この世界に一人で SIDE 咲良
書くだけ書いて投稿するの忘れちゃいました。
ホントすいませんでした!
その後、ライネル親子は逮捕された。
一週間後には処刑されるらしい。
私はあの場での会話を全く理解できなかったんだけど、どうも父親のほうが裏であくどい商売をやってたんだとか。
蛙の子は蛙、息子のほうも街で悪さしてたみたいで、まあ、家でたくさん奴隷を苛めてたのを見れば納得できるというものかな。
さて、翌日。
「ところで君はこれからどうするつもりなのかな?」
何かの書類を書いているレティシアさんに軽くそう言われた。
ちなみにここは昨日泊まった宿、他の人たちはいない。
「どうするって?」
私がそう聞くとレティシアさんはペンを置いて顔をあげた。
「現在ライネル親子の取り調べが進めば君が違法で奴隷になったことがわかるだろう。
そうすれば君は彼らからも私からも解放される。
身分的には奴隷じゃなくなるわけだ。
で、その先どうするかを聞いている」
どうするか……
どうしたいかはもう決まっている。
「元いた世界に帰りたいです。
私が住んでいた日本に」
するとレティシアさんは表情を変えることなく
「帰りたいのは判るが私は帰り方を知らないよ?
多分無理なんじゃないかな」
……この人は今なんて?
無理? それってつまり
「帰れないってことですか?」
「そもそも異世界なんて概念この世界にないんだ。
まして異世界から人間が来るなんて話はこの世界に生きてきて聞いたことはない
私が真面目に調べたことがないということもあるが」
「調べてないって……
帰ろうとか思わないんですか!?
あっちに残してきた人とか、心残りとかあるでしょう!?」
なんでこんなに冷静で淡々としていられるのか。
「サクラ、忘れているのかもしれないが私は死んでいるんだよ?
クラスメイトに殺されてね。
その後この世界で生まれ変わって別の人間として十数年生きてきた。
勿論姿だって違う。
性別からして違うのだからね。
私のかつての肉体がどこにあるのかもわからないよ。
きっとあっちの世界に戻っても同じようには生きられないだろう。
まあろくでもない人生だったから戻る気にもなれないが。
だから私はこの世界で生きることにした。
だから、調べてもいないんだ。
それに君たちが来たのはつい最近だ、それまでは私だけがこの世界に来たもんだとばかり思っていたからなおさらだね。
ちなみに心残りはない、いやないとは言わないがもう気にもならなくなった。
そう言うわけだ、君の期待には沿えないな」
この世界に来てから十数年、確かに過去の記憶として割り切るには十分すぎる時間なのかもしれない。
でも……
「この世界で頼れそうなのは貴女だけなんです……
だから……」
私の声は尻すぼみに小さくなっていった。
別にこの人は意地悪をしている訳じゃない。
本当に帰り方を知らないのだろう。
そしてこの人はこの世界の住人として生きている。
だから、私のクラスメイトだった記憶は過去の話、本来なら私とは何のかかわりもないと思っている。
元クラスメイトのよしみで助けてくれただけで、それ以上のことはしない。
そんな人にこれ以上のものを望むべきではない……のかもしれない。
「一応、就職先を紹介するくらいはしてやる、ここが嫌ならもう少し治安のいいところに連れて行くくらいはしてやってもいい」
その言葉に返答することなく、私は部屋を後にした。
***
それから私は目的もなく街をふらふら歩いた。
道中、街の市場のようなにぎわった場所に出た。
屋台が野菜から魚から料理から雑貨から、いろいろなものが売っている。
しかし、私がそれを買うことはできない。
まずこの世界のお金を持っていないし、持っていても言葉が通じない。
言葉が通じないことがこんなに大変だとは思わなかった。
レティシアさんはどうやって言葉を覚えたんだろう。
ライラちゃんとクロエさんはどうやって日本語を話せるようになったんだろう。
「こんな世界で一人で生きていくなんて無理……」
いや、元いた世界でも一人では生きていけなかったんだろう。
今はなんとなくそれがわかる。
でも、生きていくしかない。
なんだか目の前の景色が途方もなく、果てしなく大きく見える。
『ああ、やっぱりそうだ』
ふと後ろから肩を叩かれた。
振り返ってみると見覚えのある顔があった。
美人というよりイケメン風な顔。
レティシアさんの仲間の……
「……サリア……さん?」
『覚えてた?
