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残酷で美しい異世界より  作者: 狼森エイキ
砂の城
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砂の城 6

(レティシア) シャルとはほかのやつらと同じく一緒にいたけど、ベルたちとは少し違うんだよな。 部下ほど上下関係があるわけでもないし……… 友人、手下、戦友……家族………? なんなんだろう?

 ドゴッ


 という鋭い拳を受け、レティシアは吹き飛ばされ、床を転げた。

 その様子を見て咲良とエルザが、慌ててレティシアのぶん殴ったトリナを押さえつける。


 「離しなさいよアンタたち!! 私はこのアホリーダーをボコボコにしないと気が済まないんだから!!」


 「そんな物騒なこと言うひと、離すわけないでしょ!!」


 咲良が何とか制止するがトリナの興奮が収まる様子はない。


 シャルを伯爵家に返したのち、コソ泥騒動のこともあって、夜会がお開きになりそうだったことから、ケイの計らいで一足早く、戻ってきた。

 ミレッジ家に。

 と、三人でくんずほぐれつしていると、今度はハリィがレティシアの胸倉を掴む。


 「本気で……思ってるぞな?」


 「何をだ?」


 「サリアたちから聞いたぞな。 本気でシャルのために、幸せのために正しいことをしたと思っとるぞな?」


 「幸せかどうかなんて、本人が決めることだ。 私たちがとやかく言うことじゃない」


 「そういうことを言っとるんじゃない!!」


 レティシアを掴む手に一層力がこもる。

 そんな彼女の脇からサリアがレティシアに話しかける。


 「私もハリィの言いたいことはわかる。 シャルは、いやベルもハリィも君を慕いここまでやってきたんだ。 だとするならば……彼女の幸福が何なのか、火を見るよりも明らかだろう? どうして君がそれをわかってやれない?」


 トリナを抑えながらも咲良もまたレティシアに問う。


 「私が言えたことじゃないのかもしれませんけど、幸せが本人の決めることだというなら……なぜ、彼女はあれほど悲しい顔をしていたんですか?」


 三者三様にレティシアを責め立てるが、当の本人は何も言わず、ハリィのされるままとなっている。

 そんな胡乱な態度が、ハリィをまた苛立たせる。


 「何とか言ったらどうぞな………?」


 「何も言うことはない、言い訳もする気はない、殴りたいだけ殴ればいい」


 「お前!!」


 パァン!!


 本気でハリィがレティシアを殴り飛ばさんとしていたとき、張り詰めた空気を切り裂く破裂音が部屋に響いた。


 「落ち着け」


 それは、ジュリが手をたたいた音だった。

 ただそれだけなのに、やけに彼女たちの耳に響き、空気を変えた。

 トリナもとりあえず興奮が収まったようで、咲良たちも押さえつけるのをやめる。


 「お前たちはよくわかっていないようだが、あのときのレティシアの言動は間違っていない。 今後のことを考えれば、な。 レティシアもそう自棄になるな。 まだあきらめたわけじゃないんだろう?」


 「間違っていないとはどういうことだい? あのままシャルを貴族のもとに渡すのが正解だったと?」


 サリアはその場にいたが、どう考えても、レティシアがシャルを見捨てたようにしか思えない。


 「あの場でゴネたところで話は覆らん。 というか、話から察するにシャルと伯爵の親子関係はほぼ確実なんだろう? つまり伯爵には自分の娘を取り戻す権利がある」


 それは小人族で同じ名前の女性が母親であること、そして時期や両者の言動からして間違いない。

 つまり、伯爵のしたことは(不倫に関する道義的な話は置いておいて)正しいということになる。


 「貴族と冒険者、どちらが上かはお前たちだってわかるだろう。 あの場でしつこく伯爵に言いつのったところでただでさえ少ない逆転の目がさらに遠くなる。 まかり間違って通報だ裁判だとなれば負けるのはこっちだ。 何せ貴族の令嬢を冒険者という命がけの場に置いていた上に、そこから救い出そうという父親の邪魔建てをしようものなら完全にこっちが悪者だ」


 「じゃあ、どうする? このまま放っておくというのかい?」


 「そうは言ってない。 私だってシャルがあのまま貴族の一員になったって幸せになれると思えない。 だからって無理矢理に連れ戻そうものならしっぺ返しを食らう、慎重に事を運ばねば……」


 ジュリの声がどんどんトーンダウンしている。

 もともと森の中で暮らしていた閉鎖的なダークエルフにこの手の手段を考えるというのが土台無理なのだ、具体的な方法など浮かぶわけもなかった。

 再び場が重い空気に包まれる中で、


 「ただいま戻りました」


 シュタっとレティシアのもとにどこからか現れたのは彼女を愛してやまないベルである。

 そんな彼女はまずいまだ主人の胸倉を掴む戦友を睨み付けて、


 「今すぐその手を放すのと右手とお別れするの、どちらが良いですか?」


 「はい、離します」


 「ベル、いいんだ。 で? 何かわかったか?」


 ベルはその場に座り込んだレティシアが立つのを介助し、ながら話を始めた。


 そういや、ずっといなかったな、と一同は思った。

 レティシアが殴られたり無体に扱われているのに一切出てこなかった、外にいたのだから当たり前だ。


 「はい。 まずはマエストリ伯爵家について。 いくつかお話したいことはあるのですが、まずは現当主であらせられます伯爵の父君についてお話ししなくてはならないでしょう」


