純粋なる黒と汚れた白
これにて今章は終わりです。
が、久しぶりに幕間を数話入れようと思います。
次章に続く話とかね。
新キャラも増えたしね。
翌日、ミレッジ家の地下牢には昨晩捕らえた敵の社員と社長が放り込まれて、レティシアらと語り合っていた。
もちろん物理的な方法もありで、である。
一応、口裏合わせなどされるとよろしくないので離して牢に入れてある。
「っていうかそれだけの数の牢があるっていうのもどうかと思うんですけどね」
と、呟く咲良をシャルとサリアが渋い顔で見ている。
そしてレティシアをとっ捕まえ、
「お嬢、前話のラスト忘れたのかよ?」
「私も感心しないね。 前の話とやらは知らないが彼女が来るには少々刺激が強いと思うよ?」
「それはそうだが、本人が来てしまったんだし仕方ないさ」
「皆さまよろしくて? いよいよ本丸の社長……要は商会の会長ですよね、彼に話を聞くことにします。 結局生き残った人たちも碌な事教えてくれませんでしたからね」
そう言うと≪英霊の灯火≫のリーダーであるケイが彼に付けられていた猿轡を外す。
「元軍人さんなのでご存知かと思いますが、一応捕虜にはそれなりの扱いをするという国際上の決まりがあります」
「ぷはっ 知っているとも。 それが綿埃よりも軽々しいこともな」
「それは話が早くて助かります。 あなたの部下のみなさんにもまぁいろんな手管を用いてお話を聞いたのですが、手間をかけるというのは正直お互いのためになりませんので、是非とも協力的であっていただけるとこちらとしては助かります」
「……」
答えは無言、しかし、ケイはそれを無視して話を続ける。
「聞きたいことはいろいろあるのですが、まずは貴方たちが武器商なんてものをやっている理由。 私にはどうにも理解できません。 自ら喧嘩を売った結果、国が燃えた。 力に押しつぶされ、一方的に嬲られ、反撃の芽を咲かせることすら許されなかった」
本来なら彼女たちがその反撃の芽となるはずだった。
しかし、種は植えるだけ植えられて、芽吹くことはなかった。
「性別も年齢も職業も身分も、一切差別せず、来るもの拒まず、という素晴らしいキャッチコピーのもとに老人も女も子供も戦場に駆り出されそして死体の山の一部となった。 武器商とは悪だ。 彼奴らが武器を次から次から放り込むせいで戦場はさらに燃え上がる。 それは戦争を長引かせるということに他ならない。 戦争の凄惨さを知ったうえでその火に油を注ぐなど愚かにもほどがある」
「そうか……君は同郷の人間なのだな……ああ、そうだ思い出したぞ。 ラザロの港町で補給をしたときにずいぶんと若い部隊がいたものだと思った記憶がある。 あのお嬢ちゃんがいまやこんなレディとなり私を尋問するか? 歳を取ったはずだ。 あの後また立ち寄ったが君たちはMIA(作戦行動中行方不明)になったと聞いたが、生きていたか。 どこにいた? 捕虜か?」
「さっき言った通りです。 暗殺者に転職し、敵国で種蒔きをする予定でした。 少々時期が遅かったようですが」
「MIAは帰還すれば復員できたはずだが……暗殺者を戦友と認めることはあるまいな。 気の毒に。 ああ、戦友の好だ、さっきの質問に答えてやろう。 戦いこそが人を進化させるからだ」
「なんですって?」
ケイがその整った顔を曇らせる。
彼の語ったことは真っ向からケイと対立するものだったからだ。
「勝利を得るためだったら人は金も手間も惜しまない。 医療、建築、輸送、魔法だってそうだ。 軍事利用のためと言い張ればいくらでも国が金を出す。 その結果はどうだ? 多くの人間を救う薬草や薬ができた、旅で水や火に困らなくなった。 保存のきく食い物ももとは兵士が戦地に持っていく食料から来ている。 つまり技術の発展と戦争は切り離すことはできない! むしろ人の発展のためには戦争は不可欠だ!」
「そのためなら子どもだろうと進んで人殺しをさせると?」
「それは君がよくわかっているだろう? 子どもというのはまだ純粋で真っ白な布のようだ。 それを染め上げるのは、すでに何色かに染まっている大人よりも遥かに容易い。 育て方次第では何歳だろうと立派な兵士になることは我が国の歴史が、何より君たちが証明している。 体力的な面と精神の不安定さはあるがそれを差し引いても、有用だし、合理的に考えれば十分な理由だと思うがね」
あくまでも無感情に聞かれたことに答える目の前の男の言葉に対し、ケイは段々と冷静さを欠き始め、ついにその感情を爆発させてしまう。
「ふざけるな! 我々が幼いころから戦いに身をおいていたのは後輩を増やすためなんかじゃない! 我々のような幼い兵士を生み出さないためだ! そして二度と戦争のない国にするためだ! それをお前は!」
ケイがそのまま殺しにかかってしまいそうな勢いであったので、アールとエルが慌てて彼女を取り押さえた。
※※※
「なんか気分の悪くなる話やったな」
