第11話
視界の赤色は急速に広がっていく。
この濃さは先程の赤いゴブリンか…?
何故気付かれた?
もしかしたら、仲間の生死を探知するようなスキルを持っているのかもしれない。
「…佐藤さん、水を差してしまい申し訳無いが、危険が迫っている。
恐らくあの赤いゴブリンだ」
「…!」
佐藤さんと吉良さんが息を呑む。
今の内にステータスを確認しておこう。
「『ステータス』」
Lv.2
名前:オノ ユウジ
職業:隠者
生命力:13/13
精神力:10/10
筋力:12
魔力:3
敏捷:16
耐久:10(+5)
抗魔:5
◯魔法
ハイドアンドシーク(5)
◯スキル
順応性2.1 直感1.5 隠密1.4 不意打ち0.6 潜伏0.6 隠蔽工作0.5 槍術0.5 鈍器0.5 棒術0.4 短剣0.3
◯固有スキル
危険目視
レベルが上がり、新しく魔法が増えている。
俺は魔法の項目を注視した。
『ハイドアンドシーク』:精神力5消費。
隠密系スキル使用時、自身の隠密系スキルの効果の対象をパーティーメンバーにも有効にする。
有効にしたい対象に触れておかねばならず、魔力の強さによって効力と効果時間が変化する。
つまり、俺のスキルの効果範囲を、俺だけじゃなくて仲間にも有効にするということか。
仲間と敵を倒したからか、レベルアップによるものか。
魔法の出現条件は分からないが、とにかく今はありがたい。
今の精神力ならば2回使用できる。
使った方が良いと、直感が告げる。
「俺の隠密系スキルを二人にも有効にする魔法を得た。
俺に触れている人にだけ有効らしい。
すぐに此処から離れるので、佐藤さんは梨花ちゃんと、…香織さんを連れて早く──」
「いや、良いんだ。
香織の遺体を連れて行ったら逃げ切れないかもしれない。
なるべく見つかりにくいところに隠してくるから、後で落ち着いたら、その、お願いするよ」
「分かった」
佐藤さんの願いを了承する。
それを聞いて安心した様子の佐藤さんは、遺体を大切そうに押入れに寝かせ、開かないようにストッパーを噛ませていく。
見つからないという保証は無いが、今は見つからないよう祈るしかないだろう。
「…香織、梨花を守ってくれて、ありがとうな。
ちゃんと迎えに来て、お墓立てるからな…」
佐藤さんのそんな呟きが耳に入った。
必ずまたここに来よう。
そう誓った。
俺は床に置かれていた槍を手に取る。
佐藤さんはこれから梨花ちゃんを抱っこして移動するだろうから、これは俺が持とう。
吉良さんは棒を持っているから、コンクリブロックはここに置いていく。
玄関で佐藤さんを待つか。
キッチンを通る時、調味料を一つだけくすねる。
梨花ちゃんを抱っこした佐藤さんが玄関に戻ってきた。
抱きかかえられた梨花ちゃんは、ショックのせいか疲れのせいかは分からないが眠っているようだ。
「『ハイドアンドシーク』」
新しく得た魔法を使用し、隠密スキルを発動させる。
この魔法は触れている仲間にだけ有効らしい。
佐藤さんは梨花ちゃんを抱いているので、そっと佐藤さんの背中に手を乗せた。
吉良さんは後ろからちょこんと肩に片手を乗せる。
仲間の気配が少し薄くなったように感じる。
その時、視界内に急速に赤色が渦巻いていくのが見えた。
ベランダ側がどす黒い赤に染め上げられる。
「…不味い、ベランダから来る」
極力声のトーンを落として告げ、玄関のドアから外にでる。
次いで、轟音。
爆発音の如き大きな音が鳴動すると共に、衝撃がビリビリと伝わる。
まさか、隣のマンションから飛び移って来やがったのか。
赤いゴブリンは部屋の内部で俺たちを探している気配がある。
隠密スキルを使っていなかったらやばかったかもしれない。
他の部屋ではなく、この部屋に迷わず突っ込んできたということは、相手のおおよその位置を探知できるスキルを持っているのか?
それとも仲間の死んだ位置を把握するスキルか?
とにかく逃げなければ。
俺は佐藤さんの背を押し、出発する。
気配を希釈。
ゆっくり、ゆっくりと音を立てずに歩く。
階段を一段一段降り、2階から1階へと降りる。
ここら辺に潜伏するか?
いや、この辺りはもう、全体的に赤い。
マンション側からのゴブリンの視線は気にせず、来た道を引き返していく。
歩く速度を小走りに変え、セブンレイブンを目指す。
赤い。赤い。赤い。
俺は気付いてしまった。
俺達三人の身体には、赤い線が幾重にも走っている。
恐らく佐藤さんが抱える梨花ちゃんにも。
…これは、これから攻撃を受けるということか?
このままでは、
…死ぬかもしれない。