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残酷で美しい異世界より  作者: 狼森エイキ
砂の城
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砂の城 2 SIDE 咲良

完敗だと思った。


スラムの小さな井戸の中で頭なんか張ったところで上にはいくらでも上がいるだろうに……

そんなことにも気づけないだなんて……


敗者に居場所なし、きっと私は殺される……


そう思ってたはずなのに……


目の前の女は私に手を伸ばしてきた。


曰く、お前には素質があるから、なんだそうだ。


何を言ってるんだ、バカバカしい。


そう思ってたはずなのに、どういう訳か私はその手を迷わず取っていた。

 さて、やってきましたパーティー会場。

 

 現在、大広間では予定時刻から二十分ほど遅れてようやく主賓である伯爵夫妻がようやく現れたところだ。

 といっても何かあったわけではなくて、こういう場では客、主賓ともども遅れてやってくるということはままあるらしい。

 時間に細かいのは余裕のなさの表れ、貴族の振る舞いとしてふさわしくないとかなんとか。

 その辺をきっちりとしている日本人の私としてはなかなか無い発想だ。


 そんな会場に目を移せば、豪華な料理に派手な装飾品、それに相応しい……と思われる着飾った方々。

 中年ぐらいの人が多いとばかり思っていたけれど意外にも成人してるかいないかくらいの人もよく見かける。

 それは、その人達がいわゆる社交デビューをするからなんだとか。

 社交デビューとはその名の通り社交界にデビューすることを言うわけなんだけど、大体成人の前後らしい。

 「ついでにいい結婚相手を見繕うことができれば万々歳ですね」とは私の隣に座っているユーさんのお言葉。

 

 現在、私とユーさんが何をしているかというと、


 「失礼。 私が持ってきた懐中時計なのだがどうも落としてしまったらしいのだ。 届けられてはいないかね?」


 そう若そうな男性に尋ねられる、が


 「残念ですがそのような落とし物は届けられていませんね。 届けられ次第お教えしますのでここにお名前と落とし物についての情報を……」


 と話を進めるユーさん。

 そう私たちがやっているのは……


 

 

 落とし物係である。


 夜会であっちこっち移動し、談笑し、酒も入っているとなればやはり落とし物というのは出てしまうらしい。

 しかも、出席者が身に着けているものというのはそれ相応にお高いものばかりなんだとか。

 夜会に出る人間にはそれ相応の品格が求められる。

 ただ金をかければいいというものでもないらしいけど、だからって安物ばかりで全身をコーディネートするようでは笑いものになるのは必至ということらしい。

 

 やはり貴族の世界というのは大変だ。


 「ちなみに今いらっしゃったのはシャー・ガルと呼ばれる気鋭の画家さんですよ。 あの方の絵は今でもかなりの高値で取引されていますが、今後はその価値も跳ね上がっていくだろうと」


 隣でユーさんが来た人がどんな人か教えてくれる。


 「なんだか抽象的かつ前衛的な絵をかきそうな名前ですね」


 「おや、絵画好きなんですか?」


 「いや、なんとなく」


 絵は嫌いじゃないけれど、そこまで詳しくはない、せいぜい学校の歴史で習う程度だ。

 高校でも芸術科目は音楽だったし。


 「でも今回の夜会って結構芸術方面の人多いですよね。 さっき来たのは舞台の歌い手さんたちとその演出家さん、その前は楽団の指揮者とピアニストでしたっけ?」


 「クラヴィーア二ストですけどね」


 「私のいたところではそう言うんです」


 「はぁ…………お生まれがどこか気になりますが、まあいいでしょう。 話を戻しますがクラウス伯爵は確かに造詣が深い方です。 何人もの若い芸術家の卵のパトロンをしているとか、奥方もドレスのデザイナーとして活躍されていますね。 いま奥様が来ている赤いドレスもご自身でデザインしたもののようです」


 「へぇ……」


 「ちょいと、あたくしの指輪は届いてませんこと!? 赤い宝石が埋め込まれているのだけれど!?」


 次にやってきたのは貴族の夫人だ。

 やや……否結構太っていてしまっているうえ、化粧も濃い。

 ドレスをはじめ全身にきらびやかな宝石を身に着けていて、言い方は悪いがチカチカする。

 なるほどお高いものを身に着けていればそれでいいってわけじゃないとはこういうことか。

 おっと、あまりにも失礼すぎるかな。


 「申し訳ありませんがそのような落とし物は届いていませんね。 届けられ次第お教えしますのでここにお名前を……」


と、先程までのようにユーさんが対応しょうとすると、夫人は顔を真っ赤にして、


 「まあ! なんて悠長な! そんなこと言ってないでとっとと見つけて来て頂戴!!」


 「探します、探しますからとりあえずお名前と本日行かれた場所を…………」


 ユーさんが宥めるが彼女の興奮は収まらず、執事と思しき人やメイドさん、そして私とユーさん、結局四人がかりで抑えることに成功した。




***




 「それは災難だったな」


 「笑いごとじゃないですよ。 アールさん」


 アール、と呼ばれた長身の女性は笑っているというよりも苦笑いだ。

 あんなトラブルに巻き込まれて気の毒に、とか思っているのかもしれない。


 「あれってメイヴィル伯爵夫人だよな? あの家の奥方は日頃贅沢三昧だったと聞いていたが、ものの見事にその通りだったな。 それでいて1つの宝石の紛失に気づけるんだから目敏いんだかがめついんだか」


