射手の指はいまだ迷いて SIDE 咲良
(レティシア) 最近私たちの出番が少ない気がする。
(咲良) ねー
(サリア) まあまあ、次からは私たちのターンだからきっと出番も増えるよ。 きっと。
と、≪英霊の灯火≫なるパーティーがほかの場所でドンパチやっていたらしいそのころ、私たち≪銀色の狼≫チームはといえば、三チームに分かれて孤児院跡を目指していた。
レティシアさん、ククル、クロエ、ハリィさんは正面、ライラ、シャル、ベルは下の下水道管から、裏を取るのは私とジュリさんとトリナの三人。
「それにしても良かったわ、私が地上班で。 下水道管なんて匂いがひどいもの」
「そっかトリナって獣人だからやっぱり匂いとか気になっちゃうの?」
「私の場合は狼の獣人だから特にそうなんでしょうね、ベルはそうでもないわよ。 ま、あいつの場合、レティシアに対する見栄えとか印象とか気にするから」
「ああ~レティシアさんの前で嫌な臭いさせられない!とか言いそう」
「ね」
「散歩か?」
ジュリさんのツッコミ(?)で我に返る。
戦いの前にちょっとはしゃぎすぎたかな?
「なぁ……サクラ、お前は今回の戦いに躊躇いは無いのか? まだ年端もいかない子供を大勢殺すことになるかもしれないんだぞ」
そう言うジュリさんの視線にこそ迷いがある……ような気がする。
なんとなくね、だってそこまでの域にわたし達してないと思うし。
まあ、そんなことより私の話か。
「う~ん…… 正直なことを言ってしまえばレティシアさんたちと出会ってからここまで割と人も手にかけたり、その手伝いもしたり……前よりは抵抗とかはなくなっちゃいました」
何だかんだ遠出するときには馬車を使うわけなんだけど、そうすれば道中盗賊や魔物に出会う機会は多くなる。
当然私だってパーティーメンバーなんだから戦いに出るし、命を奪うことだってある。
そんなことが続けば、まあ……慣れてしまったんだろうな。
たぶん慣れていかないと冒険者稼業はやっていられないんだろう。
でもそれはこの世界の人間だからこその感覚であって、もとの世界であれば……明らかにサイコ女だよねぇ……
「そういうあんたはどうなの?ジュリ。 こうして来てるわけだけど子供相手でも殺せるの?」
と、トリナが聞く。
なんでもジュリさんは先の戦いで少年兵を殺すことができず、しかも自分の命も危険にさらしたらしい。
それでもジュリさんは私たちについてきたわけだけど、確かに戦いになったときに本気になれるかどうか……トリナとしては疑問に思ってしまうのかもしれない。
この三人でチームを組むとすればトリナを前衛として突っ込ませ、私とジュリさんが後方から援護、という形になるだろう。
しかし、ジュリさんがこの状態では文字通り後方からの援護は半減、いや、私単体の火力なら半分以下になるかもしれない。
それはいただけない。
「…………」
だというのにジュリさんは返事もせず黙りこくってしまった。
曰く、やらなければならないというのは間違いないし、それもしっかり分かっている、とのこと。
しかし、頭ではわかってても体が動かないんだとか。
こういうのは理屈じゃないらしいからなぁ……私たちごときがどうにかできる問題でもないんだろうから……
と、この三人パーティーに一抹どころではない不安を各々が抱え始めたころ。
チュドーン!!
前方で大きな爆発が起こった。
ククルが持つあの大筒が発砲された音であり、前もって決められた突入の合図であった。
「あ~あ、話がまとまる前に始まっちゃったわ。 狼煙が上がれば迷いも幼さも関係なし、来たからにはやることやってもらうわよ!」
そう言ってトリナが走り出し、そのあとを私たちも追った。
その瞬間、
ヒュン!
「わっと!」
トリナが急に止まる。
前方から矢が飛んできて、目の前の地面に刺さったのだ。
ん?銃をバカスカ撃っていた相手が弓矢を使う?
「あれは……」
ジュリが弓矢を放った相手を屋根の上に見つける。
そこにいたのは右目が黒髪で隠れた、少女。
今まで会った少年兵の子たちと違って若干年齢が高めに見える。
少女は弓を放り投げると、屋根から離れ、脇の森の中を突っ込んでいった。
「あれ、私たちを誘ってるわね。 どうする?」
トリナが私たちに聞いてくる。
ここにはそういう判断のできる人がいないので、リーダーもいない。
たぶんこれは誘われている。
彼女を追った場合、建物から離れることになる。
「正直追いかけなくてもいいと思う。 中にはまだいっぱいいるし、一人逃したところで大勢に影響はないんじゃないかな」
「やっぱりそう思う?」
私は反対派、トリナもその様子だ。
「すまないが、追わせてもらう。 二人はついてこなくても大丈夫だ」
と、決まりかけていた流れを再びかき回すジュリさんにトリナが顔を顰める。
「何言ってんの? 独断専行するつもり?」
「そうなるな」
「言いたいことはいろいろあるけど、まず、今アンタが一人で追いかけるってことは誘ってる相手に乗るってことよ? 何があるかわかったもんじゃないんだけど、それもわかってて言ってるわけ?」
「ああ」
「そこまで因縁のある相手なの?」
「昨日の昼に出くわした。 因縁というほどじゃないが……少しな」
「二人の間に何があったにせよ、これは戦いなんだから、迷ってたら死ぬわよ? それを誰も望んでないこともわかるでしょ? それでも行くの?」
「すまない」
そう言ってジュリさんは森のなかに走っていった。
「行かせちゃって良かったの?」
トリナに聞く。
「いいわけないでしょ。 あっちも心配だけど、私たち二人だけってのもちょっと不安だわ。 ましてやアンタとのツーマンセルだし」
ですよねぇ……
「でも、それを差し引いてもアイツを行かせるべきだって思った。 アイツの過去はクロエとか何人かしか知らないみたいだけど、多分それを乗り越えようと必死なんでしょう」
なるほど、これで上手く行けば彼女の中にある枷か何かを自力で取っ払えるかもしれないと。
けれど、
「もし乗り越えられなかったら?」
そもそもそう簡単にどうにかできるようなら今日という日まで来ていない気がする。
半ば力ずくとも言える方法でもしそれでもダメだったら?
「さあ? 上手く逃げられれば良いけどダメなら死ぬわね」
「ええ……そんなあっさりと……」
「あっさりしてるのよ、人の命なんて。 死ぬのなんて簡単なんだから」
「そうかも知れないけど……」
「でも、軽く扱っていいわけでもないわ。 ややこしいけれどね。 そうじゃないと人を殺すことをなんとも思わなくなる。 そんな奴の行く末は碌なもんじゃないわ」
「迷っちゃいけないけれどかといって命を奪うことが軽くなっちゃいけない……ってことか。 難しい……」
「そ、戦うって難しいの。 考える暇もないけどね」
そう言ってトリナは走り出し、私もその後を追った。
(咲良) 今週はちょっと短めだったね。
(トリナ) 続けたらもう次の展開に入ってしまうもの、作者が決して手抜きだったわけじゃないわ。 断じて違うから!!
(咲良) あんまり強めに言っちゃうとかえってそういう風にみられるから……
来週の更新はお休みします。
申し訳ありません。




