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第6話

 

 一歩一歩ゆっくりと着実に進んでいく。

 今のところゴブリンに気取られた様子は無い。



 ついにゴブリンに最も近い車の後ろにたどり着いた。

 ここからゴブリンまでは5メートル程か。

 ばくばくと心音が鳴り響く。


 緊張する。

 口から心臓が飛び出そうだ。


 機を窺っていると、危険性を報せる薄い赤色の領域がこちらへと伸びてくる。


(……!)


 なんの気まぐれか、偶然にもゴブリンがこちらを振り向いたのだ。

 野生動物のごとき勘の鋭さだ。

 俺は出来得る限り最大限に気配を殺す。


 元より薄かった自らの気配が、さらに希釈されるのを感じる。

 隠者を取得した時に得た潜伏スキルの恩恵か。

 同時に視界内の赤色も更に薄く希釈されていく。


 …


 異常なしと判断したのか、ゴブリンは再びスーパーマーケットの方へ向き直る。


 同時に、

 駆ける。


 槍を前に突き出すように握りしめ、ゴブリンへとダッシュで接近する。

 攻撃行動に移ると隠密系のスキルは解除されるらしく、異音に気付いたゴブリンが驚いたように振り返る。


 ゴブリンの顔が此方を向いたのとほぼ同時に、背中に槍を突き刺した。

 ずぐり、と鈍い手応えが腕に伝わる。


「ギッ!!?」


 直ぐさま槍を抜こうとするも、深々と刺さった先端が中々引っこ抜けない。

 その代わり相手のゴブリンも傷が深いらしく、苦しそうに呻くばかりで行動に移れないでいる。


 槍を引き抜くことは諦め、槍を手繰ってゴブリンを引き寄せながら、体重を乗せた踏み付けるような前蹴りをゴブリンの後頭部へと叩き込んだ。

 上手く入ったという確かな感触と共に、槍の先端の包丁がゴブリンの背中から抜け落ちる。


 即座に槍を掲げるように持ち上げ、振り下ろす。

 包丁の部分より少し下の物干し竿の先端部が、ゴブリンの頭部を殴打した。


 ゴブリンは意識を手放したのか、身じろぎひとつしなくなった。

 念の為、槍を突き刺してトドメをさす。


 肉を断つ手応えと共に、どっと疲労感がやってくる。


 順応性スキルの為せる技なのか、この壊れた世界に対してここまで馴染むのが早いとは。

 自分でも少し薄ら寒くなるが、今はこのスキルに感謝せねば。



 槍の血を拭うと、ゴブリンが見つめていたスーパーマーケットの方向を見る。

 内部を観察するも、何かの気配はするが、危険性を示す赤い色は見えない。


 中に居るのはモンスターではなく人間だろうか。

 それも友好的である可能性が高い。

 俺は意を決してスーパーマーケットの中に入ることにした。



「だれか居ますかー?」


 周囲の警戒もしつつ、一応声を掛けながら踏み入れる。

 モンスターと間違われて攻撃されるのは嫌だからな。


 スーパーマーケット内は物が散乱しており、足の踏み場も無い状態だ。

 時折見える血の跡がここでも外と似たようなことが有ったのだろうと分かる。


 耳を澄ますと、店の奥の方で何やら話し声が聞こえる。

 相変わらず危険性は見えない。


 声の発生場所は、商品棚が倒れてできた小さなスペースからであった。

 複数人が隠れるようにしゃがみ込んでいた。


「あの…」


 俺が声を掛けると、話し合っていた人達がハッとしたようにこちらを見た。

 見張りも立てないとは不用心な。


 人数は大人3人と子供1人の合計4人。

 1人は如何にも休日のサラリーマンといったような眼鏡を掛けたおじさん、1人は子供を連れた主婦、最後は高校生くらいの女性だ。

 女子高生は武器としてなのか、棒だけになったモップを持ち、サラリーマン風のおじさんはコンクリートブロックを抱えている。



「ひ、人か。良かった…」


 眼鏡のおじさんが安堵の息を漏らした。

 側にいた女性二人も一安心したように胸をなで下ろした。


 こういう状況の時、小説とかだと不良の集団とかに占拠されてたりするから、正直俺もほっとした。

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