砂の城 3 SIDE 咲良
何のきっかけだったか忘れたかけれど、自分の母親がどんな人か聞いたことがあった。
スラムのおっさん曰く、こんな掃き溜めに居るのがおかしなくらいの美人だったらしい。
それでいて力強い意思と優しい心を持っていたんだとか。
私を産んでから一年たたないうちに死んでしまったそうだけれど。
そんな美しくも強い人がなんでスラムなんかにいたのか、どうしてそんなところで一人で私を産んで育てようとしたのか……
それを知っている人はどこにもいなかった。
次に私たちがやってきたのはサロンだった。
「さっきも言ったがサロンはご婦人方がお茶しながらあれこれ話す井戸端会議のラグジュアリー版だ」
「井戸端会議の時点でどういう努力を重ねてもラグジュアリー感は出ないと思います。 でもわかりました、結局人間は兎に角、あることないこと噂するのが好きなんですね」
「そういうことだ。 どうせ下町の井戸端会議とこのサロンでの会話、内容はともかく質はそう変わらん」
「なるほどなるほど」
サロンは当然屋敷の一室なので、私たちのいる廊下とは分厚い扉で仕切られている。
中から声は聞こえてくるけれどその内容までは聞き取れない。
つまり、レティシアさんの話はおおむね想像なんだ、かなり高い確率で当たってそうだけれど。
中には貴族を中心として夜会の女性陣がほとんど集まっている。
「どうする、このまま乗り込むか? 女の会話はある意味では貴族連中のそれよりもおっかないぞ。 ましてやプライドの高い人間ばかりが集まればなおさらだ」
「でもいかないわけには……メイヴィル伯爵夫人もここに来た可能性は高いわけですから……」
「あの……」
二人でああだのこうだの言っていると脇から声をかけられた。
声をかけてきたのは、黒髪オールバックの男性だった。
「私、歌手のアイリーンの付き人をしているものです。 お二人は会場の警備をされている冒険者の方ですよね。 そして、遺失物も取り扱っていらっしゃる」
「はい、何かありましたか?」
と、一応笑顔で答えたけれど聞くまでもないな、何かあったから話しかけたのは確実だ。
「じつは、アイリーン、どうも落とし物をしてしまったようなのです。 おそらく夜会が始まるときには確実につけていたはずのネックレスだとは思うのですが……」
なんだ?自分から話し始めた割には歯切れが悪い……
ちょっと突いてみようか。
「あの……さっきから『ようだ』とか『思う』とか、はっきりしませんけど本人が言ったんじゃないんですか?」
私がそう聞くと彼は苦笑いをして答えた。
「ええと……先ほども言った通り、首のネックレスが無くなっていましたし彼女の様子を見ればそうではないかと…………部屋と廊下を何度も行き来したりあちらこちらを見まわしたり……探し物があるのは明らかでした。 ですから何度も彼女に聞いたのですが彼女は否定しまして」
なのでこちらも困っていまして……だそうだ。
ネックレスが無くなってるのにそれを言わない……ね。
たぶん言えないんだろうな。
こういうところも異世界だろうが変わらないか。
「ですのでお二人にお話を聞いてもらえればと……サロンの中は男子禁制ですので私は入れないのです」
「「え?」」
入るの?
私たちが?
そりゃそうか……
***
「さすがに堪えたな…………」
「ですね…………」
想像した通り、アイリーンさんはネックレスをなくしてしまったらしい。
そのネックレス、どうも恋人から頂いたものらしいのだ。
お相手は町の新聞記者、といってもまだ若手で稼ぎがあるわけでもない貧乏人。
そんな彼が大金払ってくれた大切なもの、なんだそうだ。
という話をご本人から聞いた。
これは確かにマネージャーには言えないな。
だってスキャンダルだ。
本人たちが愛しあってたって、かたや有名女性歌手、かたや冴えない新聞記者、マネージャーさんは確実に反対するだろうから、言えなかった。
できれば私たちにも届けたかったけれどずっとマネージャーさんがいたせいでそれもできなかったらしい。
それはいい。
芸能人だって恋愛していいし、それをマネージャーさんに言えなかったって言うのも理解できる。
きっと彼女も直接私たちに話したかったに違いない。
私だって本人から直接聞いたほうがいいし……
問題は、話を聞くために私たちがサロンに乗りこまなければならなかったこと。
冒険者だからといって見下されたり、嫌がれるようなことはなかったけれど、ご婦人方にいいようにおもちゃにされてしまった。
結果、私たちの体力は半減、だいぶゲッソリしてサロンを去ることとなった。
あ、お肌は美しくなったよ、いろいろな美容グッズを塗りたくられたからね。
「その労力の割に話はやっぱり大したことじゃなかったな」