そう言うのはディダである。
地下から戻ってきた一同は応接間でティータイムと洒落こんでいた。
「申し訳ありません。 取り乱しました」
申し訳無さそうに縮こまっているのはケイである。
「でも気持ちはわかりますよ。 私たちのこれまでをおもいっきり否定されt気分です」
そう言うのはエル、ケイを取り押さえた折にわざとでは無かったとはいえ、肘を一発ケイからもらっていた。
「その辺の話も気になるけれど、私としてはその後の方が気になるわ。 この国で何かが起こるその前触れかもしれないのだから」
ディーナが憂慮する話というのは、ケイを取り押さえ、部屋からつまみ出したあとに、レティシアたちが聞き出したものである。
そもそも彼らがこの国を仕事場に選んだ理由はなんなのか、そして、確実に存在している外部の何者かの協力、その辺である。
それに対する答えは流石に語ろうとしなかった。
が、話したくないなら、無理にでも聞き出す。
例えば思考力を低下させるお薬とか……
で、男が語った内容はというと、なんと自分たちに協力しているのは、この国の人間、それも大物貴族だったのだ。
その名も、
「「「ドロル伯爵とはねぇ……」」」
「誰なの?」
そういえば咲良はこの国の貴族のことをよく知らない。
特にドロル伯爵はかつて咲良とその友人の理名の間に溝を作ったその張本人、なんとなくみんな話すことを避けていた。
「お前と、そのお友達の間でもめ事があっただろう? その一件を裏で引いていたのがそのドロル伯爵だ」
「うわぁ……」
咲良も理解した。
相手が自分にとって苦い記憶のある相手であること、そしてかなりの大物であるらしいことを、である。
「だとしても理解しかねるな、自分の国で殺戮なんか」
「レティシアさんの言うことはもっともだけど、ああいう手合いは無意味に派手な動きなんてしないわ。 まかり間違って情報を漏らしたら事だもの。 後でもみ消せるにしても、少なからずダメージは受ける。 つまり、それだけの危ない橋を渡っても得られるものがあるんでしょう」
それが何なのかわからないけれどね、そうディーナは結んだ。
そこで咲良があることに気付く。
「あれ? でも敵のボスって今私たちが捕まえてるんですよね? 自白もとれたしこれを証拠として突き出せば……ダメか」
言っててわかってしまった。
自白はしたが、自分の意志というより薬を盛っての自白である、証拠能力は低いだろう。
「逆に洗脳だとか、貶めようとしているだとか、下手すりゃこっちのほうが悪者にされてしまうな」
そう言ってレティシアはため息をつくのだった。
***
一方、屋敷の屋根の上。
そこが少女の定位置となっていた。
下に降りて屋敷の中に入ったとて、おそらくそれを咎める者はいそうにない。
とはいえ、半日前まで争っていた相手の懐にいるというのは、やはりどうにもいたたまれなさを感じてしまうものである。
「こんなところにいたのか、ハウル」
と下から自分の名を呼ぶ声が聞こえた。
その声の主は自分をこの屋敷に導いたダークエルフの女性、ジュリであった。
「何か用ですか?」
随分と素っ気ない態度ではあるが、彼女はこれで通常運転である。
いや、相手がジュリであるぶん、多少愛想はいいかもしれない。
「これを渡しに来た」
そう言ってジュリが手渡したものは一通の手紙であった。
「ボードゥ魔法工科大学に私の、というか同じクランに所属している教授がいる。 一応さっき早馬に届けさせたが念のため、な。 言うなれば紹介状みたいなものだ」
「これを……どうしろと?」
説明されても何のことだかわからない。
「ハウル、学校へ行け。 そしていろいろなものを見て、聞いて、そして学んでこい。 学費は国持ちだから気にすることはない。 試験はあるが、まぁその辺は紹介状の受け取り主に任せよう」
ジュリはどうやら学業面での問題はセッターに丸投げする気のようだ。
もっとも、彼女の能力なら物覚えも早いだろうと内心では思っている。
「貴女はどうして私にここまで?」
「言っただろう。 お前はまだ何も知らない、だから学べ。 そして、そのうえで自分がどうしたいか決めろ」
「……どうして、そこまで……?」
ハリィとジュリが出会ったのは数日前のこと、なのにこのダークエルフはずいぶん自分に対して世話を焼いてくる。
なぜか。
ハリィが尋ねると、ジュリは微笑んでこう言った。
「私と……似ているからかな……迷って、答えが見つからなくて……その方法すらわからなくて……だからせめて道筋くらいは作ってやりたい気になったのさ」
「見つけられるのかな、真っ黒に染まってしまった私でも……」
「黒だったとしても白が混ざれば、色は変わる。 他の色ならばなおさらだ。 もう間に合わないなんてことはないさ」
そう言ってジュリはハウルの黒髪を撫でるのだった。
(クロエ) なんかジュリとあのガキンチョ、フラグ立ってない?




