幕間の小話 3
泣く泣くカットした話、というよりは後日談みたいな話です。
作中で拾いきれなかった部分の回収とか。
「命の価値」
サクラはその日、街の中を歩いていた。
王都パリエを拠点としている彼女のパーティーであるが、ダンジョンやら遠征やらで何だかんだ王都に長期滞在していないこともあって、咲良は街のことをよく知っている、とは言えない状態であった。
よって、よく時間を見つけては自分の行ったことのないところを散策するようになっていた。
そんな彼女が今日足を運んだのは、住宅街の中でも頭一つ抜けてそのとんがり屋根が飛び出ていて、その上には十字架が美しくも立っているそんな建築物……そう教会である。
今回の一件では咲良たちは元教会や、それらが運営していた施設に乗り込んでいった。
相手が聖職とは一切関係ない組織であったとはいえ、やはり意識せざるを得ないし、その敵が子供ばかりであったこと、そしてそれらを兵士として扱っていた大人たちというのも彼女の心にモヤモヤとしたものを残していた。
それが教会に咲良に教会へと歩みを進めさせる理由となっていたのだが、かといってその心の靄が晴れるかというとそれも怪しいものだとも咲良自身は思っている。
と、そんなことを考えながら教会に向かう道の角を曲がると、教会とその前に群がる住人が視界に入ってきた。
まるで有名人が現れてそれに群がるファンのようだった。
いったい何事かと、その場でジャンプして人混みの最奥の覗き見ると、どうやら一人のシスターが取り囲まれているらしいかった。
そんな彼女は人混みの向こうで咲良がジャンプしながらこちらを見ていることに気づくと、その人混みをかき分けこちらに向かってきた。
「え? なんで?」
咲良の頭に幾つものはてなマークが浮かんでいる間にモーセよろしく人混みを二つに分断し、やってきたシスターは咲良の腕を握りしめ、
「お待ちしておりました、さあこちらへ!!」
と笑顔で咲良を出迎え、そのまま教会の中へと引っ張って行ってしまった。
「なんで~?」
事態の呑み込めない咲良の意志をガン無視して。
***
「いやはや助かりました。 私を見つけるや否や中に入れて亡くなった方に祈りたいというものですから」
シスターがそんなことを言っているさなか、ようやく咲良は目の前の女性が何者か思い出した。
「あっ……」
(たしか、今回一緒に戦ったパーティーの中にいた人だ。 あのときも一人だけシスターの格好してたんだっけ)
このシスターの名はエル、パーティー≪英霊の灯火≫に所属している、冒険者である。
咲良は先日の戦闘の折、一度彼女たちと顔を合わせていたのだ。
そのときもシスターの服装をしていたので記憶にはあったのだが、服のイメージに引っ張られすぎて顔が思い出せなかったのである。
「困りますよねぇ……ここを扱う神父様が外出するから、しばらく待っててと言われただけなのに。 勝手なことをしたら私が怒られます。 というか宗派違いますし」
(へ~ なんかその辺はなにかしがらみみたいなのがあるのかな…… っていうか)
「シスターさんなんですよね? 冒険者なんかやってていいんですか?」
冒険者というからには当然人殺しもするだろう……というか、今回した。
しかしながらシスターという聖職者がそれをするというのは絶対許されないんじゃなかろうか、と咲良は思ったわけである。
「構わないんじゃない? 国がそれを赦したから」
エルは先ほどから一転、ずいぶんフランクな態度になった。
「私の祖国……そこは現代の軍に必要不可欠な魔法師がいなかったいなかったんだよね。 なんか体質的に魔力をほとんど持たない人らばっかでね、使える人はいても戦いでは使えなくてさ。 そんな国が大国と渡り合うために選んだのは技術を極め、とにかく、頭数を揃えるって方法だったってわけ」
そのエルの言葉によって咲良の頭の中で何かが繋がった。
「ひょっとして、子どもたちが使っていた武器って……」
「元は私たちの国で作られていたヤツ。 正確にはそれの改良版だけど」
「やっぱり!」
「大人たちも私たちと同じく軍にいたみたいなんだよね。 で、技術を持ち出して武器商として荒稼ぎ、ってことだったみたい」