「そんなこと言っちゃ失礼ですよ、彼女の恋人からのプレゼントらしいじゃないですか。 それにこれはちょっと異常です」
「何を言う? 恋に身分も歳も関係ないってきっといろんな少女漫画て少年少女が言ってるぞ、顔さえ良ければどうにでもなるからな」
「別に漫画のキャラは顔だけで恋愛が成就してるわけじゃないと思います、あとは性格とか……って人の恋路を異常と断じるほど私が闇堕ちしてるように見えたんですか? そっちじゃなくて落とし物のほうです。 ちょっと多い気がして」
「確かに……一度戻って、ユーたちに聞いてみるか」
道中、廊下でラングレ伯爵とその従者より夫人のペンダントがなくなったという報告を受けた。
やっぱりこれはおかしい。
***
それから私たちはユーさんのいるところに戻っていった。
「なるほど……それはおかしいですね。 ただ落とし物をした、というわけではないのかもしれません」
そう言うと、ユーさんは座っている机の下から一枚の紙を取り出した。
そこに書かれているのは今回の夜会の参加者のリストというわけだ。
と言っても全員の名前が書かれているわけではない。
夜会の招待状は個人ではなく家や団体に送られる。
例えばあの舞台の演出家チーム(?)を見るとよくわかるのだけれど、招待状は劇団あてに送られている。
で、その劇団に所属している演出家と女優三人、あと劇団を運営しているスタッフ(事務みたいな人なのかな?)が夜会に来たわけだ。
「まずやってきたのは楽団の指揮者とクラヴィーアニスト、三人来たということは一人はマネージャーさんですかね。 なくしたのは指揮者の人の持っていた金製の指揮棒でしたね。 次が劇団の演出家と女優三人……なくしたのは女優さんたちのジュエリー類。 次が画家さんで懐中時計、それからメルヴィル夫人の宝石つきの指輪。 それにロリス伯爵のお孫さん」
「あれ、なんか増えてません?」
さっきここにいるときには聞かなかった名前だ。
けれど、ロリスという名には聞き覚えがあるな。
ああ、たしかビリヤード場にいた時に聞いたんだっけか。
「で? その孫がどうしたって?」
レティシアさんが聞くと、アイさんが少し困った顔になった。
「ネクタイについていた宝石をなくしてしまったそうなんです。 ご両親に仰ったら怒られるだろうからと、祖父である伯爵といらっしゃいました」
「こっちもラングレ伯爵夫人のペンダントが無くなった話を聞いた。 さすがにちょっとこれはおかしいぞ。 これだけ失せものがあって一個も見つかってないだなんて……」
「あ、メルヴィル夫人の宝石はトイレで見つかりましたよ。 マエストリ伯爵のご息女が届けてくださいました」
「あれ? そんな人サロンに居ました?」
サロンには女性陣がほとんどいたはずだけれど……
「ビリヤード場にいらっしゃったそうです。 ほかの男性陣に交じってプレイして一人勝ちだったとか」
「貴族の子女にしてはずいぶんやんちゃだな」
「冒険者になっちゃうよりはマシかと」
「あ、いやそうなんだけど……」
ユーさんに突っ込まれてレティシアさんはいい淀む。
そんな中で私は夜会の出席者リストを見ていた。
リストによると参加者は全部で40名、うち貴族はホストのクラウス伯爵を入れて6名。
貴族やその身内がそういうことをするとは思えないから除外でいいのかな?
でも家に雇われている人はその限りじゃないかな……?
ううん…………全部で29人……人数だけじゃちょっと把握しきれないな、なんで出席するときに記名する制度ないんだろ?
ぺらり、と次のページをめくる。
こっちは貴族じゃない人たちのリストか。
全部で11人……尚更わからん…………………
…………………………………………………!
いや、わかる!
ずっと気にはなっていたけれどそれも解決できるかもしれない。
「レティシアさん!!」
「どうした急に? 大きな声出して」
そうと決まれば急がないと……!
「あいつが逃げるかもしれない!!」
私は平凡な女子高性、和歌山咲良
友人で同級生のクラスのみんなと修学旅行に行って
そこでクラスメイトの一人がいじめられ、死んでしまったのを目撃した。
それを見るのに夢中になってた私は、後ろで起こっている異変に気づかず、目が覚めたら。
異世界に飛ばされていた。
異世界の人間だと伝えようにも日本語なんて通じない。
その後、レティシアさんたちのパーティーに転がり込んだ私は
元の世界に戻る情報を得るために彼女たちとともに旅をすることとなったのだった。
たった一つの真実見抜く見た目はJK、頭脳もJK、
その名は、名探偵サクラ!!
(レティシア) 自分のことを名探偵とか言うのかなりヤバいと思う。




