第7話
「申し訳ありませんが、今はどういった状況でしょうか?
外のことはご存知ですか?」
混乱しているだろうから、俺はなるべく話の取っ掛かりを話しやすいよう質問した。
「ああ、知っている…」
おじさんは少し言い淀んだ後、口を開く。
「…1時間程前だったか、外から何かが一斉に店内へと雪崩れ込んできた。
最初は何かわからなかったが、兎に角何かの生き物の大群であることは理解できた。
そいつらは店内の客を、その、…」
「大体分かりました。
他の客はどこかへ連れ去られて、あなた方はその商品棚の下にいたお陰で偶然助かったんですね」
「あ、ああ」
眼鏡のおじさんは肯定の相槌を打った。
言いにくそうにしていたので簡潔に話をまとめる。
「ちなみに、その怪物みたいな生き物とは戦っていませんよね?」
「いや、戦ったよ。
一匹だけ店内に残って食べ物を漁っていたので、私とそこの女子高生の子が。
彼女が怪物に手傷を与え、僕がトドメを刺した」
意外だ。
しかし、好都合。
「実は、先ほど携帯テレビ端末でニュースを見たのですが、
怪物を倒したら『ステータス』と呟いてくれとか何とか」
「『ステータス』だって?
ん、な、なんだ…?」
どうやら他人から見ることは出来ないらしいが、眼鏡のおじさんの目前にはステータスが表示されているらしい。
「ど、どうしましたか?」
困惑するおじさんを見て、後ろに控えていた女子高生が狼狽する。
モンスターを倒したのはおじさんだそうだが、それを手伝った場合はどうなるのだろう。
「ニュースでやっていたんです。
モンスターを倒したら『ステータス』と唱えると、不思議な力が手に入ると」
「『ステータス』、ですか…?」
さあ、どうなる。
「これは…?」
女子高生が虚空を見て、驚いている。
どうやら直接倒した訳でなくともステータスは表示されるようだ。
なるほど。
「いま表示されているのは、自分の能力を数値化した物だと思います。
職業という物を選択すると、能力値が少しだけ上昇するみたいです」
二人が混乱しないように情報を与え、職業を決めるように思考を誘導する。
「職業、ええっと、僕が取得可能な職業は…
冒険者と戦士、旅人、そして俗人かな」
「私は…
冒険者と奇術師、と唄方?と踊り子です」
職業は意外と種類が豊富なようだ。
「俺は隠者という職業を選びました。
戦闘に適した職業ではありませんが、この世界で生き延びるのにこれが良いかな、と思いまして。
…職業は自らの今後に深く関わることなので、きちんと考えて自分の意志で選んだ方が良いと思います」
「そうだね…」
おじさんが眼鏡の位置を直しながらそう呟いた。
女子高生も深く頷いた。
「そういえば、自己紹介がまだでしたね。
俺は小野裕司と申します」
「僕は佐藤利男。
職業は…戦士にするよ。
前に立って戦える人間が一人は居た方が良いだろう」
佐藤さんは有り難いことに前衛を買って出てくれた。
戦士を宣言した瞬間、佐藤さんの雰囲気が少し変わったように思える。
戦う為のスキルを得たのかもしれない。
「私は吉良凛です。
職業は奇術師にしようと思います」
最初、女子高生の名前がきらりんというキラキラネームなのかと思ってしまったが、どうやらフルネームできらりんと言うらしい。
奇術師というのは将来的に魔法使い系に繋がりそうな職業だな。
「阿部真理亞と言います。
こちらは息子の晴明」
子連れの女性がそう名乗る。
お子さんは2才か3才くらいの男の子だ。
「よろしくお願いします。
俺は食料を集めてどこか安全そうな拠点を探そうと思っていますが、皆さんはこれからどうしようとお考えでしたか?」
「最初はここに立て篭もろうと思ったが、入り口が大きすぎてこの人数だと難しそうだ。
どこかには移動したいと思っていたよ」
佐藤さんがそう答える。
「それと、無理を言って済まないが、僕の家族が無事なのか確認したい」
「ご自宅の場所は…?」
「3丁目のセブンレイブンの裏手のアパートだよ」
佐藤さんが悲壮な面持ちでいる。
家族のことが心配なようだ。
「なるほど。
お二人は?」
「私の夫は単身赴任で遠くに居まして、携帯が壊れてしまったようで連絡が付きません。
両親は既に他界しているので、私は皆さんにお任せ致します。
息子の為にも、安全なところを探すのは賛成です」
「私は、後でで構わないので、学校を見に行きたいです…」
阿部さんと吉良さんがそう答えた。
皆どこかしらに移動することを考えているようなので、一緒に行動した方が良いだろう。
「分かりました。
それじゃあ、なるべく保存の効きそうな物をカートに詰めて移動しましょう
あと、必要そうな物があれば、各自持って行って下さい」
車を持っているという佐藤さんと阿部さんは一足先に車のエンジンを掛けようと外に出た。
俺も後を追うように食料をショッピングカートに詰めて、駐車場に向かう。
女子高生の吉良さんだけが、まだ店内で必要なものを探している。