彼女の行く末
今週よりしばらく間章4が投稿される予定です。
たぶん三週くらい。
事象に関しても構想は出来てますのでお楽しみに。
「それはさすがに可哀想じゃないか?」
と、レティシアが眉をしかめる。
「ですよねぇ……」
ディーナもそこはかとなく困り顔である。
昨晩の戦闘で結構な数の捕虜が出た。
現在二人、正確に言うとケイとディダもいるので四人なのだが、彼女らはその大量の捕虜の扱いについて頭を悩ませているのである。
普通に考えれば今回の事件の首謀者としてとっとと警邏にでも突き出してしまえばいい。
しかしながら、憲兵というのは言うまでもなく国家機関である。
そしてこの一件、どうにも国の要人、とも言える大貴族が一枚どころではないレベルで噛んでいるようなのだ。
そんな状態であの者たちを突き出したらどうなるか?
そんなのは考えるまでもない。
みすみす証拠隠滅させるようなことをしてもいいのか?という問題もあるし、えてしてそういう隠滅というのは古今、手っ取り早い口封じという手段がある。
そこで問題となったのが子供たちの処遇である。
諸悪の根源でもある大人たちは自業自得だし、まぁ殺されても仕方ないかな、と皆考えている。
しかし、子供たちはそうとも限らない。
喧嘩を売られたし、命も多く奪った、実際戦いとなれば一切容赦する気も無かったレティシアたちだが、戦いが終わり、相手を無力化できたとなれば、さすがにただ殺されるのを見ていくこともできなかった。
人殺しの罪は罪としても、子供たちがそこに至った過程には同情もするし、酌量も考えてしまう。
「とはいえ、物心ついてからずっと植え付けられてきた価値観が変わるなんてそうそうあり得ません。 市井に出ても結局碌な道に進みませんよ」
幼いころから国の兵士として戦ってきたケイの言葉には実感が籠っている。
と、皆がうんうんうなっていると、おもむろにディダが右手を挙げた。
「ま、ええわ。 あの子供ら、全員ウチの会社で引き取るわ」
「「「へ?」」」
これには三人とも間抜けが声を上げたのだが、それに構わず、ディダは話を続ける。
「陸路にしろ海路にしろ、物流言うんは盗人との縁を切ろうとしても切れん。 冒険者を一々雇うって方法が一番の主流やけど、自分らで私兵を囲えたらそれはそれで心強い。 向こうだってやることは変わらんわけやし、結構いいアイデアだと思わんか?」
「それをあの子供たちが承服しますか? 仮にも敵同士ですよ?」
「まあ、ケイさんの言わんとするところはわからんでもない。 とはいえ力の差を見せつけ、行くところもない…… そして、敵やったんはあんたらでウチはそのお友達なだけ。 乗ってくる可能性は高いと思うで?」
「乗るかもしれんが納得してるかどうかは謎だ。 そう言うならディダに任せるが、手綱はしっかり握っておけ、これ以上死人が増えても困るだろう?」
「レティシア様のご忠告、肝に銘じておくわ。 そんじゃ、八人全員ウチが引き取るってことで。 ハイ、けって~い」
「あ、ディダ、八人じゃないんだ。 全部で七人」
そう言うレティシアをディダが見やる。
「なんでや? 確かに八人おったで?」
***
ミレッジ家のとある部屋、家のメイドにして咲良の転生前からの友人でもある大和理名はそこで郵便物の整理をしていた。
郵便は午前の11時と午後の6時に郵便ギルドの職員がやってきて、手紙の受け取りと受け渡しを行うのである。
あと数分もすればギルド職員が受け取りにやってくるだろうから、それまでに送るべき郵便物を整理しなくてはならないのだ。
メールなどの便利なツールがないうえ、特に、貴族であるミレッジ家にはいろんなところから手紙が届き、それに比例して返事なども多くなってしまう。
理名はそれらを裁く仕事を任されているのだった。
コンコン
そんな中、彼女が作業していた部屋の戸を誰かが叩いた。
「ここで手紙を集めてると聞いたんだが」
「あ、は~いっっ!?」
部屋にやってきたのはダークエルフのジュリだった。
その手には封筒を持っている。
きっと手紙を一緒に出してほしいのだろう……ただそれだけのことのはずなのに、理名は彼女に対してなんだか身構えている。
実は理名、ジュリのことが苦手であった。
もともと亜人などいない世界からやってきた理名であるが、異世界に来てからも亜人と触れあう機会が極端になかった。
彼女がもともと働いていた家は人間ばかりで亜人の類いはおらず、ミレッジ家も亜人こそいれど、ほとんどがその見た目は人間と変わらない魔族ばかりで、唯一見た目の違うタニアだって、せいぜい耳と尻尾があるくらいなのだ。
つまり、ダークエルフのような人とは離れた見た目を持つ者に出会ったことはない。
なのでジュリを前にすると身構えてしまうのである。
ちなみに、この世界にはよっぽどジュリなんかより人外じみた亜人がいるのだが、そのことを理名はまだ知らない。
で、本題のジュリが持つ手紙であるが、その宛先には「ボードゥ魔法工科大学」と書かれていた。
「学校……?」
「ああ、そうだ。 アイツを学校に行かせてやろうと思ってな」
「あい、つ?」
理名がそう聞くと、ジュリは人差し指を上に向けた。
それの意味するところは、現在屋根の上が定位置になってしまっている、あの少女のことなのだろう。
「あの……ジュリさんとあの娘って敵同士だったんですよね? なのになんで?」
「敵だったが今はそうではないからだ。 そのうえで人生の新しい道筋を示してやりたい気になったのさ。 昔の自分に似ていたからな」
「今はそうではない……ってそう簡単に割り切れるものなんですか? ついさっきまで争いあってた相手と……」
「それは上にいるあの少女の話か? それとも、友人を裏切ってしまった少女の話か?」
「!!」
図星だった。
理名はこの一件にかこつけて自分の中にあるモヤモヤとした感情に対する答えを探そうとしている。
「罪悪感から居たたまれない気になるのもわかる。 相手が自分のことをどう思っているのかもな。 けれど、結局人の感情を十全に察するなんて不可能だ。 考えるなんて無駄かもしれないぞ」
「だとしたら……私はどうしたら……」
「さあな、あの少女にしてもそうだが私は道を指し示すことしかできない。 答えは自分で出すしかないんだ。 だから、精一杯考えることだ。 自分に何ができるか、何をしてやれるか。 精一杯考えろ、悩む時間があるのは若者の特権だ」
そう言うとジュリは部屋を後にした。
そんな彼女の後を追う人物が一人。
「随分と偉そうなこと言ったじゃなぁい? あんだけうつうつしてたくせにぃ……」
「だからだよ。 それに、私はまだ若いほうだし、お前よりも年下だからな」
そう言って歩き出したジュリの後ろをクロエが追いかける。
「何ぃ? 喧嘩売ってるわけぇ?」
そう言ってジュリの肩を小突くのだった。
と前書きで言ったそばから、来週はお休みです。




