っているのは、惑星魔法、≪デウス≫だ。そして魔法の【管理者】は私だ。ここで伝えているのは私なりの『善意』であり、お前たちの『母』の願いでもある。話を戻そう、物理法則に≪魔法則≫が追加された、と言った方が正しいな』
(あの、部長、星の総意とは本当に【神】なのですか?恐ろしくなってきたのですが……)
『おいおい、【勇者】の名が泣くぞ。大丈夫だ。知らないから恐れてしまう。幽霊の正体見たり枯れ尾花、だ』
(しかし、世界の法則すら変える存在なんて、それは即ち、【神】なのでは)
『自身の理解が及ばない存在を【神】と呼びたくなる気持ちは分かる。ならばその存在を理解してやれば、それは【神】では無くなるのでは無いかな?』
(メチャクチャな理論だ……部長は、あなたは一体、何者なんですか?……何を知っているんですか?)
『高等教育研究学園、三年A組、白河百合絵。異世界冒険部の部長をしている。最近は惑星魔法デウスの【管理者】も兼任するようになった。【賢者】とは昔馴染みで、『母』とも協力関係にある。
お前たちより知っていることは多いが、それでも知らないことだらけだ。だから私は知ろうとする。知るを知るとなし、知らざるを知らずとなす、これ知るなり、と昔の偉い人は言っていたな』
(部長は凄い。だから同時に恐ろしい。そうか、部長のことを知ればいいのか……よしっ!)
「白河部長、あなたのことをもっと知りたいです。いつか、あなたの全てを教えてください」
「へぁっ!?」
「ハル!?これまでそんな素振りなんて無かったのに!?」
物静かに思案していたハルの、突然の告白にアコが変な声を上げる。流石に俺も驚いた。
「端折りすぎだ、バカモノ。青海、お前にこの言葉を贈る日がくるとは思わなかったぞ……白山、安心しろ。今の言葉に愛は無いからな」
「な、な、な、何のことでしょうか!?」
指摘され、しどろもどろなアコ。動揺してるのバレバレだ。
「ハル、傍から見ていたら、愛の告白としか思えないわよ……」
「えっ?あぁ、確かにそうだね。ごめん、分からないことだらけで混乱しているみたいだ。うん、大丈夫。落ち着いたよ」
いつものニコニコ笑顔のハルに戻った
「ところで茨木先生って、何者なんですか?セラスの色んな方々と知り合いみたいですけど……」
「五十年ほど前、我が国からセラスへ転移した元国防軍所属の技術上級大尉だ。研究所で行っていた実験中の事故に巻き込まれ、作戦行動中行方不明という形式で処理されたがな」
あれ?ん?一体何歳なんだ?あの容姿で米寿迎えてるとか?!?!?
「変なことを考えているようだが、安心しろ。私たちとは逆に、ローズは『セラス』から『アース』へアバターを送っているんだ。転移時の、――我が国では失踪当時の――容姿に設定したことで、大きな問題も起こらず受け入れられた」
「辻褄合わせってこと?」
(なるほど、それで『帰還者』と呼ばれているのか……って、えっ!?!?)
「まぁ、時間跳躍関係の研究室は大騒ぎだったが、もっともらしい仮説を作ってやったら、今はそれに付きっ切りで静かになったよ。答えの無い方程式を解き続ける、やつらはそれで幸せなんだろうさ」
「こいつはひでーや!」
(いや、まさか、そんなはずは、でも、だって、そうとしか……今アバターって言ったし、つまり)
『くっくっくっ。慌てふためくお前の内面を、涼しげな外面しか知らんファンの子達にも見せてやりたいな』
(もーっ!『セラス』に来て、これまでのことが全て、部長に筒抜けだと知って、こっちは赤っ恥ですよ!……それで、『アース』の茨木先生がアバターなら、つまり『アース』でも魔法が使える……んですか?)
『限定的だがな。ふふっ、みんなには内緒だぞ?』
「知らなければ幸せなこともある。なぁ青海、そうだろ?」
「ハハッ、ほんと部長は、ヒトが悪いですね……」
苦笑を浮かべるハル。
その意味に、気付けなかった。
「では、時間も遅い、皆は先に戻れ。私はもう少しセラスでやることがある」
「分かりました。では、」
「「「「『セーブして帰還』!!!!!」」」」
シュンッ!!!
