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「また出逢えたら良いね」
蝶が飛ぶ。この狭くて古い部屋から出ようとしているのだ。そうだね、と口の中で言う。彼は美しい顔に眉を寄せた。珍しい。
「魂とか来世とかそんな物は存在しない。だから、次も全く同じ僕でお前も同じ。じゃあ」
彼が扉から出た。僕らは彼の意思でまた繰り返す。
「もう一回、もう一回だけで良いんだ。頼む。」
情けなく涙がだばと流れる。滲む視界の向こうでそいつは変わらず温かい顔をしていた。
「何度でも良いよ。君が満足するまで。」
甘え過ぎたのだ。変化の皺寄せはきちんと処理しなければ。何匹の蝶を食ったか。何個の可能性を潰したか。恵まれた偶然の上にある不幸になる運命を、未だに僕は受け入れきれないのだ。どうしようもなく恵まれてしまったために。
蜘蛛の巣に引っ掛けた蝶を掴む。
「我儘で、ごめん。」
「今更だ。」
そうしてまた僕等は、僕のせいで不幸な高校生になる可能性を殺した。
「幼馴染だった所は多かったな。あと僕が一方的に構い倒した所。魔法世界はレアだったな。僕等二人して蜘蛛の巣を生み出す能力を持っていた。僕が不登校になった所もやや多かった。絵を描いているのを見せたのは驚く程少なかったな。執念かな。僕等の秘密基地以外は何も無事じゃなかったあの世界は、バグの様なものだったな。あれはあれで楽しかったけれど。ああ、それ以外にも沢山あったな。でも、」
「お前が死ぬ世界は初めてだな。」
混凝土を打つ雨は一層強くなる。蝶の様に美しい少年の死体を同じく美しい少年が尚抱えていた。