なんか間があったけど』
***
サリアさんと出会って、連れてこられたのはとある飲食店、というかカフェテラスのようなところ、行ってみるとシャル、トリナ、ライラ、ククル、ハリィもいた。
『おー、お前も来たか。 なんか食う?』
「なんか食べるかって聞いてる」
「お金ないんでいいです」
『お金ないから要らないと言ってる』
『別にそんくらい奢るよ』
「シャルが奢るって」
「えっと……それじゃあ」
そう言って私は椅子に腰かけた。
『ふーん、大変なんだねー』
シャルさんはさも興味なさげに話を聞く。
『でも実際問題仕方ないことだとは思うよ?
私たちはあっちこっち旅してるんだ。
それには連れて行けないさ』
サリアさんの言うことも一理あるのかもしれない。
多分私はこの人たちの役には立てないと思う。
となれば私と行動を共にする必要もないわけで。
『それにレティが言っていることも決して間違いじゃないんじゃない?
私もいろいろな本をかじってるけど異世界なんて話聞いたことないよ』
というククルは本の虫のようでいろんな本を読んでるとか。
私のいた世界のことを聞きたがるあたり知識欲の塊なのかも。
『でもお嬢も冷たすぎりゃせんか?
いくら昔遺恨あるからって……』
『ハリィ』
『はい』
トリナの一声に身体が一回りも二回りも大きいハリィが黙ってしまった。
『ええっとサクラだっけ?
今のあんたにこういうこと言うの酷だと思うけどね?
前レティが行ってたんだ
「私はラノベ?とかアニメ?の主人公なわけじゃない。
世界を救うわけでも世界を変えるわけでもない。
ただ一人の人間として生きていくだけだって」
レティだって強いけど結局人間なんだから何でもできるわけじゃないよ』
「……って言ってる」
「そうですか……」
私はレティシアさんをスーパー超人か何かと思っていたのかもしれない。
一人で私を助けてくれて、年上の力を持った人間と渡り合って勝って……
それこそラノベに出てくるような、なんでもできてしまうような主人公のようだと。
現実にそんな人間いるわけないのに。
『お待たせしました』
店員が料理を運んできた。
意外にもこの世界にもあるらしいイチゴ(に似ているけど違うかも)のショートケーキ。
つい懐かしいと思った。
一方ここから離れたところで。
『いらっしゃいませ。
こちらへどうぞ!』
若い女性の店員が元気に新しく来た客を案内する。
『……』
『あ、あのお客様?』
なんだか客の様子がおかしいらしい。
何も言わずただ立ち尽くしている。
その様子に客や道行く人も客の男を見る。
『あ、あの……』
店員が男に手を伸ばそうとすると、男は右手で右下から左上へと空を切る。
すると店員の身体から血が噴き出した。
「キャアアアアアア!」
あたりに悲鳴がこだまする。
男はそれを気にすることなく、返り血をなめとった。
『フフ……やはり若い女の血はイイ……』
『うっさい! 気持ち悪いこと言うな!』
トリナさんは一気に距離を詰めて男に斬りかかった。
『ククル! ライラ! サクラ連れて下がれ!』
シャルさんの合図でライラちゃんが私の腕を引っ張り、ククルちゃんとともに建物の陰に隠れた。
「あんなんですかあれ!」
男が急に店員さんに襲いかかったことも、血が噴き出したこともショッキングだった。
何よりケーキを持って来てくれた店員さんが死んでしまっただろうことが。
「う、うえ……」
大声出したことと、慌てて走ったこと、何より鮮血と人の死んでいくさまを見たせいで、嘔吐いてしまった。
「大丈夫?」
「はい……」
ライラちゃんに背中をさすられる。
「あれ…… なんなんですか?」
「あれは吸血鬼だ……
人の生き血を啜る不老不死の怪物だよ」
(咲良) 皆さんはイチゴはどのタイミングで食べる派ですか
(トリナ) なにその派閥の分け方?
そりゃ最初意外ないでしょ
(ククル) イヤイヤ最後まで取っとくでしょ
(ライラ) なるほど、この議論は盛り上がりそうだね。
ちなみに僕は最初派だよ
(シャル) アタシも最後だなー。
ケーキ食うと口の中甘ったるくなるから、すっきりさせたいし
(ハリィ) うちは最初ぜよ。
イチゴよりケーキ本体を楽しみたいけぇのー
(シャル) サリアは?
(サリア) 途中気が向いたときに食べるかな……
(一同) 第三派閥だ……