 「お陰でこっちは指輪を探さなければならなくなりました」


 夫人を落ち着かせて帰らせる条件はパーティーが終わるまでに無くした指輪を届けること。

 それもできるだけ早く。

 ここで届けられるのを待っても良いのだけれど、そんなのんびりした態度はおそらく彼女が許さないだろう。

 結局、1人は留守番、 もう1人が指輪の捜索を行うことになった。

 夜会の始まりには確かにあったというし、外にも出ていないらしいので、証言が確かなら、この屋敷のどこかにはあるに違いない。


 「サクラさん、大丈夫ですか? 私はここを動けませんからお一人で探すことになりますけど。」


 「大丈夫ですよ。 ずっとここで座って人が来るのを待つのも少し飽きたので。 それに貴族の人や、止ん事無い人と会話するとどこかでボロが出そうで」


 「そういうことなら、私もちょうど体が空いたことだし、一緒に行こうか」


 そう言い出したのはレティシアさんだ。

 この人はどうしていつも知らないうちに私のそばまで来ているのだろう。


 「レティシアさん……貴女は確か隊長と一緒に挨拶回りの最中だったのでは?」


 そうユーさんが聞くと、レティシアさんは凄まじい勢いで顔を反らして


 「……もう終わったし……だから抜けても問題ないし……」


 (((こりゃ逃げたな……)))


 私たち三人のレティシアさんを見つめる目が白いものとなる。


 「さあ行くぞ、さっさと指輪だか腕輪だか探さないとな!」


 そんな視線に耐えかねたのかレティシアさんは私の手をつかんで走り出していった。


 


***




 「屋敷の中はだいぶ広いが夜会で客人がいけるところはそう多くない。 まずはパーティー会場であるダンスホール、トイレ、サロン、娯楽室、そしてそれらを結ぶ廊下だ。 それらは客が行き来しやすいように大体近くにある。 だからすぐ見つかるはずなんだが……」


 「ダンスホールはさっきまで私たちがいたところ……トイレはわかるとしてサロンと娯楽室というのは?」


 「さっきまでいたのがダンスホール、と言っても立食会場だったんだが、サロンというのはもっとせまい談話室のようなところだ。 お茶しながら知的な会話に花を咲かせてるのさ。 娯楽室はゲームをする部屋だ、ちょうどここだなここにあるのはビリヤード台か、確かに大人の遊戯という感じがするな」


 そういいつつ、レティシアさんは近くにあったキュー(球を突く棒)をいじり始めた。

 遊びたいのかな?

 でも駄目ですよ、一応仕事中なんですから。

 夫人に遊んでるのばれたらまたややこしいことになっちゃう。


 「おや、お嬢さんがたもビリヤードがお好きでしたかな?」


 「あ、いやいや、別に遊んでいるわけではなくてですね……」


 「ホホホホ、構いませんよ、若い時分にはこうして遊びたくなるものでしょうからな」


 二人に話しかけたのは白髪の初老の男性だった。


 「ああ、申し遅れました、わたくし、ウィルソンと申します。 王都で画商をしております」


 「画商さんですか」


 なるほど、このパーティーには芸術家も多いと聞いていた。

 それも若手が多いから今のうちに縁を結んでおきたいってわけか。


 「すると、このスコアに書かれているウィルとは貴殿のことでしょうか?」


 レティシアさんがどこからかスコアボードを持ってきた。

 ルールをよく知らないから、見てもわからん。

 名前の欄には、確かにウィル、と書かれている。

 ちなみにその下がアーサーでその下がガル……


 「あ、このガルってひとさっき来ましたよ。 その上のアーサーって人はまだですけど」


 「ロリス伯爵家の次男だったかな、次男と言ってももう三十だが」


 「アーサー殿とは趣味もあいましてね、ガル殿そっちのけで話し込んでしまいました。 悪いことをしてしまいましたね。 おかげで彼の家に絵を一作、卸す約束ができたのですが」


 夜会の合間にさらっと仕事したのか、商売人はたくましい。


 「そうだ、ウィルソン殿は赤い宝石の指輪を見ていませんか。 ある伯爵夫人がなくしてしまったようで」


 レティシアさんがそう聞くと、彼は首を横に振って残念そうな顔をした。


 「残念ながら見てはいませんね。 どこかでお見掛けできたらお教えしましょう」


 そう言って、ウィルソン氏は娯楽室を去っていった。

(咲良) そう言えば、ベルさんいないんですか?


(レティシア) ベルやジュリなどの亜人にいい印象を持っていない貴族も少なくないからな外警備に回した。 あと食事に釣られそうなライラと子供のククルも。 一応シャルをお目付けに置いておいた。


(咲良) 問題児を一緒くたにした感……頑張れシャル……

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