光の粒子となり、消える四人。
……しん
(ふうっ)
「さて、と……」
「≪コーリング≫!!!!」
カッ!!!!!!!!!!!!!!!
その一言で、静まり返った召喚の間が、突如、圧倒的な閃光に包まれる。
目も眩むばかりの光が収まると、そこには四人の男女が立っていた。
「久しぶりだな、けんj、んんっ!?お前、【賢者】だよな?……その、何だ?随分変わったじゃないか」
【賢者】と呼ばれた怪しげな雰囲気を纏う、黒いドレス姿の女性。
「お久しぶりです、リリィ。あなたこそ、身嗜みを気にする人では無かったのに。好きな人でもできましたか?」
「時間に余裕ができただけだ。それに、あのままだと学園にも行けないだろう。お前たちと、こうして話すのは初めてだな。改めて、よろしく、な?」
「私たちを救ってくれたことは、『マザー』から聞いている。ありがとう」
「保護して頂き、感謝します」
「助かりました。深くお礼申し上げる」
それぞれに感謝の言葉を述べる四人。
「しかし、なんだ?その姿は…… 変わらなかったのは【勇者】だけか」
「僕は一応『日ノ国』の技術の結晶、完成体だからね。『マザー』のお気に入りだからじゃないかな?」
ハルをそのまま成長させたような、青黒の燕尾服に身を包む青年が答える。
「技術の結晶、らしいぞ?だがしかし、【姫】のソレは盛り過ぎだろう」
【姫】と呼ばれた赤いドレス姿の美しい女性。
容姿は成長したナツキなのだが、スレンダーな全身で、胸部だけ不自然に盛り上がった、まるでバレーボールを体操服の下に入れて遊ぶアレである。
「私は【勇者】と違い、一から設計されたわけでは無いので、恐らく『私』(ナツキ)の深層心理が影響したのでしょう。あの頃からマセていたのですね」
「確かに、赤座夫人も大きかったが、これでは逆に不気味だな。修正してやろう」
リリィの言葉で、光の粒子がふわっと、姫の体に集まる。
すぅっと。
光が霧散すると、引き締まっていた四肢はふっくらと肉付き、胸部は逆に半分ほどのサイズになっていた。それでも『日ノ国』女性の平均と比較すれば大きい方ではあるが。
自身をさっと確認し、
「幾分すっきりしました。ありがとうございます」
均整の取れたプロポーション。恭しく礼をすると、本来のナツキには無いはずの、胸が揺れた。
「【賢者】と【聖女】は性別すら変わっているな。『アカデミー』で一体何を学んで来たんだ……」
「世間ではTSモノと呼ぶそうですよ。どこぞのお姫様の刷り込みで、姉萌えになったことが原因でしょうか」
「ふふっ、罪作りなお姫様もいたものですね」
いちゃいちゃ、ゆりゆりを始める赤と黒、二人の女性。
「はぁぁ……『アーリィ・ウィザード』がこう変化するとは。そして【聖女】は、何て呼べばいいんだ……その姿、東雲太郎博士だよな?お前はファザコンだったのか……」
白衣を纏った、大仏顔の、素朴な雰囲気の男性。
「呼び方など些末なことです。ご自由にどうぞ。父の情報が、そして母の情報までもが『アーカイブ』に残っていてどれほど嬉しかったことか。父の愛に触れることもできました。本当に感謝します」
すっと両手を合わせ、お辞儀する。
「博士タロー?」
「音楽関係の方々に怒られそうですね」
「冗談だ、……【聖人】。うーむ、これも……」
「宇宙を相手にするなら、丁度よさそうですね」
「ほんと、知らなければ幸せに終わっていたのだろうな」
「こうして呼び出したということは、計画の目処がたったのですか?」
「もう一押し、といったところだ」
「今日、『ファクトリー』で接触したことは、もちろん他国に筒抜けだ。妨害からみんなを助けてやって欲しい。過度な干渉は避けてくれ」
「「「「仰せのままに」」」」
その言葉を遺して、四人はすうっと、空に消えた。
もっと加筆すれば良かったのに。難しいですね。