 「父親って先代の?」


 というサリアの問いにどういう訳かベルは首を振る。

 父親でありながら先代ではないとはどういうことか。


 「伯爵の父君は貴族ではありませんでした。 いえ、正確に言えば貴族は貴族だったのですが、一人息子の伯爵はその地位を受け継いだわけではありません」


 「どういうこと? 貴族の爵位って世襲制じゃないの?」


咲良の言うとおり貴族の爵位、というか貴族の地位は長男が受け継ぐことになっている。

にも関わらず、一人息子なのに爵位を継がなかったようなのだ。


 「マエストリ伯爵の父上は騎士爵、つまり準貴族だったようなのです。 しかもその前は冒険者でいらっしゃいました」


 「じゅん……?貴族? あのライラ、準貴族って?」


 「貴族というのは国が成り立つ時にその功績者や王に近しい存在などに地位と領地を与えることでできている。 つまりそこから連綿と続いている歴史ある身分とも言える。 一般市民が貴族になるということは滅多にない。 特に今は平和な世の中だから新たに貴族が現れても、与えることのできる土地がない。 だから貴族に新たに列せられることは少ない。 但し、準貴族は違う」


 「市井の人間でも貴族に成れる?」


 「そういうこと。 そもそも昔の土地に余裕があった頃は多大な功績を上げて国に利益をもたらした者を貴族に取り立てるということがよくあったらしい。 これは国の法に記されている。 それに貴族と一般市民を完全に分けると後々問題が出てくる。 けれど領地の問題はどうにもできない。 其処で生まれたのが領地を一切持たない一代限りの準貴族という新しい地位」


 「領地が無いなら税収入も無いよね?」


 「そう。 貴族とはいえ位は一番下だし名誉職に近い。 それでも爵位をもらった時に褒賞はあるから、男爵以上と比べれば下でも、かなり暮らしはいいと聞く」


 「へぇー」


 「それで?」


 咲良が貴族について理解できたようなので、レティシアがベルに続きを促す。


 「元々冒険者でらした先代は国の西の国境付近で暴れまわっていたドラゴンを単身で退治したとのことです。 その土地の平定により王国に多大な利益がもたらされたことで、その功績により準貴族の位が与えられました」


 「単身でか、すごいな」


 感嘆するレティシアもドラゴンと単身となると少々分が悪い。

 いくらレティシアでも剣も届かない高い空を飛び、そこからブレスを吐くような手合いでは。

 逆に言えばそれさえどうにかなれば勝てる自信があるということでもある。


 「そのあと、伯爵家の三女と結婚、生まれたのが現マエストリ伯爵ですね」


 「一代限りの騎士爵のはずがその息子は爵位を持っているうえ父親より上の伯爵位、領地を持っているってのはなんでだ?」


 レティシアの言うとおり、騎士爵は世襲できないから伯爵位は新たにもらったということになる。

 どういう訳か。


 「譲り受けたからですよ、土地と爵位を」


 「誰から?」


 「ドロル侯爵から、ですよ。 侯爵が譲ったのは先に話したドラゴンが住んでいた土地です。 あのあとドロル侯爵に譲渡され、その後マエストリ伯爵に爵位とともに渡されました」


 「………………なんかそれってすごく怪しくないか?」


 「はい、この件、もう少し探ってみようと思いますがよろしいですか?」


 「頼んだ」


 ベルはレティシアに一礼し、姿を消した。


 「ベルもベルで、何とかしたいと思ってる見たいぞな」


 「じゃなきゃレティが殴られてるのに何も言わないはずがない。 本人は否定するだろうけどね」


 と、サリアとハリィは顔を見合わせて笑った。




 一方、部屋の廊下に出たクロエとジュリ。


 「単身でドラゴン殺しか………ずいぶんな腕利きのようだが聞いたことあるか?」


 「無いわねぇ…… そもそもそんなすごい冒険者がいるならもっとほかにもすごい話流れてきそうじゃなぁい?」


 「だな、それだけの実力者の名がまったく届いてないなんて…………匂うな…… よし、明日ギルドに行ってみようと思う。 ギルドマスターに聞いてみよう」


 「あらそぉ? じゃあ、そっちは任せるわぁ……」


 「お前はどうする気だ?」


 「ちょっと旅行、明日中には帰れるようにするわぁ」


 「国境付近だぞ、往復一日だって無理だろう?」


 「無理ねぇ………私でもなきゃ」


 クロエはウィンク一つ残して、窓から飛び去って行った。

(ハリィ) ちなみにベルは見逃したけれど許したわけじゃないので、ウチとトリナは覚悟しておいたほうがええと思うぞな。


(トリナ) サクラ………骨は拾ってね。


(咲良) 冗談に聞こえねぇ……

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