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第16話

 男は手元の作業を止めず、こちらに声をかけてきた。


「団体様のご到着だな」


 先程の声の主と同じ声だ。

 男の体格は良く、座り込んでいてもまるで大岩が佇んでいるようだ。


「オレは茂呂って名前のもんだ。

 アーチャーモロとでも呼んでくれぃ」


 茂呂と名乗った男はコンパウンドボウのような弓を傍らに置き、生き物の牙を削って矢尻を作っているようだ。

 辺りには大量の小骨が散乱している。


「ご許可を頂き、ありがとうございます。

 俺たちは拠点となる場所を探していまして…」


「ん、敬語はいらん。

 別にオレの物でも無いし、空いてる部屋とか好きに使え」


 茂呂は坊主頭をぽりぽりと掻きながら、ぶっきらぼうにそう答えた。

 強面の人相に関わらず、割と他者に寛容な人らしい。


「茂呂さん、他に生存者は?」


「住人は全員死んでた。

 俺はモンスターに占領されてたこのマンションを、拠点にしようと奪い返しただけだ」



 一人で奪還したのか?

 この茂呂という人物、相当やばいぞ。


「それは、…凄いな。

 その弓が武器なのか」


「ああ、フリースタイルアーチェリーっていう最近流行りのスポーツをやっててな」


 近年、形式ばった弓道に反発する形で発展した自由な弓術。

 アクロバティックな動きからの射撃やワイヤーを付けたフィッシングなどは動画で見たことある。


 サバゲーへの進出やスコープを取り付けた遠距離射撃など、実用性重視で新しい物をどんどん取り入れるのが特徴となっている。



「そういえば、死体や血痕などが見当たりませんでしたが…」


 真理亞さんが気になっていたらしい点を指摘する。


「それはこいつらが」


 雨水が流れる排水溝の蓋をノックするように叩いた後、先程仕留めたゴブリンの死体を置く。


 しばらくして、ぼこぼこと粘性のある赤い液体のようなものが噴き出した。

 緩慢な動きでゴブリンの死体に近づくと、ゆっくりと包み込んでいく。


 これは恐らく、スライムか?

 危険性が希薄で気が付かなかった。


「こいつらが死体や血を溶かして骨だけにしちまった。

 んで、今はモンスターの骨や牙を使って使い捨て用の矢を拵えている。

 しばらく質の良い矢は手に入らなくなるだろうからな」


 これ、もしかしてスライムを手懐けてしまっているのでは。

 本人にその自覚が無さそうだが。


「そういえば、茂呂さんは『ステータス』のことは知っているのか?」


「ああ、あの変な数字が載ってるやつだろ。

 職業は弓使いにしたぜ」


 ステータスのことを知っているのか。

 話が早くて助かるが、一体何者なのだろう。


「ともあれ、あんた達が来てくれて助かったぜ。

 このままだと寝ずの番になってただろうからな」


「そういえば一人なのに見張りは大丈夫なのか?」


「ああ、広域索敵とかいう固有スキルで範囲内の敵が分かる。

 レベルアップごとに索敵範囲が広くなるらしいが、今は大体半径100メートル位だ」


 このマンションの敷地内ほどの大きさか。

 さっきのゴブリンの侵入に気付いたのは、そのスキルによるものか。


 危険目視スキルを持つ俺と交互に見張りをしていれば、一定の安全マージンが確保できるかもしれない。


「俺も見張り向きの固有スキルを持っている。

 休憩時間をずらして、茂呂さんと俺でなるべく別々に見張るようにしよう」


「構わん。

 じゃ、すまんが疲れたから俺はちと寝るぜ。

 3時間だけ仮眠を取るから、時間が来たら起こしてくれや」


「分かった」


 茂呂さんは答えると直ぐ様寝袋を引っ張り出していびきをかきはじめた。

 中々図太い神経の人だ。


 これくらいでないと、これからは生き残れないのかもしれない。



 俺達は屋上を後にし、マンション内に入る。


「俺が見張っとくから、皆休んでて大丈夫だ」


 引き留めようとする佐藤さん達を無理矢理送り出す。

 電気は使えないようなので、敵が来たらドアを叩いて報せる手筈になっている。


 それぞれ住人が居なくなった最上階の部屋で休んでもらう。


 暇つぶしがてら、空き部屋を巡り非常食や武器になりそうな物を探しておく。

 俺達が持ってきた食料は、少しでも涼しい場所を探した結果、マンションの地下室に置いておいた。



 何事も無く、時は経っていく。





 3時間が経過。

 そろそろ茂呂さんを起こしに行こうと思っていた矢先、それが起こった。


 遥か上空に描かれていた危険性を示す赤い線が突如折れ曲り、急転直下、俺達がいるこのマンションへと軌道を変えたのだ。

 赤い線は俺を嘲笑うかのように、マンションの敷地内へと注がれている。


「なっ!?」


 冷や汗が噴き出す。

 慌てて皆が休む部屋を回り、同行してもらって屋上へと向かう。


 屋上へ着くなり、茂呂さんを叩き起こす。


「茂呂さん!危険です!」


「んあ?よく寝た。

 オレは危険は感じないが──」


 と、茂呂さんが零した時、赤い線が収束するのが見えた。

 来る。何かが来る。


「『ハイドアンドシーク』!

 隠密スキルを皆にも有効にするから、俺の体に触れていてくれ!」


 皆が不安そうに俺の体に触れる。

 刹那、空から何かが猛スピードで墜ちてきた。


 圧縮熱により真っ赤に燃え上がった物体が、隕石の如き残像を残しながら、マンションの敷地内へと轟音と共に着弾した。

 アスファルトを深々と砕き、大量の粉塵を巻き上げる。



 土煙が風に流され、視界が明瞭になっていく。

 まだ煙が立ち昇る巨大なクレーターの中心には、黒い翼の少女が立っていた。

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