(この人たちが関わってきた理由がわかった気がする……)
何で彼女たちがこの一件に首を突っ込んできたのか、レティシア以外わかってなかったのだが、ここにきて咲良もその答えにたどり着いた。
(多分、自分たちの作ったり使ったりした技術が外のそれも子どもに人殺しをさせるために使われた。 きっとそれを見過ごせなかったのかな)
「話を戻すけど、私の国は十歳を過ぎた人間なら、種族、性別、身分に関係なく望めば軍に入ることができる。 私はシスターとしての籍はあったけど、いろいろ思うところがあって十歳で軍に入ったんだ。 で、今日にまで至るってわけ」
「でもやっぱりだいぶ矛盾してませんか?」
「聖職者が人殺しするなって? でも、教会の人間はこの世で一番人の死を見ていくんだよ? つまり人の命の儚さを一番知っていて、だからこそ大事にしようと説く。 けれどね、私に言わせればどうせ死ぬなら命の価値をちゃんとわかっている人に送られたいと思わない?」
「命を軽々しく思うような人間に殺されるよりもましだと?」
「戦場では死は常に自分の背中に乗っかっている。 どうせ死ぬならって話だよ」
そう言ってエルは右手をひらひらさせた。
咲良は彼女の話を一応、理解はできても納得はできなかった。
「変わらないもの」
「そういえば」
そういってレティシアは廊下の真ん中で立ち止まった。
「なんや?」
それに倣って隣を歩いていたディダもその足を止める。
「今回の一件、道義的な問題はともかく、少年兵の売買……会社としては相当な利益になったんじゃないか?」
確かに売ろうとしている商品はあれだが、誰も扱ったことがないわけだから、そこから生まれる利益はかなりのものになるのではないかとレティシアは思っていた。
それを容認できるかどうかは別として。
「そうかもしれんのやけどな。 前に話した殺された二人な、いうたらヒラや。 身分も平民、中枢にかかわってたわけでもない、本当にただの従業員や。 片方は勤続18年のベテランでうちも世話になった。 もう片方は結婚して半年や、うちも祝儀を出した。 ただそれだけやけどな」
「変わらんな、そういうところ」
「そういう自分は変わったわ。 前々からクールな奴やとは思っとったけどだいぶ磨きがかかっとんな」
そう言うと、ディダはその足を止める。
「でもまあ、自分らが叩いてくれたおかげで、本部もこの件からは手を引くんと違うか? 冒険者に負ける兵士なんて大したことない、危うく泥船に乗るところやったってな」
そして再び彼女は歩き出していくのだった。
「本当にお前は変わらんな」
そう言うレティシアの声は彼女に届いたのだろうか。
「夏が始まる」
「ありがとうございました、レティシアさん」
パーティー≪英霊の灯火≫のリーダーであるケイがレティシアに頭を下げる。
「いったいどうしたんだ? 藪から棒に」
「今回の一件、我々の同郷の人間が起こしたうえ、使われた兵器やその教育方針などなどなど、すべて我が国とその軍が生み出したものです。 喧嘩を売られたのがあなたたちである以上、それに首を突っ込むべきではないのでしょうが。 それでも私たちが静観しているわけにはいかなかった。 他国の子供が自分たちと、いや、それ以上に過酷な状況に置かれているのを黙ってみているわけには」
「わかったわかった。 結果的に私たちとしても助かったんだし、どうこう言う気はないよ。 貸しにはしておくが」
レティシアがそう言うとケイは苦笑して言った。
「その借りはいずれ返します。 その一部というわけではありませんが、あなたたちはもう次の予定は決まっていますか?」
「いや? まだ特には」
「ではまた一緒にお仕事をしませんか? 危険は少なく、割もいい仕事です」
「なんだそれは?」
そうレティシアが聞くと、ケイは懐から一枚の封筒を取り出した。
「もうすぐ夏ですよ。 社交界シーズンの幕開けです」
もともと二週にわたって投稿する気でしたが、なんかまとめられそうだったので、一周で三話出しちゃいます。
次回からは早くも新章開幕ですよぉ!
あ、≪英霊の灯火≫のキャラ紹介はその章の後で、次章でも彼女たちは出ますので。




